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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
四章 裏世界の深淵
54/89

2.立場の変化

 

 ◎


「バトロアのことだけど参加してもいいよ」

「マジですか!? 流石先輩! もうっ、大好きー!」


 翌日の放課後も糸鳥ちゃんが教室にやって来たので、頼みを引き受けることを伝えた。

 そしたら教室内全土に聞こえる音量で、大声で、大好きとか言いやがった。机越しだが抱き着いてくる始末。


 女子達が面白がって桃色の歓声を上げる。便乗するように男子共もフーッ、とか言い始める。だが、とある男子生徒だけは俺のことを睨んできていた。


「ったく、面倒なことをしてくれたな」

「嬉しくないですか? 私みたいな可愛い女の子に好きって言われるの」

「そりゃ嬉しけど――じゃなくて、結城海斗、出る!」


 モビルスーツに乗っているか如きスピードで教室から飛び出した。

 校門を出たところでスピードを落とし、彼女を軽く睨む。


「とある男子生徒から嫌われたじゃん」

「でしたね~。先輩がモテモテだから嫉妬してるんですよ」

「君のせいだがな」


 ため息を吐いてから帰路に着く。糸鳥ちゃんが隣合う。

 夏休みの課題が配られて斬々していたというのに、イライラケージが結構な具合で溜まっている。


「でも、本当にありがとうございます。大好きはともかく感謝は本物です」

「最初からそれを言ってくれれば良かったんだがね」

「それは遊び心というやつです」

「あんなことばっか言ってると本気にしちゃうぞ」

「…………………………」


 ちょっと冗談言っただけなのにそんな顔すんなや。無反応とか恥ずかしいじゃないか。


「あ、すみません。ちょっとあり得ないかなー、と思っていただけですから気にせず」

「無理だろ。そんな振られ方されたら無理だろ!」


 素でそんな反応されたんだぞ? 忘却不能だ! まあ、糸鳥ちゃんを彼女にしたい訳じゃないからいいんだけどさ。

 ともかく、俺みたいなのはタイプじゃないらしい。


 ここらで閑話休題。


「先輩に参加してもらいたいのは個人戦ではなくチーム戦の方です」

「チーム戦とかあるんだ……スポーツっぽいな」

「殺戮をスポーツ扱いするとは先輩もしかしてサイコパスですか?」

「っぽい、だから。俺はあくまでノーマルですから」

「百歩譲ってもアブノーマルじゃないでしょうか」

「参加しなくてもいいかな?」

「冗談ですよ! 冗談! 会話を楽しみましょうよ! ね?」


 突っ込み待ちでボケる会話ですか。

 肩を竦めながら促す。


「チーム戦なんでやっぱりチームメイトとの連携が大事な訳ですよ」

「そうだな」

「という訳で夏休みの間にメンバーに会ってもらいますから」

「はあ……それはわかったけど、糸鳥ちゃんも来るの?」

「はっはー、私がいないと心配? 行ける時は行きますよ。補習次第ですね」

「まさか、コロシアム云々も補習のせいで行けないのか!?」

「おっと、バレてしまいましたね」


 そんな理由かよ。補習くらいサボれ、とは言えないけどさ。

 引き受けてしまったからには真実を知ったところで関係ない。精々頑張らせてもらうのみだ。


「参加とは言うけど、目的はやっぱり優勝賞品?」

「それもあります」

「も?」

「今回の大会は"未来視の義眼"、未来を見られるという触れ込みの魔道具ですね。使うには目をくり貫かなければなりませんけどね」

「想像するだけで気分悪くなるな……」

「ちなみに個人戦は"十字真剣"です」

「十字真剣? カッコ良さそうな名前だ」

「なるほど、先輩は中二病患者だったんですね」

「男子誰しも通る道だ」


 中二道に男女は関係ないけどな。是非皆一度極めた方が良いのではないだろうか。


「……――?」


 ふと、視線を感じ、振り返ってみると制服姿の学生がいた。そりゃ帰り道なのだからいるに決まっている。

 首を傾げながら向き直る。


「先輩、つけられてますね」

「やっぱり!」


 真っ直ぐ前を向いたまま糸鳥ちゃんは言う。気づいているけど、気づいていない振りをしていた。

 尾行だとして、追っているのは俺と糸鳥ちゃんのどちらだ?


