「チート転生者が冒険者ギルドに行くなんて、面倒事が起きるとしか思えない件」
キサラギ一行が冒険者ギルドに行きます。
不思議なことに読んでなくても展開が100%予測できそうです。
「あ、出発するみたいですよ。」
午前10時。キサラギ一行が宿から出てきた。いよいよ任務の始まりというわけだ。
「にしても…朝っぱらから異常なまでのベタつき具合ですね。」
冒険者のアルフィは右手を引き先導。商人のべトラは左手を握り、家出のデルティアも負けじと左腕に自身の右腕絡ませている。小柄な獣人ガルマは背にしがみつき辺りをキョロキョロ見回している。魔法使いのエプセルは興味ないような様子で本を読んでいるが、その指先はちゃっかりとコートの袖を掴んでいる。明らかにオーバーフロー状態だ。
「見ててムカつきますね。あんな団子みたいに固まって、他人の視線とか気になんないんでしょうか。あとキサラギが「おいおい、そんなにくっつかないでくれよ。歩きにくいだろ。」みたいな顔してるのも苛立ちに拍車をかけてますね。思春期の男なら鼻の下くらい伸ばせってんです。ねえ、先輩?」
俺に共感を求めるな。
「おいおい、そんなにくっつかないでくれよ。歩きにくいだろ。」
キサラギが少女たちに向かって言った。
「おい、言ったぞ。」
「ええ、言いやがりましたね。」
気まずい沈黙。昨夜飲み食いしてるときはあんなに機嫌がよかったのに…。面倒なことをしてくれやがったなキサラギ。
「そんなことより彼らは冒険者ギルドに向かっているのだろうか。」
「方角的にも恐らくそうでしょうね。先頭を歩いているのも冒険者の子ですし。気になるのは冒険者ちゃんが張り切っているのに対してキサラギがあまり気乗りしてないように見えることですかね。何をしに行くんでしょう。」
「そういえばキサラギは目立つことをあまり好ましく思っていないらしい。冒険者ギルドなんていういかにも揉め事が起きそうな場所には近づきたくないのかもしれない。」
「目立ちたくない…?あんな団子みたいに周りを女の子で固めてながら?気は確かなんでしょうか。」
「ま、まあ目立つようなことをしないでくれるならこっちとしても助かるんだがな…。」
『冒険者ギルド』。数あるギルドの中でも最大級の規模を誇り、大陸全土に活動を広げる冒険者の組合。冒険者とは民間や国からの依頼を受け、モンスターの討伐から素材の採集、護衛やダンジョンの調査など多岐にわたる仕事をこなすことで収入を得る人々の総称だ。冒険者にはFからSの7つの階級があり、Sランクともなると一人で軍隊に匹敵するとまで言われている。
ちなみにキサラギが5秒くらいで消し去った魔王は、かつてSランク冒険者9人で構成されたパーティーをたった一人で壊滅させ人類をさらなる絶望の底に突き落としたという過去を持つ。
閑話休題。20分ほど歩き彼らが入った建物はやはり冒険者ギルドだった。続いて俺たちも戸をくぐる。ギルドには食堂が内設されているようで、建物は食べ物の匂いで充満していた。
「先輩、」
「ダメだ。」
「まだ何にも言ってない!」
天使は数百年飲まず食わず、不眠不休で生きられる。我々にとって食事とはほとんど不要なものなのだ。…なのだが
「まあ、夜キサラギが完全に眠ったあとならいいんじゃないか…?」
「マジですか!?」
声がでかい、顔が近い。
「ただし、長い時間は取れないからな?せいぜい長くて30分といったところか…それでも構わないなら」
「ないない!構わあるわけないじゃないですか!頭がお堅い先輩にしては素晴らしい提案じゃないですか!さては先輩こっちの料理けっこう気に入っむぐ!」
「少しは静かにしてろ馬鹿。」
セプトの口を強制的に黙らせる。構わないの反対は構わあるじゃねえよ。
「フフフ…そうときまりゃあこっちのもんです!覚悟しやがってくださいキサラギ団子ども!あなたたちの生活23時間30分キッチリビッシリ張り付いてやりますよう…!」
娯楽がほとんどない天界でこいつのやる気を引き出すのはなかなか難しかったのだが今じゃ順従なこと子犬のごとしだな。アホで助かった。
「どぅええええええぇぇぇぇぇえええ!!!!?!?」
その時ギルド全体に絶叫が響き渡った。しばしの静寂。そしてすぐに野次馬的なざわめきが広まっていった。大声の主はギルドの受付嬢だった。そしてカウンター越しにキョトンとした顔でつったっているキサラギ。なんと囲いの少女らもキサラギから離れて口をあんぐり。
「な、なななななんですかこのステータスは!!全ステータスがカンスト!!??しかも全属性の魔法への適正持ち!?この鑑定不能の謎スキルは!!??なに、なんなんですかあなた!!何者!!?」
冒険者としてギルドに登録する際、まず『鑑定石』という道具を使って能力値を測る。どうやらその結果が騒ぎの原因らしい。
