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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
四章 裏世界の深淵
55/89

3.オフ会

 

 ◎


 時刻にして午後六時頃、小宮駅前――。


「そろそろだよな」


 俺は腕時計を見、周辺に待ち人がいるかを見、再び腕時計を見る。潔癖なのもあって時間には少々気を遣っている。

 こんなことをしている訳だが、待ち合わせしている人の顔はあまり覚えいない。唯一覚えているのが糸鳥ちゃんだけで、他は一度顔を見ただけ。つまり、探しているのは糸鳥。


 しばらくすると、物憂げに歩いてくる少女がこちらに歩いてきた。長い黒髪でサイドを三つ編みにし、今時の若者というファッションに身を包んでいる鋭い眼をしている。

 この独特の冷たい雰囲気には覚えがあった。


「リーダー……」

「あなたにリーダーと呼ばれる筋合いはないけれど?」

「アイドルグループでそういうやつあるじゃん」


 この人は『極悪編隊』と呼ばれる異能集団のリーダーを努めている。俺は彼女の名前を知らない。皆が揃ったら自己紹介でもしてもらおう。

 数分すると、一人また一人集まり合計五人が集まった。


 制服姿の糸鳥ちゃん、小動物なような可愛気のある女の子、眼が死んでいる無口な少女。四人しかいないというのにバリエーション豊かだ。類は友を呼んでいなかったな。


「皆揃いましたし行きましょうか」


 唯一の活発系の糸鳥ちゃんの一声で俺達はどこかへ歩き出す。仕事帰りのリーマンや、同じように飲み食いを考えている学生らしき人影が多く見られた。

 相変わらず献血お願いします、という声もしている。甘いお菓子だけじゃ皆満足できないだろうに。


「献血一回、一〇〇〇円だったらやる?」

「やりますよ」


 誰にでもなく質問したが糸鳥ちゃんが即答した。本性が露呈しているぞ。

 輸血とかに使われるのだから多少なりともお金は発生してもいいと思うが、特に医療の面で慈善の心を汚す行いはしない方が良いのだろう。


 やって来たのは焼肉の全国チェーン店だった。漫画のタイトルにありそうな店名だ。

 予約でもしていたのか待ち時間はなく、そのまま個室に案内された。テーブルの左右の席に二人ずつ並び、上座だか下座に俺が一人で座る。


「俺がいなくても焼肉来るつもりだったんだよな?」

「そうですよ。前回も前々回もここでしたし」

「これが現実か……」


 女の子が焼肉を食べることに文句がある訳じゃない。先入観だとか固定観念でうわぁ、と思ってしまうだけ。

 世の中にはそういう偏見が溢れているということか。一人カラオケも一人焼肉とか。


「俺はこういうところには滅多に来ないから、ちょっと任せて良いかな?」

「いいですよー」


 とりあえず飲み物と副菜を注文する。ミネラルウォーターという商品はなかったので炭酸のグレープジュース。

 各々の頼んだものが届いたところで自己紹介をする。


「あ、結城海斗ですよろしくどうぞ」


 適当だが細やかな拍手が上がった。明らかな虚しさを感じつつ、糸鳥ちゃん以外のメンバーに目を向ける。

 まずはリーダー。俺に視線を受けて涼やかに口を動かす。


「私の名前は菱形ひしがた去代さよ

「それって本名?」

「半分はね」

「ふうん、去代ちゃんねえ……可愛い名前だな……」


 無意識に口にした愛称に対して、その菱形去代が俺に白い眼を向けてきた。お気に召さなかったようだ。


「ほら、出たよ……」とかなんとかリーダーの隣にいる糸鳥ちゃんが小声でぼやいたのも聞こえていた。いつも女誑しを揶揄することを言ってくるな。


「じゃあとりあえずリーダーと呼ばせてもらいますね」

「……それでいい」


 去代ちゃん、よりはマシだと思ったようだ。まあ、己が年下ならともかく同い年とか年上だったら屈辱的だわな。俺は面白いけど。そういえば彼女は何歳なんだろう。

 一人目の紹介が終わったので逆サイドに視線を移す。


