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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
四章 裏世界の深淵
58/89

6.三人の岩井塾生

 

 ◎


「糸鳥ちゃん……岩井塾生ってかなり危ない立場にいるの?」

「今さら気づいたんですか?」


 フォースとの対面の翌日のこと。直に呼び出して話したいところだったが補習のため夏休みにも学校に通っている糸鳥ちゃんに来てもらうのは憚られたので、自ら彼女のいる学校赴くことにした俺。


 校舎前で二人、外壁に背を預けながら話す。


「はぁ、女々さんも隅におけませんね」

「何の話してんの!?」

「先輩を誘惑したって話じゃないですか? 危ないといったらまずそれでしょう」

「違う」


 変なところばかり目をつけやがって。というか、俺がその話しなけりゃ良かったのか。はっはっはっ、一本取られた。


「コロシアムの参加自体を邪魔されるってどんな悪いことしたんだよ」

「悪いことはしてませんよ! ちょっとあの夫妻が訳ありなだけで……」

「何者だよ、岩井夫妻――、そういえば襲撃で亡くなったんだっけ?」


 水連ちゃんからそこらの話を少しだけ聞いたことがある。襲撃事件があって彼女以外燃えて死んだって。

 正確には鬼木槐はそこから外れているらしいが。


「生きてますよ、多分」

「生きてんの?」

「襲撃自体は昔からありました。前回は迎撃ができなかっただけで、いつも返り討ちにしたものです。先生達も何だかんだ生き残ってましたし」

「…………殺伐してんな本当」


 今に始まったことてはないってことか。俺に解決できるようなことではないようだ。この事を知っていたら俺が断るだろうから、君は隠したんだな。

 ため息一つ吐いて、壁から背を離す。


「次、誰かと会う時は危険はことが起きないようにして欲しいんだが」

「大丈夫です。次は"黎明の世代"といって桁違いの異能を持っている人達ですから、それも三人」

「何か嫌な予感がしてきたわ……」

「――先輩の大好きな龍月りゅうげつおぼろ君も、その世代ですよ?」


 裏世界で唯一仲良くなった男の名前だった。素数連合以来顔を合わせていないが、どこかで強く生きているらしい。

 彼の異能は知らないが黎明の世代とやらなら相当強いと思われる。そうだよな、彼は素数剣相手で勝利したんだ。


「ま、わかったよ」

「お願いします、では予定は追って連絡しますね」

「じゃあ糸鳥ちゃん、補習頑張って」

「はーい」


 やる気のない返事を聞いて、俺は自宅に帰った。空の真ん中まで上がってきた日を睨みながら、人混みを避けていく。

 途中、今や何でもあるドラッグストアに寄り道するのとにした。目的を持って寄った訳ではない。適当にいるものがあれば買うだけ。


 文房具エリアで足を運んでいると買い物籠一杯に殺虫剤を詰めている少年がいた。殺虫剤――それも対ゴキブリ用だ。夏だからひょっこり出てくるが、ここまで必要なのだろうか。

 世の中には変わった人がいるな。


 それはともかく、俺はキッチンペーパーとティッシュ箱を買ってマンションに帰った。



 ◎


 翌日、俺はスマホに届いた指示メールに従って首都ドームに向かっていた。

 電車に乗って都内中心部まで揺られる。今回は補習が休みだった糸鳥ちゃんもいるのでフォースの時よりも気が楽だった。

 県外移動なのでまず青尾あおおで川を一つ渡る。赤い橋梁を窓から覗くと、奥に果てまで続く群青が見ることができた。


「この川何て言うんだっけか」

「そこに看板ありますよ。ええと、平川たいらがわですね」

「ここのことか」


 河原を挟んだ向こう側は一気に都会になっている。ビル群や高層マンションが乱立しているように見えた。

 今日は天気が良く積乱雲が歪んだ山を模して一際幅を利かせている。透き通るような水色の空が心地好い。


「前回からの反省だけどさこれから合う人についての情報を前もってくれよ。女々ちゃんとか滅茶苦茶美少女でビビったわ」

「そうしたいのは山々何ですがね。あまり現実世界で名前を出したくないと言いますか」

「糸鳥ちゃん、普通に高校生してるじゃん」

「私の場合はあんまり岩井塾っぽくないからですね」


 糸言いとこと糸鳥いとり

 さざなみ水連みれん

 鬼木ききえんじゅ

 かしま女々(めめ)