「糸鳥ちゃん、何か身に覚えある?」

「ありませんよ。多分先輩です」

「ええー! ねえよ、身に覚えねえよ!」

「――現実世界ではそうでしょうね」

「……つーことは裏なのか……」


 俺は騒ぎを起こしてしまったので有名になってしまった。悪目立ちというやつだ。


「受け身に回っても仕方ないですし、行っちゃいましょう」

「え、大丈夫なのかよ」

「尾行がお粗末過ぎますし、一人みたいですから。ああいうこともたまにありますからね」


 そういうことなら。糸鳥ちゃんに誘導に従って人目のない場所まで移動し、俺はアスファルトを踏み締めた。瞬間――視界が一八〇度反転したのも束の間、青い色彩の差し込まれた反転世界にやって来る。

 裏世界――リバース・ワールド。


 隣にいる少女は懐からサングラスを取り出し耳にかける。そうすると顔全体に影がかかり認識しにくくなった。


「認識阻害の魔道具……」

「先輩の場合は顔がバレてるのでその必要はないと思いますが。私はついでに着替えますんで先にどうぞ」

「えー」


 現実世界で尾行されてる時点で着替えても認識阻害しても手遅れなように思われるが、糸鳥ちゃんがそうしたいなら文句は言うまい。

 荷物を下ろして軽く腕を回す。異能バトルなんて久し振りだ。少なからず鈍っている、準備運動は欠かさない。


 すると、俺と同い年かそれより下と思われるの少年が正面にゆらっと現れた。

 彼は俺を見ると邪悪に微笑んだ。目当てはやっぱり俺だったか。

 値踏みするような視線でもって嘗め回してきた。


「お前が劣悪金属ラスト・メタルか?」


劣悪金属ラスト・メタルねえ」この名前も随分と広まったと思いつつ。「不本意ながらそう呼ばれている」

「何だよ。全然弱そうじゃねえか」

「俺に何か用かい?」

「お前をぶっ殺そうかと思ってな!」


 こいつはとても殺し屋だとは思えない。誰かに依頼された訳ではなく、自身の目的で俺と敵対している――のか?