「え、えっと私ですねっ」あせあせとしながら自己主張する全体的に小さめな少女。「くれないさくらと言います」

「紅、桜? 岩井塾生?」

「ち、違いますっ」


 顔を真っ赤にしながら返事してくれた。反応からして男子慣れしていないのかもしれない。

 性格は上がり症で恥ずかしがり屋といったところか。俺が彼女を凝視していると体をなるだけ縮めて俯いた。


「あ、あぅ~」

「よろしく、あー……紅桜べにざくらさん」

「こ、こちらこそお願いいたしますっ!」


 返事し、懇切丁寧に頭を下げるものだから額をテーブルにぶつけた。両手でおでこを押さえながら「あうぅ……」と呻いてやや涙目になる。天然系のどじっ子か。


 そして、紅桜さんの隣の集合してから一言も喋っていない少女の番。

 改めて彼女を眺め、街で見かけそうで見かけられない平凡な可愛さの女の子だと思った。無口だからか不思議と大和撫子という印象を受ける。

 無言のまま俺に対して会釈すると、興味が失ったように瞳から光が失われた。


「え、えっと……」

「こ、この子は十文字じゅうもんじ白亜はくあといいます。訳あって喋れないんですが……き、気にしないでくださいっ」

「気になるでしょ……」

「そ、そうですねごめんなさい!」


 見かねて紅桜さんが紹介してくれた。良い娘やな。

 裏世界の住人なのだから訳ありの一つや二つはあるだろう。気になるが下手に言及する必要もない。


 一通りの挨拶を終えたので、本格的にオフ会が始める。彼女らはメニューにある肉を片っ端に注文した。

 焼いては食って焼いては食って、米と一緒に食べて、肉だけで食べて満面の笑顔を浮かべる少女達。ただし白亜さん以外。

 貪るように食うものだから俺は唖然とした。


「そろそろコロシアム開かれますねリーダー」


 紅桜ちゃんが肉を頬張りながら呟いた。タイムリーな話題ではあるが、俺がそれに参加することを知っての話題提供か?


「そうね、今回はコロシアムが始まって以来参加者の最も多い大会でしょ」

「何でしたっけ、"七人の魔女(セブン・ウィザード)"の一人が出るんですよね?」

「みたいね。それだけじゃなく"古露ふるつゆ愛花あいか"もいるみたいだし」

「…………?」


 俺の知らない言葉が幾つか出てきた。セブン・ウィザード? 古露愛花? 有名人っぽいが俺は知らん。


「――他にも名の知れた強者が参加するみたいね。今回は過去に例のない激戦になるでしょうね」

「え……」 


 リーダーの確信染みた予測に思わず頬をひきつった。

 参加しようと思ったらこれですか。糸鳥ちゃんは俺を横目に捉えると大袈裟にため息を吐いた。彼女が俺に馬鹿と言った理由はこれか。


 素人が多いと聞いたから重い腰を上げられたが、歴戦の猛者がうじゃうじゃいるとは。それに相手が強いのなら、死なないっていうのはただの地獄だ。


「先輩も出場するんですよ」とボソッと呟く糸鳥ちゃん。「個人戦にも、チーム戦にも」

「ええー! ほ、本当ですか!?」

「紅桜ちゃんも無謀だと思う?」

「い、いやあ……素数戦線を生き延びた結城君なら大丈夫なんじゃないかな……?」

「まあ、あれと比べたらな」


 街を丸ごと破壊するような威力と比べたらドームくらいチャチなものだろうけど。そもそも俺の異能『金属再生』のおかげで死ぬことはないのだから心持ちの問題でしかない。

 リーダーは思考しているという風に口元に手をあてて告げる。


「ふむ、やはりおかしいなのねあなた」

「いやいや、そんな情報知っていたら参加しなかったわ」

「どうだか?」

「何か言いたげだな、去代ちゃん」


 ふい、と顔を背ける去代ちゃんだが頬を紅潮させていることは勿論気づいている。本名なのは下の名前の方か。

 まあ、当日になって知らされるよりは幾分かマシだった。


「これは事前に調査しとかないとな」

「普通はそうなんですよ。調べてから参加するか決めるんです」

「でも最近裏世界に参入したやつはそんな感じなんだろ?」

「先輩は賞金がいくらかも知りませんよね?」

「……金も出るの?」


 賞品だけじゃないの?

