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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
五章 氷河結晶
69/89

5.法則吸収

 

 ◎


 現場にやって来ると、そこには氷が張り巡らされていた。路上は当然として並木も根本からてっぺんまで白い結晶に覆われている。

 範囲系の氷結攻撃。まず間違いなく氷河結晶の仕業だろう。

 どうやら敵も味方もいなさそうだが。

 中心地へ向かうと一際大きい、高さにして二メートルはありそうな氷の塊がある。気泡があるようで中を見通すのは困難だがよく見ると人がいる。こいつが最初に接敵した連合メンバーに違いない。


「朧君ここで人が凍らされてるぞ……――朧君?」

「ああ、ここにも被害者がいるよ」


 彼の下に向かうと腹に氷柱が突き刺さり血を流している死体が転がっていた。出血死。

 集団で同じ系統の異能を使っているから人数を絞るのが難しいが二人から三人というのが妥当な数字だろう。続いて辺りを見回すと氷の中に閉じ込められたやつが一人、氷柱を受けて倒れた者が二人見つかった。

 しっかりと手を合わせた後、生き残っている可能性について論じる。


「氷の中に埋まるってどれくらいで凍傷になって、どれくらいで死ぬのかな……山岳で吹雪の中遭難して、凍死する寸前って体が熱いと聞くけど」

「……今ならまだ間に合うと思う」


 言いながら人間の封印されいている氷塊の一つに手を伸ばした刹那だった。背後――俺達に向かって走ってくる影が二つ現れた。

 暗いこともあって警戒していたので速やかに排除行動に移る。「朧君、敵だ」と声をかけ振り返ると黒ずくめの男が手を伸ばしているところだった。


「条件が手で触れるって辺りか……ふっ!」


 首元目掛けて飛んでくる左腕を灰鉄に金属化した右腕で外側に弾く。皮膚と骨ならともかく強化装甲による打撃を受けてしまえば骨にひびが入ってもおかしくない威力だ。

 想定通り、やつは左腕を押さえながら細い悲鳴を上げた。がくがくと震える膝で後退する姿を横目に隣を窺う。


 朧君の前には同じく黒ずくめの男が塞がる。両手の掌を金髪入りに頭部に向けると水色の光が現れ氷柱を放出した。

 二つの尖角が交差、曲折しながら彼に集う。対して朧君は右腕を頭くらいの高さに上げるだけだった。そして、パチンと指を鳴らす。指を中心にして放射状に音は広がる。

 気体を通って固体へ――二つの氷柱は弾けるように散った。


「何だと!?」という黒ずくめの驚きを他所に接近を果たした朧君は右手で拳を象り、男の腹部にストレートを見舞った。だが渾身の一撃どころじゃない、砕身の一滅だ。吹っ飛ばされたやつは一〇メートル、二〇メートル飛んでも勢いは衰えず視界外に去っていくまで飛び続けた。数百も後半という距離が出ていてもおかしくない。


 俺は花火でも見るように最後まで見守ってしまった。手を怪我したやつも唖然と光景を目にしていた。

 流星拳を放った張本人が軽く手首を回しながらこちらに歩いてくる。

 楽しそうに笑っていますね……。


「俺の異能は"力を吸収して蓄積する"ことができるんだ。名前はこう名付けた……『法則吸収エナジー・サイクル』――今のはさっきの落下エネルギーの分だ。でも、まだまだエネルギーは貯めているよ」


 細められた瞳が俺の前の敵を捉えた。「ひっ」という情けない声が届くが今回ばかりはしょうがないと思えた。龍月朧の放つ死線は数多の異能使いに出会ってきた俺でさえ、警戒を抑えられない膂力ある。暗殺者は基本的に殺意や敵意を隠すが、それを発露した時のような純粋な見えない暴力。