「妙ですね。スキルはともかく彼は一般的な高校生でしょう?魔法は分からないにせよ少なくとも体力値や筋力値などに関しては平均、むしろ引きこもりだったことを考えると並み以下なのでは?」
「嫌な予感がするな…場合によっては女神様の始末書が増えるぞ。」
さっそく集まっている群衆をかき分け、鑑定結果が記される『冒険者ギルドカード』を覗きこむ。
「うわあ…」
そこにあったのは『キサラギツカサ』の隣に並ぶ体力、筋力、俊敏、魔力、精神力の5つの欄のそのすべてが『999』と書いてあるカードだった。人間界に普及しているような鑑定石には限界がある。つまり999という数はあくまで最低値。実際にはもっと高いということだ。ちなみに一般的な日本の男子高校生の平均はせいぜい各値50~70と言ったところだろう。この世界においても全能力カンストなんてことは前例にない。
「ちょっと、おい!勝手に見るなよ!散った散った!見せ物じゃないぞ!」
キサラギはそう言うとギルドカードを隠した。どうやら騒ぎを起こしたくないというのは一応本当らしい。
「セプト、『鑑定鏡』だ。」
見物人たちの壁を何とか突破して待機していたセプトに告げる。
魔力を流すことで特殊な紙に本人の力を記す『鑑定石』に対して、『鑑定鏡』は誰であろうと好きなだけ能力値を開示し見ることができる天界の神器の一つだ。
「あー…体力3100、筋力3600、俊敏2700、魔力2925、精神力2300。恐らく全ステータスが転生前の千倍になってますね。元々魔法は扱えないはずなので他のステータスの平均×千といったところでしょうか。」
「乗用車くらいなら軽く持ち上げて振り回せるな。」
「体力も俊敏も千倍なので人が1メートル移動する間に1キロ移動できますね。」
「支配者スキルなんてなくても魔王を倒せたんじゃないか?」
「あはは、可能性ありますね。」
「……。」
「……。」
どうしてくれるんですか女神様?
その時だった。
「おいおい、大の大人が揃いも揃ってなぁに騒いでんだ。ただのひょろっちいガキじゃねぇか。」
張りのある大声にギルド内が再度静まった。身長2メートルはあろうかという大男だった。相当酒を飲んでいるのか顔は真っ赤だったが、視線はしっかりとキサラギのほうを向いていた。
「見れば見るほど頼りねぇな。機械のコショーかなんかじゃねえの?」
「馬鹿…!」
つい悪態が漏れる。どうする、止めに入るか?
「ずいぶんキレ―な服着てんじゃねぇか。どっかのいい家の坊っちゃんか?だがそんなこたァここじゃ関係ねぇ。ここは冒険者ギルドだ。お前みたいのは場違いなんだよ。小便臭えガキうろちょろされると酒が不味くなる。」
酔っぱらいの挑発にキサラギは何も言わない。黙って相手の目を見つめているだけだ。感情が読み取れない。もしここで彼が激昂して暴れだしたら止められるだろうか?
「何とか言えよ、チビ。それともビビっちまって声も出ねえのか?」
「おっさん。」
遂にキサラギが口を開いた。
「あんたが俺をどう思おうが俺は構わない。登録が終わればすぐに出ていく。ここに戻ってくることもない。不愉快な思いをさせたならすまなかった。お姉さん、ギルドカードはできたし金も払った。俺の登録は済んでるんだよな?」
「は、はい…。手続きはすべて完了しております。」
キサラギは視線を大男に戻すと、
「そういうわけだから、俺たちはこれで失礼する。じゃあな。」
そう告げるように言って背を向けた。囲いの女たちを連れ出口に向かって歩き出す。
俺はほっと安堵の溜息をこぼした。ステータスでは精神力は2300。これなら並大抵のことでは怒ることもないだろう。安心の一言に尽きる。女神様の愚行は愚策ではなかったのかもしれない。
「けっ、やっぱりその程度じゃねえか。ちょっと声かけただけでビビッて逃げちまうんだからなあ。腰抜けが汚えケモノなんか連れてんじゃねえよ。白けちまったじゃねえか。」
キサラギが立ち止まった。
キサラギが、立ち止まった。振り返り、大男を睨んだ。
「おい。」
さっきまでと声音は全く同じはずなのに、今度ははっきりと冷気を感じた。
「汚え、なんだって?」
「あン?なんだお前、ケモノフェチか?何度でも言ってやるさ。俺は獣どもが嫌いなんだ。汚らしくて、おぞましい。人間に成り損なった化け物を、首輪もつけずに歩かせんなってんだ。これで満足かい?」
「いいだろう。」
キサラギは言った。その声は相手に聞かせるというより、言葉をゆっくり手渡しするような色と重みを持っていた。
「買ってやるよ、その喧嘩。」
最悪だ。
「セプト、行くぞ。」
「はい、先輩。」
前言撤回。泣いて責任取りやがってください、女神様。
キサラギ、キレる…!
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