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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
78/89

3.牢獄の顛末

 

 ◎


 サキの視線の先、牢獄生活のため精神的疲労を蓄積しているであろうミミーが立ち塞がった。

 隆起した氷をスポンジのように踏み砕いてから魔女殺しの魔女は呟いた。


「…………そう。あなた達付き合ってるの?」

「まさか、ただの友人。そんでもって友達がそんな姿になったら誰でも立ち向かうでしょ」

「そんな姿ね…………もう死んでるんじゃない。あなたが何をしたって今更遅いでしょ」

「いやはや、死んでくれたら私も逃げ出すところだけどね。なかなかしぶとくて」

「は?」

「――彼は人間じゃないから」


 氷の山に転がされた金属塊は数珠繋ぎになり、複雑怪奇な形に形成される。蛇のような蠢く金属生命体。

 元々死んでいないし、先程から視界もある。

 サキは俺のことを知っていても、異能のことは知らないみたいだ。


「確かに俺にはそいつを助ける理由はない」


 ――牢獄の中で鎖に繋がれた狂喜を伝染させる禁忌の魔女。生かしておくことでたくさんの人が傷つくというからここにいるのではないのか?

 そんなやつを殺そうとする理由。

 サキの目的と正体。何も知らない。

 だがまだ、サキに殺人を犯させる訳にはいかない。少なくとも俺の前では。


「だが、牢獄なりの平穏があるなら俺はそれを守るだけだ。魔女殺しの魔女、大いに結構。だが、俺の目の前では殺らせないよ」

「だから嫌だったのよ。協力なんて…………あなたも殺さなくちゃならない」

「運が悪かったと思って今はおとなしく引いてくれ」

「今引いたら次はないの」

「なら、諦めてくれ。俺にできることは何でもするから」

「話にならないわね――『魔導凱旋イグナイト・レイオス』!」


 サキの周りから電撃が立ち上ったのも束の間、光速の斬撃が細長上体の俺を刺し身する。加えて残骸に超高熱の炎をくべた。『赤鋼』の鎧でさえ容易く沸点を超えた。

 やはり、今まで出会った異能使いの中で断トツに強い。素数剣を使ったが故に朧君の実力は測れていないが、同等かそれ以上ってやつだ。


 だが、こんなこともあろうかと鉄格子隙間から破片を一つ吐き出しておいた。業火に焼き尽くされた金属達はもう帰ってこないが俺の身体は復活する。


「だが、どうする? あまりにも強過ぎる。防御不能になった途端何にもできねえな俺…………」


 ついでとばかりに牢屋内部は炎に包まれ数万度の世界となる。狂喜の魔女を拘束していた鎖も溶け、コンクリート溶岩に身を投げた状態に至る。


 だが、その寸前に"狂喜の魔女(セブン・マッドネス)"は目覚めた。見開いた瞳は紫と黄。善と悪をない交ぜにした混合の眼が牢獄内全てを視認する。

 そして、彼女は吼えた――耳心地の最悪な悲鳴を暴力にようにぶつけてくる。

 炎は掻き消され、衝撃波まともに食らったサキは鉄格子に磔されたように押し退けられる。ミミーは全力で耳を塞いでいるがそれでも苦しそうに顔を歪めていた。

 金属生命体である俺には音による精神攻撃は受けない。だが物体故に音が流れ易くもある。


「あっ、ああががあああああ――!?」


 魔の奇声は俺の身体の内側から亀裂を発生さた、全身を風化させていく。小さな歯車が隙間からボロボロ落ちる。