 龍月りゅうげつほぼろ

 そりゃ、他のやつと比べたらわかりにくいかもしれない。俺も言われるまでは気づかなかった。


「そうかい……でも何か前情報はないかな? どんな敵に襲われるとかさ?」

「敵が特定できたらどれだけ楽なことか。ですがそうですね、じゃあ首都ドーム近辺のことを」


 車内だが軽く咳払いして糸鳥ちゃんは解説を始める。


「あそこら辺の地域は最も異能使いが多い街です。というのはやはりドームを初めとした裏ならではの娯楽が揃っているからでしょう」

「娯楽て……」

「コロシアムだって元はお金持ちが殺し合いを見たいからと始まったものですからね。今は主催が変わって健全になりましたが裏の裏はわからないことばかりです」

「裏の裏は表のはずなんだがな」


 そんなロジックも破綻するのがあの世界の秩序。

 お金持ちの娯楽から始まったか。ローマのコロッセオも同じような経過で始まったはずだ。

 考えることは皆一緒。馬鹿なことを考える。


「オークションは割と頻繁に行われますね」

「リアルマネーだろ?」

「はい、通貨で魔道具を売ったり買ったりできます。主催は『Sトレーダー』という謎の組織です」

「謎なのかよ」

「不思議なことに信頼性はあるんですよ」


 むしろそっちの方が怖そうだが、目先の欲に溺れた人間は盲目ということか。

 Sトレーダーは裏世界で商売を成功させている例って訳だ。成立させているってことは多分大人が経営していて、顧客は何も知らない子供なのだろう。現実世界でも同じようなものだから、自体に文句はないけれど。


「上手く立ち回れるもんなんだな。現実世界の方が安全って思ってたけど、事故はあるし頻度は低いけど事件もある。あんまり変わらないんじゃないのか」

「それは重症ですね」


 隣に座る糸鳥ちゃんははっきり言った。


「先輩はなまじ強い異能ですからそう思っちゃうんですよ。裏は自分の身を守る力があれば何とかなりますからね」

「そんなつもりはないけどさ」

「ええ、海斗先輩ならそう言うと思いました」


 いつの間にか俯いていた顔を上げると都会のコンクリート建築物の中にいた。ぽつぽつとだが乗車客が増え始めたので以降は会話はしなかった。

 それから幾つか乗り換えをした末、首都ドーム最寄りの駅に辿り着く。


「ついでに下見もします?」


 尋ねてきた糸鳥ちゃんに俺はうん、と頷き後ろを着いていく。

 コロシアムとは関係なくそれなりの人込みがあって少々息苦しい。遠出とは関係なく後で疲れが押し寄せるだろう。

 周囲に注意を飛ばし過ぎてしまう性だ。


 清涼感のある色合いを基調としたビルや観覧車がます視界に入り、数刹那後に円球の天辺が見られる。纏めて首都ドームシティと呼ばれているらしい。

 白と灰色のブロックが埋められた歩道を行き目の前まてやって来た。


「……思ったよりも綺麗だったな。野球場なんて言うから汚いのを想像してたよ」

「偏見ですね。裏世界はコロシアムのために多少改修されてますし、今も運営がステージの調整をしていると思いますよ」

「文化祭みたいだな」

「そんな俗なもので例えるんですね。死体処理場とかもあるんですよ?」


 笑顔のままそういうことを言わないで欲しい。どんな態度を取ればいいのかわからなくなる。

 言葉を失した俺が黙ると、彼女はどこ吹く風で言う。


「ここら辺のどこかに異能使いが張っていますよ」

「運営側で?」

「はい。流石に特定はできなさそうですが」頭を動かさず視線だけ揺らした糸鳥ちゃんは腕時計を確認。「そろそろ約束の時間ですから移動しましょう」


 人目につかない売店の裏で地面を踏み締めると、世界が青く反転する――。



 ◎


 裏首都ドームは規制線が張られていた。線とはいっても事件現場のような黄色をしている訳ではなく、おそらく、魔道具が使われている。

 黄ばんだ半透明の壁がドームを囲っていた。入口は例外で開いているが番人のように二人が休めの姿勢をとっている。


「あ、いますよ」

「げっ……」


 糸鳥ちゃんが指差したところには男女三人がいるが――。

 金髪の男と、金髪の女と、赤髪の男。

 誰もが声をかけ辛い外面である。いつもなら一目散に逃げ出すところだ。そう考えると女々ちゃんとか糸鳥ちゃんはまともなやつだったんだな。

 一歩どころか五歩くらい遅れて彼らの輪に入る。後輩の少女が俺の腕に抱きつきながら――。


「彼が今回頑張ってくれる人でーす」


 そんな具体性にかける紹介があるか。何の説明にもなっていなかったので俺が人肌脱ぐ。


「俺の名前は結城海斗。今回共闘させてもらうからよろしく」

「そういうことですっ」


 してやったとばかりに糸鳥ちゃんが付け加えた。何故どや顔する。というかキャラが若干違くない? 猫被ってんの?

