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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
二章 選択代償とエンドマーク
32/89

⑩波及の原因

 

 ◎


 裏世界リバース・ワールドの歴史はそれなりに長いらしい。


 それなりと言っても中国の歴史やローマ帝国のような壮大なものじゃない。数年前に発見されて以来、様々な事件が多発したのでそう言われている。

 その初期から"現実世界に裏世界のことを漏らしてはならない"という暗黙の了解があった。


 当時はそれを守ることは比較的容易だった。

 理由は単純、裏世界の人口が少なかったから。知ってる人自体が少なかったため情報が漏れる余地がなかった。


 だが彼らは、裏世界のことを理解するにつれ、便利さを理解するにつれ私利私欲に使おうとし始めた。

 現代日本に奴隷はいない。いたらダメだから。

 でも、裏世界にはいる。いてもダメじゃないから。

 無償の労働力――格好の商売という訳だ。


 裏世界には異能を使える者もいれば、いない者もいる。使えない場合は無理矢理連れてくる、という形になる――。



 現実世界の、深層の深層で裏世界が知られることとなった。しかし、大っぴらにする訳にもいかないので最低限規制する必要があった。現在では警察までも裏のことを理解して、関係する事件の存在を隠滅している。


 だが、その思惑とは別にここ数年、俺と同じような年齢の人々が裏世界に大量に現れるようになった。


 原因不明の現象が突如起きてしまった。

 ゲーム感覚なのか、彼らは身勝手に裏世界を謳歌する。浅い思考で徒党を組む。支配欲を満たそうとする。


 だから"大人達"の逆鱗に触れた。

 有崎さんを含めた『ラバーズ』のような、悪に振り回される人々もいる。だが、大人達には関係なかった。


 要は、楽だからって、昔からいるからって、誰もが自分勝手に裏世界を都合良く利用としているだけなのだ。

 本当に吐き気がする。

 理不尽、というやつだ。

 人間のやることはどこでも同じなんだと思った。

 ならば『敵』は――。



 ◎


「有崎さん、襲撃者は――尖兵みたいなもんだよ」


 結局のところはそういうことだ。事態がここまで進展してしまったら決定が撤回されることはない。

 もしかしたら傷つけるかもしれないと思いながらも俺は真実を告げた。


 真倉さんからの手紙のことの触りを端的に話したのだ。

 有崎さんは、落ち着いて俺のベッドに腰を下ろしているところだったが、俺の言葉を聞くとびくりと体を震わせた


 あんな結果になったのに、まだ始まったばかりなのだ。そんなことを知ったら彼女の心はまた壊れるかもしれないとも思った。

 だが、言った。

 このままだと彼女も巻き込まれるのだから、言わなくてはならなかったのだ。


「今回の標的はラバーズだった。理由は有崎さん達がその筋の情報屋を幾らか処理したこと。あちら側から言わせれば調子に乗り過ぎたという感じかな」


 子供が裏世界の秩序を破壊しているから、らしい。

 魔神の南木市破壊はあちらとしては好都合だったのだろうが――巻き込まれた若い異能使いは大量だっただろう――だが、それだけで収まるレベルではない。


 でも、その言い分もわからなくない。実際、俺だって裏世界を崩壊させるその一人。襲撃者を撃退した時点で危険人物の名前に上がっているはずだ。


「目的は裏世界に進出してきた若者の排除、まず目立ってしまったのがラバーズだったという訳だ」


 ならば――自業自得、因果応報とでも?

