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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
一章 裏と表のプロローグ
18/89

⑱コインの裏側

 

 ◎


「こいつ起きたぞ」

「見ればわかるから」

「フォーメーションは同じで行く」


 俺の復活をものともせずに臨戦態勢に入る門番達。

 不本意ながら行儀悪くテーブルで立ち上がることなる。三者三様の方法で俺のことを狙っている。


「ここからが始まりなんだ。まず突破しなけりゃな」


 忘れちゃいけないのは覚悟だけでなく、目的もだ。

 家の中に入れたのだから目的をちゃんと果たさなければならない。だから戦わずに逃げる。

 正面突破で逃避する。

 俺は階段に向かって走り出した。

 ここで後方から槍使いの大きな声が上がった。


「『拡大理解スプレッドハンド』!」


 避ける間もなく右腕を付け根からぶった切られた。

 流血沙汰なんてレベルじゃない。奔流を思わせる血液だ。

 滝だ。これを滝と言わずになんて言う。神々しく、華々しいまでの赤。


 腕を失うことで、自重によろめきレーザー使いの前で盛大に転んでしまった。床に敷いてあったカーペットが真っ赤に染ま――。


「『装填式光線チャージレーザー』」


 躊躇なく頭を狙っている撃ち込んできた。豚の丸焼きならぬ、人間の丸焼きでも作ろうとしているのか。

 咄嗟に避けたものの、頭部の左が抉られ目は片方しか残っていない。だが生きてるし、俯瞰している。ならば進むことができる。


「っ、気持ち悪っ!」


 気持ち悪くした張本人から本当に気持ち悪そうに言われ、顎から蹴りを入れられた。

 後方に突き飛ばされ、またしてもテーブルの上で大の字に転がる。


「食らえ! 『三撃切断トリプルクロー』!」


 そこで待っていたとばかりに連携が成立。

 三つの亀裂が腹部に刻まれ、血液以上に臓物が飛び出した。ドロドロとしたレッドスライムだ。


「――ぉ」

「ちっ、まだ生きてやがるぞ!」

「古今東西のゾンビを探してもこんなのはないよね……」


 左頭部が溶かされ、右腕が切断され、腹から内臓が晒されて、邸宅のリビングに転がっている。アメリカのホラー映画とかにありそうな展開。

 ゾンビウイルスの発生地みたいな。

 なんて考える余裕はある訳だ――。


「なんか内側から細胞分裂みたいなことが起こって元に戻ってるように見えるけど……殺す方法あんのかな?」


 堂々巡りをしていた二人、そこでリーダーの声がかかった。俺からしたらとんでもなく迷惑なやつだが迷いなく言う。


「細切れしたらどう?」

「ですね」

「オーケー」

「……全然オーケーじゃねぇよ――」


 声をあげた瞬間には、殺意の眼光と槍と爪が迫ってきていた。


「――それに大体わかったしな」


 再生して頭部と腹は治ったが右腕はまだ、血が出ていて治療中。

 この三人の驚異的なスピードの持ち主ではあるが目もだいぶ慣れてきた。知覚して判断した結果、爪は左腕で、槍は腹で受け止める。


 ビキッという金属の破壊音――が鳴る。骨からではなく皮膚から。

 驚きの声をあげる二人の得物使い。


「弾かれただと!?」

「まさか甦生と硬質化の能力二つ持ち!?」


 俺の、再生された部位は――赤錆の鉄塊となっている。

 動揺も束の間一旦距距離を離される。だが先程までの余裕の空気はどこかへ行った。


 けれど、どちらかと言えば悪転ではある。完全に油断しなくなったのだから。

 階段の踊り場で足を止めたレーザー使いのリーダー。


「甦生系がここまで厄介とは思わなかった。不確定要素が強過ぎた。力だけじゃなんともならないのね」


