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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
98/421

2-3

 玖浄院を含めた育成校は広大な敷地があり、敷地内には多くの鍛錬及び、試合施設が存在している。


 が、他校と合同鍛錬を行う場合や、交流試合を行う場合は校外にある施設を使うのが主だ。


 これは学内の情報を必要以上に他校へ流出を避けると共に、育成校同士の不必要な衝突を避けるための措置でもある。


 しかしその本来の狙いは、学内の情報が他校ではなくハクロウと敵対する組織に流出するのを防ぐためである。


 育成校内部の情報は基本的には秘匿されるのが常であり、これを破った場合厳罰が下される。


 理由として、育成校は未来の刀狩者やハクロウに所属する者達を育てる場所であるため、仮にこれが流出すると生徒達はもちろんその身内にすら危険が及ぶ。


 結果として育成校は情報の徹底した秘匿をしているのだが、この時期だけは例外だ。


 五神戦刀祭。


 日本に存在する五つの育成校の代表者が一同に会して行われるこの戦いは、テレビ中継なども行われる大きなイベントとなる。


 開催期間中は、普段は一般人も立ち入り禁止となっている、東京湾近海の洋上に造られた人工島のスタジアムで生徒達が壮絶な戦いを繰り広げる。


 島内には生徒やその親類縁者のための宿泊施設の他に、開催期間中にのみ営業される娯楽施設や来場者のための宿泊施設などもあり、それらは戦刀祭が行われる一ヶ月以上前から準備が行われている。

 

 もちろん、戦刀祭へ向けた準備は生徒達も同じであり、それぞれが最後の最後まで己を鍛え上げている。






 夏の日差しが容赦なく照りつけることが多くなり、夏らしさを感じるようになった七月中旬。


 雷牙達、玖浄院の選抜メンバー一行は玖浄院が所有する外部鍛錬施設にやってきた。


 周囲は森に囲まれているが、都市部からはそれほど離れてはいない。


 三階建ての施設には、トレーニングルームは勿論、屋外屋内修練場や、プールなども完備され、ネット環境も揃っている。


 食事に関しても育成校側が事前に準備を進め、施設内の食堂は時間内であれば何時でも利用可能である。


 さらに周囲を森に囲まれているため、近隣住民へのトラブルもない。


 まさに修業をするにはうってつけの場所だ。


「それじゃあ各自、荷物を部屋に持っていってねー。そろそろ轟天館も来ると思うからー」


 龍子の指示に雷牙達は各々返事をしながら施設へと足を進める。


 すると、正門から玖浄院のものと似たようなバスが敷地内へ入ってきた。


 自然と雷牙達の視線はそちらに集まり、龍子は口元に薄く笑みを浮かべた。


「会長、あれって」


 雷牙が声をかけると、彼女は頷く。


「うん、轟天館だよ。直柾くん、へんなちょっかいしちゃダメだからね」


「なにもしやしねーよ」


 直柾は気だるげに答えながらも、その眼光は鋭く、バスから降りてくる人物達をジッと待ち受けている。


 すると、バスの乗降口が開き、轟天館の生徒達が姿を現した。


 数は十人。


 その中で雷牙達が注目したのは最初に降りてきた五人だ。


 確か轟天館の選抜メンバーリストに載っていた者達だ。


「いやー結構かかったなぁ。もうちょいはよう着くと思うたんやけど」


 一番最初に降りて来たのは非常に小柄な黒髪ツインテールの少女、轟天館生徒会長、白鉄(しろがね)黒羽(くろは)


 背丈的に見ると雷牙や瑞季と同じクラスの陽那くらいだろうか。


「お前が準備に時間を掛けすぎたんだ。こちらから申し出た以上、早く着くのが道理だというのに……」


 小柄な少女の言葉に呆れた様子で降りたのは、銀縁の眼鏡をかけた長身痩躯の少年、轟天館生徒会副会長、篭矢(かごや)刑丞(けいすけ)


