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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
80/89

5.攻略会議

 

 ◎


「――とは言ったものの、まず何をするべきか。とりあえず時系列順に説明した方が良いよな」


 ノートの切れ端をテーブルに乗せ、ボールペンで記していく。魔女殺しの魔女――サキの行動を時系列順に並べてみる。

 まずは、氷河結晶討伐作戦が行われていた時期。


「まずは"雷鳴の魔女"、サキが最初に戦った魔女。逃げられてるんだっけ?」

「はい、そうです」と糸鳥ちゃんがすかさず合いの手を入れてくれる。「裏の重戸谷高速道で戦闘があったこと、その終盤に電気が逃げるような動きをしたことが確認されています」

「へえ、というか異能の電気なら使えるんだな。ともかくそれが初めの戦闘か…………この時点で単体の魔女よりは強いかぁ…………」

「雷鳴の魔女は高速戦闘を得意としていますが、それを上回ったとなるとやはり同じ魔法を使ったのかもしれません」


 魔神の『魔怪デスパレード』は全ての魔法を余すことなく使えたという。俺が戦った感じサキも同じような風に見えた。電撃による高速移動を実現するのもそう難しくはないだろう。

 では、次は――、一週間後。


「大川外ダムだな。ミミー救出の際、一緒に迷路を攻略したんだ」

「本当に先輩はよくやりますよね。初対面の…………初対面の女の人とすぐ仲良くしようとするなんて」

「困ってたたから助けるつもりで言ったんだよ。結果、ダム崩壊するほどの戦闘が巻き起こった訳だが。攻略法はないと思う」

「この会議の根本をひっくり返さないでください!」


 高々と突っ込む糸鳥ちゃん。だが、そうじゃない。

 攻略法はない――、それは魔神も同じ。だがそれと対を為す人もいる。倒せないことはないのだ。

 これが俺の作戦、作戦とも言えないが正攻法。


「正面からごり押すしかない。魔女一人じゃ足りないなら七人いればどうだろう?」

「そりゃあ、理論上は勝てるかもしれませんが…………」

「実現不可能って言いたいのかい? でも既に二人集まっているんだぜ」

「協力してくれる前提ですね」

「え、ダメなの?」


 炎天の魔女と狂喜の魔女を見遣る。

 片目だけ開いて斜めに構えていた包帯巻き巻き少女がまず答えた。


「私は勝てるなら何でもいい。実現不可能だと思うけど」

「え~、面倒じゃん」

「円ちゃんは俺の居候生活の借金を払っていないから強制だからな?」

「ボランティアに参加させられる学生の気分~」


 学校に行ってないない癖にそれっぽい喩えを言う狂喜のちっちゃい魔女。

 団結力は限りなくゼロに収束しているが協力はしてくれることは確約だ。他五人も炎天の魔女と同じような状況ならば実現は難しくないと俺は思っているが。

 ――前提として魔女に出会うってのが難しいのか。


「それは追々考えるとして、三日前だっけ? 旋風の魔女が襲撃されたのは」

「そうです。南沖で戦闘が行われたらしいです。またしても魔女殺しの魔女は標的を逃しているみたいですが」

「あのバーベキューのところか…………」

「バーベキューなんて行ったことあるんですか?」

「夏休みにちょっとな」

「はっ! まさか…………」


 何かを悟ったらしい糸鳥ちゃんがまたしても俺に冷たい視線を向けてくる。このままじゃドMに目覚めなければ耐えられなくなるじゃないか。


「"旋風の魔女"、風魔法を使うんだろうけどどんな戦闘になったんだろう」

「台風の渦にでも突っ込んだんじゃないですか?」

「台風の目はむしろ穏やかだがな」

「じゃあ渦潮とか。地形を生かした戦い方だったと思いますけど」

「なるほどね。じゃ、次」


「――次は、私が話す番ね。私が魔女殺しに襲撃されたのは昨日のことだわ」満を持して、"炎天の魔女"が口を開いた。自らに巻かれた包帯を撫でながら彼女は回想する。「サキとやらに出会ったのはここ、小宮だった」