 俺の疑念は他所に、彼らは彼らで俺ついての判断を下しているらしい。やがておずおずと金髪の少年が口を開く。


「……俺はたてがみ獅子王ライオだ。宜しく頼む」


 割と人の良さそうな彼の名前はとんでもなかった。キラキラネームにしてももっとあるだろって感じだ。見た目通りではあるけどさ。

 ライオは隣の金髪少女に視線だけ飛ばす。


「隣のは妹の鬣獅子女(スフィンクス)だ」

「お、お兄様!」


 紹介された彼女は憤慨して兄であるライオンに噛みついた。ライオも相当だがスフィンクスて。

 あ? スフィンクス!?

 岩井夫婦のセンスの底が知れるというか。親に付けられたものだから大切にしろ、とか言ったら可哀想になっちゃうレベル。

 これは改名案件だ。

 顔を真っ赤にしてガルガルと威嚇し終えた彼女は改めて俺に向き直る。


「お恥ずかしいところをお見せしました……鬣です……」


 名前はやっぱり嫌なんだな。それなら名字で呼びたいところだが兄妹だとその手は使えない。


「え、えと……仮にスフィア(・・・・)と呼んでいいかな?」

「は、はいっ是非とも!」


 身を乗り出してブンブンと頷いた。肩に手を乗せ、丁重に押し返す。

 近くで見ると二人の金色の髪は地毛。顔は日本人っぽいのでハーフとかクォーターとかだろう。どちらも日本人離れした凛々しさがある訳だ。

 そして、最後の一人。絶対に染めたであろう赤い髪の少年。


鳳凰ほうおう皇鳥ガルダだ……」


 彼ことガルダは必要最低限言うだけで口を閉じた。

 名字が鳳凰って最強過ぎかよ。名前がガルダって空飛べんのかよ。岩井塾にまともな名前のやつはいないのか?

 性格からしたらツンツン頭そうだが、実際はのっぺり赤髪でサラサラしている。


 しかし、意外と三人とも悪いやつではなさそうだ。朧君も良いやつだったしな。

 司会進行のように糸鳥ちゃんが話を進める。


「自己紹介は終わりましたし何しましょうか?」

「観覧車とかジェットコースターが見えるけど」


 高校生くらいの年齢で五人で遊園地には行きたくないよな。まあ、裏世界は電気がないから何にも稼働していないけどさ。

 ではどうするか、と尋ねる刹那前にライオが言い放った。


「じゃ、一狩り行くか」

「そうですね」

「わかった」

「私は久し振りですねー」


 怖い。岩井塾生の四人が怖い。一狩りって何ですか。俺はあんまりゲームをしないので一体何を殺戮するのか想像もつかない。ドラゴンが? 何レックスだ? 何ギガンテだ?


「あ、あの一狩りって……」

「ハンティングですよ、先輩」


 ドラゴンじゃなくて溶解液飛ばしてくるネズミですか?

