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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
二章 選択代償とエンドマーク
40/89

⑱少年と少女

 

 ◎


「――略奪師を倒すために力を貸してくれ」


 そう、二人の若き殺し屋に頼み込んだ。

 わかりました、と女子中学生の方が了承してくれた。


「何もしなくても死ぬだけだし」

「ありがとう。えっと、君の方は?」

「……いいだろう。もっとも勝算が高そうだからな」


 燃え盛る都内――特殊な状況ということもあってすぐに同盟が組まれることになった。

 彼らの表情は陰っててわからない――結城はその理由を理解している。手首に着いているアンクレットにより"視界遮断"がなされているのだ。


 途中、ガンマンから頂いたものの中に同じものがあったので気づけた。わざわざ指摘することでもないので心に留めとくだけにしている。


「時間がないから一言で……素数剣の柄を掴むことを目的としている……君らはどんなサポートできる?」


 無闇に人員を裂いても時間稼ぎにしかならないので、やはり超回復の結城一人が正面に出るのがいい。


「自動バリアみたいな炎熱をどうにかできればいいんだが」

「私の異能を使えば、近づくことはできますよ」

「そうなのか?」


 そう言うが、少女はちょっと渋っている。自分の異能を他者に言うのは危険なこと。殺し屋という身分のことも考えたらさらに上乗せで当然の行為。


「…………」

「じゃあ、君の異能を説明するに足る情報を俺が言うからさ」

「ふん、譲歩してあげる」

「どうも、ありがとう……」


 とてもお礼を言いたくなくなる納得の仕方だったが、立場を考えたらするしかなかった。


「『隠蔽』――私の異能は人や物を隠蔽を人間がギリギリ認識できるレベルまで隠すことができる」


 道路の真ん中で一〇人並んだ時も心なしか他よりも陰ってるような気がしたのは"道具"と異能が組み合わされていたからか。

 少し気になる語句がある。


「ギリギリ認識できるのか?」

「ええ。でもそれは警戒心を露に、細心に注意をしている時ってことね」


 だから暗殺には便利、と彼女は付け加えた。なんて答えればいいのかわからなかったからそこは流す。


「……てことは油断しまくってるやつには気づかれないってことか」

「存在がなくなってる訳じゃないから、その自動バリア? には意味ないと思うけど」

「それでも、略奪師自身の目は欺けるか……あのバリアは水を被ぶれば良いってもんじゃないよな」


 結界の炎の壁よりも確実に熱い。同じことをしたら体丸ごと蒸発すること請け合い。


「……じゃあ、君の異能は?」


 起死回生を期待して同い年くらいの少年に目を向けた。すこぶる目付きが悪いのは気にしないにしても、不機嫌そうなのは確実だろう。

 暑がりか、と結城は適当に推測した。


「……俺の異能は……」

「そんなとこで止めないでくれ。ハードルが上がるだけだぞ」

「異能は『――――』」

「マジか……略奪師のとは違うのか……それなら結構余裕で行けるんじゃね?」


 好転に好転が重なった。

 これならば豪炎剣を突破できる可能性が大いにある。失敗だってあり得るが、限りなく成功に近づくことはできる。

 仄かの諦めが消えて、闘志が芽生えた。


「やっとこさ、終わりが――いや、勝利が見えてきた」


 灰色の鉄人が動き出す。



 ◎


「どこに隠れようと無駄なことに気づいたか?」


 少々時間をかけて戻ってきた結城に向けてこんなことを言ってきた。

 略奪師の軽口を戦意を剥き出しにして答える。


「結局殺られるなら、本気でぶつかってからにしようと思いまして」

「何をしても同じだ」

「どうでしょう。パラレルワールドの俺なら勝てたかも知れませんよ」

「"そういう未来"があると言いたいのか?」

「そうです」


