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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
79/89

4.魔女狩り

 

 ◎


「――というのが顛末だよ」


 糸鳥ちゃんへひとしきりの説明を終えて一息吐く。先程買った冷水を口に含んで喉を潤す。

 改めて整理するととんでもないもが起こったものだ。

 とは、言っても変な満足を感じるのは俺だけで糸鳥ちゃんは不満そうに太腿を抓ってきた。


「顛末だよじゃないです! 先輩はどうやって生き残ったんですか!」

「復活したんだよ」

「いつ! どこで! 言え、即座に遠回りにしないで言え!」


 日頃の行いに文句があるのか食い気味だ。後輩に命令されている始末、情けない先輩である。


「狂喜の魔女を覆った棺桶を媒介に復活したんだよ。そっからミミーを助けてダムから脱出した」

「欠片だけで再生するとかカビですか」

「それを言うならプラナリアだろ」

「言いませんから。はあ、ともかくそういう理由であの牢獄が壊れたんですね。いやはや二人がかりとはいえ、ダムをぶち壊すとは……もう手が付けられませんね」

「俺じゃなくてサキがな」

「同じようなものでしょ」


 やったことを考えればそう言われて仕方ないけれど。

 しかし、サキの実力は予想を大きく超えるものだった。

 超強化状態である〈スペリオル〉でさえ押し切られて消滅させられたのだ。悪魔相手でも渡り合ったというのに。


魔女殺しの魔女ウィザード・ウィザード…………今頃他の魔女に喧嘩吹っ掛けているのだろうか」

「喧嘩じゃ済みませんよ。魔女は最凶に付けられる称号ですから」

「最凶? アニメとかでよくあるやつだな」

「ちょっと何言ってるかわかりませんが、簡単に言うとヤバいやつなんですよ。変な実験したり、土地を勝手に占有したり、ビルを青く塗り替えたり…………常識というものを知らないあ無法者の少女なんですよ」


 糸鳥ちゃんが心なしか苛立っている。もしかしたら魔女の被害者なのかもしれない。

 常識知らずの無法者か。あまり関わりたくないタイプだ。

 だが、俺の今まで会ってきた魔女二人にその傾向があるかと言えば――。


「あんまりそんな感じしないけどな…………」

「はい? しないけどな――、って現在形? そういえば、あの後狂喜の魔女はどうしたんですか?」


 目敏く追及してくる後輩が強過ぎた。

 切れ気味の笑顔だ、切れ気味の笑顔を向けてくる。器用なことをするな。

 隠していることでもないが、非常識なことなので、一旦咳払いしてから語る。


「狂喜の魔女はまあ…………俺の家に居候してるんだよな。家と言ってもマンションだし、マンションと言っても基本裏世界だから同棲とかじゃない、はず…………」

「知ってますよ、先輩の住んでるところは」

「は? 何でだよ?」


 それは普通に何でだよ。勝手にストーカーすんなや。

 と、思ったがそうでもないらしい。


「小宮駅のちょっとのところにマンションがありますよね。数ヶ月前からそこが"結界"になってますね?」

「お、おす…………」

「あれって関東の中学、高校の裏を閉じてる結界と同じ性質なんですよね。つまり創造クリエーションの異能。そして、先輩は創造さんと知り合いということは聞いています。そこから先は言う必要ないですよね」


 俺と希の繋がりを知っている者ならば、気づくことができるということか。

 にしても、結界の性質が同じか。あのマンションに何かあると言っているようなもんだな。今のところ目立った襲撃もなさそうだが用心は必要か。希に進言しておこう。

 閑話休題、と糸鳥ちゃん。


「居候ってどういうことですか? 匿ってるってことですよね?」

「裏世界の人って基本的に家がないじゃん、それは困るだろうから一時的にね。ちゃんと自立するから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないですよ。住所まで明かすってかなり危ないですから」

「そんな悪いやつは匿わないから」


 そういうやつは決まって襤褸を出すのだ。罠としてダミー財布を用意したり、期限が切れたパスポートを置いたり、でたらめのパスワードのメモ用紙とかを設置してる。


「創造さんのお膝元なら絶対安全地帯ではありますけどね。ちなみに、ちなみにですけど他に匿ってる人はいないですよね?」

「…………卒業した人がいたりいなかったり…………」

「卒業!? 居候卒業って何!?」


 ちゃんと突っ込みしてくれるな。

 居候に卒業とかあるのか? 勿論、あるんです!


