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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
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2-2


「さてと、皆集まったところではじめようか」


 生徒会室に集めた戦刀祭選抜メンバーと学生連隊メンバーの前で龍子がホロモニタを展開させながら告げた。


 休日を挟んだ月曜日、雷牙達はそれぞれの強化練習後、生徒会室に招集をかけられたのだ。


 まぁ集められた事情はわかっている。


「先週辺りから各々に告知しておいた、轟天館と玖浄院の合同強化試合なんだけど、再来週の月曜日から七日間の日程で行われることになりましたー……ってリアクション薄くない!?」


 バン! と机を叩きながら抗議する龍子であるが、揃っている面子は「だろうな」的な雰囲気だった。


 実際前々から告知されているのでそこまで驚くことでもないし、日程的にもそのあたりが打倒といえる。


「ある程度予想はできるだろう。それに大きくリアクションをするほどのことでもあるまい」


 勇護はやれやれと言いたげに肩を竦め、その向かいに座る直柾は大きな欠伸をしている。


「冷たいなー。これでも割と真面目に日程調整したんだよー? はい、一年生達! 私を褒めなさい!!」


「それ会長の仕事じゃないっすか?」


「これといって褒めるほどのことでもないと思いますが」


「おぅ……」


 段々と龍子の扱いに慣れてきたのか、雷牙と瑞季もこれといった反応はしなかった。


 すると、龍子は「人がせっかくさー……」と溜息をつきながらも渋々と言った様子で、ホロモニタを切り替える。


「とりあえずやることは基本的に模擬戦ね。ちょこちょこ交流試合も挟みつつ、あとは個人の鍛錬にあててくれて構わないから。それじゃあ細かい説明は副会長ヨロシクー」


 龍子は大雑把な説明を終えると、詳細説明を三咲へと丸投げする。


 三咲は一度溜息をつきながらも龍子と入れ替わるようにホロモニタの横に立つ。


「強化試合が行われる場所は玖浄院所有の外部修練場となります。場所は新都から離れますが、関東圏内です。荷物などの詳細は今日中にメールしておきますので省かせてもらいます。

 では次に、注意事項の説明に移ります。皆さんも知っての通り、戦刀祭一週間前までは育成校同士の情報開示が義務付けられています。そのため、今回の強化試合にも轟天館以外の育成校の新聞部や広報部が取材に来ると思われます。そのさい、決して玖浄院の名に恥じないような行動をしてください。特に、辻くん。くれぐれも頼みますよ」


「へいへい。大人しくしてりゃあいいんだろ」


「試合のときは存分に暴れていただいて構いません。しかし、他校の学生相手に喧嘩沙汰などおこさないようにお願いします」


「わーったよ……。けど、向こうから吹っかけてきた場合はどうなんだ?」


 わずらわしそうに答えいた直柾であるが、不意に彼が問うた言葉にその場が凍りつく。


 しかし、彼の問いも当然といえば当然かもしれない。


 玖浄院側はそうでもないのだが、轟天館は常に玖浄院をライバル視、ないしは完全に敵視している。


 その派閥はハクロウに所属してからも残っている場合があるほどで、若い刀狩者の中では衝突もあるそうだ。


「……その場合は各自の対応に任せます。ですが、揉め事になった場合の対応として音声録音をしていただけると幸いです」


「その暇があったらやっといてやるよ」


「結構です。では続いて、宿泊施設の部屋割りですが――」






 生徒会室での強化試合の日程を告げられた後、雷牙達は食堂で夕食をとっていた。


「にしても何で轟天館ってウチをそんなに眼の敵にしてんだろうな」


 合計七杯目のラーメンを空にした雷牙は首をかしげた。


「この前会長が折り合いが悪いみたいなこと言ってたけど、二人はなんか知ってるのか?」


 八杯目のラーメンに手を伸ばしながら、向かいに座る瑞季と舞衣に問う。


 彼女らは既に雷牙の大食いにもなれたようで、特にこれといったリアクションは取らず、舞衣がアイスを掬いながら告げる。


「最初、日本の育成校は玖浄院と轟天館の二校だけだったらしいんだけど、当時はまだ今みたいに仲違いするような関係性じゃなかったみたい。ただ、ある時期を境に唐突に玖浄院を眼の敵にし始めたのよ。確か轟天館の学校長が変わってからだっけかな……」


