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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
五章 氷河結晶
75/89

11.魔神と令嬢 / epilogue

 

 ◎


 "約束"は、実に享楽的だった。

 かの創造クリエーションが出した条件にしては酷く愉快なもの。見た目からは想像はつかないが一応彼女も年頃の女の子なのだろう、と思わせられるかなり面白い話条件だった。

 曰く、『結城海斗を悲しませない』。

 どういう関係なのかはいまいち察し難いが、創造が少年に対して特別な感情を抱いているのは確かだ。一体どういう訳か相当に心酔しているようで若干幻滅した部分がないと言ったら嘘になってしまうが。


 かの少年、結城海斗は尋常じゃない異端だった。

 見るからに普通なのに、中身も回りも普通じゃない。それなのに普通に生活しているのが実に危うい。そんなこと慣れっこだよ、と言わんばかりに異常行動を起こしだす。


 居候生活を始めた当初、風呂から上がってきた彼は顔を真っ赤にしてリビングにやって来た。焦点もあっておらずたどたどしい歩きだったので、すぐに水を渡して飲ませた。

 彼はこう言った。

「ありがとう」

 そして――。

「やっぱのぼせるのって気持ち良いですよね」

 ……変態だった。倦怠状態から復活する感覚が忘れられないとか。同じような理由でわざと足をしびれされたりしているみたいだ。

 異常とかじゃなくて、馬鹿だ。


 だがしかし、彼は普通じゃない優しさがあった。

 どうやら女の子の機微にするどいようだ。大したことじゃなければガン無視を決め込むが、僅かでも焦りを漏らすとすぐに察する。

 だからって解決してくれるとは限らないけれど。

 彼のことだから成功させるのだが、上からか下からか四番目くらいの解決策なのだ。

 まあ、狂おしくも、愛すべき奴ではある。


 それはともかく――約束、私は約束を破ってしまった。

 創造さん…………二号も彼も希と呼ぶ彼女は言う。


「約束、破ったな?」


 はい、破ってしまいましたよ。

 私は彼を悲しませてしまった。彼は隠そうとしたけど、まったく隠せていなかった。それが惨かった。控えめに言って最悪の気分だった。


「お前の居候を許した条件を破ったよな?」


 はい、破りましたよ。


「じゃあ、言わなくてもわかるよな」


 はい、出ていきます。

 だけど、少し時間を頂戴。色々整理する時間を一日ほど。


「ま、お別れの言葉を伝えるくらいの時間はな」


 おお、意外に優しい――と実際口にはせずに、ここから離れる創造さんの後ろ姿を見送った。

 ともかく、これからは一人で生きていかなければならない。彼の目につかないでという条件付き。宛もない話だ、気が重い。重いのはそれだけが理由という訳じゃないが。



 ◎


 略奪師の事件以来収納していた黒の装束を取り出す。

 この姿の私を見て漆黒令嬢なんて呼ぶのは彼くらいだ。巷では悲鳴姫ひめいひめなんて呼ばれていたくらいなのに。

 悪いところだけを見てくれなかったのは、良いところだけを見てくれたのは、結城海斗だけだった。


 泡沫の夢、夢から醒めたら終わらせなければならない。

 儚くも散ろうではないか。

 想い出は一生心の中、それが一番綺麗なままでいられる。


「老いたくないものですわねえ…………」


 漆黒らしく闇の中に沈みながら退場させて頂きます。

 カーテンコールはない。沈黙だけが私の周りをたゆたう。暗幕が閉じる。



 ◎


 裏世界――。


 国内有数の避暑地として有名な高原地帯"重戸谷おもとだに"。

 緩やかな坂を描きながら山岳を昇る霧がかった高速道路上空に無数の光の球が浮かび上がる。赤熱した光弾は雷を発する立方体と衝突して爆発を起こした。


 真っ白に光る羽衣で空を舞う少女は歯軋りをしながら、暗黒雲を生み出し降雷する。空気を焼き焦がし雷鳴を轟かせた。黄色の電撃は刹那的に闇夜に身を隠す何者かに引き寄せられる。

 落雷は突如発生した魔法障壁によって打ち消された。


 羽衣が翻して、上空を駆けると雷光が追随し、急加速を始める。

 光は空のその先へと消える。

 一時の暗闇が山岳を包むが、光は槍のように一直線で降り注ぐ。

 標的を貫かんとする神速の一撃を腹を掠めるようにして紙一重した何者かは、すれ違い様に細腕を振るう。

 拳には幾重もの魔法陣を貫いており、その中心の空気は歪んでいた。


「なっ――」といい驚愕の声は凄まじい激突音に打ち消される。背中に叩き込まれた雷の少女は直線運動を散らされ、直下の高速道路に激突。止まることなく森林を抉りながら地面を削る。

 巻き上がった砂煙と雷の燃焼臭が放射状に広がった。


 闇から出でた奴は崩壊した高速道路の端に着地し、墜落現場を見下ろす。チリッ――と僅かな雷光が瞬いた。線は森林の合間を縫って離れていく。


「…………逃がしたか…………」


 心底詰まらなそうに言った――またしても――少女は、夏の星座を見上げた。三角形を睨み付けて彼女は呟く。


七人の魔女(セブン・ウィザード)は私が全員殺す…………」


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