「なっ、小宮! もうすぐ近くまで来てたのかよ!?」


 思わず声に出して驚いてしまった。

 しかし、黙っていられない。このマンションが狙われる確率なんてないと思っていたのだ。何だかんだ都市の近郊で戦闘をするとイメージしていた。

 こんなところでバトルが始まったら凄い規模になる。

 小宮駅前は異能使いが集まる公用の場所、一度戦闘が起きれば異能使い同士の抗争になる可能性は高い。


「どうしてこんなに近くに…………ダムからもかなり離れているはずだ」

「多分、異能で追ったんでしょうね」

「俺は帰る時は表から電車に乗ってだ。異能による追跡は無理なはずだろ」

「発信器はいつ裏世界から出ても、入っても一度付きさえすればなくならないでしょ」

「異能の発信器? 何でもありかよ? ありなんだよな…………」

「ま、可能性よ。本当はたまたまかもしれない。わかっていたら今ここに襲撃されてもおかしくないもの」


 わかったのは大体の位置だけ――、と考えていいものか。

 下手に裏世界で動けない。

 それに、このマンションの結界を見たら猪突猛進に突っ込んで来るかもしれない。そこまで阿呆な娘ではないと思うが接触する恐れがある。その際、鉢合わせたりしたら…………。


「ここで作戦会議するのダメじゃん。危な過ぎる」

「いいんじゃないの? どうせ一回限りだし。それにここは壊されないよ、それこそ"魔神"レベルじゃないと。一体誰が作ったの?」

「こんなことをでるのは"創造クリエーション"だけだよ」

「…………あなた何者? 近所なの?」

「結城海斗だよ。それで襲撃されたんだよな? 戦った感じどうだった?」


 フワッと質問をはぐらかしたからか、若干不満そうな可愛い顔をする炎天の魔女は唇に指をあてて思考する。

 炎が得意なことは訊かなくてもわかる。

 ならば、水が有効か。"大海の魔女"とは相性が悪そうだな。

 七竦みになっているとは限らないのが肝――、というのは置いといて。


「不意討ちだったから結構ダメージを受けたわ、この通り。表に戻らなければ危なかった」

「そんな風には見えないけどな」


 手や足に包帯を巻いてはいるが、血が滲んでいる様子もない。動くのに支障もなさそうだ。

「重傷は魔法で治したから。で、現実世界への帰還と同期して間に合わなかった分がこれ」

「回復魔法も使えるのかよ。魔道具とか作れたり優遇された異能なんだな」

「そうね、汎用性という面では一番かもね」


 それでもって異能発動のスタミナは大気中にある"魔力"とな。同じ座標では魔法を使い続けられないが、このデメリットは他の異能体系と比べて格段に易しい。

 超能力、妖術、奇跡、呪縛、混合――、そして古代。果たしてそれぞれにどんな意味があるのか。


「…………なるほどな。同じ場所で魔法使いが戦い続けたらどうなるんだ?」

「どうなるも何も発動しないだけ」

「そうじゃなくてだな…………あれだ、大気中のエネルギーリソースは公平に分配されるのか?」


 一ヶ所に二人いて、二人がリソースを全損させる魔法を同時に使ったとする。その場合、どちらも発動しないのか、半分の威力でどちらとも発動するのか。それとも。

 炎天の魔女はリビングの中空を見詰めながら答えた。


「…………魔神と戦った時は、大気の魔力全てを吸収されたわ。彼女は例外ね、どこからでも魔力を調達できたもの。いえ、理に逆らってることを考えれば簒奪といったところかしら」