「まぁまぁ。そう呆れんでもええやないか、副会長。見た感じ向こうも同じぐらいに来たようやし」


 銀縁眼鏡の少年をなだめるように、彼の肩を軽く叩いたのは、二メートルを超える長身と筋肉隆々の禿頭の少年、鋼上(こうがみ)天一朗(てんいちろう)


「まぁ確かに副会長さんはお堅いわよねぇ。そう思わない? 獅子陸くん」


 禿頭の少年に同調したのは明らかに高校生とは思えないほど妖艶な雰囲気の少女、宝原(ほうばら)冥琴(みこと)


 そして五人目。


「俺は別にどうでもいい」


「あらら、相変わらずクールね」


 少女に獅子陸と呼ばれた、雷牙よりもやや背が高く、どこか近づきがたい雰囲気を放つ少年は静かに告げる。


 獅子陸という名前に雷牙は聞き覚えがあり、雷牙は直柾を見やる。


 腕を組んだ状態の直柾は、僅かに眉間に皺をよせながらも頷いた。


 以前、直柾に忠告された轟天館の風使い。


 それが彼なのだろう。名前は獅子陸(ししおか)黎雄(れお)だ。


 すると、一番最初に降りてきた黒羽が流暢な関西弁で龍子に声をかける。


「待たせてわるかったなぁ。堪忍してや、龍子」


「私達もついさっき到着したところだから気にしないで。とりあえずは中に入ってこれからのことを話し合いましょう」


「せやな。ここにおっても暑いだけやし……けど――」


 瞬間、龍子以外の全員が身構えたが、僅かな残光の後に黒羽の姿がその場から消えた。


 同時に、雷牙のすぐ真横を一迅の風が吹き抜ける。


 反射的に振り返った雷牙であるが、彼は視線の先にあった光景に表情を固める。


 そこには黒羽によって胸を揉みしだかれている瑞季がいた。


 瑞季はというと、現状を確認できているようだったが突然のことに眼を白黒させている。


「アンタが痣櫛瑞季かぁ。なんやえらい久しぶりな気ぃするんやけど、前に会うとったっけ?」


 対して黒羽はというとまるで挨拶でもするかのような声音で彼女に問うている。


「い、一応幼少の頃に面識があるとは、んっ! 聞いて、おりますが……!」


「あー……そういえばそうやったかもねぇ。にしてもおっぱいおっきいなぁ! 少しくれへん?」


 もにゅん、と形が変わるほど瑞季の胸を揉む黒羽は、今度は胸に顔を埋めようとしたが、流石に状況の異常さに反応した瑞季がその行動を阻む。


「やめて、ください!」


 腕を振り払おうとする瑞季であるが、彼女の手は空を切るだけで黒羽を捉えることは出来なかった。


「みず――!」


 突然胸を触られた瑞季を心配し、舞衣と共に彼女に声をかけようとしたものの、雷牙は自身の背後にピリッとした感覚が奔ったのを感じ取る。


 直感的に腕を伸ばして掴む動作をすると、何かを確かに掴んだ感触があった。


 大きさと角度からして手首だろうか。


 すぐさまそれを離し、雷牙は背後を見やる。


「ふぅん……やるやないの」


 案の定というべきか、背後には黒羽がおり雷牙が掴んだと思しき手首をプラプラと振っている。


 彼女は含みのある笑みを浮かべ、猫を思わせる双眸で雷牙を注視している。


 僅かに闘気も混じっているようで、纏装の下の肌がひり付いている。


「……どうも」


 返しつつも雷牙は警戒を緩めない。


 彼女が消えたところまでははっきりと見えていた。


 そして彼女が消えると同時に、かすかに見えた残光。


 不規則に明滅したあの光からして恐らく――。


「コラ」


「あだ!」


 ゴン! とやや重たい音が周囲に響く。


 見ると、龍子が黒羽の脳天に拳骨をかましていた。


「い、いきなりなにすんねん!!? これ以上背ぇ伸びんくなったらどう責任とるつもりやドアホ!!」


「いきなりなにすんねんはこっち。一年生いびりをするのなら私達は帰るよ? あと、瑞季ちゃんに謝りなさい」


