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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
86/89

11.魔女大戦前夜

 

 ◎


 全て魔女を集めた。

 残るは"魔女殺し"の行方だけだ。それも次期にわかる。

 現在の状況を言い表すなら――謂わば、祭の前夜だ。

 それとは関係ないが丁度、近くで祭が行われているので俺はそこに向かった。不意にセンチメンタルな気分になりたくなったのだ。


「自宅が大変なことになってる、というのもあるが」


 魔女七人。水連ちゃんはどこかに行ったし、糸鳥ちゃんも逃げた。希はわからない。

 左右に並ぶ屋台を適当に眺める。子供の頃から代わり映えのしない光景。きっと親が子供だった時から代わり映えのしない光景だったろう。

 変わらないものもある。それが良いことなのかはわからない。


 端から端まで何もせずにに歩いた。

 振り返れば、屈強な男共によって御輿が持ち上げられている。彼らは暑苦しく叫んでいる。

 ここらではこんな祭をしているのか――。


 祭の風景を見下ろせる少し離れた場所で黄昏た。祭の空気と、自分に酔う。


「楽しかったんだよな」


 殺伐としていた。

 それでも、人と関わるのは楽しかった。友達が少なかったからか、それとも今まで自分に合う人がいなかったからか。

 多分、後者なんだろうな。

 裏世界に来てからこんなに人との繋がりが増えたのだ。向いてる向いていないを言うのなら、間違いなく裏世界向き。


 もしも、裏世界から脱するなら俺が紡いできた関係はどうなるだろう。

 なくなる、よな。間違いなく。

 それはつまり、繋がりを全てを失うということだ。


「一人でも生きられる、少しでも生きられる……」


 それは何も手に入れてなかったから。

 今は自信がない。人を好きになって気づいたように、失うとわかって気づいた。


 やって後悔するか、やらないで後悔するか――なんてのは良く聞く。場合に依る、というのが俺の答えだが、考えることはある。

 どんな選択肢でも後悔は約束されている、ということだ。

 どちらで後悔するか、許容できるかが問題。


「俺はどうするのか――最初から決まっていたがな」


 昔から忘れ物を良くする。現実にも、裏にも沢山のものを忘れてきた。

 どちらかを選ぶ必要はない。どちらも上手くやる、それがどんなに大変でも俺が俺であるためにはそれしかなかった。

 あいにく約束もある、破りたくはない。


 罪悪感に勝てない俺にはどちらかを選択する度胸はなかった。

 弱い人間だ、弱過ぎる人間だ。だけど、皆そんなものだ。特別じゃない。俺は特別なんかじゃない。


「――何してるの?」


 声を掛けられて、振り向けば天衣ちゃんが立っていた。傷が治ったようで包帯も絆創膏も外している。

 彼女は、学校にも来たように行ったり来たりするタイプだ。


「黄昏てたんだよ」

「そういうところあるわよね、あなたって」

「俺のことを知っているみたいな言い方だな。一週間くらいの付き合いだが?」

「浅いんじゃないの、あなたって」


 なかなか酷いことを言われた。だからといって、自分が思慮深いとは言えまい。誇大広告を触れ回る趣味も、気概もなかった。

 低く見積もられること自体は別に悪いことではない。ハードルが下がるから。


「で、その分だと作戦会議は終わった感じ?」

「えぇ、好きに突っ込むことになったわ」

「考え得る最悪から三番目くらいの結果だな」


 仲間割れとか、裏切りとかよりはマシだがそれだけのこと。

 足並みを揃えるどころか、数を揃えるのにこんだけ苦労した。土台無茶だった。共闘だけでも及第点だろう。


 ここから先、俺に出番はないのだから――。


「そうか、わかったよ」

「花火」

「?」

「見たくない?」

「唐突だ。まぁ、見たいか見たくないかで言えば見たいけど、この祭はそういうないし」

「裏世界でやってる」


 つまり、魔女達の行楽という訳だ。

 どうして天衣ちゃんが俺を誘ったのかは謎だが綺麗な風景は見たいとは思う。

 うんざりするほどの人混みはここにはない。誰もいないならすぐにでも入れる。


 地面を手で叩くと同時に世界が移ろう。

 裏世界に入った途端、爆音が脳を揺さぶった。くら、っときた。おぼついた足で体勢を整えつつ、音源である青色の差し込んだ天空を見上げれば、水色の花火が弾けたところだった。