「魔神と戦った場合は魔法は使えなかったんだな?」

「ええ、そうよ。これが聞きたいのよね――、魔女殺しの場合、それはなかったわ。あれはまだ私達の理解の範疇にある存在」


 だからといってただごり押しで勝てるほど甘くはない。狂喜の魔女を完全に封殺しながら俺と戦ったくらいだ、即死させることもできるはずだ。


「魔法のリソースを先に使い尽くせば理論上勝てるわね」

「サキを盤上に立たせる条件を鑑みて、魔女七人でそれが可能かどうかだな」

「とてもじゃないけど足並みが揃うとは思えないけどね」


 他人事みたいな炎天の魔女は言った。自らもその気がないと態度に表れている。誰彼構わず敵愾心剥き出しにされるよりはよっぽど良いけれど。

 ――魔女との接触か。


「ここら辺にサキがいるんだよな…………次の襲撃が近くで起きる確率は高いんじゃないのか? 残りは"大海の魔女"と――…………?」

「"浄土の魔女"と"闇夜の魔女"よ」

「存外近くにいるのかもな。君が俺と同じクラスにいたように」

「君の周りにいるだけじゃないの?」

「怖いこと言うなよ…………」


 幼馴染が異能使いだったのだから否定はできないけれど。

 しかし、確率的にはどうなのだろう。同じクラスに二人というのは。一つの学校に一〇人はいたりするのか。


「そういや若者の間で急速に増えてるみたいだな、裏世界参入」

「便利になりますからねぇ」


 答えたのは糸鳥ちゃん。

 俺と糸鳥ちゃんはそういうニュービーと戦闘になったことがあるのだ。駅前でもトラブルがあった。それだけに馬鹿にできないのだ。


「とある高校では夜な夜なバトルが繰り広げられてるとかいう噂もありますよ」

「怖いこと言うなよ…………」

「創造さんの張った結界のおかげで丁度良いステージが出来上がってる訳ですね。詳細は当事者しか知らないですからね、あくまでも噂ですよ。噂を噂にしておけるのも時間の問題かもしれませんが」