 至って冷静に現状を把握して、わざわざ俺に問いかけてくる。


 〈『コア・メタル・アーマー』発動〉


 先程、頭にふと浮かんだ文字。言うなればスキル名。そのお陰で二人の攻撃を安全に受け止めることができたのだ。

 爪も槍も耐えることができる硬度を有する。


「現実世界流でいきましょうか」

「現実世界?」

「二人とも」

「「オーケー」」


 左右から再び連携攻撃が繰り出される。同じく体を硬質化して耐える――つもりだった。

 実際ダメージは抑えた。

 だが、無防備になった正面からの足払い。前方へ頭から突っ込むように倒される。


「……だが」ここでリーダーの攻撃が来ることもわかっていた。だから硬質化は維持したままで床にぶつかる覚悟をする。

 しかし、空中にいる間に右腕の袖と左の襟を掴まれる。そして俺の下に入り込まれた。

 そのまま勢いに任せて背負い投げ――投げられる方向には階段がある。

 階段の方が凹んだ。


「うぐうううっ!?」


 現実世界流というのは武術のことか。ただ硬く、甦生するだけなら確かに柔道はうってつけだ。

 痛みに関しては変わりなかったが、肺からありったけの空気が飛び出したため、呼吸不全に陥る。


「ぐふっ、げはっ……あがっ!」


 顔面を踏みつけられた。眼球が回転して目の前にピントが合わせることができない。

 普段使わないような筋肉が伸びてピクピク震えているようだ。

 続いて足が浮く感覚。頭だけで体を支える状態となり首に負荷がかかる。

 俺の足に、彼女の足が絡まれる。ギリギリと軋むような音ともに関節が嵌まっていく。


「足がらみって知ってます?」

「足っ、がらみ!?」

「正直あなたに効果があるかは微妙なところだったけど、あくまでも人間なのね」

「このっ、これくらい……!」

「あまり動かない方がいいと思うけど」

「ぐっ」


 そんな忠告はしてくれるものの、そもそも足を動かすことができない。

 中学校の授業で柔道はやったけどこんな反則技を習う訳はない。もしも、痛覚遮断がなかったらショック死するレベルだろう。


 で、その間に残りの二人が俺を捕らえるためのロープを準備するということか。最高かよ。

 最悪だよ。

 恨みを込めて、叫びながら関節のネジを引き絞る。


「うああああああああああああああああああああ!」

「お、おい……」


 〈『コア・メタル・アーマー』〉発動。

 〈『コア・メタル・アーマー』〉発動。

 〈『コア・メタル・アーマー』〉発動。

 〈『コア・メタル・アーマー』〉発動。

 〈『コア・メタル・アーマー』〉発動。


 目の前に青い文字で発動のログが並んでいく。

 金属の金鳴り音が足関節から歪に発される。共に、足がらみを敢行した彼女が痛みの悲鳴を上げ始めた。


「くっ! 膝関節自体がキツくなってる!? この能力は!?」


 呻き声と共に、閃光が右太股を貫き、足がらみから解放された。光線の衝撃で階段からずり落ちる。右足がなくなったので面白い程転げ回った。


 見上げると女は階段で踞っていた。

 その目は大変恨みがましいものではあったものの、少しは恐れのようなものを感じ取れる。

 匍匐のように移動し、腕で状態を起こすしかない今の俺はかなりダサいだろうけど、ようやく一矢報いた。

 こんな状況なのに、ついつい頬が緩んだ。


「あなたの異能……傷口から出ているものは――血ではないわね?」

「そんなことわかってるよ。触ればわかるが液体じゃない」

「ならあなたの体は……」

「多分、あなたの考えは当たってると思う。だけどそんなのはどうでもいいでしょう? 俺の目的はここの家主に会うことで、あなた達の目的は俺を止めることなんですから……」


