2.(婚活に)強くてニューゲーム
はっきり言って、僕はどこにでも居そうな平々凡々な少年だった。むしろ少しさえない部類に入っていただろう、中身も見た目も。
ところが、今現在手鏡に映っている自分の姿はどうだ。
十代後半のとびきり可愛い女の子が、長い睫毛にふちどられた大きな目をさらに見開いてぽかんとしている。
つやっつやの長いストレートの黒髪に、ほどよくぽってりとしたルージュ要らずの赤い唇。肌は真っ白(数年病室で寝たきりだったから当たり前だけど)。これが僕だって???
「性別が変わったとはいえ、なんでここまでに別人に……」
「見た目の優劣も遺伝子を残すために重要な要素だから、『共存者』がより美しいとされる姿に造り替えちゃうんじゃないかって俗説が昔からあるわね」
さらっとした女医さんの説明が地味に刺さる。たしかに前の僕のまま女子になったところで、遺伝子を残すには不利だったことでしょうね……。
「髪は少し長過ぎるからカットした方が良いわねぇ、お洋服もそろえなくちゃ。あ、退院したら一緒にお買い物に行く?」
うきうきと楽しそうに話しかけているのは僕の母だ。目を覚まし変わり果てた息子の姿を見て言葉を失った……かと思いきや、「きゃーーー!! 旭ちゃん可愛いぃ!!!」と叫び、がばちょと抱き着いてきて大興奮でした。
数年ぶりに目を覚まし再会した息子に感動するとか、変わり果てた姿の息子に涙するとか、そういった反応は一切ナシ。
『どんな姿になろうと自分の子供だ』とかではなく、単純に『娘可愛い嬉しい』しか考えてないなこれは。僕の存在意義っていったい。
「そういえば、学校とかどうなってるの?」
「あなたが『変身期間』に入ったのは高校1年、15歳。2年半は経ってるから本当なら在籍していた高校を卒業している頃なんだけど……青少年保護特務機関が用意した高校に編入してもらうことになるわ」
母にかわって女医さんが返答してくれた。この人、ただのお医者さんじゃなくて国に雇われてるエリートってやつなんだろうな。この病院も研究施設込みの特殊な病院っぽい。
「パンフレットとか色々見せてもらったけど、綺麗な学校だし制服がとっても可愛いの! きっと似合うわよ!」
「いや、その情報は割とどうでも良いよ?」
問題はそこじゃない。
知らない学校の年下の子たちに混ざって、いちから勉強のやり直し。前の学校にだって友達が…………ほぼいなかったけどさ。うん。
たしかに僕はさえない人生を歩み、歩んでいこうとしていた。が、過去に例のあった『男がいなくなってこのままじゃ人類滅んじゃうから女子を男子にしよう』でもなんでもなく、いきなり強制人生再スタートを実行した僕の体に住むエイリアンたちに問いただしたい。
「僕ってそんなに生存競争に負けそうだった?」
泣いてもよかとですか。