「俺の縁のないところで起こって欲しいな」

「そういう先輩の周りで起こるんですよ」


 俗に言うフラグというやつで。

 サキのことでてんやわんやなのにそれも出てきたら流石に身に余る話だ。俺は同時に一つのことしかできないというのに。

 しかしまだ、俺の通っている高校はまだ大丈夫。それが唯一の救い。

 心配で心配でしょうがないが、閑話休題。

 その時、声を発したのは狂喜の魔女だった。


創造クリエーションと知り合いなら戦ってもらえば~?」

「誰が頼むんだよ」


 俺がそう言うと、三人が三人俺のことを見てきた。そりゃそうだろうけどさ。


「嫌だよ、怖いし」


 するとボソッと「使えな」と聞こえた。小さ過ぎて誰が言ったかわからないが、ギリギリ俺に聞こえるようにだ。相当性格悪いなそいつ。


「――糸鳥ちゃん…………」

「何故バレた!?」

「君ほど性格が悪い奴も少ないからな。そりゃ頼めばやってくれるかもしれんがなぁ、無関係じゃん。それに規模が問答無用にデカくなるからな」


 それこそ"現実影響"という形でだ。強力過ぎるが故に。自重しなければならない武力を有する彼女だからこその弊害。

 それに、その場合俺にどんな要求をしてくるかわかったものではない。


「俺の作戦としては七人の魔女対サキという構図を作ることだ」

「つまり、先輩は七人の魔女全員を垂らし込むと?」

「友達になるんだよ! …………既に"炎天の魔女"と"狂喜の魔女"との協力体制はできてる。残り五人だけだ」

「まあ私は関係ないからいいですけど」


 刺のある言い方だ。さっきから糸鳥ちゃんはこんな感じだ。

 正直言ってその態度はすごく可愛いのだが、機嫌はすこぶる悪い。


「こんな時に訊くのはあれだし、とても恥ずかしいのだけれど、糸鳥ちゃんって俺のこと好きなの?」

「は…………?」


 真顔だ。これからはもう言及することも憚られる絶対なる虚無だった。

 ふむ、どうやら検討違いだったらしい。それならそれでいい。

 魔女と接触できるタイミングは近くにいるであろうサキの襲撃のシーンだけだ。それを上手く特定できれば誰かと会える。


「裏世界でレーダーを張ってないとな。炎天の魔女さん…………ていうか名前は? 炎天とか呼ぶのは大変なんだが」

「戸籍上では白鷺しらさぎ天衣てんいよ」

「変わった名前だな。では天衣ちゃん、裏世界で魔女をサーチすることはできるか?」

「…………」しばらく無言か続いたが、何事もないように天衣ちゃんは続ける。「近くで魔法を使えばわかるけど、逆にこっちも悟られる可能性があるわ」


 相手が戦闘に集中している時じゃなければサーチを逆にサーチされる恐れがあると。

 天衣ちゃん共々思案していると、糸鳥ちゃんが身を乗り出し、俺に詰め寄った。


「ちょっと今の流れ何ですか!?」

「ああ、すぐに名前で呼ぶって奴? それはもう諦めて欲しいんだが」

「違います! あのおざなりな確認の仕方は何ですかと訊いているんですが? まだ答えてませんし」

「答えも何もあんな顔されたら最早黙るしかないじゃん。むしろ何事もなく話を進めようとした俺の精神を誉めて欲しいくらいだ」

「今何事もなくって言った――!」

「…………何言ってるかわからんが、じゃあ、もう一度だけ訊こう。糸鳥ちゃん、俺のことを好きなの?」

「ぐっ…………!」


 結局答えないんかい――、と言いそうになるが実際答えにくい質問ではある。真面目に考えれば考えるほど言葉にするのは苦しくなるだろう。

 ――でも、別に恋愛的な意味で訊いているつもりはない。

 ガチの反応かのようにハイビスカスのように顔を真っ赤にさせた糸鳥ちゃんは口を開いては閉じる。何かを考えている、もしくは思い出しているかもしれない。存外俺と糸鳥ちゃんの関係は短くも、深いものとなっているのだ。

 互いを好きになってしまうくらいの時間はある。

 ――恋愛的な意味とは言っていないが。


「す…………すっ、すすす、かっ、どちらかと言えば好きですけど何か!? 文句でもありますかー!? ないですよねー!」

「あ、はい、どうも…………」

「That's 雑っ! 私の一世一大の告白の返事が雑過ぎる!」


 気丈に振る舞っているが、隠しきれず恥じらう乙女が最強過ぎて思わず膝をつく。

「私達は帰った方がいいの?」と天衣がぼやき。

「おやすみ~」と円はソファーに寝そべる。

 しかし、答えは告白される前から決まっている。

 俺の人生哲学。好きな奴じゃなくても付き合っていいし、愛してなくても結婚してもいい。世の中そんな感じ。


「…………うん、会議はここまでかな」

「いや、返事は!?」

「それは言わぬが花という奴だな。返事は改めて俺からするさ、その時まで待っていてくれ。そうは待たせないからさ」

「こういう時だけ紳士なのか!? いや、違う。こういうヤバい奴なんだ!」

「…………俺のこと本当に好きなのか?」


 当座のプランもできたところで今宵の会議はお開きとする。だいぶ話が逸れたりもしたが円、天衣との協力体制は磐石だろう。

 時刻は午後六時半、日はほとんど沈み紫色の空が西にある。もうすぐ暗くなる。


「今日はここに泊まってっていい?」


 夜ご飯は何しようか、と考えていると天衣ちゃんが訊いてきた。半音階も上がらない冷たいトーンだ。本当に訊いただけという感じ。


「それは問題ないけど」

「じゃ、宜しく。服は既に準備してあるから」


 荷物を持ってきていると思ったら、元よりそのつもりだったらしい。

 人数が増えた。冷蔵庫の中身でも確認しようと立ち上がるとワイシャツの背中を引っ張られて体が止まる。


「私も泊まりますけどいいですよね!?」

「え」

「何故私はダメなんですかっ!? 以前意地悪したこと根に持っているんですか!」

「涙目になるなよ。食材がないから買い物に行かなくちゃいけなくなっただけだ。そういう訳で付き合ってもらうぞ」


 という訳で二人して制服で買い物に出掛ける。


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