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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第一章 鬼と刃
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2-2

 取りまきをつれた青年はありていに行ってしまえば割とイケメン風な少年だった。切り揃えられた黒髪は清潔感を感じさせ、目元にある黒子が特徴的である。


 パッと見た感じ女子からの人気も高そうである。


「はじめまして、僕は大城(おおしろ)和磨(かずま)。一年B組だ。よろしく」


 人のよさげな笑みを浮かべたまま自己紹介をした大城は、スッと握手を求めてきた。


 雷牙はこの少年が全身から溢れさせている敵意をひしひしと感じていた。笑顔ではあるが、雷牙のことを決して快く思っていない。


 それを感じながらも、雷牙は彼の握手に答える。


「綱源雷牙だ。よろしく」


 握手は特に問題なく終わった。


「君とは是非友達になりたくてね。どうだろう? そこにいるどこの馬の骨とも知らぬ奴よりも、僕達と昼食にしないか?」


 握手を終えると、彼は顎をしゃくって玲汰のことを侮蔑してから誘いを出してきた。


「馬の骨って、てめ……!」

 

 会って早々侮蔑された玲汰も黙っていられないのか、殴りかかる勢いで詰め寄ろうとした。


 しかし、彼が詰め寄るよりも速く、雷牙がそれを諌める。


「生憎だけど、こっちとの先約があるんでな。それに、初対面の奴を会って早々馬の骨扱いする奴とは、どうにも美味い飯が食えるとは思えねぇ。そっちで好きにやってくれや」


 薄く笑みを浮かべた雷牙は、玲汰に「行こうぜ」と短く誘ってその場から立ち去ろうと踵を返す。


 それとほぼ同時に、大城の取りまきで一番体格のよかった坊主頭の少年が進むのを塞ぐように立ちはだかった。


「なんのつもりだ?」


「君、昨日のことで随分注目を浴びただろう。だけどいい気にならないほうがいい。あんなのはただのイカサマで、パフォーマンスだ」


「そう見えたならそう思ってればいいだろ。いちいち俺に言うことかよ」


 どうやら大城は昨日の試合で、雷牙が自分よりも注目を集めていることが気に入らないらしい。


 それだけ自分の腕に自信があったということなのだろうか。


「おいおい、お前目の前にいる人が誰なのかまだわかってねぇのかよ」


 取りまきの一人が、未だに強気な雷牙をあざ笑うかのような声で続ける。


「この人はあのハクロウ七英枝族(しちえいしぞく)、大城家の次期当主なんだぜ?」


「あっそう。言いたいことはそれで全部か?」


「え」


「大城家だかなんだか知らねぇけど、いい加減しつこいぞお前等。俺はお前等にどう思われようといいんだよ。話が終わったならもう行くぜ? 腹減っちまった」


 雷牙はお腹を押さえて空腹をアピールした後、坊主頭の少年の脇を抜けていこうとするが、肩を少年に掴まれた。


「おいおい……。こんだけ言ってもまぁだわかってくれねぇか?」


「お前が良くても、まだ大城さんの話が終わってない。最後まで聞いていけ。身の程知らずが」


「手を離せ、河西(かわにし)。……なるほど、よくわかった。では勝負といこう、昼明けの実戦演習で勝負し、そこで白黒はっきりつけてあげよう。僕と君どちらの実力が上か、そしてエキシビジョンがただのパフォーマンスで、詐欺紛いのイカサマだったことをね。」


