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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
84/89

9.大海と闇夜

 

 ◎


「なっ、なっ!」


 震えながら俺達を凝視した"雷鳴の魔女"は天蓋付きのベッドから転げ落ちた。這い上がろうと布団に乗り上げた魔女は目を見開いている。


「な、何か用ですかっ!? 私何もしてませんよ!?」

「いきなりビビってるんだが、君達何かした?」

「彼女は元々そういう人なのよ」

「そういうこと。久し振り~、"雷鳴"」

「うわああ! "旋風"!」

「この反応は絶対何かやっただろ、風花ちゃん」

「ちょっと悪戯しただけだよ?」


 完全にいじめッ子といじめられッ子の図だ。

 天衣ちゃんの言う通り、他の魔女とはだいぶ毛色が違う。それこそ脅せば一も二もなく、三もなく頷いてくれそうだ。


「久闊を叙すのは後にしてもらえるかな、お二人さん」

「叙してませんっ!」と"雷鳴"は叫んだ。

「そんなこと言っちゃうと大変なことになるぞー?」

「風花ちゃんも」

「はいはい、わかったよ」

「では、"雷鳴の魔女"さん」

「……というかあなた誰ですか?」

「巷では"劣悪金属ラスト・メタル"と呼ばれてます、結城という者です。率直に言います、あなたの力を借りたい」


 彼女のようなタイプは時間を掛けてゆっくり交渉した方が良いだろうが、あいにく時間がない。俺だけだったら成功率は低かっただろうが、こちらに天衣ちゃんがいる。

 風花ちゃんは使えないことがさっき判明した。こんなるなら連れてこなかったわ。

 答えはすぐに返ってきた。

 但し、否定の言葉である。


「嫌です!」

「……どうしてか訊いていいかな?」

「その人がいるからですっ!」

「本当に連れてこなければ良かった奴か!?」

「二人とも酷っ、私になら何言っても良いと思ってなぁい?」


 振りだけ憤慨する彼女はこの際置いておく。


「マジでこの人いるからダメなの?」

「絶対嫌!」

「そこを何とかお願いします」

「お、お前も消えろー!」

「唐突!?」


 雷が俺の身体に巻き付き、全身が内部から焦がされ始める。

 情緒が不安過ぎる。

 そして、俺の金属化と相性が悪い。内部を作り替えても自由に動くことができない。


「ちょ、ちょっと、やめ、や、やめ――」

「大丈夫?」と天衣ちゃんが声を掛けてくれるが返事することもできない。

 臆病なんて言っていたが、実際その通りなんだろう。臆病故に感情がコントロールが全くできないタイプという訳だ。


「危ないところだった」

「この分だと"旋風"を解雇するしかないみたいね」

「それができれば良いんだがな。他の方法を考えるしかない」

「何でお前は生きてるんだー!? 本当に人間かー!?」


 大袈裟にびっくりする姿も何か不安定な感情を表しているようだった。


「"雷鳴"さん、協力してくれるなら"旋風"こと風花ちゃんをどうにかする権利をあげよう」

「何ぃ!?」


 意図も容易く食いついたぞ。どれだけ雪辱を果たしたかったんだ。

 当たり前だが風花ちゃんは文句をたれる。


「勝手に権利あげないでくれない?」

「風花ちゃんには俺をどうにかする権利をやるから。もしくは天衣――……いや、何も」


 燃え滾るような鋭い視線、眼光に貫かれ、言葉を失した。


「とにかく、協力してくれたら風花ちゃんから権利をもぎ取って懲らしめようではないか」


 最後の一言が効いたのか一も二もなく飛び付いてきた。殺意のレベルが高いのが協力に影響が出そうだが、それはリーダー風な天衣ちゃんに任せよう。



 ◎


 さらに魔女を加えた御一行は次に"大海の魔女"に会いに行く。どこにいるかと思ったら存外近くにいるようだ。

 いや、近過ぎた。

 俺の住んでいるマンションから一キロほど離れたところの上空に城を作って潜伏していた。

 "雷鳴の魔女"と"旋風の魔女"を自宅に置いていって、天衣ちゃんと共に城へ向かう。飛べないので彼女に連れていってもらった。


 頭から足まで全部真っ白悪趣味な城の入口は開いていた。天井から吊るされいるのはシャンデリアではなくミサイルである。悪趣味際まれり。

 "大海の魔女"は王座に堂々腰掛けていた。水色のワンピースを着たりしてるから雰囲気ぶち壊しかと思ったが、それはそれであり。