 ともかく、あちらがやる気なら俺も防衛させてもらう。


 すると、男の手に炎が発生し球体を形成する。すぐに直径一メートル級に肥大化した。そのままやつは投擲に体勢に移行する。


「食らえ! 『スーパーフレイム』!」


 炎が一直線に俺へと向かってくる。

 それに対して俺は右腕全体を金属化し掌でもって迎え撃つと、周囲一帯を巻き込む爆発が巻き起こった。

 爆音が鳴り響いた後、黒煙と漂い焦げの臭いが広がる。


「うひゃっひゃっ、俺強過ぎっしょ!」

「ふーん」

「なっ――! 誰だお前!?」


 現れたのは制服から真っ暗な革ジャンに着替えた糸鳥ちゃん。奇抜なファッションは男子禁制の"極悪編隊"の制服のようなものだ。冷めた眼で少年を見定める。


「はっ、雑魚か」

「何だと? お前のことも燃やし尽くしてやるよ!」

「絶対に無理ね」

「ならとくと味わえよ! 俺の炎!」

「――なんせ、彼に傷一つに与えてないじゃん」


 糸鳥ちゃんが言うと、少年は眼を見開きながら俺のことを捉えた。煙を払っているだけだが瞳は驚愕を表している。


 彼は典型的なタイプだ。

 有崎ありさきさんも言っていたことだが、彼は異能を手に入れたばかりで自分がすごいと錯覚している状態。


「炎の性質が物理と違う……砕くことができたし固体っぽかったな。温度もそうでもなかったし……」

「何でだ……何でだよ! 俺の炎を受けてっ!?」

「そう道化なことはしなくていい、ちゃんと間違いは正してやる」

「こ、このおおおおお!!!」


 炎を手に巻き付けながら少年は突撃を敢行する。金属化した左腕で迫る炎の手を弾き、右の拳で胸に向かって突き出した。

 息が詰まったような呻き声を上げ、ガクリと少年は崩れ落ちる。


 U字の金属器を生成し、少年の四肢を拘束するようにアスファルトに穿った。


「こんな感じでいいよね?」

「はい。にしても先輩、強くなりましたね。逆境が男を強くするってやつですか」

素数剣そすうけんの騒ぎはでどこもかしこも修羅場だったからな」


 あれと比べたら大抵のことは大したことないと思える。乗り越えたからこその精神安定だ。敵にビビらず立ち向かうことができるようになったのはあの経験のお陰だろう。


「しかし、一体何なんだ。急に襲いかかってくるなんて……」


 それから数十分程経った辺りで少年は目覚めた。手足が動かないと視線をさ迷わせた彼はU字の金具を観測する。


「おはようさん」

「うわっあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「……開口一番が絶叫かよ」


 恐怖に染まった眼を浮かべて体を暴れさせるが拘束が解けることはない。

 落ち着くまで待とうと思った時――バチン、と糸鳥ちゃんが少年の頬を思いっきり叩いた。狙い通り、呆然として言葉を失った模様。


「……慣れてますね糸鳥さん……」

「これくらい普通じゃない?」


 普通か? 疑問は尽きないが強制的に落ち着かされた彼に話を訊く。


「君、俺を襲った理由はなんだ?」


 不貞腐れたように口を閉ざしていたが、やがてぽつりぽつりも言葉を紡いでいく。


「有名だったから」

「やっぱり……」

「どいつもこいつもお前の名前を出すんだよ」

「どいつもこいつもって、誰?」

「クラスメイト」

「…………」


 クラス単位で裏世界に参入している――。

 こりゃ、やべぇわ。"大人達"が危惧するのも仕方ない事態だ。

 現実世界と裏世界は領域として画してなければならないのに、重なる部分が多くなり過ぎている。

 そして、俺……そこまで知名度あるのかよ。


「それで誰が一番最初に劣悪金属ラスト・メタルを倒せるか競争になった」

「レアモンスターか俺は……」

「でも――」


 思ったよりも強かった、とでも言おうとしたのか。彼は口を閉ざした。

 しかし、彼の言うことを信じるならこれから彼のクラスメイトが襲撃してくることになる。中には強力な異能を持つ者もいるかもしれない。


「まあ、俺の言えることは一つだ。裏世界からは足を洗っておけ。俺なんか及びもつかない異能者達はわんさかいるんだ、今までは運が良かっただけ。君程度の力じゃ何にもできない」

「…………」

「ま、その選択は個人の勝手だから強制はしないが、俺の邪魔をするようだったら相応の覚悟はしとけ」

「……コロシアムに参加することになってる……」


 ボソッと呟いた少年の台詞は思わず頭が眩むものだった。

 桔梗さんによれば基本的に素人ばかりだが、賞品次第で猛者も集うらしい。今回の"十字真剣"と"未来視の義眼"の価値はどれくらいか。


「実際勝算あるのかな?」

「どうですかね、精々Dランクといったところですから予選で落ちるかもしれません」

「予選とかあるんだ……」


 だが、そういうことだ。両腕の金属化だけで凌げるくらいだから強いとは言えない。それを補う何かがなければ勝ち残ること、生き残ることはできないだろう。


「魔道具の類いは使っていいの?」

「いえ、使えません。バレなけれは良いらしいですが」

「良いんだ……」

「実際数回あったみたいですよ。それにその場で創ることは認められてますから」

「あくまで自らの異能で勝負を決める、か……」


 異能を解除し、少年の拘束が解かれた。


「俺への襲撃を止めさせるように言ってくれ。戦うならコロシアムでってな」

「わ、わかった……」


 現れた時とは別人にように憔悴している。自信が打ち砕かれるとはこういうことか。生殺与奪を握られていたのだ、抵抗する気も失せる。

 いそいそと少年は裏世界から現実世界へ戻っていった。


 しばらく無言が続いたがどちらともなく歩き出す。荷物を取りに裏路地へ。 


「先輩、まさかだとは思いますが個人戦にも参加するんですか?」

「だってああ言っちゃったし」

「あああああ~~! もうっ馬鹿馬鹿! 先輩すっごい馬鹿!」

「さっきは喜んでくれたのに……」

「個人戦の後にすぐチーム戦が行われるんですよ。先輩の異能なら五体満足でしょうけどぉ!」

「ごめんって。仮面付けて出場するからさ」

「そういうことじゃないよ!」


 糸鳥ちゃんの不満はごもっともだ。

 しかし、誠実さは大事にしたい。少年に勝手な都合で狙われた身だがだからといって嘘は吐きたくなかった。


「ごめんなさい。代わりに一回だけ、何でも言うこと聞くよ」

「何でもっ!? 何でもというのは何でもですかっ!?」

「そ、そうだけど……」

「はっはっはっ! 最高だ! 最高の極みだ!」

「キャラがだいぶ変わってるぞ……」


 一瞬の内に不安は消し飛んだみたいだ。



 ◎


 一学期最後の登校日、終業式――。


 茹だるような熱気を包む体育館で校長先生のありがたい話を賜り、教室へ戻ると。


 生徒らの話題は専ら今日行われるクラス会のことだった。クラス会とは名ばかりで陽キャな人物しか参加が許されていないが。当然俺はそこに参加していない。誘われたとしても先約があるので断るがな。


 先生待ちの時間の間に夏休みの課題を進めておく。コロシアムのこともそうだが今年に関しては多忙を極めそうなのだ。主に、チーム戦でのチームメイトとの邂逅が意外と予定を圧迫しているのが理由だが。


「ええと……小宮駅前の焼肉屋だよな……」


 午後の予定を確認していたら無意識に声に出ていたらしく、目敏く聞き耳を立てていた男子生徒が「一人言とかキモ」と大きな声で言った。

 酷いな。

 だからといって言い返すのはダサい。なら無視するか。何事もなかったように机に向かう。


 誰も、俺すらも反応しないものだから場が白けて教室に沈黙が落ちる。細やかながら視線が某男子生徒集まった。大半の生徒は彼が俺に言ったということを知らない。

「い、いや……」という彼の声は担任先生によって開かれた扉の音に掻き消された。

 こりゃまた絶妙なタイミングで入ってくるものだ。


 校長先生に続き、担任先生のありがたい話を賜り一学期最後のホームルームは終了した。

 放課後――今日は糸鳥ちゃんは現れない。補習地獄に苛まれて身動きが取れないらしい。

 クラスの誰よりも早く教室へ出、自宅に帰った。


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