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駆けろ、最果てまで

作者: 文芸マン

最近はまってます。また書くと思うんでよろしくお願いします!

「どこまで話したかのー」

「おじいちゃん、それ言うの3回目。どうしてページめくるの忘れちゃうかなー」

「ふぉーっほっほ、すまんのぅ。つい孫と話すと楽しくなってしまって。そうじゃな、じゃぁ、なぜワシたちの暮らしが劇的に変わったのか話すとするかのぅ」

「おじいちゃんそれはもう30回は聞いたよ。まぁ、面白いからいいんだけどね」

「ふぉーっほっほ、ではいくぞい。むかしむかしーー」


俺の親父はマッドサイエンティストだと思っていた。だって、俺が腕の伸びるキャラをカッコいいって言っただけで、寝ているすきに俺の腕を改造したし、お袋が塩胡椒忘れたと言った日の夜に俺の手のひらから塩胡椒が出るように細工したし。あとどこへ行っても迷子にならないように手のひらに、黒子ぐらいの大きさの小さな拡声器が内蔵された。でも全て俺のためだったと知ったのは彼女との出会いがあったからだ。

腕が伸びるようになった日から、どう伸ばせば遠くまで伸びるのか研究していた。

「ゴムゴムのー」

手をグーにして、腰を捻る。反動で腕を一直線上に伸ばす。

距離にして、わずか2、3メートルではあったが、初日の指だけ伸びて戻らなくなったよりはいいかな。ちなみにまだ指の長さは30センチぐらいあるかな。

他の人に見られてはいけないと父さんに言われたから、人気のない場所で、それも陰になっている場所だけでしか練習できなかったけど、一人で遊ぶにはちょうど良かった。

「うぇーん」

遠くで誰か泣いている声がした。近づいてみると、女の子が木から降りられなくて困っているらしい。

「大丈夫?」

初めて拡声器が役に立った。僕の声が聞こえると少しだけ泣き止んでくれた。

「降りれないの?」

こくり、と彼女は頷く。エメラルドに輝く瞳から、一雫の涙が溢れる。その瞳を僕は知っていた。いや、僕だけじゃなくて、この国に住んでいる者は皆知っていた。この国の王はエメラルドの瞳をしている。それはこの国では当たり前のことだったし、だからこそ息を飲んだ。