「何変なこと考えてんのよ」

「俺の心まで読めるようになったのか、天衣ちゃんよ」

「変な顔してたから」


 ともかく、あっさりと"大海の魔女"の懐までやって来ることができた。

 ふと、立ち止まって右を見る。

 テーブルの上にティーカップが置いてあり、少女が優雅に本を読んでいた。


「あ、古露愛花」

「久し振りね、結城海斗。いえ、海斗ちゃん」

「その呼び方懐かしいー」


 相変わらずのドライな感じ、まさに古露愛花だ。

 "大海の魔女"と一緒にいるとは本当に仲良いな。彼女にも協力してもらうのも悪くないかもしれん。

 挨拶だけして、道の先にいる青い魔女を見遣る。


「知り合いだったの?」

「共闘したことがある」

「へぇ」と嘆息する天衣ちゃんを横目に俺は王座に近づく。

 青い瞳の少女は邪悪に微笑んだ。


「久し振り、来ると思ってた"劣悪金属ラスト・メタル"。"炎天"も生きてたのね」

「よう」

「あなたも元気にしてたみたいね」

「お茶目な奴だな、海猫ちゃん」

「その名前で呼ぶなー!」


 怒声と共に氷柱が飛んできた。何となく察していたので伏せて避けたが、たまたまその先に天衣ちゃんが立っている。


「あなたわざと避けたわよね……」


 瞬間に氷柱が蒸発した。

 天衣ちゃんの右手は炎上している。


「鈍っていないようね」

「あなたもね」

「何その好敵手と書いてライバルみたいな関係」


 流石、炎と水と言えば良いのだろうか。

 しかし、雷と風の人みたいな関係じゃないだけマシか。少しでも魔女間に協調というものがあって良かった。

 まぁ、それと依頼とはまた別の問題なんだろうけど。


「大体察しているみたいだが――海猫ちゃん、魔女殺しの撃退に力を貸してくれ」


 海猫ちゃんは空色の目を細める。


「最近、あの魔女、デカイ顔してるのよね。私のことも狙ってるしー」

「そうだろうそうだろう」


 しかし、若干投げやりな感じである。


「ま、今回は協力してもいいかなー」

「おお!」

「――とでも言うと思ったか?」

「まさかの急展開!?」

「一番許せないのはあんただ、結城海斗!」

「俺ですか!?」


 わざとらしく仰け反ろうとして足元が凍結したことに気づく。


「あんた……『魔神』の幼馴染みなんだってね」

「お、おう……」


 それで俺のマンションの近くに潜伏していたというのか。怒りをぶつけるためだけに? 最悪過ぎる理由だな。


「訊かれなかったから答えなかっただけであって俺は悪くない。それに言ったら絶対殴ってくるだろ」

「当たり前でしょ」

「…………当たり前なんだよな」

「一回、いや、一千回死んでもらわないと」


 二回とか三回だろそこはという常識的な突っ込みはここでは意味を為さない。


「――と、言いたいところだけど」

「またまた急展開か?」

「そんなことをしたら下手したら『創造』に殺されてしまうから」


 このパターンか。

 多分、ここに城を建てた時点で接触はあったはずだ。ついでに言えば殺されかけた可能性まである。


「とても業腹だけど」

「それはありがたいな。人の縁というものは大事だな。という訳で協力どうぞ」

「私で何人目?」

「六人目だな」


 "炎天"、"大海"、"旋風"、"浄土"、"雷鳴"、"狂喜"の六人。

 サキとの戦闘の末に"狂喜"――円ちゃんを。

 依頼という形で"炎天"――天衣ちゃんを。

 無理矢理引き込んで"浄土"――レインちゃんを。

 交渉の末に"旋風"――風花ちゃんを。

 権利を渡すことで"雷鳴"を。

 利害関係の一致で"大海"――海猫ちゃんを。


「へぇ、意外と上手く言ってるのね」


 海猫ちゃんは素直に関心してくれた。

 前から思っていたが良い奴だ。ぎゃるげーのヒロインにいそう。


「残りは誰なの?」

「"闇夜"だな」

「どこにいるかわかってるの?」

「それはもう」

「そういえばあなたのお気に入りの情報屋ってあの人だったっけ」

「お気に入りではない!」


 俺のこと調べあげ過ぎだろ。

 真倉さんとの接触まで知ってるとは。隠してはないにしても、こうあっさり言われると少々驚いてしまう。


「男の色があるという噂も聞いたわ」

「それは他の奴らと間違えている。俺はちゃんと好きな人がいる――……かもしれん」

「尻に敷かれるタイプであることは確実ね」