「ああ、それで合っている。既に逝去されているが、当時のハクロウでもかなりの過激派思想の持ち主だった、(よろい)堅重郎(けんじゅうろう)氏が就任して以降、轟天館は彼の思想に呑まれるように玖浄院を敵視するようになった。鎧氏は元々は轟天館の卒業生で、上昇志向の強い人物だったと聞く。恐らく玖浄院に負け続けることが悔しかったんだろう」


「なるほどなぁ。そんで自分が校長に就任して、玖浄院に勝とうとしたってわけか……」


「そういうこと。まぁ結果としてその後、轟天はうちに勝つようにはなったんだけど、そこで終わらなかったんだよねぇ。鎧って人の思想はその後も轟天館に残るようになったみたいで、結果的に今も玖浄院は眼の敵にされてるってわけ」


 育成校同士が切磋琢磨することはハクロウ自体も推奨している。


 が、鎧という男の執念はそのレベルを超えてしまっていたのだろう。


 結果として両校の間には深い溝が出来てしまったのだ。


「だがそれ自体は過去の話だ。今は通っている生徒全員が玖浄院を嫌っているというわけではない。中には鎧氏の思想に傾倒してしまっている生徒もいるが、大部分はあまりそういう過去のことには拘っていないようだ」


「ふぅん……うん? けどこの前会長は向こうの会長さんが嫌そうにしてたって言ってなかったっけか?」


 雷牙は先週あたりに龍子がそんなようなことを言っていたことを思い出す。


 確か向こうの生徒会長はこちらとの強化試合をしたくない態度だったというが、彼女が玖浄院を嫌う思想を持っているのではないのだろうか。


「確かにそうだったな……。しかし、さきの話だとどうもあちら側から申し出てきたようだったが……」


「あぁ、それはアレよ。向こうの生徒会長、瑞季とか会長と同じ七英枝族だからよ。名前は白鉄黒羽。瑞季知らなかったの?」


 アイスを食べ終えた舞衣が問うものの、瑞季は難しい表情をして腕を組む。


「七英枝族であることは知っているが、関係自体は薄いからな……。それに白鉄家は関西を拠点としているから、会う機会も少なかったし……」


「あー、なるほどね」


「いや。だけどなんで向こうの会長さんがウチを嫌うんだ?」


「玖浄院を嫌っているわけじゃないわよ。正確にはこっちの会長、龍子さんのことが嫌いなんじゃない? 白鉄家は白鉄重工っていう超お金持ち一族だけど、ハクロウに関しては武蔵家の方が上だし。本来だったら、武蔵家みたいにハクロウを内部から動かしたいんじゃないかな」