「別におっぱいくらいええやないか! 減るもんじゃなし! ウチかてバインバインになりたいねん!」


「そんなに増やしたきゃ自分のを揉んでればいいでしょうが!」


「揉むほどないんじゃヴォケェ!!」


 興奮した黒羽が言うと同時に、彼女の胸に視線が集中する。


 確かにない。


 おおよそ胸と呼べるものはなく、スラリとした胸板があるのみだ。


「……今ウチの胸見て「ない」とか思うたヤツ。あとで殺すわ……」


 光の灯っていない暗い瞳が向けられるものの、再び彼女に拳骨がふりおろされる。


 だが、今度は龍子ではなく、轟天館側の副会長、刑丞によるものだった。


「やめろこの阿呆。これ以上轟天館の恥部を晒すな」


「恥部て! 刑丞お前なぁ!! ウチのこと誰やとおむぎゅっ!!」


「はーい、黒羽ちゃーん。落ち着いてー。……お騒がせしました皆さーん」


 黒羽は刑丞に突っかかっていったが、その途中で冥琴の豊満な胸に抱かれて連行されて行った。


 嵐のように過ぎ去っていった黒羽に皆が唖然としていると、刑丞が銀縁の眼鏡を指で上げて瑞季に対して頭を下げる。


「我が校の愚会長が大変失礼なことをした。すまない」


「あ、あぁいや。別に頭を下げられるほどのことでも……!」


「いやいや、普通なら痴漢よあれ?」


「申し訳ない。あれにはあとできつく言っておく。君にもすまないことをした。怪我などはしていないか?」


 再び深く頭をさげた刑丞は、雷牙にも頭を下げてきた。


「別に俺も大したことはないんで、大丈夫っス」


「そうか、ならよかった。武蔵会長、ウチの馬鹿が迷惑をかけた。この埋め合わせは必ずする」


「瑞季ちゃんも雷牙くんもそこまで気にしてないみたいだから、重く捉えなくていいよ。ただ、もう少し節度は持つように言っておいてくれる? 刑丞くん」


「了解した。では、この後の予定は荷物をおいた後にロビーに集合だったな」


「うん、よろしく。あと、夕方あたりには他校の取材陣も来るから、頭の隅にでもとどめておいて」


「ああ。ではまた後ほど」


 刑丞は最後に深く頭を下げると、颯爽とした様子で轟天館の面々の下へ戻っていく。


 その先では黒羽が激しく暴れていたが、最終的には刑丞によって絞め落とされていた。


 ぐったりとした黒羽は天一朗に担がれ、彼らはそのまま施設内へと消えていく。


 残された雷牙達、というよりは雷牙、瑞季、舞衣の一年生三人は呆然としていた。


「びっくりした?」


 三人に対して龍子が首をかしげると、彼らはそれぞれ頷く。


「まぁ……。なんか想像してたのとかなり違ったんで」


「確かに、もっとこう剣呑な雰囲気になるのかと……」


「いやあんたは普通に怒って良いレベルだよ!? 人前であんなに激しく胸揉まれてんだから! 第一なんで怒らなかったのよ!」


「いや、あまりにいきなりのことだったから気が動転してしまって」


 頭を掻く瑞季に舞衣は「ありえない……」と呆れている。


「ってか、それ以上に向こうの会長さん、随分と雑に扱われてましたけど、あれが平常運転なんスか?」


「うん。大体あんな感じ。でも、黒羽ちゃんは皆に慕われてる良い会長だと思うよ。それに強いからね。それ自体は三人もわかったでしょ?」


 思い出されるのは、一瞬にして姿を消して雷牙の背後や瑞季の前に現れた黒羽の姿。


 霊力による身体能力の増強レベルではなかった。


 そして消えた彼女の動きから察するに、もっと上位の動きであることは明白。


 その正体は雷撃の力だろう。


 雷牙と瑞季の様子に龍子は一度頷くと、施設内に消えていった彼らを見やる。


「黒羽ちゃんは士くんと同じ、雷電の属性覚醒者。その二つ名は、『閃雷の姫』。恐らく育成校の中では最速を誇る子だよ」

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