「王女様?」

助けることを忘れ、ただ呆然と見てしまった。驚きで指が元の長さに戻った。驚いたら引っ込まるのか。なんて感心していたら、また王女様が泣き出した。

「ぅぅぅ」

あぁ、あっ。そんなこと考える前に助けなくちゃ。父さんには秘密にしろって言われたけど、まぁしょうがないよな。

「王女様、私の腕におつかまりください」

「腕?」

彼女は首をちょこんと傾げる。その拍子に落ちそうになって、慌ててバランスをとる。これはもたもたしてられないな。

腕を王女様を支えている枝に向ける。

「ゴムゴムのー」

技名は特に考えてなかったから、その後の続きはなかった。



「あ、ありがとう」

王女様は絹みたいなサラサラのブロンズヘアを揺らして、一礼した。

「や、やめてください。私めにお礼など。それより頭を上げてください」

「どうして?どうしてみんな私をトクベツ扱いするの?」

「そ、それは」

王女様だから、とその続きが言えなかった。まだ小さいとは言え、大人からペコペコ頭を下げられればそう思うだろう。それが今の僕には差別的だと思って言えなかった。

「そ、それよりお嬢様はおいくつなんでしょう?」

いきなり話題を変えたせいか、王女様はむっとしてしまう。

「私お嬢様じゃないんだけど」

「え、いや、でもその、瞳が」

「じゃなくて名前。ユルシュールという名前があるの」

ふくれっ面のまま、王女様、ユナ様はそっぽを向いてしまう。

「えっと、ごめんなさい、ユナ様」

僕がそういうとユナ様は目を輝かせてこちらを覗いてきた。

「わ、わかればいいの。それより様って言うのやめて。なんかやだ」

「でもそういうわけには」

「だめっていえばだめなの!」

むぅーっとまたユナ様は膨れてしまう。

自分でもだめだとわかっているのに、何故だか彼女を呼び捨てにしたくなった。

「ゆ、ユナ…」

「はいっ」

今日一番の笑顔でユナは答えた。

「ユナ様ー」

「あ、ごめんね。そろそろ行かなきゃ。今日はありがとね。またいつか」

さっきとは別人みたいな顔でユナは声の方へ行ってしまった。この時はまだ、王女と関わるということがどのようなことか、まだわかっていなかった。

それから数日後、王都から我が家に直々に手紙が届いた。その手紙を読んだ父さんは僕に一言だけ、「お前、王家の人間とあったか?」と聞いた。何も言わずにただ頷くと、ちょっと早いけど仕事行ってくるわ、のノリで立ち上がり、家を出た。

朝ごはんをかきこみながら、ユナとまた会えないかなと考える。そう考えたら居ても立っても居られなくて、あの公園に走り出した。

ユナは木陰で本を読んでいた。風で草木が揺れ、髪が靡く。その光景はどこか絵画じみていて、話しかけるのを躊躇してしまった。あれだけ会いたいと思ったのに、今はどこか遠くで見たいと思うようなその景色は、ユナが軽く欠伸をしたところで終わってしまった。

「あ、いたいた」

ユナは手招きするように手のひらを振る。僕が横に座ると、満足そうに頷いた。

「えっと、その。こんにちは」

「こんにちは」

「今日は、その、いい天気ですね」

「そうですね」

しまった。僕、家族以外で会話したことがまるでないから、どんな会話したらいいかわからなかった。自分のコミュ力の低さに肩を落とす。その拍子に昨日聞きそびれたこと思い出した。

「えっと、そのユナ、はおいくつなんですか?」

「名前、覚えててくれたんだ」

ユナはちょっと満足そうな笑顔を浮かべたが、でも、と言葉を続けた。

「敬語じゃなくていい。私も敬語じゃないし」

「そ、それは、恐れ多いです。身分の違いはわきまえておりますし」

「くどい。私は年相応の友達が欲しいの。はぁ、しょうがない、じゃぁ命令。私に敬語を使うな。それとも、命令とかする女の子はきらい?」

ずるい、ずるいよ。そんなこと言われたらこっちが引き下がるしかないじゃん。

友達、という言葉を噛みしめながら、僕は言った。

「わかりました、じゃなかった。わかった。えっと、じゃぁ、これからは友達同士ってことで。よろしく、ユナ」

「うんっ」

ひまわりのような笑顔で笑うユナを見て、僕は恋をした。

「えっと、それでユナは何歳なの?」

「7歳だよ。君は…。というかまだ名前聞いてなかった」

「え、僕の?あぁ、僕はノーマンだよ。父さんから、いや親父からそう呼ばれてるんだ」

「ノーマンか。うふふ、いい名前ね。それで、ノーマン、君は?」

初めて友達に名前を呼ばれた。嬉しくて声が弾んだ。

「僕も同い年だよ!」

「えっ」

ユナは僕を見上げたまま、絶句していた。やがて、あははと乾いた笑いを漏らした。

「同い年なんだ。体格のことをいうのは良くないと思うんだけど、その、身長がね。驚いたよ」

「まぁ、確かにね」

ユナは年相応の身長って感じで可愛らしい。対して僕は身長146センチ。頭一個分は違う。

でもユナは、すぐに興味を失ったらしく別の話題を振ってきた。その気遣いというか、優しさが嬉しかった。

その後何を話したかは覚えてないけれど、今までで一番楽しかった事だけは覚えている。家に帰ってその話しをしたかった。カッコつけて父さんを親父と呼びたかった。だけど今日は帰って来なかった。