「……なんか難しいんだな。家柄同士の関係って」


 白鉄重工自体は雷牙も知っている。


 有名な軍事企業であり、国内の武器製造は殆どが白鉄重工が担っており、海外にも進出していると聞く。


「そういうもんよ。瑞季はそういうのないの?」


「私の家はそういった方面に手を出していないからな。裕福であることに変わりはないかもしれないが、両家ほどではないよ」


「同じ刀狩者を目指す仲間なのになぁ。仲良くはできねーもんかね」


「まぁでも、会長の様子からして本気で敵としてみてる感じではなさそうよ? じゃれてるようなもんなんじゃない?」


「ならいいけどな……。よし、おかわりしてくる」


 雷牙は合計九杯目のラーメンを平らげると、食券を買いに立ち上がった。


 体のラインは殆ど崩れておらず、お腹も膨れていない。


「……アンタほんとその量どこに消えてんのよ」


「ブラックホールかなにかを内蔵しているのか君の胃は……」


「いやぁ、新しい鍛錬してると常に腹へっちゃってよー。だけど安心しろ。次はバランスを考えて、みそラーメンにするから!」


「「味の問題じゃない」」


 ビシッと親指を立てた雷牙はそのまま足早に券売機へ向かって行く。


 瑞季と舞衣は目の前に積みあがったラーメンどんぶりを見やりながら、大きく溜息を漏らすのだった。






 同じ頃、生徒会室では龍子がどこか上機嫌に鬼哭刀を手入れしていた。


「随分とご機嫌ですが、なにかありましたか?」


 紅茶を置いた三咲が問うと、龍子は氷霜の刃を見やりながらにんまりと笑う。


「いやぁ、雷牙くんがこの土日でしっかり成長してきたなぁって思ってさ」


「綱源くんが? どこか変わっていたでしょうか……。私にはいつもどおりに見えましたが」


「うん。まぁそれだけうまく隠しながら鍛錬してるってことかな。今証拠見せるから、ちょっと待っててねー」


 龍子はホロパネルを呼び出して操作すると、三咲にも見えるようにウインドウを展開する。


 写っていたのはつい先程の生徒会室の様子だ。


「……盗撮ですか?」


「記録用だってば! ゴミを見るような目でみるのやめてくれない!?」


 強く拒否した龍子はそのまま端末を操作し、ウインドウの中の映像をフィルターにかける。


「これは確か、霊力可視フィルターでしたか」


「そそ。普通は斬鬼とか妖刀とか、霊穴とかを見るときに使うんだけど、三咲ちゃんにも分かりやすいように雷牙くんに焦点を当ててみるよー」


 龍子は言いながら雷牙へズームアップしていく。


 すると、三咲は何かに気付いたように息を詰まらせる。


「これは……」


 三咲が見やるウインドウの中に写っている動画は、通常の色調よりも少しだけ白みがかったものだ。


 霊力可視化フィルターとはその名の通り、動画に写る霊力を可視化させるもので、微弱なものでも霊力があれば反応して青く発光して写るものだ。


 三咲が眼にしているのは、そのフィルターによって雷牙の体全体が霊力に包まれている光景だった。


「そう。雷牙くんは極めて薄い霊力をずっと纏っていたんだよ。一度も切らすことなくね」


「まさか、今日一日中!?」


「いいや、あの感じからすると今日どころか昨日の晩からずっとって感じかな。まだ不完全ではあるみたいだけど、これはなかなか面白いね」


「……大丈夫なんでしょうか。倒れなければいいですが」


「彼ほどの霊力があれば余裕でしょ。それに直感だけど、この先一生、雷牙くんは霊力を纏い続けると思うよ。生きている間は常にね」


「この短期間の間で彼に何が……」


「確か土日は外泊届を出してレオノアちゃんの家に行ってたらしいから、そこで強くなるためのヒントを貰ってきたって感じかな。それにしても常時霊力を纏った状態とはね……すごいこと考える人もいたもんだ」


 常時霊力を展開しているということは、霊力操作にタイムラグがないということ。


 これができれば対斬鬼戦闘はもちろん、対人戦闘でも優位に立つことが出来る。


 今までの雷牙は霊力を使うのに多少の溜めがあったため、そこを狙いやすかったが、今彼が行っている鍛錬がより洗練されればその弱点は克服できるだろう。


「……これは私も負けてらんないね」


 龍子は満足げに笑うと、氷霜をゆっくりと鞘に納める。


 その際、氷霜からは僅かばかりの冷気が零れた。






 夜。


 大阪、轟天館の学生寮では、黒羽がどこか面白げな笑みを零していた。


 口元に除く犬歯がキラリと光る。


「強化試合とはいえ負けへんで、龍子。今年の轟天は一味ちゃうからなぁ」


 その双眸は彼女が倒すべき相手と見定める人物、武蔵龍子へと向いていた。

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