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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
83/89

8.旋風と雷鳴

 

 ◎


 先日までに、"旋風の魔女"と"雷鳴の魔女"と"炎天の魔女"はサキこと東葉渚と戦闘を行ったらしい。結果としては東洋渚がとどめを刺すことはできずに逃げられた形だ。その後、"浄土の魔女"に退けられたのが数時間前のこと。


 そして、その内の逃げた方に俺は用があった。

 真倉さんの情報提供により大体の居場所は掴んだが協力態勢を結べるかはまた別の問題である。力付くで従わせたところで結果が好転しないことは予想がつくのでしっかり考えたいところである。


 そういう訳で俺の寝泊まりしているマンションの一室で会議が行われている。

 参加メンバーは俺こと結城海斗、岩井塾生の糸言糸鳥ちゃん、"狂喜の魔女"こと円ちゃん、"炎天の魔女"こと白鷺天衣ちゃん、そして、"浄土の魔女"こと片桐かたぎりレインだ。


「レインって絶対偽名だろ…………」

「聞きたいと言うのならどうして本名を教えなければならないのか論理的に説明してくださる?」

「いや、別にいいけどさ」


 真っ黒なゴスロリは言葉遣いはお上品だが、辛口過ぎて人格がおかしい人みたいになっている。俺の出会った中では一番魔女らしい魔女だ。

 天衣ちゃんも円ちゃんも感情を出すタイプではないので、威嚇してくる少女というのは縁がない。

 ともかく、三人目の協力者を得た。


「いつ私が協力するって言いました? 勝手に決めないでくれませんか」

「ここまで来といてそれ言うの…………」

「――不本意ですが、私よりもあなたの方が強いでしょう? わざわざ魔女七人で構成する必要がありますか? 勝算を低めているように思えるのですが」


 それは最もな話で俺もすぐには答えられなかった。

 俺には"魔女殺しの魔女"に倒されたという実績がある。そして、もう一つの要素は――。

 先んじて天衣ちゃんが口を開いた。


「私達が魔法エネルギーを占有して押し潰す作戦なの。魔神のようなことはないから勝算は十分ある」


 チッ、とレインちゃんは舌打ちした。

 魔神という名前が出たからだろう。しかし、反対意見を出したりはしない辺り作戦には納得したみたいだ。

 東葉渚は魔女全員の敵だ。だから協力できる。


「まぁ、スケープゴートが六人いるなら良いですけどね」

「囮するつもりなのかよ…………最悪だな…………」

「頭脳派と言って欲しいですね」

「言えるかよ。どこにそんな要素があるんだよ」


 ともかくともかく、三人目の協力者を得た。

 今のところは上手くいっている。残りの四人も期待できる。マジでレインよりもヤバい奴はそうそういないと思うからな。

 残りは旋風、雷鳴、大海、闇夜。


「レインちゃん、残り四人の魔女の中に仲良しの人いるかい?」

「は? まさか」

「だよな。じゃあ円ちゃんは?」

「一人も知らな~い」


 ソファーを占有してゴロゴロする"狂喜の魔女"は夢見心地という風に言った。俺が学校に行っている間にも寝ている癖にまだ眠るか。

 話の流れ的に三人目の"炎天の魔女"にも尋ねる。


「天衣ちゃんは?」

「旋風とは何回か共闘したこともある」

「おぉ、頼りになる。じゃあ、"旋風の魔女"に会いに行く時は手伝ってくれないかな」

「わかった。次は旋風ね」

「いや、雷鳴にも行く。拠点が近くっぽいんだよ」


 サキが勘づけば同時に殺られる可能性もある。できるなら同時にスカウトしておきたい。炎天の伝で旋風、炎天と旋風を連れていけば雷鳴も着いてきてくれるかもしれない。

 壮絶な戦争が待っていたとは言え、予想以上に上手くいっている。


「浮かない顔してどうしたんですか?」


 糸鳥ちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。人数が多い故に部屋が狭くなっているため随分と距離感が近かった。