 盛大なため息が吐かれた。糸鳥ちゃんと去代ちゃんからだ。紅桜ちゃんに関してはお墓の前で手を合わせる時のような遠い眼である。


「優勝賞品、一〇〇〇万円」

「げっ」


 思ったより高額。オリンピックで金メダル取っても三〇〇万円だというのに。高校生が持ったら金銭感覚が崩壊する。

 裏世界の金銭流入はやはりおかしい。不正と隠蔽で成り立っているだけはある。完全に泡銭。


「それと十字真剣で二つって訳か。二位と三位には何かあるの?」

「ないですよ。一番を決めるためのコロシアムですから」

「マジで激戦になるじゃん……」


 それからしばらく、コロシアムについて小一時間ほど情報を教えてもらった。時刻が八時を回ったところで、そろそろ解散という流れになる。

 彼女ら四人は極悪編隊という軍団の仲間であるが、一緒に食事はしてもカラオケに行くような関係性ではないらしい。このまま真っ直ぐ帰宅するようだ。俺も文句はなかった。


 割り勘して会計を済ませ、某焼肉屋を出る。むわっ、とした熱気が全身を包み込んだ。


「あー、食った食った」

「はしたないことを大声でいうものじゃありません」

「はーい」


 糸鳥ちゃんとリーダーの姉妹のような会話ににやけつつ駅前に向けて歩き出す。

 一足先に歩を進める俺の隣に紅桜ちゃんがとことこやって来る。何やらもじもじしている。


「あ、あのっ」声をうわずらせながらずいっ、と俺に接近してきた。「わ、私も名前で呼んでいいかなっ?」

「……はい、いいですよ」

「うん……ありがと海斗君っ」

「カッ――!?」


 これが萌えるということかーっ!?

