「元引きこもりの転生勇者が『支配者』スキルで実質地上の神様になってしまった件」
「女神様?」
「…はい。」
「昔々あるところにとんでもなく強くて悪い魔王がいました。魔王はとんでもなく強くて悪いので、女神様は何とかしようと考えました。考えた女神様は何をしましたか?」
「…異世界から、勇者を召還して、スキルを、与えて…そして、この世界に…」
「そうです。あなたはよその世界から罪なき少年を拉致し、武器を持たせ、彼の故郷である日本より何百倍も危険で低文明な異世界に放ったのです。なぜなら私たちが自分の担当している世界に直接干渉することは原則禁じられているから。そうですね?」
「……」
「そうですね?」
「……ハ」
「そうですね?」
「い、いまハイって言おうとしたもん!…です。」
「まあ、100歩譲ってそこは良しとしましょう。魔王が危険だったのは事実ですし。問題はそのスキル、そして転生者の人格です。あなたは「スキルは強ければ強いほどいいに違いないわ!だって魔王はとんでもなく強くて悪いんだもの!」と考えました。」
「ね、ねえ?それってもしかして私のマネ…?私そんなにアホっぽくないと思うのですけれど…。」
「それで勇者にあげたスキルはなんでした?」
「無視しないでよ!」
「なんでした?」
「…『支配者』」
「そう、指定した範囲内の物質を文字通り完全に支配できる『支配者』スキル。これはあらゆるものを生み出したり、逆に跡形もなく消滅させたりすることができる能力です。しかしあまりにも強大で危険な力だったので、このスキルは厳重に封印がなされていました。それをあなたは、わ ざ わ ざ 解いて、社会性も責任感もないただの引きこもりの若者に与えて、異世界に送り出した…。あれではもはや地上の神です。女神様。」
「……はい。」
「馬鹿なんですか?」
「ば…!?不敬、不敬です!天使の分際で女神である私に対してそんな暴言を吐くことが許されるとでも思っているのですかッ!?」
俺は女神様のほっぺを思いっきり引っ張った。
「い、痛いっ!痛いれひ、や、やめ、ごめんなひゃい!私悪はったれひゅ!ごめんなひゃい!!!」
解放された女神様は頬をさすりながら俺を涙目で睨んで「女神の威厳が…」とかブツブツつぶやいている。反省してんのかこの神。
「さて件の勇者の話に戻りましょう。勇者はその圧倒的力で魔王を倒しました。魔王城ごと、塵すら残さずです。彼がこの世界に降りてから一か月も経っていませんでした。突破不可能とまで言われた魔王城の結界を張っていた魔王軍幹部『バリア』が敵ながら不憫で仕方ありません。結界を張るためだけに生まれてきたような名前をしていたことが不憫さに拍車をかけています。バリアは元々人間の王国の魔導師でしたが、研究の成果が認められず国を追放されました。そこで彼を自軍へスカウトしたのが魔王『リヴォルグリード』でした。魔族でありながら人間であるバリアをスカウトしてくれたこと。そしてなにより目的に貪欲な魔王の姿勢に心打たれた彼は魔王軍唯一の人族として人類の前に立ち塞がりました。…彼らは敵でした。しかし彼らには彼らのドラマ、思想があったのです。」
女神様はうなだれている。肩が小さく震えてるのがわかったが、容赦してやるわけにもいかない。
「我々の力の源は人間の信仰心。彼らの脅威は我々にとっても脅威なのは事実です。しかし我々は世界の管理者として、あくまでフェアにやらねばならなかった。体育祭の騎馬戦に戦車で突入する保護者がありますか?しかも試合が終わっても彼は戦車に乗ったままだ。いいですか、女神様。彼がその気になれば魔王なんか比にならないくらいの脅威になるんですよ?」
女神様の震えはもはや小刻みではなかった。ひっくひっくと、まるで幼い子供のよう。
「わ、私だって、わざとじゃなくて、ヒクッ、初めての大きな仕事だから何か、や、やらなきゃって思って!えぐっ…まだわかんないことばっかだし…!だって、だってえ…」
わんわん泣く。もはや子供のよう、ではない。彼女は実際に神としては新米、というか生きた時間でいえば俺たち天使のほうが長いのだ。
…やれやれ。まったく手のかかる上司だ。
「女神様、あなたは失敗をしました。」
うつむいたまま女神様は涙をぽたぽたと溢している。
「ですが」
女神様の顔を強引に自分のほうに向ける。
「失敗だろうがなんだろうが、フォローするのが俺たち《天使》の仕事です。だから後は俺らに任せて女神様は女神様の仕事をしてください。」
文字通り目と鼻の先で女神様の星空のような瞳がぱちぱちする。そして
「はい…!任せました。だから、任せてください!」
涙を拭って屈託ない笑顔を浮かべた。笑みひとつでスッと気持ちが落ち着くのなんだかずるい気がして、俺は女神様の頭を無造作にぐしゃぐしゃと撫でた。
「不敬です。」
「尊敬はしてますよ。」
「もう。」
女神様はもう平気そうだ。となればさっそく自分の仕事だ。
「では行ってきます。」
「はい、いってらっしゃい。気をつけて。」
俺は部屋を後にした。そして、人間界に降りて片付けるのだ。「元引きこもりの転生勇者が『支配者』スキルで実質地上の神様になってしまった件」を。
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