 人差し指で彼女の肩を押しながら返事する。


「文化祭大変だなぁ、って思ってさ」

「随分とまぁ余裕そうですね」

「それは多分…………最低限自分の身を守る力を手に入れたからだよ。何とかなるという確信があるから糸を弛められるんだと思う」


 何者かに脅かされることはない、脅されても何とかなる、という安心感。そして、真倉さんと協力による全体の見通しが立ったことが俺の精神を安定させた。

 端的に言えば驕りというものだ。

 しかし、理不尽なことに驕りというものはわかっていても驕ってしまう。


「あ、話は変わりますけどここら辺で夏祭りが行われるみたいですよ」

「…………あ、はい」

「冗談ですよ、油断しちゃいそうってことですよね。思わず『俺、故郷に帰ったら』なんて口走ったり」

「この場合は結婚する、でも学校行く、でもアウトなパターンだな」


 気づかずに死亡フラグを打ち立てる――という喩えは意味不明だがニュアンスはその通り。結局、俺は戦々恐々としながら日々を過ごすしかないらしい。

 糸鳥ちゃんは何か思うことがあったようで再び口を開く。


「先輩の場合は身に余ることばかりやるからですよ。身の丈に合ったことならゆっくりやっても良いんですよ?」

「身の丈かぁ…………」


 それで言うなら文化祭を優先すれば良いのだろうか。

 よくわからない雑用を思い浮かべていたら――ふと、気づく。裏世界の住人達のメンタリティーの一端に触れていたことに。


 刺激的生活に慣れてしまい、何もない日常を退屈だと思った。思ってしまった。

 とっくに残酷なまでに理不尽な世界に魅せらしまっている――。

 この力に溺れて、離せなくなっている。

 ヤバい。

 そう思いながら手は離れそうにない。


「潮時なのかもな…………」

「何がです?」

「どっちつかずってのも。まぁ、これからは危険なことは避けるよ」

「そうですか」


 糸鳥ちゃんが笑った気がした。

 何となく振り向くが、彼女は無表情だった。そりゃそうだ、面白いことなど何もなかったのだから。

 その時には、忘れていた漠然とした不安が胸に焼きついて息苦しささえ覚えていた。

 自分が異常になってしまったことに思いの外傷ついたのだ。


 学校生活と両立できていないのなら裏世界からは引退するべきなのだろう。



 ◎


 都内某所、ビル街に一角にある廃工場に"旋風の魔女"がいた。

 常に開け放たれている鉄扉を進んでいくと加工に使う大きな機器が並んでいる。半ばまで進んでいくと地下へ続く階段が見える。それを下ると、一室に繋がっており、そこには少女が一人いた。