 お互い達成不可能と思われる状況。

 俺も、彼女らも諦めようと思っていない。片や実力で押し潰して、片や死んでも押し通ろうとしているのだから。

 そこに交渉の余地はない。


 再び――三度び、こうして三人に囲まれる一人。

 槍使いと爪使いとレーザー使いと人外高校生。

 精神は磨り減っている。痛みは消えている。目的しか残っていない。

 書斎さえ見つければ現実世界に戻れる――そこまでは頑張りたいから。

 そこで終わるから、エンディングだから。


「いくら死んでも、絶対に知るんだ」

「何を言ってんの?」


 痛い人を見るように階段の上から馬鹿にしてくる。至極全うな、忌憚のない意見だ。人に流されやすい俺としては少々恥ずかしい、かな。

 でも、恥ずかしくてダメなことなんてないだよ。


「やれやれ――燃えてくる展開だな、おい」


 もしかしたら裏世界の愛はこれくらいにエクスタシーしていたのかもしれない。

 今になってようやく、少し理解できた。



 ◎


 率直に言えばそこからは乱戦だった。

 絶対の防御を誇ると思っていた〈『コア・メタル・アーマー』〉だが、レーザーで右足が飛ばされたように攻撃が貫通するようになってきたのだ。


 なのに回復力は高いもんだから互いに決定打がない膠着状態に甘んじるしかなかった。

 俺としてはとっとと書斎探しに勤しみたかったが、そんな訳でボロボロになりながら家屋を巡っていたのだ。


 伸びる槍に腕を斬られた。三本爪に両足を切断された。レーザーで体を貫かれた。


 そんな力にただの家が耐えられることはなく、決定的一撃により崩壊を迎える――。


 一階は完全に潰れて、二階もその衝撃で無惨に倒壊した。

 俺達四人とも巻き込まれたが、再生の力があるは俺は当然生きている。他三人は肉体強度は人間なので危ないはずだがちゃっかり逃げていて俺だけが崩壊した邸宅に取り残されていた。


 しかし、そんなのもどうでも良かった。

 重要なのは裏世界におけるある座標がなくなったという事実。対応した部屋を見つけることも、そこに狙って現実世界に戻ることもできなくなったのだ。

 戦う目的の喪失。

 顔面蒼白、青白んだだろう。瓦礫から飛び出した俺の体は諦観と焦りに支配されていた。


 だが、超常現象が起こった――。


 裏世界なら当たり前って、思われても困るようなこと。

 いつかに言っていた『影響率』による現象をこの身を持って体験し。

 曰く、現実世界の影響が強く現れることによる再生――。

 現実世界から生じる保存力のようなものが働き、邸宅は最初と同じような状態に戻った。

 瓦礫は消えて、建物がうっすらと確認できたと思ったら完成していた。

 吉田浩二郎は座標にこの力があることを知っていたのだろう。

 復活は番人の三人も予想外だったらしく、家の外に出た三人は建物の中にいた俺をむざむざ逃がすことになった。


 ここで俺は思い知った。裏世界だって努力が報われる世界なんだと。

 やっぱり、無駄なことはない――。


 ラストピースは埋められる。

 スマホを取り出して真倉さんの番号を準備した。裏世界ではインターネット回線がないから通話は不可能である。

 奇跡的に戦闘中に破壊されなかった訳ではなく、俺の異能は所持品も再生される仕組みらしかった。服もこの通り……これは治癒というよりも時間逆行である。


 最後に書斎を見つけるだけ。これだけ広い家でも戦いながらに八割は確認していた、だから残りを当たれば辿り着く。

 後ろからは破壊の音が撒き散らされる。不意にレーザーが壁、床を貫通して飛んできたりもしたが。


「慣れたよな、もう」


 速さも間隔もこの身体で覚えた。射程距離も威力も大体見える。

 時間の無駄なんてない。弱さだけで勝てない訳でもない。勝利なんてものは大抵あっさりなんだから。

 勝利に敗北と同じ価値はないようだ。


 最後は一番奥の部屋。裏世界でもここには鍵がかかっていた。

 金槌で金属のノブの部分に叩き振るうと、歪んで扉との隙間ができる。そこから金槌と逆サイドの釘抜きで抉じ開ける。

 試行錯誤すること二〇秒。


「……っと、ようやく空いた!」


 いつ三人が背後に来てもおかしくなかったから、生きてる心地がしなかった。だからこそ生きているとも実感できた。


 扉としての機能を失った板を押すと当たり前だが書斎だった。本棚がいくつもあって真ん中にはデスクがある。奥には妙に古い金庫があったりした。

 至って普通の書斎。


「これで戻れば――?」


 〈現実世界に戻りますか?〔生物反応〕〉


 目の中に表示される確認画面。でも見たことない〔生物反応〕というセンテンス。

 これは人間が近くにいると考えていいのか?

 館の主人がいるのなら好都合。迷わず頷くと視界が反転し、色彩豊かな世界が広がった。


 現実世界――久しぶりに来た感覚。実際そうだと思う。

 相対性理論とかで俺の時間は現実のものとして引き延ばされていたはずだ。あんな過酷なことがあったのだから。


「…………」


 正面のデスクには一人のスーツの男が腰かけていた。腰かけると、言っても椅子ではなく机に。

 随分なことをしてると思ったが、そんな思考はすぐに無限大まで飛んでいく。勢い余って天国まで到達したかもしれない。


 そこにいたのは――。


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