3.ファーストコンタクト(メガネ)
検査やら検査やら検査やら、本当にありとあらゆる検査のすえ、無事退院の運びとなりました。とっくに男女比率が落ち着いているにもかかわらず、数百年ぶりに変身してしまった僕。それも初の女性化モデルケース。
各国の研究者たちの興味も引いていたらしく、もうとにかく僕の体細胞から身体に棲むエイリアンのDNAまで徹底的にデータを取られた(寝てる間にもしてたらしいけど)。けれどこれといった特異点も見つからず、いまのところは何もわかっちゃいない。今後も病院に定期的に通いつつ経過観察&データ収集だそうだ。はぁ……。
という感じで、学校生活リスタートは遅れに遅れた。
まぁ準備期間無しに学校放り込まれてたら、エライことになってた気がする。主に自分の身体の変化に対して気持ちがついていかなかったというか。
今でも相当ジレンマはあるけど多少は慣れた。……自分自身とはいえ、ボンキュッボンの美少女の身体に興味がないはずもなく、まぁ、その、色々、ゲフン。つまりちょっとは見慣れましたハイ。
そんなことはさておき、いまさらになって緊張してきた。
眼前にそびえるのは、比較的新しいであろう綺麗な校舎。広大な敷地をたずさえ、見るからに『良いとこの子女が通う学校です!!』という顏をしている気がする。
だめだ、根っからの庶民には場違い過ぎる。緊張感のゲージがマックスを超えそう。
それにさっきからチラチラ見られてるんだよな。でもこればっかりは仕方ないか、見慣れない女子生徒が居たら僕だって見る側にまわってたはずだ。
……それにしてもやっぱり広いなこの校舎。デザインもやけにオシャレな気がするし。
うわぁ、学食というよりはカフェテリアってカンジなんですけど。あと講堂? 体育館? プール? どの施設もピカピカしてる。
と、キョロキョロしていたら当然の如く迷った。ヤバイ、担任との待ち合わせ場所の正面玄関ってどこだ。どこもかしこも広くて綺麗で大きくて玄関すらわからない。せっかく早めに登校してきたと言うのに。
焦って視野が狭くなっていたのか、人の気配にまったく気づかなかった。
来た道を引き返そうと振り返った瞬間、ぼすんと固くて温かい何かに顔面から衝突してしまった。
「うわっ」
「わぷっ」
束の間ぶつけてしまった鼻頭を押さえていたが、頭上からかかった低い声に我に返る。
見上げると、眼鏡をかけた背の高い少年が切れ長の目を丸く見開いていた。わぁ、秀才にしか見えないメガネ美人……じゃなかった、謝罪しないと。
「す、すみません。急いでて不注意でした!」
慌てて離れて頭を下げたのだが、リアクションが返ってこない。そろっと様子をうかがうが、彼は先程の表情のまま身じろぎもせずこちらを見ている。
「あの……?」
もしもーし。と声をかけると、少年はびくりと肩を揺らし、メガネを押さえ軽く手をあげた。
「い、いや、大丈夫だ。何ともない。こちらこそ不注意だった」
表情が少し硬い気がするが、怒ってはいないようだ。良かった。
ホッとしたが、のんびり立ち止まっている場合では無いことに気付く。そうだ、せっかくだから目の前の彼に教えてもらおう。
「ぼ……私、転校生で先生と待ち合わせしてるんですけど、正面玄関ってどこですか?」
「あ、あぁ。それならここから西側にまわってすぐだ」
思ったより方角を見失っては無かったらしい。急がねば。
「ありがとうございます、ほんとにスミマセンでした!」
ぺこりと頭を下げてから、僕は気持ち足早に西側へと向かって歩き出す。後方から「あの!」と声をかけられたが、戻って話を聞く時間などなさそうだし、振り返って愛想笑いで頭を下げるにとどめて急ぐ。もうしわけない。
だから、彼が某ジ〇リ作品のように「イイ……」と呟いていたことなど、当然僕は知る由もなかった。