 これは実際見た方が早いやつだ。置いてきぼりのまま移動を開始した四人の後を追った。



 ◎


「裏世界の異能は超能力と魔法使いがほとんどですが、その中で召喚系統を扱う魔法使いというのは意外と多いんですよ」

「ゲームとかでよくあるやつって理解でいいのかな? 例えば天使とか悪魔とか」

みたいな(・・・・)ものは召喚できます。今回はドラゴンとかスライムを想像してください」


 ドームの裏手にある大岩山後楽園という有名な日本庭園。緑豊かな光景だが、先程から奇妙な鳴き声がしているため自然を愛でる余裕はない。

 ギャオオオオォォォ――とか、シュゴオオオオォォォ――とか。

 カラスではないな。


「カラスはカーカーですよ」

「それくらいわかるわ」


 少なくとも地球には存在し得ない生物の鳴き声だ。どんな生物を召喚すればこんな泥沼に冷蔵庫を突っ込んだような豪々とした奇声を発するのか。

 ハンティングとはこういうことか。


「おっ、お出ましだ」


 ライオが空を見上げたので、追って視線を飛ばすと黒雲の如き鳥の影が確認できる。

 絵本だとかでサンダーバードという怪生物を読んだことがあるが、そんな感じだ。神話に出てきて人を丸飲みするような大きさ。

 カラスのような鋭い嘴と扇形の尻尾。ダークマターを思わせる漆黒の尖角で構成された羽。片方の翼だけで幅一〇メートルはありそうだ。

 俺達に気づくとカラスは急降下し、爪を突き出す。


「うおおおっ――!」


 暴風が吹き荒れ木々が薙ぎ倒れされる。舞った砂煙の中、影は大きな翼をはためかせると池に溜まった水までも吹き飛び、雨のように降り注いだ。


 先日戦った要塞よりは小さいとはいえ。巨大生物で、それも空を飛ぶとなると流石にヤバい。

 軋む首を動かして、他四人を捉えると――戦意を失うどころか、相手にとって不足なしって眼をしているぞ。


「あれは『ジェットブラック・レイヴン』だな」

「最近増えましたね」

「一人でも余裕だな」

「これじゃあ力出しきれないかも知れませんね」

「あ、皆さんでどうぞ……」

「何言っているんだ? お前の力を試すんだろ?」

「ええー! そういうことなの!?」


 押し出されるようにして一番前、ジェットブラック・レイブンの正面へ。機械と生物は全然違う。はっきり言って怖い。殺気のあるなしはメンタルにかなり食い込む要素だ。

 だが、俺は無力じゃない。

 金属再生『灰鉄』――強化外骨格に全身が包まれる。これがあるだけでも恐怖は多少和らぐ


「ま、やってみるか」


 ギュオオオオオォォォ――!