 思わず心の中で叫んだ。辛うじて残っていた理性が現実に出力するのを止めてくれたぜ。

 すごい心臓がドキドキしている。危うく恋をしてしまうところだった。


「あれ? 結城じゃん」


 渾身のにやけを心に留めて悶えていると横合いから俺の苗字を呼ぶ何者かの声がした。結城という苗字は決して多くいる訳ではないが、たまに見かけるくらいには一般的だ。

 小宮駅前だぞ? 俺とは関係ある方がおかしいな。人違い人違い。


 とはいえ、一応確認はするんだけどね。一応ね。

 落ち着いてから音源に横目を飛ばす。いたのは私服姿の同級生の女子グループのリーダー。後ろには取り巻きの女子を侍らせていた。

 そういえば午後にクラス会をすると言っていたような。

 ぞろぞろとカラオケ屋から出てきたところだった。男子生徒も俺のことに気づき眼を丸くする。


 侍らせているのは俺も同じじゃねえか――。


 彼ら彼女らは釣り合ってねえ、と言わんばかりに俺と、隣や後ろにいる四人の女の子に視線を行き来していた。

 思わず立ち止まってしまったのが悔やまれる。極悪編隊のメンバー達もクラスメイトに一瞥してしまった。


「あ、そういえば教室にいたような……」


 糸鳥ちゃんが呟いたタイミングでカラオケ屋から某男子生徒が現れた。俺は顔を隠すように片手を添えて足を動かす。


「じゃっ、達者でな」


 軽く挨拶していそいそとこの場を離れる。学校での俺の立場を知らない去代ちゃんと紅桜ちゃんには申し訳ない限りだ。白亜はよくわからん。


「明日から夏休みで良かったですね。学校中にハーレム野郎って噂が流れなくて」

「そんな風に見えたかね。美人局達に翻弄される純粋無垢な少年じゃないのか?」

「ははは、リーダーじゃあるまし」


 糸鳥ちゃんが笑いながら言うと、背後からこめかみをグリグリされて悲鳴を上げる。駅前ならでの喧騒により掻き消えたが臆面のない叫びであった。


「……糸鳥……」

「ご、ごめんなさい! 全部海斗先輩が悪いんですっ! 私を貶めようとっ!」

「……そうなの……?」

「騙されるな、それが彼奴のやり方だ。去代ちゃん」


 ――ぎゃああああああああああ!!! という俺の悲鳴が駅前に轟いた。この俺が恥も外聞もなくシャウトしてしまうほどの圧力。

 俗にいうグリグリ攻撃。流石リーダー、絶妙なラインの粛正が手慣れている。


「――と、ともかく今日はありがとうございます。また機会があれば」


 定型文をつらつら並べて頭を軽く下げると――。


「来た」


 何のことを言っているかわからないが、始終黙り込んでいた十文字白亜が突然口を開いた。精神的な病気なのかなと考えていたがそんなことはなかったらしい。


 俺の挨拶の返事ではないだろう。

 疑問符が頭の上に出そうな俺とは対照的に極悪編隊メンバー達は表情を固くしていた。


「――先輩、近くに異能使いがいます」

「はい? それって……俺達以外ってことだよな?」

「勿論」

「へえ……じゃなくて、そんなのどうやって見分けたんだ?」


 糸鳥ちゃんは断言した。糸鳥ちゃんだけじゃなく、去代ちゃんも紅桜ちゃんも白亜でさえそう断ずるのだろう。

 その根拠は何だ?


「白亜の能力です。『異能反響セントラル・レーダー』といって――」

「――待て待て待て待て!」俺は即座に反論する。糸鳥ちゃんの話を聞く余裕すらなかった。「ここは"現実世界"だぞ? 異能の力を使えるはずないじゃないか!?」

「何事にも例外はあるんですよ」

「……例外て……現実世界で……」

「とは言っても局地的ですし、条件もあるみたいですが。とにかくここ裏座標で何らかな異能が働いているのは確かです。彼女はそれを感知しました」

「そんなことが……」


 まさか――と。

 俺が譫言を呟いている間にも極悪編隊は動き出していた。駅前の陸橋から人混みを抜けて階段を下っている。人目のないところから裏世界に入るのだろう。

 二足ほど遅れて四人の背中を追った。漂う熱気にも当てられ頭がクラクラする。


 彼女らは女子トイレに直行した。流石に着いていいけないと、隣接する男子トイレに向き直る直前糸鳥ちゃんに腕を掴まれた。

 そのまま引きずり込まれる。


「やっ、止めろ! 捕まる、警察に捕まるから!」


 高校生にして、軽犯罪とか公然猥褻とかの前科持ちとか生きるのが辛くなる。

 運良く中には誰もいなかったようなので手早く鏡の前で裏世界に入る。床を踏み締めると同時に、視界が反転に反転し、青の差し込まれた鏡面世界に降り立った。


「――糸鳥ちゃん、確認しないで引きずり込んだよな?」

「あれくらい大丈夫ですよ。間違えましたー、って言えば」

「女子はよくても男子はダメなこともあるんだ」


 通報されるか通報されないかの差である。そんな下世話な話は置いておいて。

 俺達は女子トイレから出て再び陸橋を上る。先程までの人込みも、密集による熱気も嘘のように霧散していた。


 だが――、岩石を粉砕する轟音が鳴り響いている。


 壁面から顔だけ出して覗くと、月光を反射した何かが壁面に水色を映し出していた。ただの光だろう。ならば媒体は透明の水か。

 水操作系の能力――。

 しかし、異能使い対異能使いという様相ではなさそうだ。まるで一方的に攻撃しているように見えた。


「ああ、何となく読めてきたわ」


 それとなく去代ちゃんが呟いた。


「そうなのか?」

「ええ、よくある怨恨じゃないかしら」

「怨恨……すっげえ嫌な予感がしてきた、止めないとじゃん」

「そう。なら行けば」

「君らは行かないの? 最近はああいうことが増えてきてるのよ、わざわざ対応してたらきりがない」


 それは俺にも関係してない話じゃない。学校帰りに襲撃されたのも根本的には同じ問題に帰結する。

 裏世界が誰かにとって気安い場所となるのは危険過ぎだ。故に俺は立ち上がる。


「俺は行くよ」

「そう。これを貸すわ」


 言いながら去代は自らの影に手を翳すと全長二メートルほどの長物を取り出した。シャーペンほどの細さしかない漆黒の槍だ。鏃もスマートに返されている。銛に見えなくもない。