「"ライトニング・アビス"」


 両手を空に掲げるとLEDの如き超高熱の発光体が発生、瞬く間に肥大化し球体を描く。地域破壊レベルの一撃が一瞬の内に形成されたのだ。

 朧君は岩井塾の黎明の世代に数えられる人物だが、その中でもぶっちぎりなんじゃなかろうか。鬣兄妹にもガルダ君にも女々ちゃんにも負けないだろこれは。


「貯めたエネルギーは好きな風に変換して操ることができる。熱に発生させたり、風を起こし見たり、稲妻を纏ってみたり、物を殴り壊したりね」


 操る、つまり指向性の付与。吸収したエネルギーの一点集中。

 背中を叩く威力を肌を貫かれる力に変換するみたいなもの……どこの秘孔を貫かれるんだよって感じだ。

 ビルからビルへの大ジャンプはチャージしたエネルギーを跳躍に変換した。

 ビルの飛び降りは重力による位置エネルギーを全部吸収に回した。正確にはエネルギー自体は存在しないものだから重力と慣性とでも言わないといけいなけど。

 で、ここまで来るための高速ダッシュもジャンプと同じく移動方向に力を解放した。

 指パッチンは氷柱にエネルギーを指向させて局地的破壊を巻き起こした。

 物理無効と物理吸収とかチートかよ。


 朧君の手から光弾は一直線に敵の黒ずくめを追跡する。本能的に叫んだやつは踵を返し逃げるが人間の初速度なぞたかが知れている。背中から全身を香ばしく焼く――はずだったが、野郎は躓いて転んだ。

 奇跡的回避を見せやがった――!?

 倒れた男の真上を光の球体が突っ切った。熱味にあてられ放心状態だったのも束の間、哄笑しながら立ち上がる。


「は、はは。ビビらせやがって、お前ら楽には殺さないぞッ!」黒ずくめは地面に両掌を押し当て、異能を叫ぶ。「『ペイル・ワールド』!」


 野郎を起点とし、接触面である道路が瞬く間に氷結される。霜が降りる合間もなく足元が塗り替えられた。スニーカーががっしりと固定されてまともに動けない。


「範囲攻撃か。この二人で確定そうだな」

「そうだね。じゃあやるよ?」

「頼む」俺が言うと、朧君は軽く顎を引いた。呼応して、彼方まで飛んでいた光弾が逆再生されたように戻ってくる。

 広がった雪の庭園はみるみる蒸発していき、高笑いしている男に背中で爆発を起こした。

 指向性も面目躍如、余波はほぼゼロ。爆発したのは爆心地よみだ。

 ぽいッと黒焦げて煤けた人型がほんの一メートル前に飛んでくる。


「黒ずくめがさらに黒くなったな」


 詰まらない感想をぼやいている時、朧君は木々に燃え移りそうになっていた火を掴んで消していた。酸素をなくしていると言うより熱エネルギー吸収だな。


 すぐに大人数の足音が近づいてくる。連絡を受けて集まったメンバーが今頃やって来た。

 後の対応はそちらに任せよう。末端の俺が小細工しても仕方ない。時刻は一〇時前、そろそろ帰りたいしな。


「俺は帰るけど君はどうする?」

「少し彼らと話してから戻るよ。じゃあね」

「ああ、またな」


 何事もなく帰宅し、居候の誰にも会うことなくすぐに眠りに着いた。



 ◎


「久し振りだな、結城君。ますますの活躍を耳にしているよ」

「どもっす騎士長」


 翌日、昼頃裏古家御苑に向かうと一〇年は年上であろう貫禄もありながらもハンサムな男から声をかけられた。素数戦線では俺とチームを組んでくれた良い人だ。そういえばあれ以来顔を合わせていなかったな。


「君も参加していたんだな。正直意外だ」

「まあ、今回は目的がありますから。前回ほど暴れるつもりもありませんしね」

「あの時は八面六臂だったからな。ま、確かにあれと比べれば今回はだいぶ気が楽だな」


 実際に素数剣所有者と戦闘を繰り広げたのならこの程度の惨事は受け入れることはできるだろう。威風巨人ライズ・ジャイアントも直に触れたらしいしメンタル面の心配はない。

 拠点の建設を風景を眺めながら騎士長は呟く。


「一体何が目的であんなことするのかねえ……」

「昨日捕まえたやつから話聞けてないんですか?」

「首領の指示だってさ」

「首領、ですか…………なかなか聞かない言葉ですね。昔の仮面ライダーとかでしか聞いたことありません」

「"前回"の時と同じだよ。また突然止めて、いつの間に止めるんだろうさ」

「え、前回?」

「知らないのか? 大体一年くらい前にも氷河結晶による事件は起きてたんだよ。あの時は大事になった直後に動きは止まったが、今回は続いている」


 およそ一年前も同じようなことがあった。模倣犯というのはあり得ないとしても、一年後な再開した理由があるのだ。討伐連合もそこはしっかり考えているだろう。


「一年前に既に裏世界に参入していた人物ですか」

「そんなさっくりとした線引きじゃごまんといるんだがな」


 ため息一つ吐くと、騎士長は「ちょっくら言ってくる」と各人集まるところへ歩き出す。

 およそ一年前から現在までに、首領の下に何かが起きた訳だ。何やらキナ臭くなってきたな。



 ◎


 折角、古家まで来て氷河結晶にかまけるのは勿体ないので観光をすることにした。昨日の夜、裏から忍び込んだ都庁に行き、展望台から街を眺める。高層ビルであることを活かした施設だが、そういうところは他にも幾らかあるみたいだ。


