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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
二章 選択代償とエンドマーク
41/89

⑲薙ぐり合いの果て

 

 ◎


 背後から、前回とまったく同じように左手は略奪師の首を、右手は豪炎剣の柄を握った。

 略奪師は結城の『金属再生』の異能について知らないはずだ。故に前回以上に完璧な不意討ちとなる。


 既視感と共に声をあらげる略奪師。


「どうしてまだ、生きているッ!?」

「この剣を返してもらって、あなたを倒すまでは死にきれないんすよ」

「なら、何度でも焼き尽くしてやろうッ!!!」


 炎が龍の形になって、不死身の鉄人を襲う。

 この炎熱に耐えられないことはわかっている。


 だからこそ、結城は金属化を解除する。灼熱を"人"の身で浴びる。略奪師ごと爆炎に包まれた。

 だが、被さるように剣を握る力は弱まらない。

 首も、柄も離れていなかった。


「……な」

「な?」

「何故生きているんだあああああッ!?」


 激昂の咆哮を聞いて。

 結城の心には安堵と、弛緩が沸き上がった。成功のルートを選べたことに安心し、終わりがないように見えた争いの終幕が目前にあることの歓喜。

 どうしても笑みが漏れてしまった。


「何故って、それは俺も豪炎剣を使っているからですね」

「さっきは……消し炭になっただろう!?」

「その時は"人間"じゃなかったですから」


 素数剣を誰にでも扱える剣だが、正確を期すなら"使う人間、誰でも"だ。不死身でしかも鉄でできた何かは人間と判断されなかった。

 仮説通りではあったが、かなり冷や汗ものだったのは間違いない。


「だから素数剣は同時に何人でも使えるんでしょうね。柄の長さが決まってるから頑張っても五人が限度でしょうけど」


 そんな使い方はまずしないだろうけど。

 そうでなくとも、同時に二人は可能であることは確実だった。現に略奪師と結城は豪炎剣を共有している。


 辺り一帯の炎を弱めて、自分らを囲うようにフィールドを形成した。炎熱耐性がなければこの場から逃げることはできない。


「――これで、条件は戻りましたね」

「戻った、だと……?」

「異能バトルを始めましょうか、チートなしで」


 素数剣なしで。

 先に動いたのは結城。まず、二人で握っていた豪炎剣ハイペリオンを遥か上空に飛ばした。回転しながら上昇している。

 距離取って、略奪師と向かい合う形になる。

 お互い、同時に異能を発動した。


「金属化『灰鉄』!」

「『強奪宰相グリード・エアー』!」


 灰色の鋼鉄と化す異能。

 アポート、つまり物を引き寄せる異能。略奪師は空中に投げ出された素数剣をいち早くその手に収めようと顔を上げた。

 だが、素数剣を取ることができない。

 略奪師の手にあるのは鉄屑の剣、ただしデザインは豪炎剣と酷似しているもの。あらかじめ投げておいた赤錆の剣だ。


「これはッ……!?」

「本物はさらに空に飛んでますよっ!」


 鉄屑の剣は結城の異能により作られているので、任意で分解することができる。

 鋼鉄の拳を頬に向けて繰り出した。剣で防御しようとした略奪師の剣は消えて、そのまま一撃もらい、無抵抗のまた弧を描いて飛んでいく。

 だが、彼はその程度の野心ではない。


 裏世界を支配する"大人達"を本気で相手するつもりだったのだ。こんなところで一介の高校生に躓いてられない。


「倒れたのなら、真上にある剣を引き寄せればいいだけだろ!」

「やれるものなら」


 灰色の鉄の剣を生成し、横倒しの略奪師に向けて振り下ろす。

 比べたらアポートの速度の方が早い。

 しかし、またしても取れない――素数剣は掴まれていなかった。


「――な、なッ、何でだよおおおッ!?」


 略奪師を邪魔するのは純粋な光源。

 炎の結界の光度、輝度は人間には明る過ぎた。

 豪炎剣ハイペリオンの効果には『炎熱耐性』と光に対しての『視界補助』も付いていたのだ。

 空にあっても、周りの明るさによって捉えられない。

 無慈悲に、略奪師に向かって剣が振り下ろされる。


「こんなところでええぇ、死ねるかああぁ!!!」


 略奪師はもう一つの異能である場所の入れ替わりを発動した。

 場所が入れ替われば、結城の方が倒れた状態になり、そこで剣を振る構図になり、剣先が届くか、届かないかの位置に略奪師が立っている構図になる。

 勿論、入れ替わればの話だが。


「……何故だ……」


 もはや絶望だった。

 幾度の失敗が重なり、一発逆転できるはずの力がことごとく失敗した人間がこれだ。

 怒ったり、叫んだりする気力ももうないようだ。

 少しの同情と、不憫さを感じながら結城は理由を答える。


「それも素数剣と同じで入れ替えるのは"人間と人間の場合"なんでしょう?」

「…………」


 驚愕。幽霊でも見たような表情だ。

 これは単なる偶然――殺し屋の少年の『アスポート』は生物を含めた"物体の押し離し"で、略奪師の『アポート』は"物のみの引き寄せ"と微々たる違いがあった。『入れ替わり』だって"人間と人間"だったからこうなった。