 疑い一つ持たずに肯定に答えれば、薄く笑んでいた表情がつまらなそうものに変わった。

 落胆ではなく、不快。

 結城の超楽観的思考にうんざりしている。


「ムカつくな、大口ばかり叩くやつは」

「さあ――」


 呟くと、鉄人の全身がバラバラにパージした。

 首、肩、肘、手首、指関節……といった風に全身の曲がる部位が落ちて、鉄の塊と化す。

 流石にこれには略奪師も怪訝な表情を浮かべている。

 が、豪炎剣を振って全て焼き尽くした。


「なんのつもりだ……どこに隠れている?」


 素数剣を振り回し、辺りを焦土に変えながら結城を捜索し始めた。

 そんな姿を後ろから見守る結城海斗本人。


「認識阻害……次元が違うな……」


 少女の異能を思い返して、無意識に嘆息していた。


 "会話から、存在まで全てが作り物"――。


 実際には略奪師は空気と会話して、空気に向けて炎を繰り出しただけなのだ。

 そこにいなかったことを隠蔽して、喋ってないことすら隠蔽する。いつの間にか知らない記憶が捩じ込まれる恐ろしい異能。

 その力により第一段階は、予想以上に予想以上の結果を得られた。


「じゃあ、頼んだ」

「略奪師のすぐ後ろでいいんだな?」


 隣に声をかければ、少年が答える。結城はそれに首肯した。

 背後に結城がいることに気づいていない今がチャンスだ。


「行くぞ」


 そう言って、殺し屋の少年は結城の背中に手を置いた。

 瞬間、既に略奪師の背後に移動する。


 超能力『アスポート』。


 略奪師の使う『アポート』が物体を引き寄せる異能ならば、『アスポート』は物体を押し離す異能。

 左手で首を、右手で素数剣の柄をがっしり握った。


「なっ、いつの間に!?」

「これで終わりだ!」


 腕にありったけの力を込めて首を圧迫すると、略奪師の豪炎剣を掴む力が弱まる。呼吸をも制限しているため徐々に筋力も落ちる。

 剣の先端から炎の渦が巻き上がり、結城を狙って略奪師ごと赤色に包まれる。


「柄を握れば炎熱耐性があるだろ――」


 結城海斗、金属化『灰鉄』は刹那にして灰塵と化した。



 ◎


 〈再生機能、実行中………〔0.1%〕〉


『まさかこんなことになるとは』という感想しかない。

 あの作戦にはかなりの勝算があったのだが、まさか、いや本当に。


 柄を掴んでも炎熱耐性は俺に付与されなかった。

 この方法意外に略奪師を出し抜く術はないというのに、それが失敗してしまった。どうすればいいんですか。


 何故、だろう。

 やはり炎熱耐性は一人しか付与されないのか?

 柄の部分を面積をより多く所有しているものに付与されるのだろうか?


 この作戦の鍵になったのは『素数剣』の所有者を関係なくMAXパワーを引き出せるというシステムだ。もしも、これが嘘なら発狂する。精神安定上、それは信じるとして。


 現在の所有者は略奪師、これは確定。

 そして、俺は所有者になり得なかった。

 何らかの条件だろう。

 全ての人間に扱える。誰でも使うことができる。二人は同時に使えない――?


 あの『魔神』と『創造』が創ったのに?

 女なのに、男勝りな性格な彼女らが創ったのに二人同時使用という浪漫を追い求めない訳がない……と思う。『魔神』は死んだし、『創造』とは気軽に話せる関係じゃないから断定することはできない。

 できないが、おかしいはずなのだ。

 二人同時使用可能な線で考える。

 じゃあ、悪かったのは俺か? あの少女の『隠蔽』の異能にけしかけられない限りは。


 状態としては金属化『灰鉄』の鎧。〈『コア・メタル・アーマー』〉は回復力の低下が早まりそうだったから避けたがそんなことは理由じゃないだろう。


 どちらにしろ燃やし尽くされるのだ。芯すら残らず――いや、0.1%は残ったか。残ってしまっている。完全に滅ぼされは、やっぱりしない。

 不死身の鉄人だ。

 "不死身"の"鉄人"?

 ん、んー――あれ? まさか? それが理由か?