 髪の毛が緑色に染まった魔女はこちらを見て怪訝な表所を浮かべる。

 魔女は裏世界にいる間は己の属性の髪色になるのだろうか、天衣ちゃんも赤い。

 俺と、"炎天の魔女"のことを見て彼女は口を開く。


「……これは一体どういう風の吹き回しって奴なんだけど?」


 特に俺の方を見ながら言った。

 その様子だと俺の顔を知らないという訳でもないらしい。色々やらかしたことを考えれば知っていてもおかしくない。

 "炎天の魔女"こと天衣ちゃんが答えた。


「単刀直入に言うと、魔女殺しを倒すために共闘して欲しいの」

「へぇ」


 興味深げに呟いた。

 否定的な立場ではないらしい。それも旧友である天衣ちゃんの説得のおかげか。


「その前にそこにいるのはだあれ?」

「"劣悪金属ラスト・メタル"って知ってるでしょ。それがこれよ」


 これ、って天衣ちゃんもなかなか気遣いのない言い方をする。


「彼も魔女殺しに因縁があるらしくてね。一応共闘相手」

「あ、はい共闘相手です。どうも」

「あのラスト・メタルねぇ……すっごく弱そう見えるけどあなたがそう言うならそうなんでしょうね」


 胡散臭い言い回しが鼻につくがレインちゃんよりは幾分かマシである。属性としてら円ちゃんに依った寄った感じだろうか。低血圧みたいな喋り方とでも言えばいいのか。


「でぇ? 私にどんなメリットを提示できる訳?」

「魔女殺しを安全に殺せる」

「別にそんなこと私にとってはどうでもいいんだけど」


 少々予想外の台詞に俺も天衣ちゃんも言葉を詰まらせる。

 先日襲撃されたにも関わらずそんなことを宣うのか、と。


「また君のこと狙ってくるだろ」

「もう見つからないわよ。"魔神"に引きずり出された時とは違う。強いけど手に負えないほとじゃない、逃げ切ることは意外に簡単だから」

「そうなのか!?」

「それは魔女殺しのモチベーション次第でしょ。これから何十年間も追われ続けたらどうするの?」

「まさか。そんな執着する訳あんの? というかどうして私達を付け狙うかが意味不明なんだけど」

「"皇帝"を誘き出すためだってよ」

「へぇ、それで」


 そんな相槌を打ちながらも興味はなさげだった。

 彼女の協力を得るには利益を提示しなければならない。現状、好戦的な性格をしていない彼女を場に引き出せるほどのメリットを持ち合わせていない。


「逆に、何があったら協力してくれるか?」

「何それぇ? 突然そんなこと言われても」

「そうか。なら――脅迫しても?」

「それを質問してどうするの」

「だよな」

「…………まさかだけど、そうできる自信があるの?」

「あるね」


 自信満々に答えると、彼女が睨んでくる。やや息苦しいが俺は続けた。


「物品となると限度はあるが、"魔女"を退屈させることはないぞ。快楽と不穏を保証しよう」

「へぇ、そうやって他の"魔女"も勧誘しようって?」

「同じ方法が通用する気がしないけどな」


 今までの"魔女"も、方法は全然違う。行き釣りで一人、依頼で一人、わからせて一人。


「――だから、仲間になってくれ」

「……………………」


「ま、いっか。"魔女殺し"を皆苛めるのも楽しそうだし」

「いや、そんな理由では…………」

「そんなこと言うなら手伝ってやらない」

「いや、嘘ですから! そんな理由でも大丈夫ですから!」


 勝手気儘に、移り気な少女らを仲間にするのは骨が折れる。

 けれど、これで半分に達した。

 残りは"雷鳴"と"大海"と"闇夜"の三人。


「じゃあ、続けて"雷鳴の魔女"にも会いに行くか」

「え、もう行くの?」


 風の小娘が訊いてきた。


「そうだ。魔女が二人いれば説得力が違うだろ。それに"雷鳴"は比較的容易だと思うし、"大海"も問題ない」

「…………なるほどねぇ」

「何だその反応は?」

「様子見」


 不可解な返事をした魔女は立ち上がった。


「魔女の恨みは根深いからね、退屈なんてしちゃったらどうなっても知らないよ」



 ◎


 真倉さんからの情報に従って二人目の魔女の潜伏場所へ向かう。効率を上げるために裏世界で空を飛んでいた。

 俺の異能は飛行には向いていないので天衣ちゃんと風の子に運んでもらっている訳だが。


「魔女をこき使う人がいるなんてね」と"旋風の魔女"は言う。

「新鮮な体験だろ?」

「ムカつくって言ったら?」

「感情を発露しないように努力しください」


 物理的にストレス解消してそうだ。


「ところで名前教えてくれ。"旋風の魔女"って呼ぶ訳にもいかないし」

「偽名でいいよね」

「構わないよ」

「じゃあ、戦国風花せんごくふうかってことにしておこうかな」

「風花ちゃんね」

「あなたのことは何と呼べばいい?」

「俺の名前は結城海斗。呼び方は何でも良い、ラスト☆メタルでもいいけど」

「じゃ、結城で」


 魔女の飛行速度は尋常ではなく、ヘリコプターよりも優に早く、精密性も高い。異能の可能性、もしくは不公平性を感じさせる。優遇されてると本当に優遇されるんだな、と。

 辿り着いたのは、都内にある高層マンションのヘリポート。地上六〇階建ての真新しい建物だ。


「ここの何階かに"雷鳴の魔女"がいるらしい。ちなみに"雷鳴"はどんな性格してるんだ?」

「一言でいって臆病かな」


 答えたのは天衣ちゃんだ。


「自己評価が低くて心配症。でも、確信がある時は目を見張るパフォーマンスを見せることもある」

「比較的普通だな」

「えぇ、話は通じると思う。私達二人いれば流されて手伝ってくれると思うし」

「チョロいなおい…………」

「そういう娘なの」


 天衣ちゃんほどの物分かりの良さがあればいいのだが。鉄の扉を殴って破壊して最上階からビルに入った。階段を折り返して下階に下る。

 一般的な都内オフィスなのであるのは会議室だとかパソコンの並ぶ広い部屋着ばかりがある。幾つかの会社が一つのビルに共生しているというのも今更珍しくもない。


「ていうか、訊きたかったんだけど結城はどうしてあの女に狙われてるの? 私は自分の狙われる理由も知らないけど」

「雑だな。俺はちょっと恨みを買っただけ。君らは有名になるためのかませ犬としてだな」

「は? ムカつくなぁ。お仕置きはやっぱり必須だ」

「元を辿れば皇帝のせいだけどな」

「へぇ、皇帝ねぇ。岩井塾か」

「知ってるのか」

「知り合いに所属してる人がいるってだけ。あの兄妹生きてるかな?」


 鬣兄妹のことを言っているのなら恐らく生きている。しかし、夏の時点で生きていたというだけなので何の保証にならない。だから俺は口をつぐんで道を行く。


「探知した」と天衣ちゃんが呟いた。「直通の穴を穿つから」

 俺の返事を待たずに彼女は地面を赤熱させた。マットが燃え、どろどろに溶けたコンクリートが階層落ちする。

 それじゃあ降りれないだろ――と、言いたいところだが氷の魔法で凍結された。


「自分の属性以外も使えるんだな…………」

「普通程度にはね」

「いや、十分強いわ」


 少なくとも氷河結晶の幹部くらいになれるくらいには。

 ジュワー、という蒸発の音と立ち込める煙が収まってから俺達はビルを下っていく。俺は足を金属化して、彼女らは浮遊の魔法で安全に着地した。


 目的の人物はすぐに見つかる。

 オフィスの一角にキングサイズのベッドが鎮座しており、そこに"雷鳴の魔女"がいた。正確には飛び起きた瞬間で、黄色の髪には寝癖がついている。


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