 俺の闘志に反応したのか狂喜の悲鳴が発される。

 金属の足で地面を蹴りつけるように走り、レイヴンの股下に入り込むよう体勢を一気に低める。

 が――、想像以上に素早く、斧のような足は俺を押し潰した。


「ぐうッ!?」


 関節がギチギチとなり、踵は地面にめり込む。トラックを三台積んでもこの重さにはならないであろう重量が背中全体にのし掛かった。

 足首から鉄柱を地面に穿ち、これ以上の後退を防ぐ。


「時間さえあれば――俺の異能は十全に働く!」


 右手再構成し堅固な槍を生成し、レイヴンの足さらに左の翼までを一撃で貫く。やつの絶叫に耐えつつ、さらに柱を伸ばして標高数百メートルまで打ち上げた。

 ここで右腕をパージする。左手から刃渡り五メートルある鋭利な剣を創った。

 棒が刺さったままでは飛ぶこともままならず、カラスは回転しながら落ちてくる。ギュオオオオオォォォ――、と嘴を大きく開いて俺の飲み込まんとする。


「〈セカンド・フェーズ〉〈スペリオル〉」


 真っ直ぐ縦に腕を振るうと――、虹の色彩を纏った剣は包丁で豆腐を切るように、ジェットブラック・レイヴンを真っ二つに斬り裂いた。

 死体と化した二つが庭園を揺るがすが、二回目だから砂埃は舞わない。葉っぱは散った。


「…………」


 足を穿った時から、レイヴンから血が流れていない。元々そういう生物なのだろうけど改めて異質だ。

 召喚と言うのならどこかに住んでてのは連れてきたのか? 結論は出そうにないので頭を切り替えて。異能を解除し、糸鳥ちゃんの隣に戻った。


「せ、先輩ってあんな攻撃できましたっけ?」

「最近覚えたんだよ。進化するみたいだ」

「進化型!?」

「言い分からして普通は進化はしないんだな」

「どんだけレア能力なんですかっ!」


 そんなこと言われたってしょうがないじゃないかー案件だなそれは。

 興奮して詰め寄って来た後輩を押し返して、金髪赤髪の方を向く。パチパチとスフィアが拍手してくれた。ありがとう。嬉しくないけど。

「問題なさそうだな」と言ってライオが鼻を鳴らした。

 スフィアの方は糸鳥ちゃんと似たような反応。


「スゴいですっ、えっと……海斗君?」

「う、うん。ありがとう……」


 美少女成分五割、日本美人率、外国人美人率がそれぞれ二・五割で構成された女の子だ。良いぞ良いぞ。

 赤髪のガルダは一瞥するだけで、そっぽを向く。ボッチ系の人なのかな。


「じゃあ次行きましょうね、海斗先輩っ」

「そうですよ、行きましょうか、海斗君っ」


 女の子二人に挟まれてさらなら高みへ無理矢理引きずられていく俺であった――。


 庭園には、鴉型レイヴン昆虫型ビートル鮫型シャークといったタイプと、様々な色の組み合わせで怪生物が存在した。

 後で聞いた話――大岩山後楽園は魔法使いの共用の"召喚場"らしく、好きなだけ召喚できて、好きなだけ駆逐していいそうだ。恐ろしい場所である。


 これも娯楽施設の一つ。実戦には丁度良い強さの敵がいるアトラクションって訳だ。



 ◎


 狩りも一段落し、近場の岩に腰を下ろして休憩――。

 金と赤の男子は各々で景色を楽しみ、女子二人は仲良くお話をしている。俺はそれを手持ち無沙汰に眺めていた。


 コロシアムは対人なのに人ではないものばかり相手にしている。お互いの能力について知るという点と、実戦の匂いに慣れるという点では有意義ではあったが。

 全員がなかなか尋常じゃない異能の持ち主だった――。



 腹部を金属し、金庫のような開閉扉を創り出す。開けるとそこは四次元空間にでも繋がっているのか奥行きが存在した。

 そこには俺のお宝が詰まっている……訳ではないがレア物を入れている。

 入っているのは顔を隠蔽する魔道具とガンマンの銃。西部劇風のリボルバーだ。


「使えないよな……」


 引き金に力を込めても軽い感覚。モデルガンではなさそうなので、本物を使えないように改造したのだろう。

 腹の中に素数剣を入れていた時は収集剣でも探知できなかったらしいので、隔絶空間にあるのは確実だ。


「何物騒なもの持ってるんですか」


 ちょっと構えている俺に向かって糸鳥ちゃんが声をかけてきた。


「見た感じ……本物ですよね?」

「見ただけでわかるんだ。もしかしたらオタクみたいな?」

「いえ、重みを察したからですけど」


 どうやったら重みを察っすることができるのか不思議だが、下手に疑われる前に説明する。


「形だけで使えないよ。多分、異能ありきだし」

「変な収集癖ありますね。使えないもの持ってくるなんて」

「まあ、あそこに置いておくのも可哀想だったから」

「何がですか?」

「銃」


 可哀想に思われたのは俺の方だった。

 何言ってんだこいつ的な白けた視線と、そんなこと信じてるんだ的な冷たい視線とで圧殺される。

 ボールが友達だっていいでしょう!?


「頭ふわふわタイプですね」

「いいじゃんそれくらい」

「優しい方ですね」


 フォローを入れてくれたのはスフィンクスことスフィアだ。優しいというのは俺の台詞だ。


「あなたは慈愛の女神か何かか?」

「え! 女神だなんて……そんなんじゃないですよっ」


 と、言いつつ満更でもなさそうっていうね。

 可愛いげのある女の子だ。だが、シスコン兄貴がさりげなく俺のことを見ている。下手なことはできまい。


「にしても綺麗な金髪だね」

「そ、そうですかね……」

「うん。青い瞳とかも」

「は、はいっ……」


 恥ずかしがってしまったようだ。

 してたら「……先輩……」とフラットな声音が耳に届いた。ギリギリ聞こえるか聞こえないかの瀬戸際さがガチな感想を表している。


「何かな糸鳥ちゃん」

「いえ、ちょっと呆れてただけなんでどうぞ続けて下さい」

「続けるもなにも……」


 不機嫌そうだ。これは例えるなら――お兄ちゃんがクラスメイトの女の子と自宅でイチャイチャしてるのに舌打ちする妹の心理か?

 愉快な妄想をしていると、青い原風景を眺めていたガルダのスマホ型連絡魔道具から着信音が鳴った。耳元にあて何やら話した彼は岩から腰を上げる。


「用事ができた。俺は帰る」

「そうか。なら俺達も退散しよう」


 ライオが返事し、ひとまずこの場は解散することとなった。現実帰還組は俺と糸鳥ちゃんだけ。

 別れに軽く挨拶を交わす。


「じゃあ、当日は宜しく頼む」

「こちらの台詞だ」

「また会いましょうね」


 金髪の兄妹を振ると妹の方が細やかに返してくれる。ちなみに赤髪のガルダは木々に寄っ掛かって眼を瞑っていた。

 よし、と地面を踏み締めると同時に世界が反転――、現実へ戻ってくる。


「じゃあ、帰りましょうか」

「だな」


 糸鳥ちゃんに後ろに着いていくようにひて、知らない街を後にした。


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