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「チート転生者が冒険者ギルドに行ったら、案の定面倒事が起きた件」

「セプト、行くぞ。」

「はい、先輩。」

 キサラギの目に確かな怒りが宿る。クソ、精神力2300はどこいったんだよ。チンピラの小言くらい無視しやがれ!

「買う?お前が?クク…ハハハハ!!聞いたかよお前ら!このケモノマニアくんが俺の喧嘩を買うだってよ!こいつは傑作だ!拍手してやってもいいくらいだぜ、なあ!!」

 馬鹿みたいに笑う大男。こいつは何も理解していない。さっき受付の女が叫んでいたことを聞いていなかったのか?『全ステータスカンスト』。筋力値999だけでも十分人間を血と肉の塊に変えられる強さだ。さっきのキサラギの反応からして、あいつはまだ自身の力を把握していないんだぞ!この酔っ払いが…!

「表出ろよ。お前みたいな差別者には虫唾が走る。」

 キサラギは近くにあったテーブルを叩き壊した。…え?なんで…?

「おうおう、ケモノマニアくん、今度は小犬のモノマネかあ?小せぇくせによく鳴くんだよなあ…だから俺ァ畜生が嫌いだ。四本足で歩こうが二本足で歩こうがなあ!」

「くだらないこと言ってないで、さっさと来いよ。」

 キサラギは扉に向き大男に背を向けた。彼の怒りが静寂を冷たく刺すようだった。なぜ差別にそこまで怒る?彼が連れる獣人の少女とはほんの数週間前に初めて会ったばかりだというのに。


「そんなによお…ボコられてェんなら…」


 大男はキサラギの背後に歩み寄り、


「別に外に出なくったって…」


 拳を握り、


「今すぐ…」


 振りかぶると、


「ボコってやるバベホァッ!!」

「いい加減にしやがれッ!!!」


 頭から床にめり込んだ。緊張の静けさが混乱の静けさに変わった瞬間だった。


「いやー、うちのバカがごめんね?こいつ頭悪いくせに自信ばっか持ってるから、自分より弱そうなヤツを見つけるとすーぐ喧嘩吹っかけるんだよね。」

 場違いな声音でそう言い、ぶっ倒れた大男とキサラギの間に入ったのはセプトだ。状況がよくわからないのかキサラギはきょとんとした顔をしている。

 俺は床にめり込んでいる『舎弟』の頭を引っこ抜くと、

「人様に迷惑かけんじゃねえっていつも言ってんじゃねェかーッ!!」

 心を込めて怒鳴りつけた。


 キサラギの怒りから解放されたギルド内にざわめきが戻る。誰?アイツが一撃で…。いつの間に近くに?親分?そんな声があちこちから聞こえる。

「こいつにはキツーく言い聞かせておくからさ、今回のことはどうか許してもらえないかな?お互い不毛な争いはない方がいいじゃない?」

「え?あ、ああ…わかった。だけどそいつの謝罪を聞いてからだ。そいつはおれの大切な仲間を侮辱した。」

 キサラギは獣人のガルマを抱き寄せた。キザだなあ。

「だってさ、クァトさん。」

 いつもの先輩呼びでなく急に名前を呼ばれたので一瞬誰の事だかわからなかった。

「おい、てめえキサラギさんにきちんと謝りやがれ!『舐めた口利いてすみませんでした。俺が悪かったです。』って頭下げろ!」

 キサラギ以上になにが起きたのかわかっていなかった大男もそろそろ頭の整理が終わったようで、

「な、誰だお前ベゴァッ!」

 もう一度大男を床下世界へご案内してやる。なんだか少し可哀想にも思えるが、元はといえばこいつの始めたこと。自業自得だ。むしろキサラギを相手にしてたら死んでたかもしれないのだから、これくらいの怪我で済んだことを感謝してもらいたい。


「…すまなかった。お、俺が悪かったよ…。」

 その後も何度か地中と地上のコントラストを味わわせると、大男は(明らかに納得いってない感じに)謝罪の言葉を口にした。

「これでいいかな、キサラギくん。」

「ああ。こちらこそすまなかった。騒がせちゃって…。」

 どうやらキサラギは怒りを収めてくれたらしい。とりあえず一安心だ。彼には早々に町を出て自分の力をしっかりと認識してほしい。そしてそのまま二度と問題を起こさないでもらいたい。あわよくば田舎の漁村なんかに定住してゆっくりとした人生を過ごしていただきたい。


「でもね、キサラギくん?」

 セプトの声の温度が変わった。オイお前いったい何を…

「こんなチンピラの喧嘩をいちいち買ってたらキリないよ?それに暴力は恨みを呼ぶ。君ならいくら仕返しされようと返り討ちにできるかもしれないけど、周りの女の子たちは?」

「それは…」

 あのセプトがいいことを言っている。…今しがた暴力でこの大男を伸したところなので少々バツが悪いのだが。

「いいかい?君は強い。強いからどんな敵でもねじ伏せられるだろうね。でもそれじゃダメ。暴力は弱者の最終手段だよ。強い者は、強ければ強いだけ寛容でなければならないのさ。」

 ま、まあ俺もこの飲んだくれをキサラギから守ったって考えれば弱者の最終手段ではない…のかな…?

「お姉さんからは以上だ!私が言ったこと忘れるなよ!優しくあれ、少年!」

 セプトはにかっと笑った。キサラギも、それに返すように微笑んだ。

「あ、そうだ。ケモミミちゃん!そうそう、きみ!」

 ガルマは私?といった風に自分を指差した。

「いい人に会えたね!」

「……ハイ!とってもいい人に会えましタ!」

 それを最後にキサラギ一行はギルドをあとにした。


「結構いいこと言うじゃないか。」

「えへへ、そうですか?私かっこよかった?」

「ああ、かっこよかったぞ。こいつを暴力でねじ伏せた直後じゃなけりゃもっとよかった。」

 セプトは照れくさそうにはにかんだ。さっきのかっこいい笑顔と雰囲気がだいぶ違うが、どちらもセプトらしい表情だった。

「そうですね、こいつを暴力でねじ伏せた後じゃなければ…こいつ…こいつを…」

 あれ?


「おん前ええええぇぇぇぇッッッ!!!!!!!」


 セプトは、キサラギらが消えようやく立ち上がれた大男の土手っ腹に弱者の最終手段、暴力をブチかました。

「セ、セプト!?セプトォォ!!?」

「よくも余計な気苦労させてくれやがりましたね!?アンタのせいでここら一帯消えてなくなったかもしれないんですよ!?バカ!マヌケ!アホ!アホアホアホーッ!!」

「馬鹿はお前だ!暴力は恨みを呼ぶんじゃなかったのか!?」

 くの字になりうずくまる大男になおも追撃を加えようとするセプトを羽交い絞めスタイルで押さえつける。似合わないことしたツケをここで払うんじゃねえ!

「うがー!殴り足りません!魔王よりやばい奴を暴れさせかけたアイツは実質魔王より危険です!今ここで!天による成敗を!!断罪をッ!!」

 セプトを黙らせ、床となぜか破壊されたテーブルとを直し、一部始終を見ていた人々の記憶を処理したころにはキサラギ一行はとっくに町を出発していた。

その後件の大男はなぜか暴力に強い恐怖を覚え、田舎の漁村に引っ越しゆっくりとした人生を送ったとかなんとか…。


つまんねーなと感じたときにはいつでも解除してくれて構わないので、少しでも面白いと思ったらブック―マークや感想、レビュー等してもらえると嬉しいです。


次話もよろしくお願いします。

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