「お好きなように、お坊ちゃん。じゃあ、そういうことで」


 河西と呼ばれた少年の腕を乱雑に振り払った雷牙は、玲汰と共にその場から去っていく。


 けれど、背後からは大城のものであろう、敵意丸出しの視線を感じていた。


「ところで綱源。馬の骨もアイツの馬の骨発言もどうかと思うけど、お前のそっち系発言も大概だからな?」


「……それに関してはすまん」




「良かったんですか。大城さん。あんなやつ、ここで畳んじまったほうが……」


「構わないさ。むしろ実戦演習の時、観衆の目の前で叩きのめしてあげた方が、彼のためにもなるだろう」


 ニタリと下卑た笑みを見せる大城は、取りまきをつれ、頭の中で雷牙を叩きのめすシュミレーションを行う。


 ――――今のうちにせいぜい調子に乗っておくことだ。


「……そのうちそんな顔もできなくなるんだから」





 大城と分かれた雷牙と玲汰は、アリーナの中にある休憩室で談笑しながら昼食を取っていた。


 話題は勿論、さっきの件である。


「いやーにしてもさっきはスカッとしたぜ」


「そんな気持ちいいことしたか? 興味ねぇって言っただけだぜ?」


「いやいやいや、七英枝族に普通あんなにはっきり言えねぇって。やっぱお前ただもんじゃねぇよ、綱源」


「そうなのか? あと、さっきアイツ等と話してた時も出てたけど、その七英枝族ってなんだ?」


 雷牙が問い返すと、スポーツドリンクを口に含んでいた玲汰が盛大にそれを吹きだした。汚い。


「お、お前ホントに七英枝族知らないのか!? さっきのは煽ってたわけじゃなく!?」


「おう。全然知らん。師匠や親代わりの人からは剣の鍛錬と、一般常識、あとは最低限の義務教育くらいしか教わってねぇ」


「それって多分、覚えてないってよりも、忘れてるだけだと思うけどな。じゃあパパッと説明してやりますか。いいか、七英枝族ってのはなぁ―――」


「――――七英枝族っていうのは、ハクロウ創設時に関わった七人の人物の子孫のことで、今はいずれも大成した家が殆どで、政財界にその名を轟かせている」


「へぇ……うん?」


「そうそうわかってんじゃ……え?」


 声は、玲汰のものでも、ましてや雷牙のものでもなかった。明らかに女子の声だ。


 二人は一瞬顔を見合わせると、声のした方を見やる。


「どもー」


「「うおぉぉぉい!?」」


 視線の先にいたのは、栗毛の女子生徒だった。


 突然の第三者の登場に、それぞれ同じような反応をして後ずさる二人に対し、女子生徒は「にしし」と悪戯っ子ぽい笑みを浮かべる。


「おま、舞衣! いつの間に入ってきやがった!?」


「そりゃ今さっきにきまってるでしょ。それよりもホラ、もうちょっとそっち詰めてよ、玲汰」


 ぐいぐいと玲汰を押しのけた女子生徒、舞衣は「よいしょ」と雷牙の前に座る。


 ふと、雷牙はこの女子生徒に見覚えがあるのを思い出す。


「あ、そういやさっき教室で先生に質問してた……」


「もしかして、覚えてくれてた? ありがとー。それじゃあ、改めて自己紹介ねー。わたしは、柚木(ゆうき)舞衣(まい)。趣味は―――」


「パパラッチゴファァ!!?」


 ボソリとかなり小さな声で言った玲汰の顔面に舞衣の裏拳がめり込み、きりもみ回転しながら壁に熱いキスをした。


「適当なこというのやめなさいよね! 変なイメージが付いたらどうすんのよ!!」


「う、うるへー! てめぇこそふざけんな! 一瞬お花畑が見えたわ!!」


「あら、だったらそのまま召されればよかったのに」


「死ねと!?」


「そうよ、乙女の趣味を改悪する奴はさっさと地獄に落ちなさい。はい、三、二、一!」


「やめろやめろ! それが幼馴染対する態度かてめぇ! このゴシップ好き女が!」


「はぁぁん!? アンタこそ中学時代勉強教えてやったの忘れてんじゃないでしょうねぇ! 第一わたしが持ってる情報はしっかりと裏づけが取れたものだけよ! ネットのまとめサイトと同じにしないでくれるかしらぁ!」