次の日も、また次の日もユナと遊んだ。でも帰ってくると家には誰もいなくて、ユナへの想いが強くなった。


それから4年が過ぎた。相変わらず俺はユナと遊んで、ひとりの夜を過ごしていた。ユナは日々女の子らしくなって、去年あたりから求婚の話が絶えなくなっていた。

「もぅ、最悪。なにあの紳士ぶって気取ってるやつ」

「まぁ、仕方ないよ。ユナに見合う男なんてなかなかいないと思うよ」

「あーあー、どこかで優しくて私のこと助けてくれる男の人いないかなー」

ユナは公園のイスに座って、足をプラプラさせながら宙を仰いだ。その拍子に目があった気がした。

俺が何を言おうか考えてたところ、よいしょっとユナが立ち上がった。俺はユナを見上げて嘆息をついた。

ユナは懐かしさを思い出すように、感慨深く頷いた。

「昔はさぁ、よく私がノーマンのことを見上げて話してたけど。いつのまにか私の方が身長、高くなったよね」

ユナはあの時から大人びて、この前なんか身長160超えたー、と自慢げに言ってきた。対して俺は四年前から全く景色が変わらなかった。

「なんで俺、伸びないのかなー」

「さぁ?成長期終わったんじゃない?」

からかうように笑って、ユナは公園の外を指差す。それは俺たちの別れを告げる合図だ。王族のお付きの方がゆっくりとこちらに近づく。

「お嬢様、またそんなみすぼらしい方とお付き合いしているんですか?」

「おい、私のゆう……」

ユナが言い終わる前に手で制する。

「すいません、すぐに帰ります」

ユナの顔を見ることなくその場を去る。遠くで声がするたびに、申し訳なくなって歩く速さが増していった 。

次の日、町を歩いていると他国からかなりの大物がきたという噂が流れた。優しくて頼り甲斐があって、それなりにイケメン。ガタイもよく、がっしりとした体型。そして、ユナに求婚するかもしれないそうだ。もし求婚されたらユナはどう返事するんだろう。って、どんな返事をしても、俺と彼女は身分が離れすぎていてそもそもそういう話になんないんじゃないか。

はぁ、と諦めまじりのため息をつく。すると、昨日見たメイドさんがこちらに歩いてくる。はぁ、ともう一度ため息をつく。彼女は俺の前に立つとスカートの端をつまみ一礼する。

「奇遇ですね」

「えぇ、昨日ぶりですね」

俺が嫌味ったらしく言うと苦虫を噛み潰したような顔をする。多分この人は、俺の前だと演技しないんだな。その直感は正しく、彼女は舌打ちしながら続けた。

「ちっ、これだから育ちの悪いガキは。まぁ、いいでしょう、あなたの素行の悪さは幼少期に親を失ったからだと心得ています」

「どうしてそれを?」

彼女は一呼吸置いた。

「もしも今後お嬢様、ユナお嬢様に近づかないのならば、彼、君のお父さんを解放してもいいとあの方はおっしゃられてましたよ」

「は?なに言ってんだよ。証拠は?俺の親父がいるっていう証拠は?」

「そうですね、あまり貴方を城へ入れたくはないんですが、これもあの方のご命令ですし。今夜、城の前にきてくださいませんか?もちろん、場所はお分かりですよね?」

「あ、あぁ」

俺が頷くと彼女はどこかへ行ってしまった。


その夜。地下室で親父と会った時は本当にびっくりした。でも親父は相変わらずで「お前、なんか縮んだ?」と冗談めかして笑ってみせた。

家に帰る前にもう一度メイドさんに言われた。

「ルナお嬢様に関わらなければお父さんを解放きますよ」と。

家に帰り、頭を抱える。四年ぶりに再開した親父は、紛れもなく親父で、だからこそなんでそこにいるんだと聞きたかった。今すぐにでも話したい。でも、そうしたらユナが。ユナとの関係が。