「ミミーも居候四号としてしばらく滞在したからな」


 怪我の療養も兼ねてあのマンションに連れて帰った。俺の学校のことに気を遣ってくれた夏休みが終わるタイミングで出ていったが、なかなか家事のできる娘だった。


「四号…………」

「いや、数字は気にしないでくれ。人造人間とかいきなり一六号とか出たりするし」

「別に怪しんでなんかないですよ。本当、何もないんだろうし」

「何すると思ってたんだよ俺が…………」

「それならそれで良いですし。もしかしたら私も使わせてもらうかもしれませんからその時はよろしくお願いしますね?」

「条件として家事をやるってのがあるからな?」

「どうしてそこはちゃんとしちゃうんですか」


 他人のためな何かするって結構精神的にキツい。何でこんなことしてんだ感で死にそうになる。

 全てを居候に任せたい気持ちがないと言ったら嘘になるが、そんな理由で増やす訳にもいかないしな。


「で。魔女殺しの魔女、サキの行方は掴めたのかい?」


 前説明はこれくらいとして、俺が糸鳥ちゃんに依頼していたことを教えてもらわなければ。

 現在俺の家で居候している魔女が標的となる以上は、俺も襲撃に備えなければならない。希の結界が壊されるとは思わないが用心はしておくに越したことはない。

 すると、糸鳥ちゃんは「サキって言うのは偽名ですがね…………」と言う。


「ウィザード・キラー、略してサキってところですかね。実は氷河結晶の騒ぎが起こってる日にも魔女と戦っていたみたいですよ」

「大海の魔女か?」

「大海ではないですけど…………"雷鳴の魔女"です。まさか大海の魔女も匿っているとか?」

「んな訳あるか。ちょっと顔見知りなだけだ」

「うっわ」


 躊躇いもせずに言いやがったな。うっわ、って。女の子と知り合ってるだけでご挨拶な反応かよ。冷たい目だこと。


「そして、先日"旋風の魔女"と交戦したようですよ。逃げられたみたいですが」

「"雷鳴の魔女"も生きてるんだろ? 結構ダメダメじゃないか。狂喜の魔女に関しては俺が逃がしたようなもんだが」

「まあ、そうですね。一人一人なら撃退するくらいの魔法使いなんでしょうね。実際魔神ほどっていうのはあり得ないんじゃないでしょうか」

「でも、あの強さは本物だった。そんなやつが暴れ回るだけでも大変なことになる」


 ダムを破壊したのは実質的にはサキだ。数十分で都心を破壊することも可能だろう。そういう地域破壊レベルの災害を起こすことができるのが彼女の異能なのだ。


「あれ? そういえばサキの異能って何だっけな…………」

「あれだけの立ち回りでわからなかったんですか。参考までに、七人の魔女達はそれぞれの属性特化の魔法ですけど」

「血液を沼にしたり、分身したり、怪力になったり、滅びの波動を出したりしたな」

「そんなことしてたんですか? 全部の魔法使えるんじゃないですかねー」

「そうかもしんないな。魔神の魔法も"全部の魔法"だったし」

「チート過ぎでしょ!?」

「だからチートなんだって。魔神は…………でも、サキはその劣化版って感じかな。実際に魔神を見てないから何とも言えないが絶対性能はなかったと思う」


 唸って空でも見て気晴らししようと顔を上げると――、人が一人俺達の前に立っていた。糸鳥ちゃんと話し込んでいて気づかなかったが見下ろす奴がいる。

 顔にはガーゼが貼り付けられており、全身には包帯が巻かれていた。先程見かけたあまり学校に来ないクラスメイトか?