 海猫ちゃんや、レインちゃんが言い争いをしながら魔法をぶっぱなしている。


「魔法はあんなこともできるか。やっぱり異能として優遇されてる気がする」


 自分のスタミナを消費する超能力が明らかに不憫だ。

 魔法は空間にある謂わば『魔力』とでも言えるリソースで起動している。環境に依っては魔法が使えないという状況があるとは言え、それは極稀だ。

 混成は超能力と魔法の両方、如何なる条件でも異能が使えるという意味では良いとこ取りだ。


「魔神を相手にしなければね」


 隣に立っていた天衣ちゃんが呟いた。


「そういえばどんな経過があって魔神と戦ったんですか?」

「何故敬語?」

「いや、なるでしょ。あんな目に遭ったら」


 魔法で攻撃されて上空千メートルから落とされた。正確には千メートルではないはずだが。


「――あなたにもわかってると思うけど、魔女達は基本的に群れない。情報交換くらいはするけど、共闘はもっての他。今回は特別中の特別だけどね」


 魔女を超える脅威――利害の一致を引き起こしたのが今回だ。

 天衣ちゃんは花火を見上げながら続ける。


「魔女に引きずり出された。仕方なく共闘した、それだけね」

「多分、箔が欲しかったんだろうな」

「魔女が七人も集まればなるでしょうね。それを一方的になぶればもっと」


 実際、名を轟かせた。悪名を。『八帝魔神』という魔女を超える称号と共に。


「魔女自体は他にもいたけどね」

「そうなの?」

「私達ほど強くなったから知ってる人は少ないと思うけどね」

「……魔法をある程度使えればそう呼ばれる、って訳か」

「"鉛の魔女"とかね」


 それはまた随分とシンパシーを感じる名前だ。俺の古代とはまた違うのだろうけど。

 すると、天衣ちゃんが思い出したように手を叩いた。


「あなたの部屋にあった女性ものの服のことだけど……」


 水連ちゃん、いや、桔梗さんが使っていたものか。

 そういえば片付けていなかったな。

 それを天衣ちゃんに見られてしまった。


「俺の趣味とかじゃないく、居候がね?」

「何、言い訳してんのよ。あの服を"闇夜の魔女"に着させたの、服ボロボロだったから。あれは捨てたわ」

「凄いことするな。まぁ、わかった。使い用は他にないからそれは良いよ」


 桔梗さんは戻ってこないだろう。

 何となくそんな気がした。一体今頃何をしているのか――そんな無駄なことを考えてしまう。

 すると、件の"闇夜の魔女"が怯えながら近づいてきた。怯えてる、何に? 天衣ちゃんである。


「あ……」と小さな声を漏らす。俺の天衣ちゃんがお話をしていると見て動きを止めてしまった。

 割って入る勇気はなさそうだ。

 コミュ力強者である天衣ちゃんはさりげなくこの場を後にして、魔女の集まる花火の打ち上げ場に行った。


 黒い魔女と二人きり――。

 彼女を家に連れ帰ってからちゃんと話していない。正直、無理矢理連れてきたのでどう思われているか考えたくもなかった。

 今は逃げられない場面である。

 しかし、随分落ち着いているようにも見える。まともに話せるかもしれない。


「えーと、何と呼べば良いですか?」

「わ、私のこと?」


 コミュ障なのは簡単に治らないが、受け答えはちゃんとしてくれた。


「そうです、あなたのことです」

「な、何でも良いよ…………魔女とか、黒い人とか、お化けとか…………」


 もっとマシなのはないのか。多分、実際呼ばれたものなんだろう。虐められてたの?