 バトンのようにクルクル回してから俺に押し付けてきた。


「こんな物騒なものを……」

「先輩の場合は顔も隠した方が良いですよ」


 糸鳥ちゃんの指摘に従い何らかの策を弄す。ここで役に立つのが"認識阻害の腕輪"だ。ガンマンから拝借した黒のリング。これにより俺の顔には影がかかるように見える。金属化を使っていない限りは、だが。


 槍を杖のように床のブロックに突き立てながら音源へ接近する。

 水の異能者は俺に気づき「ひっ」と驚きと恐れの息を漏らしめ、背後の外壁に背中をぶつけた。

 月光が異能者の姿を映す――年は近そうだが、男子としては身長は低く眼鏡をかけた少年。


「だっ、誰だお前っ!?」

「……予想通りか……」


 俺の足下には男が二人倒れていた。

 今時のファッションだがそんなイケイケな服は真っ赤な鮮血に塗られ無残な布切れと化している。また、全身に赤紫色の打撲が見られる。

 そして、全身から水が滴っていた。


「新参者か」

「お、俺以外にも……」

「君がどこで何をしようと勝手なんだが、こういうことに使うのはどうかと思う」

「お、俺は悪くないぞ! 先にやったのがそいつらだからな!」


 誰が悪い云々の話はするつもりはない。喩え、眼鏡の少年がこの野郎共に虐められていたとしても俺には関係ないはなしだ。


「しかし、何も知らない人をここに連れてきたことに関しては少しばかりまずいな」

「く、来るな! こっちに来るな! ――うあああああ!!」


 眼鏡の少年は後退りながら異能を放ってきた。水が圧縮されたものが砲弾のようになって襲ってくる。

 俺が漆黒の槍で縦に切り裂けば、いとも容易く水はバシャッと飛び散った。大した強度でもない。以前の炎野郎と同じくらい。


 それともこの槍が優秀なのだろうか。影から出てきたし何らかの魔道具かもしれない。


「う、あ、うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 それだけで、眼鏡の少年は叫びながら駅構内にまで走っていった。裏世界には俺みたいなやつがうじゃうじゃいる。彼もきっとこれからは軽率に裏世界には来ないだろう。

 駅ビルを見上げれば『小宮駅』という立体看板がある。裏も表もここは安全な場所とは言い難そうだ。


 一仕事終えて(倒れてた奴らを人気のないところで表に送った)極悪編隊の少女らがいる階段脇に振り返る。何やら皆は白亜と話しているようだ。

 この少女――十文字白亜もわからない。

 現実世界にいながら裏世界のことを知覚するなんて。いつかに聞いた言葉を用いれば、現実影響率が高いとでも言うのか。


「これカッコいいな、何と言ってもこのフォルムな」


 去代に漆黒の槍を渡すと、取り出した時と同じように自らの影に押し込んだ。


「本当に最近多くなってきましたよね。学生の内で変なウワサがでまわってるらしいですよ。私達のところでは依然として聞きませんでしたけど」


 言うと、糸鳥ちゃんは盛大にため息吐いた。

 利益を目的とした何者かが若者を裏世界に参入させているらしい。噂という受け入れ易い形にして中学生高校生を煽っている。

 略奪師や、もしかしたら真倉さんもその類いかもしれない。

 はっきりと、雲行きが怪しい――。


 それから俺達は同じ方法で裏世界から現実世界に戻ってくる。流石に俺は男子トイレからだが。

 いつの街並みと人々を眺めながら。


「じゃあな、去代ちゃん」

「ええ、幸運を祈ってるわ」

「糸鳥ちゃんはまたすぐ会うことになりそうだな」

「ですね、ではおやすみなさい」

「紅桜ちゃんも、また会おう」

「はいっ、海斗君っ」

「白亜は……まあ……」


 特に言うこともなかったので頭を撫でる。髪がさらさらで手は頭から肩に滑り降りた。

 白亜はジーっと俺の瞳を凝視する。

 気まずいからすぐに逸らし、改めて極悪編隊のメンバーに挨拶をした。


「今回は誘ってくれてありがとう。また機会があれば、気安く誘ってくれ」


 彼女らは駅方面へ、俺はマンションに向けて歩き出す。流石にクラスメイトはもういなかった。


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