「首都でも木々はあるんだな……」


 都市単位で環境保全活動でもしているのだろう。

 飽きるまでけしきを眺めた後、昼ごはんを食べに地上に戻ると予想外の顔に会った。


「羽元さんと杉村さん……」


 男の色気ムンムンでムキムキ野郎と野暮ったい感じのハニカミ野郎が前から歩いてきた。

 羽元湊。杉村大司。異能組織フォースの構成員。

 リアルで対面はこれで二度目。氷河結晶討伐連合に参加しているなんて聞いてないが。

 二呼吸ほど遅れてあちらも俺に気づいたみたいだ。


「結城!? い、いやこれはちょっと二人で飯でも食おうと思っていただけだ!」

「何で言い訳してるんですか……」


 羽元さんの見苦しい言い訳により、ホモ疑惑が一層強まった。別に二人で歩いてるからってただならぬ関係とか思わないから。

 隣では目を擦っている杉村さん。


「もう老眼が来たのか…………三〇代過ぎてから酷いんだよ…………」

「それは病院へ」


 切実な悩みで何も言えん。

 しかし、こうしてリアルで対面する機会があるとは思いもしなかった。訊きたいこともあるので…………二人の邪魔になるかもしれないが昼を一緒させてもらおう。


「ここら辺にオススメのお店とかあります?」

「ああ知ってるぞ! 行こうか、三人で!」

「近くと言ったらあれだな」


 徒歩五分ほどでレストランに着いた。

 そこは全国チェーンの所謂ところのファミレスというやつだった。期待した俺が馬鹿だったとでも? まあ、オススメの店としか言ってないけどさ。

 そういうことなら気負う必要もない。各々ドリンクバーと昼食を注文する。俺は醤油ラーメンだ。

 商品が届くまでの間隙に雑談――。


「二人はどうして古家に? 今事情があっちは危険ですよ」


 炎天下での徒歩が堪えたのか冷水をがぶ飲みして羽元さんが答える。


「それは知ってるが。来たのは仕事があったから」

「仕事ですか……」


 現実世界にも職業や地位を持つ人も少なからずいるよな。彼らの仲が良いのは同僚だからかもしれない。

 リアルに踏み込むのも躊躇われるので話題を移す。


「ところで…………"彼女"は大丈夫ですか?」

「む――、それなんだが、わからないんだ。何かちんちくりんが一言報告して以来音沙汰がない」

「音沙汰がないですって?」


 彼女というのは姦女々。数週間前のコロシアムのチーム戦で大怪我を負った少女。ガルダ君が治療すると連れ去ったところまで知らなかったが、フォースメンバーさえ会えていないのか。


「てか、ちんちくりんって何ですか? トゲアリトゲナシトゲトゲの仲間ですか? それともケサランパサランの」

「女子高生みたいなやつなんだよ。岩井塾生らしいがな」

「ポニーテールの?」

「そうそう」


 心当たりは一つしかない。

 糸言糸鳥――言われてみればそこはかとないちんちくりんさがあるように思える。彼女の常に纏う異世界行ったら本気出すし、みたいな余裕感のせいかもしれない。

「心当たりがあるのか?」と機微を察した杉村さんが指摘してきる。


「多分ですけどね。確証はありません…………自慢とかじゃないんですけど最近は本当に忙しくて」

「そうか。こっちもこっちでてんやわんやだぞ。氷結の方もだが、ここに来て強力な異能使いが動き出している」

「そうなんですか?」

「二つ。氷結の件と合わせたら三つの事件だ。それぞれ別の場所で起きているかも良いものの、地区が被ったらそれだけで被害が何十倍に跳ね上がるだろうさ」


 そうこうしていると注文の品が届いたので各々手を合わせて食事を開始した。ラーメンできたてに限る。ファミレスですらこの美味さならラーメン店は一体どれだけ美味いことか。