 包帯の少女は俺と糸鳥ちゃんの顔を交互に見、一旦目を閉じて、覚悟を決めたように見開いた。


「――岩井塾生であり極悪編隊の糸言糸鳥、金属生命体の八神勇気…………いえ、結城海斗」

「何でそれを!?」

「にゃ、にゃんだとー!?」


 糸鳥ちゃんと俺はまったく同時に驚きを表した。

 唐突にだ。

 彼女は糸鳥ちゃんの所属を、俺の通り名を口にした。つまり裏世界のことも知っていることになる。


 糸鳥ちゃんがベンチから立ち上がり今にも飛び掛かろうとしたで、スカートを引っ張って止めた。スカートが脱げそうになったら流石に止めるだろ。

 結果、「変態!」と暴力の方向が変わった。


「ぅがっ…………スナップの効いたビンタだ。世界を狙えるぜ。それはともかく、君はどうして俺達のことを?」


 包帯を巻く少女は女子高生とは思えないほど平淡な仕草で頭を下げた。ぴっしり九〇度の角度で腰が曲がり、ブレなく急停止。


「先程の話は聞いてた。だからあなた達にはすぐわかるはず」

「一体何がですか、名前も名乗らない先輩?」

「まあまあ、切れないで糸鳥ちゃん…………」

「私は、私は――"炎天の魔女"」


 炎天の魔女――、彼女は魔女と言った。

 そして、俺と糸鳥ちゃんにはわかるとも。ならば、包帯女子が名高き七人の魔女(セブン・ウィザード)の一人であるということだ。

 炎天、大海、雷鳴、狂喜。これで四つだ。

 現実世界では口にするのも憚られる裏世界にしか通じない渾名を言った彼女は、一層の息を詰めて。


「私は先日、襲撃を受けた。生き残るため、あなたに魔女殺しの魔女を殺して欲しい――」



 ◎


 昼食を終え、引き続き文化祭準備をしながら来訪者――炎天の魔女の接触のことを思い出す。

 その後、彼女は糸鳥ちゃんと話すことになった。とてつもなく嫌な予感がするがそれは二人の良心を信じるばかりだ。


 勿論、魔女を殺して云々は即答で断ったが撃退ならば協力できると言った。多分、俺もサキに狙われているので仲間がいるに越したことはない。

 お互いにリアルを割っているためその方向には上手く行きそうである。

 狂喜の魔女、炎天の魔女の二人がいればサキをおびき寄せるのも容易い。


「勝てるかが問題なんだけどな…………魔女との戦闘にあの消滅砲が使われていないとしたらかなりキツい展開だよな」


 余波でダムを破壊するのだから使ったら大騒ぎだろう。だから、雷鳴、炎天とも消滅砲は使うまでもなかったのだ。

 既に俺は――七人の魔女よりも強いのか? そこまで強くなってしまったのだろうか?


「ちょっとー、結城? コードもっと引っ張って!」

「は、はい」


 女子生徒の指示に従って延長コードをばら蒔く。男子生徒が俺以外いないので力仕事をほとんど任される。

 このクラスは男女間での折り合いというものがなく、意見が真っ二つに割れてしまったのだ。夏休み前は仲良しだったのに。

 何もしない――ということに耐えきれず、俺は何でも手伝うから、と軽率に言ってしまったがばかりにこんなことになっていた。


「まあ、いいんだ…………既成事実があれば俺が責められることはない…………」


 状況はだいぶ難航しており、本番に間に合うか微妙らしい。

 劇と言っても色々準備はある。

 シナリオ、衣装、演出、小道具。役者経験のある者は勿論、演劇部もいなければたかが知れているものだし。ハイリスクローリターンな演目。クラスTシャツ代としてお金を徴収されたことを考えるとなかなか萎える話だ。

 女子だけでやろうとしているのが土台無茶。

 棒読みながら女子集団のリーダーが台詞を読んでいた。まあ、頑張れ。俺には見守ることしかできない。


 話し合いを終えたいう連絡が来たのはおよそ一時間後。

 教室で台本をチェックして欲しいと頼まれ感想を言い合っている時のことだった。『妖精の森』というオリジナルの物語のようだ。

 素人が作ったにしてはそれなりに見られるが、どことなくパクりな印象を受ける。それは仕方ない。異世界物が流行っているようなもの。

 内容は結構ガチ目の物語。面白味はない。そのようなことを俺は言った。


「文句言うなら結城が作ってよ!」

「理不尽過ぎだ」


 聞かれたから答えたんだ――なんてベタなことは言わないけれど。

 しかし、言ったまま何もしないというのも感じ悪い。俺の思うこの物語に足りないものをシナリオ担当の生徒に伝えた。


「人間と妖精の交流の物語、大いに結構だが、例えば敵役なんか出してみたり――、魔女とかな」



 ◎


 放課後、女子達よりも二足早く準備を切り上げた俺は校門の前で待ち合わせをしている。スマホでネットサーフィンをしているとあっという間に時は過ぎるもので、待ち人もすぐに現れた。