ベットの上で転がり、唸る。驚きと衝撃で、もう何も考えたくなかった。


考えた末に、俺は城の前までやってきた。城門は固く閉ざされて、そうでなくても夜目が聞かなければ、足元すらおぼつかない。城門を一周してどこか抜け穴はないか探してみる。そして一周した頃には、やっぱりだめかと嘆いた。とそこで、遠くから話し声が聞こえた。その声がどんどん近づいてきて、この城の関係者ということがわかった。急いで影に紛れる。

「それで、やつのガキはどうだ?」

「はい。恐らくユナお嬢様の見合いまでには間に合うかと」

「そうか、そうか。たく、なんであれが、ノーマンだっけ?生きてんだかなー。俺が事故として処理したのに」

「そうですね、だからこそユナお嬢様と関わらせるわけには…」

え、見合い?それに事故?はっきりしたことはわからなかったけど、何かが俺を変えた気がした。

それから何日か親父のことで催促の手紙が届いたが、いずれも無視した。

久しぶりに外を歩くと、人がいなかった。いつもは賑わっている街が、今日だけは寂れた道具屋みたいだった。

道の真ん中を一頭の馬が駆ける。それに跨るのは噂の美男子だった。あとを追うように、何頭かの馬が駆ける。緑の髪をした兵士が前を横切る。

今日が見合いの日なのかと思ったのが一瞬、俺は走り出していた。

肩で息をしながら、城門の前にたどり着く。

「本日はお客様を入れるなと申せ使っております」

甲冑を着た兵隊が、槍を向け威嚇する。どうする。どうすれば。俺の憧れ、海賊王を目指す男なら。とそこで一つ閃く。それが着火剤になり、壁伝いに遠くへ移動する。

「ここなら」

城門の死角につく。その門に向かって腕を伸ばす。

「ゴムゴムのー」

ピューと一直線上に飛んだ手で屋根をつかみ、その反動で屋敷へ侵入した。

「何者」

あの緑の髪の兵士が武器を取って俺に向けてくる。

「邪魔だ」

腕を伸ばし、顔の前まで近づける。手のひらを振ってコショウを振りかける。

「な、目が。く、くしゅん」

くしゃみをしているうちに俺は前をすり抜ける。

ユナ。遠くで、ブロンズ色が動くのがわかった。その隣には美男子がいたが、もう関係なかった。

「ユナーーーー」

俺の声は聞こえないらしく、ユナは振り向いてくれない。くっそ、どうすれば。美男子は背中に隠したバラの花を差し出そうとタイミングをうかがっている。

右手を腰を捻りながら後ろに回す。そしてその反動で手を伸ばす。ユナがいるところまでは届かない。でも美男子は飛んでくる手を見たらしく、驚いて花を落とした。

その拍子でユナが気づいた。こちらに大きく手を振っている。何を言っているかは聞こえない。でもいいんだ、これで。

走りながら腕に意識を集中する。ユナの前に手を持っていき、手から声を出した。

「ユナー!俺、お前のこと、好きだーーー」

ユナは何かを言って、俺の手のひらに口づけした。


その後俺の親父は解放され、ユナのお父さんは捕まった。昔に一人の子供を殺めたらしく、その子供はある天才科学者によって生まれ変わったのだそうだ。これはユナから聞いた話だから本当かどうかわからない。でも、これまでの人生を何かに記したいと思った。



「おい、親父。俺の日記で勝手に読み聞かせしてんじゃねぇよ」

「親父だなんて、随分とまぁ偉くなったのぅ、王様よ」


お読みいただきありがとうございました!

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[気になる点] 「お嬢様、またそんな野蛮人なんかと戯れて。どうして貴方という身分の高い人がそんな成長しないみすぼらしい方と?」 「おい、私のゆう」 言い終わる前に「えっと、それでユナは何歳なの?」 「…
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