 ラバーズと大人達。どちらにも正当な理由があり、互いに間違った理屈と判断している。

 双方に正義があって、双方に悪がある。人間の心を表しているようでどうにもやるせなかった。


 でも、今回に関しては俺は魔神の名の下に、有崎歩美を助けると決めている。優先するのは彼女らだ。


「俺は戦うよ。有崎さん、これから始まるのは比べ物にならないほどの犠牲を強いられるかもしれない。もしも、足を突っ込むなら相応の覚悟を」

「覚悟……」


 ツンケンに続いて君の命も――ということだ。

 俺なんてのは命を冒涜するような力を持っているからこそ、だ。時間を戻すのだって、とても良いこととは言えない。自然に逆らうというのはそれだけ恐ろしいことだ。

 裏世界であっても。


「ねぇ……もし、皆嫌だって答えたら結城君は一人で行くの?」


 弱々しい声ではあったものの有崎さんは俺に問う。その瞳には強さが宿っているような気がした。

 気がした、だけだろう。


「そうだよ」と答えれば、有崎さんはそのまま口をつぐんだ。

 こんなんだが俺だってツンケンのことに関しては気が滅入っている。罪悪感も多分にある――あの時、もっと早ければなんて思う。


 有崎さんまでそんな目に遭ったら。

 耐えられる自信はない。

 それに、大人達との戦い以外にもやらなければならないこともある。


 来ないなら、来ない方が良いだろう。俺が解決させるから、待ってるだけでいい。家族と一緒に時間を過ごせばいい。


「じゃあね、有崎さん。後は任せてくれ――全部終わらすから」


 俺は、彼女を置いていって実家から出ていった。



 ◎


 再び襲撃者のアジトに戻ると、ツンケンの弔いが終わったのかミミーがいた。マンションの一室を見上げている。

 少し声が強張らせながら俺は声をかける。


「み、ミミー……どうしたんだ?」

「それはこっちの台詞なんだけど?」


 気づくと、俺にジト目を向けてきた。一体どうしたことか不満が滲み出ている。


「な、何か不都合でも…?」と恐る恐る訊いてみる。

 すると、ミミーは俺の顔を見て大きくため息を吐いた。惚けてんの、と眼が言っている。


「あれ、何?」


 指差す先には爆発マンションの一室。

 完全に忘れていた……そろそろ煙が晴れて入れる頃だろうか。


「部屋に入ろうとしたら罠が発動して爆発しちゃった」

「しちゃったじゃないよ」

「まあ、落ち着け。これから調査に行くんだけど一緒に来てくれないか? 話さなくちゃいけないこともあるし」

「はあ、わかったよ」


 先ほどと同じように現実世界経由で襲撃者の部屋へと向かった。

 間取りの問題め、妙に陰っているので冷たい空気が流れている。ミミー曰く、裏世界は気温や季節は割と反映されやすいらしい。


「真っ黒だね……完全に証拠隠滅されてるよ」


 部屋自体はいたって普通。テレビもあれば、ちゃんとタンスもあって、ベッドやクローゼット。とは言っても、どれもこれもが燃えて炭と化しているが。


「ただの爆発じゃこんなのになんないよな……」


 ガスバーナーでも当ててような状態。こうなったのはほんの数十分前だ。完全に火が消えることなんてあるのだろうか?