「お待たせしました。行きましょうか、先輩っ」

「うん」

「…………今の彼女っぽくなかったですか?」

「糸鳥ちゃんが『待たせましたか?』と訊くんだよ。それで俺が『今来たところだよ』と嘘を吐いてようやく始まるのさ」


 恋人ムーブのセオリーなぞ知らんが。

 そして、俺と糸鳥ちゃんはとあるマンションの一室へ向かった。何を隠そう俺の住んでいるところだ。

 直近の問題に関して話し合うということで安全な場所を改めて探すというのも悪くないのだが、あるのに使わないというのも勿体ないので提供を了承した。

 糸鳥ちゃんは"炎天の魔女"と連絡先を交換したということで、彼女も呼び出す。


「私はどうして先輩が乗り気なのかわかりませんよ」

「俺は恨まれてるからな。巻き込まれては溜まったもんじゃない。要はついでだ」

「ついでにヤバい作戦を実行しようとしないでください」


 ノブに鍵を差し込み捻ると扉が開く。

 一人暮らしのはずの俺の部屋は電気が点いている。テレビも点いておりドラマが垂れ流されていた。

 そして、ソファーで死んだように倒れているのが居候五号。トレードマークのツインテールが見るも無残に散っているではないか。


「生活能力ないのなやっぱり…………」


 テーブルに置いてあるカップラーメンのゴミをゴミ箱に放り捨て、居候の頬を引っ張る。彼女の場合は眠っている訳ではなく、無気力なのだ。考えることが嫌いなようで。


「おい、起きろ…………まどかちゃん起きろって」

「円ちゃん?」と糸鳥ちゃんが冷たそうな声を吐くが、俺は奇跡的に避けることに成功した。危うく糸鳥ちゃんにも土下座しなければならないところだったぜ。

 狂喜イコールマッドネスだから円ちゃん。


「んん…………何~? 今怠いから後にして~…………」

「居候の分際で偉そうだな。ていうかその言い訳はもう認められないからな」


 脇に手を差し込んで強引に上体を起こさせる。糸鳥ちゃんと同い年のはずだがちっちゃいので踏ん張れば腕だけで支えることができた。

 円ちゃんはおもいっきり背もたれにしなだれかかったが、目を開けてるだけ良いとするか。

 俺はこれから始める会議の議題を切り出した。


「ここで魔女殺しの魔女ウィザード・ウィザード撃退の作戦を話し合うから参加してくれ。サキと戦ったのは俺と君だけだから」

「だからその時のことは覚えてないって言ったでしょ~」

 足を放り出しながら円ちゃんは呟いた。

 どうやら、"狂喜状態"だと記憶の欠落が多々あるようだ。

 だが、全てではない。参考人としてはいて欲しい。

 それに彼女もサキの標的なのだ。むざむざと殺される訳にはいかない。


「とりあえず"炎天の魔女"を呼んでるから宜しくな」

「へえ~、意外と顔が広いのねえ~」

「三人しか知らないがな」

「それでも多いよ。ね~?」と円ちゃんは糸鳥ちゃんに振ってきた。今時のギャルオーラをビシビシ放出している彼女に臆せず会話を投げるとはこいつっ、なかなかなるな。

 糸鳥ちゃんも流石に予想外だったようだが、そんな素振りも一瞬。


「そうですね、魔女達が有名だったのは魔神到来以前のことですし、裏世界異能者の大半を占める新参は名前だけしか知らないと思いますよ」

「"古露愛花"もそんな感じかな?」

「まあ、そうですね。彼女は局地的に現れるって感じです…………まったく見ない、ということはないですけどね」

「へえ、教えてくれてありがとう。参考になったよ」


 少女達を客人としてソファーに休ませている中、俺はキッチンにてお茶の準備をしていた。居候が二人いた俺にはそんなものお茶の子さいさいさいさい。

 適当な和菓子を持っていけばすぐにお上がりよ、だ。


「良い手際ですね、流石です先輩」


 と、何様気分で糸鳥ちゃんが俺のことを凝視してきた。

 すると、インターホンが鳴る。休まる暇もなく玄関口に向かい扉を開くと包帯巻き巻きの女子高生が立っていた。

 "炎天の魔女"。

 同じクラスだが彼女は学校に来ないので名前は知らない。

 しかし、有崎さんの他にもいたとは。少々驚いたものだ。


「じゃあ、入って。糸鳥ちゃんも狂喜の魔女もいるからすぐに始められるから」

「そう、ありがとね」


 お礼を言われた。それだけでちゃんとした娘だと思ってしまう今日この頃。

 三人目をリビングまで案内し、ソファーを促す。女子高生三人(本当は二人)が俺の家のソファーに並んだ。すごい光景だ、一枚写真に撮っておきたい。

 俺の座るところはないので、自室から事務用の椅子を転がしてきて正面に鎮座。時刻もいい頃だ。


「さあ、始めようか。魔女殺しの魔女攻略会議を――」


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