①彼岸の夢想 / prologue
◎
彼女はビルから落ちて死んだ。
高さ二〇〇メートルから真っ逆さまに没し、
俺の預かり知らぬ場所で、いつの間にか息絶えた。
暗黒よりも黒い夜空のビル街、無音の境地の中。
落下の衝撃によりバラバラになった遺体に花を手向ける。血よりも赤い可憐な花だ。
鮮やかなまでの赤黒色の池に足を踏み込んで思う。
何故、彼女がこんな目に遭わなければならないのか――と。
幼馴染だというのに、肝心なところで俺は隣にいることができなかった。
彼女のためなら命を捨てても良いと思っていたのに、いつの間にかすべてが終わっていた。
彼女が悟らせないように行動したとしても、俺だけは気づかなければならなかったのだ。
そのことに失ってから気づいた。今頃悟っても何の意味もないというのに。
彼女のことを理解して、近づきたかった。
だが、それは今でも遅くない。
既に息途絶えたが――意志途絶えたが、遅くはない訳がある。
故にここは墓標だ。
血に濡れた無惨な墓場。
俺の知らない思念の残り香。
彼女の最後の想いの残滓。
俺は、真の意味を理解しなければならない。
表だけではなく、裏の裏まで見据えることでようやく手を合わせることができる。
ここじゃない遠いようで近い世界で。
それが彼女のためだと思うから――。
だから、地獄の深淵まで踏み込まなければならない。それがどんなに遠くでも俺は進むしかないのだから。
どこまでモチベーションが続くかわかりませんが、何とか頑張りたいです。