 微々の違いだが、大きい。

 鉄人を動かせるか動かせないの差だ。


「まあ、異能によるごり押しですが終わらせていただきます」

「や、やめ――!」


 額に狙って一振り。

 ゴン、と。

 ちょっぴり血が出て、略奪師は気絶した。


「鉄の剣だからって、斬れるとは限らない。軽い脳震盪だな」


 そして、腕を空へ掲げればその手にぴったりと豪炎剣ハイペリオンが収まった。

 金属化を解除して念ずる。


「(全ての炎、止め)」


 単純な言葉だけで、首都を覆っていた結界は消え去った。燃え盛っていた炎もすぐに鎮火される。

 念じるだけでこれだ。炎を操る剣、改めて危険なものだと認識した。


「さて、残りは後処理だな」


 豪炎剣を無理矢理地面に突き刺して、しばらく待っていると殺し屋の二人が結城の下にやってきた。

 少女が開口一番に言う。大変失礼な言葉だった。


「どうやら殺れたみたいね」

「殺ってないから! そこで厳重に拘束してるだけ」

「ふうん」


 適当に相槌をうちながら彼女はその略奪師のところへ向かう。

 陽輝と同じようにU字の金属器で地面に縫い止めているだけで命に別状はない。目覚めたらすぐに抜けられる程度なので、その先も含めて早急な後処理が必要だ。

 結城が少女を追うようにそこに行ったら。


 少女はバタフライナイフで略奪師の首を抉って殺していた。


 光景を目にして、声が出なかった。


「…………」

「何その顔? 殺し屋が人を殺すのは当たり前でしょ」

「いやっ……」

「もしかして人が死ぬの見るの初めて? そういう顔してる」


 人死に見るのはこれで二回目。

 ツンケン襲撃者によって真っ二つにされたのが一回目。

 驚いたのは、少女が呼吸するようにあっさりと殺したからだ。命の危機が迫っていたからとかでも、依頼とかでもなく、ただ作業のように殺したから。

 紛れもなく狂ってるし、壊れてる――。


 それと――死を受け入れている自分、さらには何とも思っていない自分が確かに存在することに気づいたから。


 結城海斗自身も、狂い始めてるし、壊れ始めている。

 普通なら涙を流して、吐き気を催して、発狂していてもおかしくないのに、ただ頭で理解するだけに留めた。

 否、留められた。その事実が重くのし掛かる。


「ここで殺さなくちゃ私達も危ないの。わかるでしょ?」

「あ、ああ……それは、そうだけど……」

「結果的にはあなたも得をしたんだからいいよね」


 略奪師が生きていたら確実に結城を殺そうとする。理由は怨恨か、それとも素数剣狙いかわからないが、命の危険を考えるなら息の根は止めておくべきだ。

 ならば、不安の芽を摘み取ってくれたことに感謝すべきなのか。


「(いや、違うだろ……こんなことを感謝していい訳がない"はずだ"……)」


 言うか言わないかで迷って、言おうとした時、肩を掴まれた。

 殺し屋の少年だ。

 結城に無言の視線を送った。

 ただ"何も言うな"と。


「…………わかったよ」と呟いて結城は話題を移した。「じゃあ、何だっけ? 約束の個人情報だっけ?」


 協力してもらった以上、約束を反古する訳にもいかないのでちゃっちゃっと果たそうとする。

 そしたら、その要求してきた方が嫌な顔をした。


「……何で乗り気なの?」

「乗り気じゃねえよ。個人情報ばらすとか普通に嫌だよ」

「じゃあ何で? 素数剣があれば私をサクッと始末することもできたよね?」