 ◎


 結城は前もって殺し屋の少年と少女に「爆散しても甦るから待っててくれ」と伝えてあった。二人は事の成り行きをなるべく遠くで見守っていた。


 略奪師はフィナーレとばかりに結界内を炎で埋め尽くそうとしていた。粉微塵の灰すらも燃やして灰塵にしている。


「――うっわぁ、甦った……」


 瓦礫の中から出てきた鉄人は復活してる間に起きたことに思わず呻いた。すっげぇ燃えてるじゃん、と。

 略奪師の下へ向かうことすらままならない。


「アスポートしかないよな。略奪師が俺が死んだと思っているなら、同じことでも通用するはずだ」


 はずだ……二回目となると自信はなかった。

 広がる炎に気をつけて二人の殺し屋の捜索を始める。うっかり、練り歩いている略奪師と出会ったらゲームオーバーだが強気に踏み出す。


 先ほど二人に出会ったまた別の瓦礫溜まりにはその姿はなかったが、そこから"ギリギリ認識できる"くらいの位置にいた。

 辺りを警戒しながら向かう。


「『隠蔽』使わないでよ……」

「じゃなきゃ略奪師にバレるでしょ」

「その通りだけどさ」


 再び合流することができた。

 修復待機中に大体の予測はついたので次は自信があるという旨を伝えた。


「作戦はさっきと同じで。俺に『隠蔽』をかけて、『アスポート』で略奪師の背後を取る」

「さっきと同じで大丈夫なの? これで失敗したら今度こそ終わりでしょ?」

「理由はわかったから大丈夫。失敗しないとは言いきれないけどさ」


 少女の言い分ももっともだ。人型金属が無惨に消え去る姿を見てしまったらそりゃ信じられないだろう。


「どちらにしろこいつに頼るしかないだろ」

「…………まあね」


 少年の言い分またもっともなので、少女は黙った。

 その場凌ぎの運命共同体。

 初対面でも足並みは、揃えなくてはならない。いつも以上に気を遣う必要がある。それでギリギリ及第点。


「じゃあ、行くか」

「ああ……」


 少女の異能を被ってから、少年と共に略奪師を探しに行く。

 異能による炎だから酸素は消費しないが、例え金属の体だとしても、苦しい呼吸をしていた。

 感覚もないはずなのに熱気を吸い込んで頭がクラクラしていた。


「(それも気のせいかな……)」


 ただ、そう思いたいだけで。

 "人間らしく"ありたいだけで。


「君はあの少女と付き合い長いの?」


 結城は少年に向けて、何となくそんなことを訊いた。別に仲良く話したい訳でもないので答えは期待していなかったが返答が返ってくる。


「そうだな。二年くらい前から交流はあった」

「二年前……あの少女は何歳だったんだ?」

「中一だ。その頃から学校には通ってなかったがな」


 義務教育はどうした、と真面目なことを思ったが思っただけにして相槌をうつ。


「幼馴染的なやつか?」

「違うな。ほんの少し先輩と後輩という関係だっただけだ」

「……君は中学は出てんのね」

「そこは守らないといけないギリギリのラインだと思った」


 裏世界に生きるとしても、最低限のものは必要だと判断した。その結果が中卒。

 結城にはあまり実感は沸かなかった。異能蔓延る世界に学力なんて必要だとは思えなかったからだ。

 だが、理由はあった。


「その時はまだ現実に帰れると思ってたからな」

「帰れる……」

「本当なら帰れるチャンスなんていくらでもあったんだ、だが結局残ってる。そして、生きるために"仕方なく"人を殺してる……」


 仕方なく――そこに秘められた感情は複雑に絡み合っていた。言葉で説明することができない何か。

 結城は微塵も臆さず問う。


「あの少女もか?」

「どうだろうな。よくわからないが、俺よりも早くその決断をしたんだ、きっと俺の何倍も狂ってぶっ壊れてるだろうよ」


 狂って、ぶっ壊れてる――結城は、いつかに誰かが魔神をそう評価したことを思い出した。

 あの中学生くらいの年頃の彼女が魔神のようになっているのなら、それは酷く歪であり、悲劇なのかもしれない。


「いや、年齢は関係ないか……」

「……悪いのは"世界"の方だ」


 少年はそう言ったきり、口を閉ざした。

 彼が何故こんなことを話したのから結城には――本人にもわからなかった。死の間際という状況のせいなのか、二人きりの時間があったからなのか。


「("世界")」


 これ以上踏み込んだら戻ってこれないであろうライン。

 少年が守りたかったギリギリのライン。


 炎がより一層巻き上がる地帯が見えてきた。その先は火しかなかった。

 炎または、火しか視界には映っていない。


「あちらサイドは全焼だな……ふう」


 足を踏み入れることすら、命懸け。正真正銘の終局だ、失敗は許されない。


「じゃあ、宜しく頼むわ」

「…………」


 少年は無言のまま結城の背中に手のひらを置いた。

 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ――心臓部からそんな歯車の音がしてくる。どきどきと、かちかちしていた。


「飛ばすぞ」

「応」


 返事と共に、金属鉄人の体が空間を越えて、略奪師の背後にまで飛んでいく。

 灰色の鉄が、赤熱する――。


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