 同じく、強化コンクリートでできている壁面も亀裂を鳴らして崩壊の一途を辿っていた。このままでは逃げる前に牢獄が終わってしまう。


「くぐぐっ、このおおおぉッ――!!!」


 怒りの満ちた咆哮をあげ、サキが鎌を持ち上げ、渾身の一撃を繰り出した。狂喜の魔女は一切の防御姿勢に入っていなかったためそれだけで事切れたように床面に倒れ込んだ。

 意識の消失と共に襲い掛かってきた音は止む。


「まだあんな力を隠し持っていたとはね、狂喜の魔女…………まさしく気が知れない」


 汗を流しながらサキは忌々しげに吐き捨てた。そして、気絶した狂喜の魔女の首を掴んで持ち上げる。

 先程俺の身体を粉砕した力を込められたら人間の首くらい容易く潰れてしまう。


「ミミーはあの道の先に行って書類の束から出入口の経路を探してくれ…………俺は狂喜の魔女を連れて後を追うから」

「絶対、サキって奴も来るじゃん。最悪なんですけど」

「諦めてくれ。よし、行くぞっ!」


 再び、剣を生成し〈スペリオル〉の光を纏わせる。剣閃を幾重にも放ち、鉄格子を八つ裂きにし、今にも首を捻りき切ろうとサキの右腕を切断する。

 超強化能力の〈スペリオル〉を使えば"防御魔法"も突破できるらしい。


「君ならそれくらいすぐに治せるだろ」

「できなかったらどうするのよ」

「さあ? できるんだから知らんよ」


 左肩に狂喜の魔女を抱えてサキと相対した。

 サキは手の治療しようともせず、唯一の出口に立ち塞がって、びちゃびちゃと床を赤く染めている。


「"血液門扉ブラッド・レイジ"」


 血溜まりに奥行きが生まれ、足首までどっぷり漬かった。泥沼に足を突っ込んだように混沌へと引きずり込まれる。

 加えて、全身に重みが乗った。


「"重加這底ジー・ワンド"」


 重力魔法だということはすぐにわかる。

 身体が加速度的に沈んでいくので、太股の部分で足をパージして天井に剣を刺し込む。突き刺さった先端を根のように広げ、体勢を固定する。


「そんなことまでできるなんて、多彩ね」

「こっちの台詞だよ…………魔法で何でもできんのかよ。最強じゃないのか?」

「私もそう思うけれど、他はそうじゃないの。困ったものだわ」

「へえ…………――それで七人の魔女を倒せば認めてくれると思ったのか?」

「ええ、なんせ"魔神"が死んでしまったんだもん」


 どうしてか知らないがどうしても"最強"という称号を得たいらしい。いない者を叩きのめすことはできない。

 だから、魔神が為したという七人の魔女(セブン・ウィザード)の撃破を準えようとしているのだろう。


「そんなに最強になりたいかね…………」

「あなたに分かってもらう必要はない。私が最強になるためには狂喜の魔女の首が必要なだけ」

「その前に俺を倒さなければならないぜ。裏世界ではしぶとくて有名なんだぞ俺は」

「――"結晶封印メイル・トゥーザム"」


 唐突に会話に挟み込まれた技の発声。

 氷のような半透明の物質が足のない足元から俺を覆っていく。結晶の中に対象を閉じ込めて封印する能力か。

 速やかに腰部分で分割される下半身パーツを外した。これで結晶の侵食が全身を襲うことはない。


「良い判断ね」とサキが心なもなさそうなことを言ってきた。「だからといった何だって話だけどね。その体勢になってしまったら回避することはできないでしょ? もう一度技を使えば今度こそ封印できる」