「酷いこと言うな…………『魔神』に負けた癖に」

「言ってはならないことを。始まったよ、殺戮ターイム!」


 そう俺は襟首を掴まれた。

 海猫ちゃんは前にいるのに後ろから。


「あ、あんたもでしたか天衣ちゃん」


 その場に魔女は二人いる。殺戮ターイムは合計二回行われるようだ。

 二人の魔女に吹き飛ばされて空中楼閣から叩き落とされた。


 ――あれから半刻が過ぎた。

 全身がバラバラになるのも束の間、再構成された身体で自宅に戻ると。


「ちょっと! もうあの部屋は限界です!」


 糸鳥ちゃんが部屋の扉の前で仁王立ちしていた。

 俺からしたら何を今さら、って感じだが。


「あれ全員魔女ですが!? あんな集まるとかキモッ! 全身ゾクゾクして痒過ぎるし!」

「はぁ、六人集まってるのか」

「何かずっと喧嘩してるし」

「まぁ、落ち着け、糸鳥ちゃん。全てが計画通りだ」

「その頭は筋肉でできてんのか!」


 俺のことを羽交い締めにする糸鳥ちゃんを引きずって部屋に入る。リビングには圧巻な光景が広がっていた。

 六人の少女が思い思いに寛いでいる。

 天衣ちゃんと海猫ちゃんがソファーに座ってお茶を飲んで、テーブルにはお行儀悪くレインちゃんが腰を下ろして、風花ちゃんは"雷鳴の魔女"を部屋の端に追い込んでいた。円ちゃんは床に転がっている。


「楽しんでるじゃないか」

「あの無秩序を見て本当にそう思うの?」

「一致団結はできなさそうではあるな」

「一番致命的でしょ」

「ごもっとも」


 黒板の前に立つ教師の気分とはこういうことなのか。魔女達が問題児に見えてきた。糸鳥ちゃんは教育実習に来た大学生かな。


「お祭りみたいで心が躍らないか?」

「しっかりとあっち側ですね」


 もう完全に見限られてるのな。

 "闇夜"を勧誘するにあたって誰か一人を連れていこうと考えているのだが。

 誰を連れて行こうか――天衣ちゃん辺りが順当だろうが、幾らなんでも連れ回し過ぎるな。


「円ちゃん」

「…………」


 屍のように床に眠っていた。

 背中をツンツン、していると彼女は起きた。


「行くぞ。円ちゃん、働く時が来たんだ」

「えぇ…………今回はパスということで~」

「無理矢理連れていく」

「うわぁ、襲われる」


 なんて不吉なことを言っても引きずり回すことは確定だ。


「何しようとしてんの……」

「天衣ちゃん、そんな目で見ないでくれ」

「面白いものが見れそうですね」

「面白がるなよ、レインちゃん」


 その他からも冷たい視線が飛んでくる。

 しかし、魔女達に屈することはない。大丈夫だ、冤罪だから。皆信じてくれるはずだ。


 空はすっかり暗くなっている。裏世界には基本光がないので視界は悪い。

 円ちゃんを引っ張って目的地を目指す。

 真倉さんによると"闇夜の魔女"は特殊な空間におり、昼間に入るのは難しいのだとか。


「入口ってのがここら辺にあるらしいんだが」

「まだ歩くの~?」


 ここは駅前――それも、以前サキとレインちゃんが、俺とレインちゃんが戦ったところだ。

 真倉さんの言った通り、魔法的エネルギーが過剰に集まった箇所に確率的に発生していた。

 浮かんでいる黒い靄こそが入口なのだ。


「何があるかはわからないから、気をつけて」

「はいはい」と眠そうに答える少女。本当に大丈夫だろうか?


 亜空間とも言うべき場所は、俺が以前、悪魔と天使を見たところと似ている。何もない空間を作ろうと思えば、最終的にはこうなるということか。


「おっと、何か黒い生物がいるな。影っぽい敵だな」


 ゲーム的に言えば光属性が苦手な奴だ。

 生態装甲『赤鋼』の鎧を纏い殴ればすぐに霧散してしまった。だが、円ちゃんに対してはパワフルに突っ込んでいく。攻撃対象は生物といったところか。


「うわ~、来ないでよ」


 円ちゃんが手をかざすと黒い靄に槍が突き立った。爆発四散する。

 大した強さじゃない。見ていると勝手に生まれだした。ゲーム的に言えば無限沸きという奴だ。


「無視して行きましょう」

「そうだな。とは言え、探し出すのは大変そうだな」

「まぁ、ダメだったらまた明日来れば良いだけですよ――」


 と、糸鳥ちゃんが振り向いた。絶句している。

 入口がなくなっていたからだ。




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