「そうだけど……その可能性を考えていながら君はここに来ただろ? それと同じだよ。ま、信用は金で買えないのさ」


 結城は調子の良いことをこいて、茶化した。話し続けると恥ずかしいことを言いそうなってしまうからだ。

 軽く笑いながら結城は言う。


「個人情報訊かれるのも、驚かれるのも二回目だからかも」

「……平気で売るんだ。裏世界に生きる者とは思えないけど?」

「自分は現実世界で生きてるつもりなんだけど、裏に行かなくちゃいけない理由があるんですわ」

「あっそ」


 淡白な相槌だった。

 それから、ペラペラと結城は自身の個人情報を喋った。それはもう徹底的に。


「これ、本当でしょうね?」


 逆に喋り過ぎて疑われた。


「酷いな……まあ、名前は裏世界専用だけどさ」

「本名を言え。八神じゃなくて何?」

「結城です……別に名字だけでいいですよね? クレジットカードの番号とかエグいの教えましたしね?」

「いいから下の名前は?」

「……海斗です……」


 偽名なのに、それが偽名と言ってしまったら終わりだろう。

 そんなことは誰にでもわかるが、ついつい口に出てしまうのが結城海斗なのだった。


「さてと、目的は果たしたし私は行こうかな。くれぐれも私達のことを他言しないでよ? このまま死んだ扱いになった方が動きやすいから」

「はい……」


 個人情報の開示の後、少女は一足早く帰路についた。

 住所だけなので、マンションという事実と部屋番号は死守した。なので、少女が結城の家に行くのが少し大変になった。

 残された男二人。

 殺し屋の少年。『アスポート』の超能力者。同い年くらい。


「俺も帰る」


 少女がここを離れてしばらく経ってから、告げて少年は去っていく。

 結城はその後ろ姿に尋ねた。


「殺し屋を続けるのか?」


 立ち止まって、振り返らずに少年は答える。


「どうだろうな。あいつ次第だな」

「そうか。なら…………いや、何でもない」

「そうか。俺のことも他言無用で頼む」

「わかった」


 死んだことになった二人とは、生きたまま別れた。もう会うことはないだろう。


 結城も素数剣を引き抜いて某専門学校から家に向けて帰宅する。心配しなくてはならないことはまだあるが、とりあえず一件落着だ。

 裏世界から現実世界に戻って、駅へ向かった。この時間だと帰着は九時になる。


 この日、裏世界の均衡に僅かながら亀裂が走った。

 知らず知らずに歪みは広がっていた。さながら金属劣化のように、突然崩れ去る――。


 ◎


『ラバーズ』


 ツンケン、死亡。襲撃者によって殺される。

 陽輝、死亡。野次馬である異能使いに殺される。

 ミミー、大怪我。略奪師によって負わされる。

 鮎、大怪我。略奪師、ガンマンの男によって負わされる。

 冷徹、行方不明。


『一〇人の殺し屋』


 高校生くらいの少年、中学生くらいの少女、漆黒令嬢、以外は死亡。略奪師によって殺される。

 生き残った三人もこの件で死亡した扱いになっている。


『他』


 略奪師、死亡。殺し屋の少女によって殺される。

 襲撃者、大怪我。結城海斗によって負わされる。生存。

 結城海斗、無傷。異能によって傷はない。また、素数剣No.11豪炎剣ハイペリオンを所持。


 都内、関東県内の高校に張られていた結界内から素数剣は発見されず。魔神がただ結界を張っていただけということが判明。


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