「――だからといって捨てたパーツの結晶化を止めたのは早計だったな」


 膝から上、腰より下の形をした金属塊は部屋のフローリングほどの大きさの板に変形する。

 つまり、血液の池を覆い被さるということだ。四隅を固定できれば中央に穴が空いていたとしても吸い込まれることはない。

 剣から手を離し、下半身を生成して新しい床に足をつける。


「応用性で言ったら俺も負けてないと思うけどな」

「何調子に乗ってんの、振り出しに戻っただけじゃないッ」


 忌々しげな表情を浮かべて彼女が歯軋りをする。杖替わりの鎌を構えて今にも攻撃しようと魔法を発動するが、もはや遅い。

 突如房内の天井が崩れた。

 人の頭ほどの落石が相次ぎ、視界が著しく悪くなる。

 天井に刺さっていたはずの『赤鋼』は落ちてこない。だが、落石により剣身の部分が露出する。

 木々の根っこのように広がっている――。

 牢獄全体に触手のように金属を広げ、構造を破壊したのだ。数分と持たずにこの施設は崩壊するだろう。


「悪いなサキ、この勝負はここで引かせてもらう」


 悔しそうに、呪いそうに歪んだ顔を最後に俺とサキの戦闘は終了を迎える。

 裏世界には電気はない。だが、水はある。

 牢獄の破壊イコールダムの破壊。貯められていた水が堪らず地上に溢れ出す。牢獄も一時的に水深するだろう。

 数分で出ることができなれば死ぬ。

 俺ではなく狂喜の魔女がだ。だから、俺は本気で逃げる。


「〈セカンド・フェーズ〉〈スペリオル〉〈ガイズ・コンパス〉!」


 魔女をお姫様抱っこするような体勢にし、背中にロボットアームを生成する。以前コロシアムのチーム戦で使った奴のマイナーチェンジ版。

 四本のアームの先端はドリルになっており、常に進行方向を削る。〈スペリオル〉で強化した金属なので詰まることなくコンクリートを抉る。


「まずミミーと合流しないと…………モニター室は頑丈だし、ミミーも自衛はしたはずだからまだ大丈夫だと思うがっ」


 内部構造が次々崩壊するので自分がどこに進んでいるのかわからなくなる。〈ガイズ・コンパス〉で相対位置は確認しているが障害が尋常ではない。

 あのシーンではこれしか選択肢がなかったとはいえ、お粗末な作戦ではある。


 その時、背後から豪ッ――と。

 豪ッ、豪ッ、豪ッ――と瓦礫を粉砕する強音が届く。

 もう見なくてもわかる。彼女が、サキが俺を追っているのだ。

 ――マジかよ、あれは諦める流れだろ。

 俺はさらに四本アームを生成し、倍速でモニター室へと向かっていく。だが、コンクリート片を爆裂四散する速度はもっと早い。


「くっ、ダメだ――、迎撃するしかないっ!」


 狂喜の魔女を虹色の箱に包んで瓦礫に安置する。本気の戦闘となれば彼女を守る余裕はない。

 今は全身が虹の燐光に包まれ、硬度も生成速度も超強化されている状態。関節パーツも通常より細かく組み上げられており、より人間らしい動きはできるようになったのだ。


 そこで俺のとった動きは単純。

 タックル。

 砂煙により見えなくなった視界ではサキは俺を捉えることはできない。また、生物探知では金属体である俺は含まれないため無効だ。

 だが、こちらは〈ガイズ・コンパス〉で丸見え。有利にことを運べる。

 超硬の拳を煙の中から繰り出す。

 爆発的威力の一撃、確かな感触が返ってきた。


「これは、バリア…………!? 一定範囲内の物体を弾くのかっ!?」

「ああぁっ、もうッ! 面倒なのよ、あんたみたいのが一番ッッッ!!!」


 憤怒を表しながら俺を睨み付けてきた。

 バリアの中からサキの手が俺に迫ってくる。

 咄嗟に手を引こうとするが、磁力か何かで身動きが取れなくなった。先程赤かった瞳だが、今は宇宙色のような漆黒に煌めきを合わせている。

 そう、それはまるで――"絶望の魔眼"だ。


「"粒子崩砂ゼルゼアス・リーリアズ"」


 彼女が唱えた幾つ目かの異能――。

 掌から放たれた黒き波動が虹色の燐光と拮抗し鈍色の火花を散らせる。余波の漆黒の波は瓦礫を粒子分解し、灰塵以下の虚無に帰す。

 〈スペリオル〉の装甲すらジリジリと削る威力だ。


 ――強くなったと思ったのに、もう負けんのかよッ! 朧君と時だってそうだ。素数剣に手も足も出ずち負けて、何も救えなくて!

 いつも思っている、勝てなくてもいいんだ。

 ただ、負けなければ。

 大事なところで負けなければいいって。

 だけど、その力がなければ意味がない。


「――負けて堪るかあああああああああああああああああああァッ!!!」

「こっ、のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォッッッ!!!」


 瓦礫を吹き飛ばす最中、水が流れ込んできた。

 もう一つの拳も使ってバリアに放つと、サキは"粒子崩砂ゼルゼアス・リーリアズ"で相殺する。

 もはや猶予がない。牢獄の崩壊は八割を超え、数秒もしない内に全てが潰れて終わるだろう。

 だが、サキも逃げようとしない――。

 やらばと、ドリル八本を加えてさらに圧力をかける。できる限りの最大出力で攻撃を繰り出した。


「このおおおおおぉ――ッ!」

「マジかよ、まだやんのかよっ!?」

「さっさと潰れろってのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォ!!!」


 バリアを粉砕威力に肥大化した消滅砲が瓦礫、流れ込む水を巻き込んで空間を穿つ。ドリルは負荷に耐えきれずアームの半ばで折れ、破壊の渦に飲み込まれた。

 両腕も再生が間に合わず風化するように擦れ切れ始める。

 それでも一歩踏み出す。

 その覚悟を示した瞬間、関節ごと腕が消滅した。

 ――ヤバ。


 焦りを漏らす間隙もなく、滅びの暴風を一身に受け、尋常じゃない威力で後方へ飛ばされた。コンクリートを次々とぶち抜いてダムを突っ切る。

 時間を経るにつれ俺の金属身体が小さくなっていった。

 ダムから脱出して青い空を拝めた瞬間、虹色の塊は粒子になって空に消え去った――。



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