「じゃあ、仮に――月宵つきよと呼びます」

「つきよ…………なんか人の名前みたい」

「では、月宵さん。こんばんは」

「こ、こんばんはっ」


 気負わなくても良いのにな。こっちは年下なのに。やりにくい、ったらありゃしない、って奴だ。


「まずは強引に連れ出してすみませんでした」


 両手を膝に置いて頭を下げる。

 まずはそれだ。続いて――。


「攻撃してすみませんでした」


 一方的に侵略したのは俺の方だ。彼女は迎撃でも、こちらは攻撃である。悪いのは俺だ。


「い、いや、私は良い……けど……」

「そうですか、ありがとうございます」

「そ、それより――約束守ってくれる?」


 月宵さんは酷く怯えながら質問してくる。

 断られることが怖いのだ。

 約束――デートをする、孤独にさせない、楽しませ続ける。控えめに言って無茶苦茶だ。簡単に確約して良いことではない。


「守ります。あなたが俺から離れなければ、見限りません」

「本当に本当?」

「少し……いえ、こんな感じでトラブルに巻き込まれるかもしれませんが」

「――そんなこと……大したことじゃないよ」


 どうでも良い、って感じに見える。彼女にとっては嘘偽りない真実なのだろう。

 自分のためにその選択をしたのなら俺はもう何も言うまい。


「そんな訳で宜しくお願いします」

「……が、頑張るよ」


 なよなよしい宣言、だけどちゃんと話してくれるだけで俺の肩は軽くなっていた。



 ◎


 魔法花火大会を終え、各々の家もしくは寝床に帰る俺と魔女。自宅のないものは俺と共にマンションに戻ることになる。

 大海と炎天は真っ白なお城に、雷鳴は逃亡して旋風はそれを追う。浄土と狂喜と闇夜は俺と共にマンションに。


「一気に半分になったな」

「あら? ハーレム願望があるんですか?」


 レインちゃんがにやつきながら言った。


「頼り甲斐のある雰囲気だけはしますからね。魔女さえ騙すとなると危ない奴にしか思えませんが」

「そんなんじゃねぇよ、本当に。ちゃんと好きな人はいる、というかいた」

「複数人という落ちですか」

「じゃねぇよ」


 否定しながら背後を確認する。少し離れて"闇夜の魔女"こと月宵さんが歩いている。"狂喜の魔女"こと円ちゃんは俺の背中で眠っていた。一体どれだけ眠るつもりなのか。


「何か皆、緊張とかしてないよな。一応相手は"魔女殺し"と呼ばれてる奴だぞ?」

「初見なら撃退もできました、つまりそういうことでしょう?」

「でも、天衣ちゃんとか雷っ娘は大変な目に遭っていたじゃないか」

「それは彼女らが弱いだけですが?」


 もの凄い自信である。レインちゃんは慇懃無礼が板についていた。

 サキの本気を見た俺からすればまとも戦える次元ではないと思ってしまうが、かの魔女が七人揃った場合にどうなるかは未知数であることも事実。


「期待して良いのかな?」

「何のために女の子を集めたのかわからなくなりましたか?」

「女の子を集めた訳じゃないがな」

「ダメだと思ったら私は逃げますがね」

「流石、肝心なところで性悪だ」

「魔女ですから」


 ここぞとはがりに冷笑を浮かべるのだった。

 俺も俺のやるべきことをやろう。保留状態の問題は幾つもある。真倉さんの協力、朧君の捜索、皇帝の捜索が主な問題。


 異能を駆使して上階に上り、部屋に入る。誰もいないかと思ったが居候が一人ソファーに座っていた。

 中学生くらいの少女――居候二号。


「水連ちゃん……」

「ご無沙汰してます、結城さん」


 久し振りだ。桔梗さんがいなくなって以来どこかに行ってしまったが、このタイミングで戻ってきたか。

 予想外っちゃ、予想外。魔女が七人いないタイミングで良かった、と言うべきか。三人はいるんだが。


「……要件がある、って考えて良いのかな?」

「はい、二人きりでお話できませんか?」

「わかった」


 円ちゃんをベッドに寝かし、二人の魔女に挨拶をする。俺は現実世界で一夜を過ごすから自由に使ってくれ――と。

 水連ちゃんと共に裏世界から出る。色彩豊かな現実の俺の部屋だ。

 彼女は早速切り出してきた。


「単刀直入に言います。岩井塾が動きました」

「岩井塾とな」


 と、結論から言われてもわからないものはわからない。頷いて促す。

 俺の顔をじっ、と見て水連ちゃんは続けた。


「正確には岩井夫婦の悲願を継承した一集団が、です。何をしているかはわかりません、ただ塾の跡地で不審な動きがありました」

「不審な動きね。その岩井夫婦の目的というのは?」

「それもわかりません」と首を横に振る水連ちゃん。「良からぬことではあることは間違いありません。でも、何らかの成果があったからでしょう」


 受け継いだ何者かが実験と研究を続け、遂に完成したということか。具体性に欠けるものの、本当立った場合のリスクは計り知れない。岩井塾のメンバーは誰もが恐ろしく強いのだ。下手に敵対してはならない。


「既に朧君には見限られたが……」

「もしかしたらですが――――」

「――――」


 ――なるほど、そう繋がるのか。

 水連ちゃんのもたらした情報は少なからず俺を驚かせるものだった。予想はしていたが、事実であると確定すると少し不快である。

 また面倒な問題が生じた。この件は俺が関係している可能性が高い。

 何か覚悟したような表情をしている。


「私は彼らが何をしようとしている調査します」

「危なくないか?」

「危ないでしょう。死ぬかもしれません」

「それでも行くのか?」

「えぇ、知りたいんです」


 好奇心は度し難い。上から押さえつけようとも、隙間から漏れ出てしまうものだ。

 まぁ、元より水連ちゃんの意向に逆らうつもりもない。危ない目には遭って欲しくないが。


「何かわかったらお伝えします」

「無理はするなよ」

「それはこちらの台詞です。また事件を起こすようですね」


 ここで初めて水連ちゃんは笑うのだった。こんなことで笑われても俺としては微妙だが、女の子だから可愛い笑みであることに越したことはない。


「大したことじゃなければ良いんだけどさ」


 ――胸の奥の歯車が動き出した気がした。

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