 どちらにしろ手掛かりはなさそうだ。


「ここには何もないな」

「そうみたいだね」

「襲撃者ってこの後何をすると思う?」

「あー……リベンジに来るとかってこと?」

「リベンジっていうか、襲撃だよね」


 襲撃者の方は大怪我なので少なくとも一ヶ月くらいの余裕はあると思うが……思いたいが裏世界のことだ明日辺りひょっこり現れるかもしれなち。

 ミミーは何気ない風に言う。


「私達は顔を見ちゃった訳だし仕掛けて来るだろうね。例えば――他の殺し屋に依頼するとか、ね? 整形するかもしれないけど」

「殺し屋が殺し屋を依頼ねえ。そういうこともあるのか……」

「君は何するつもり?」


 俺の心中を察してかいぶかしむミミー。

 勘が鋭い。それとも、俺が顔に出やすいのか。


「襲撃者の依頼人を襲撃しに行こうと思って」

「一人で?」

「まあ……多いに越したことはないけど危ないなら」

「一人で行く方が危ないと思うけど」

「耳が痛い話だな。それは仕方ないというか何というか」

「そう。じゃあ、何で行くの?」


 またしても理由だった。

 端的に言えば、償い。俺じゃなく魔神さんの。それも勝手に感じてるだけ。


「この件に関しては俺も全く無関係という訳でもないから……」

「もしかしてツンケンのこと言ってる?」

「それもあるけど、最初じゃないな。そもそもラバーズを助けようとした理由がある」


 プライベートなので言わないけど。


「黒幕の目星はついてるから今日にでも行こうと思ってる」

「……真倉黒也からの情報?」

「うん」

「そう……」


 表情に今にも舌打ちをしそうな嫌悪感が浮かんでいる。

 やはり嫌われているな、あの人は。


「話はわかったよ。考えとくけど、期待しないでね」


 特段表情を変えることなく、そう告げてミミーはマンションを後にした。

 さて、準備でもしますか。何たって舞台は首都だ。

 俺みたいな普通の高校生は電車に乗らなければならないからな。往復で一〇〇〇円かかるなんて絶望的じゃないか。



 ◎


 俺の現在の住居である小宮市のマンションで出かける準備をしているところだった。


 改札を抜けるための電子カードを探していたところ、棚から眼鏡ケースが落ちてきた。その箱を開けてみたところ――。


「これは……髪留め」


 幼馴染が使っていた髪留めが眼鏡ケースに入っていた。

 何故こんなところにあるかわからないが、きっと重要なものだから忘れにくいところに保管したかったんだろう。そのことすら忘れてたのだから馬鹿らしいけど。


 折角だからお守りとして持っていこう。

 要は気持ちの問題だ。"俺の知らない彼女"が力を貸してくれるかもしれない。


 引っ越したばかりだから、あまり部屋自体にものがないので特に使えそうなものはない。

 当たり前だ。物騒なものはない。せいぜい包丁くらい。

 下手に持っていっても使えるとは限らない。カッターナイフくらいで手をうとう。


 部屋から出て駅まで歩いていく。

 午後五時半、夕方。少し暗めだが、夏に差し掛かっているため太陽はまだ高い方だ。土曜日とは言え、そろそろ人混みが増えてくる時間だろう。


 つつがなく、目的の列車に乗り込むことができた。裏世界はともかく、表からのアプローチはないみたいだ。

 残念ながら座席は空いていなかったので、扉際で電車に揺られる。いつしか外は暗くなっていた。


 懐中電灯くらい持ってくれば良かった。

 でも、裏世界では電気とか電池が使えない。

 故に、夜の裏世界は真っ黒になる。月明かりや、星が綺麗ではあるが視界は著しく狭まる。

 その条件はあちらもだが、対策しているんだろうな。


 一時間弱電車に揺られた後、俺は首都に足を踏み入れた。

 人混みは小宮駅の比にならない。裏世界に行くにも人目のせいで侵入するのは難しそうだ。


 真倉さんからの手紙に記されてある地図に従って現実世界から目的地へ向かった。


 ヒートアイランドでもしてるのか茹だるような暑さだが、見上げたらあるスカイスクレーパーの夜景は悪くない。

 大きな道に出れば、ビルに大量の看板が貼り付けられている。階層ごとにコンビニから、銀行、家電量販店と多種多様な店が詰め込まれていた。


「すっごいな……」


 声が漏れてしまったが、都会ならではの雑音に掻き消された。この道を少し進んだところが目的地なのだが、この先には道路しか見当たらない。


 コンビニのトイレに籠るように見せかけて――裏世界に侵入する。世界が反転し、青い色彩が濃くなった。

 電気が付いていないので当然暗いが、わかっていれば大丈夫。目が慣れるまで待ってから表に出た。


 そこから遥まで、闇夜が広がっていた――青い月光だけが唯一の標。


 さっきまでの喧しい雑音が嘘のような情景。急にゴーストタウンになってしまったように思えて心臓が縮んでしまう。

 うら寒い気持ちを頭から追い出して、俺は、地図にあった座標に目を向けた。


 そこには――一、二、三、四、五、六、七、八、九、一〇の人。

 さらに奥にもう一人の男を合わせて計一一人がいた。いや、待ち伏せされていたのだろう。


 やれやれ、本当にやれやれだ。

 真倉さんからの情報だ。そんなに期待していなかったが、ここまで警戒されているとは思っていなかった。このタイミングでこの数を出してくるか。


 真倉さんの手紙には――魔神の残した爪痕により人員が割かれているから人数は少ないと記されたいたが、一〇人で少ないのかよ。


 そう、後方の男を一〇人の男女が護衛しているのだ。そいつこそがこの件の黒幕。

 護衛されている男が声をかけてきた。


「やっぱり来た――どうやら一人みたいだが?」

「そうですよ。別に戦いたい訳じゃないんですけどね……」


 平静を装って返事するものの、真倉さんと同種の胡散臭さを纏う男に忌避を覚える。

 話し合いで解決できるならそっちがいい。こんなに護衛をつれてる時点でその線はあり得ないだろうがな。


 流石に俺もここまでの修羅場は体験したことはない――。

 黒い槍使いと相対した時よりも。

 三人組の殺し屋に狙われた時も。

 襲撃者に奇襲された時でさえ、だ。だからかなりドキドキしている。


「手加減して欲しいところですが――俺は『略奪師』と呼ばれるあなたを、どうにかしなければなりません」


 俺の発言に略奪師は不敵に笑った。


「どうにか、か。意味不明だな。戦意もなければ、殺意もない、この状況でそんなことを言えるなんてな。お前――恐怖を感じてないな?」

「そんなことないですよ。いや、本当に」


 怖い、確かに怖い。全然怖いと感じない自分がとてつもなく怖い。


「くくく」と、微笑を浮かばせながら略奪師は闇夜に消えた。道路の真ん中だというのに現実世界に戻ったのだろう。

 標的は消えて、いよいよこの場は戦場と化す。

 護衛である一〇人が動き出した――。


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