「おい、ドリンクバー頼んで冷水持ってくるとかおかしいだろ」

「口の中を冷たくしときたいんですよ」

「炭酸飲料でいいじゃねえか。冷たいだろ」

「そしたら甘くて水が飲みたくなるじゃないですか」

「お前おかしいぞ」


 それから二〇分もしない内に食べ終わった俺達は適当に解散した。また別の展望台へ行って時間を潰した後、午後六時頃古家御苑に戻ってくる。

 日が傾き始め、東は青く染まりかけていた。夏至って感じだ。これだから最近の若者は――の代表の俺はそれがいつなのかわからない。勉強はできても一般常識は知らないのだ。


 一か所に数百人は集まっている。異様な光景。こうも危険を冒しながら集会をしているのは絶対漏らせない情報がるからだ。



 ◎


 灰色のサマージャケットを纏うフォーマル系イケイケな青年、サイズがあっていないTシャツをファッション的に着ているカジュアル系の少年の二人組。恋人か、という距離で歩くタッグの後ろを俺は歩いていた。


 氷河結晶討伐連合の今宵の任務は敵のアジト付近の偵察である。近くに拠点として使える場所があるならそこの調査するというシンプルなもの。メンバーの戦闘能力バランスを考慮し一六チームに分けてそれぞれ斥候させる。

 俺は初対面、それも謎のコンビと一緒することなった。訳だが……慣れあうつもりはないと言わんばかりに俺のことを無視してくるのだ。

 まあ、生暖かい夜風を一人で浴びるというのも風情があって良い。

 俺って何にでも風情感じちゃうんだな。我ながら節操なしにも程がある。


 氷河結晶のアジトは今は使われていない工場跡にあるらしい。正確にはそのまま維持して、特撮の撮影に使われたりする由緒正しき似非工場である。パンクな世界観にはぴったりの廃れ具合は、数か月前スクリーン越しで見たのと一緒だ。

 今回向かっているのはその付近なので思い出し損だが。


「おいおい、劣悪金属ラスト・メタルさんよォ……最近調子乗ってませんかね、ええ?」


 チンピラ風にカジュアル系の青年がメンチを切ってきた。

 有名になってからこういう類いの絡み方をするやつは何回か出会ったことがある。いきなり戦闘を仕掛けてきたやつもいれば、言うだけで逃げて行ってやつもいる。

 だが、今回のパターンは初めてかもしれない。裏世界は大抵暗いが、その中でもより一層の暗所にいつの間にかいた。ノコノコと着いてきてしまった。甲羅にされて蹴られるのだろうか。


「いやここは!?」周囲を見回す。するとそこはアジト付近で拠点になりそうな隠密にうってつけの場所だった。体育館裏らしき場所だ。学校は近くになさそうだったので公民館の付随施設辺りだろう。「――喧嘩を売ってきただけではなかったんですね!」

「当たり前だ馬鹿野郎。お前は注意力散漫なんだよ」

「あ、すいません……」


 カジュアル系の青年は実は良いやつだった。

 調子乗っている=警戒しろ、というニュアンスらしい。そんなのわかるもんか。ちゃんと口で説明しろや――とは口にしないけれど。

 俺のことは他所に二人はスポーツ館の調査は始めた。素人には何を見ればいいのかわからんが、彼らが見ていたのはやや高めの位置にある窓だった。スポーツするんだから換気は必要だからな。

 かれこれ三〇分が過ぎる――。

 一通り確認し終わるとフォーマル系の青年が連絡用端末で本部に一本入れる。すると、彼が不意に問い掛けてきた。


「実際のところどう思う?」

「何がですか」

「討伐連合のことだ。至るところで悪目立ちしてるお前なら何となくヤバイかどうかわかるだろ」

「んなこと言われても……わからないから巻き込まれたと言いますか、足をつっこんだと言いますか」

「貧乏神みたいやつだなー」軽く言うものの、態度には剣呑さは滲み出ていた。

「いや、俺のせいじゃないですよ。いつもいつも腹黒で業腹な黒幕がいてですね」

「じゃあ今回いるかもな。お前を巻き込むとかいうやつが」

「そりゃ氷河結晶のリーダーじゃないですかね? 裁木とかいう。名前からしても邪悪でしょ」

「はっ、そうかもな」


 意味深なこと言うだけ言って、彼はバディと何やら話し出す。最近は俺を脅すのが密かに流行っているのだろうか?

 それから月光浴をしばらく――。

 調査を終えてスポーツ館から出て一〇歩目辺りを踏んだところだった。


 空から立体物が飛来し、俺ともう二人を囲うように閉じ込めた。

 それは格子檻。

 材質は零下の氷。

 物陰から続々と氷河結晶と思われる異能使いが姿を現す。合計で一八人が四方を囲むように集結した。一人が言った。


「凍えて絶えろ――、篝火に集る虫よ」


 瞬間、檻の内部の気体は居場所を失って――。


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