 捲くし立てるような台詞の嵐。大して霊汰は鼻血だらだらながらも、舞衣に食って掛かっている。


 言い表すとするならば、犬猿の仲というやつなのだろうか。


「まぁ落ち着けって二人とも。ほら、喧嘩するほど中がいいって言うし……」


「「良くない!!」」


「はい、すみません」


 仲裁しようとしたものの、凄まじい剣幕で言われた。


 しばらく互いの罵詈雑言を吐いていた玲汰と舞衣であるが、やがて疲れたのかどちらかともなく腰を下ろした。


「ったく、てめぇが変なとこで入ってくるから話が途中で途切れたじゃねぇか」


「アンタが余計なこと言わなきゃ済んだのよ」


「はいはい、また長くなりそうだからその辺にしてくれ。聞いてた感じ、二人は幼馴染ってことでいいのか?」


「まぁね。小学校からのつき合いよ」


「腐れ縁ってやつだ。てか、なんでお前こんなとこにいんだよ」


「そりゃもちろん、今注目の一年生、綱源雷牙くんに色々聞きたいからに決まってるじゃない!」


 舞衣の眼がキランと光った。いつの間にか出したのか、彼女の手にはペンと手帳があった。


 雷牙はさっき、玲汰がゴシップ好きとかパパラッチとかなんとか言っていたのを思い出す。


「別に今じゃなくたっていいだろ。綱源はこのあと色々あんだよ」


「それって午後の実戦演習で大城和磨と戦うってヤツ?」


「おま、なんでそれ知ってんだ?」


「アリーナで大城の取りまきがいい回ってたわよ」


 どうやら彼らは雷牙のことを逃がす気はないらしい。


 これでもし棄権でもすれば、どちらにしろ彼らの思う壺だ。雷牙は卑怯者、もしくは臆病者のレッテルを貼られることだろう。


 正直、先生達が戦う相手を決めるのかと思ったが、名家の息子だけあって権力でも使ったのだろうか。


「それで? なんで七英枝族の解説なんて始めてたわけ?」


「あぁ、俺がちょっとど忘れってか知らなくってさ。それで玲汰が説明してくれるとこだったんだ」


「ふぅん。じゃあ私が代わりに説明してあげる。そろそろゲストも来るし」


 舞衣がニヤリと笑って言った瞬間。


 プシュッという自動ドアの開く音が聞え、三人の視線が自然とそちらに向く。


「ん、雷牙? 君もいたのか」


 入ってきたのは瑞季だった。手に弁当を持っていることから、彼女も測定を終えたようだ。


「よう、瑞季。……ゲストってのは」


「そう。瑞季のこと。測定中に仲良くなってさ。色々お話したかったから誘っといたの」


「……どうせ、変な取材のためだろ」


「あぁん?」


「なんでもねぇです」


 舞衣に凄まれ、玲汰は引っ込んだ。どうやらこれ以上突っかかるのはやめたらしい。


 入り口のあたりで様子を伺っていた瑞季に対し、雷牙は軽く手招きして開いている隣の席を指差した。


 彼女が頷いてから席につくと「さて」と舞衣が手を鳴らす。


「それじゃあ、ちょっとした勉強会、はじめよっか」





「まぁこれで大体の説明は終わりかな。瑞季、間違ってるとこないよね?」


「大丈夫だ。寧ろ私がするよりもわかりやすかった」


 弁当をつつきながらの七英枝族の説明が終わり、雷牙も粗方のことは理解できた。


 簡単に行ってしまえば、七英枝族はハクロウ創設に関わった者達の一族で、現在は政財界において大成しているものが多いということ。


 その中でも大城家は権力に対する固執が根強い。


 瑞季の痣櫛家も七英枝族の一つであり、大城とは多少の面識があったこと。


「大城和磨。過去に何度か会っただけだったが、当時からあまりかわっていないようだな」


「昔からああなのか?」


「そうだな、子供の頃、父に連れられて行った、七英枝族のパーティに行った時に会った時も正直言って快い性格ではなかった」


「権力とお金に固執しちゃってるわけだ。実力とかはわかるの?」


「詳しくはわからないが、現役の刀狩者に剣の師事しているとか。ただ、誰に教わっているかまではわからないな。私も彼と親しい関係ではないから」


「けど、さっきの言い方だとかなり自信があるみたいな口振りだったよな」


 眉間に皺をよせた玲汰が雷牙を見やる。


 雷牙も「ああ」と短く答えるものの、その表情はどこか腑に落ちなさげだ。


 そもそも、雷牙には彼に因縁をつけられる筋合いがまったくない。エキシビジョンがパフォーマンスだとか、イカサマだとか言っていたが、そう見えたのだろうか


「うーむ、そもそもアイツはなんで俺にいちゃもんつけてきたんだろうな」


「そりゃお前……」



「綱源くんってそういうとこ鈍感だったりするわけ?」


 玲汰と舞衣に思い切り引かれた。そこまで引くようなことを言っただろうか。


 隣を見ると、瑞季も「君は本当に……」と額に手をあてて呆れていた。


 大きなため息が聞えたかと思うと、ビシッと舞衣の人差し指が眼前に突きだされた。


「いい、綱源くん。大城が君に勝負を吹っ掛けてきたのは、簡単に言えばプライドが傷つけられたからだよ」


「いやでも、俺アイツになんも……」


「黙ってきく!」


「う、ウッス」


 身体が仰け反るほど指を突きつけられた。玲汰と瑞季を見ると助け舟を出してはくれなさそうだ。


「君に悪意がなくても、大城は今年度の新入生で自分がトップの成績だって思ってたはず。だって、七英枝族で現役の刀狩者から師事を受けてる。もしかしたら自分が首席だと、考えてた可能性もある。それがまったく無名の君が選ばれた上に、瑞季とアレだけの勝負をした。プライドが傷つくのは十分すぎるくらいじゃない?」


「ようは完全な逆恨みされてんだよ、お前。本当だったら自分が立っていた舞台に立たれて、ご立腹ってわけだ。あの取りまき連中もそうだろ」


「玲汰の言うことも多分正しい。昨日パパッとやった一年生の調査で、君の事を良い方向に評価してる生徒は結構いたよ。けど、何人かは気に入らない、俺の方がすごいって子もいたかな。ちなみに雷牙くん、女子人気はかなり高いよ!」


 グッと親指を立てられた。なるほど、女子人気はそれなりに高いのか。


 雷牙とて思春期の男子である。女子からの視線も気になるお年頃であるし、恋愛関係などに発展してもいいかななんて考えていたりもする。


 自然と頬が緩み「そうか、女子人気高いのか……」と呟いた瞬間、腹部を瑞季に結構強めに突かれた。


 何事かとそちらを見てみると、なぜか仏頂面の瑞季がいた。


「なに――――」


「鼻の下を伸ばしている場合じゃないぞ、雷牙。そろそろ時間だ」


 彼女が指差した時計を見ると、確かに午後の演習まであと十分ほどとなっていた。


 勝負をすることになっている手前、遅れていけばまた面倒ごとになるやもしれない。


「じゃあ、行くかぁ。あ、そうだ、玲汰に舞衣俺のことは、綱源じゃなくていい。普通に名前で呼んでくれ。友達らしく」


「おう!」


「わかった。雷牙」


 二人はそれぞれ頷いた。雷牙も満足げな笑みを浮かべると、彼らは休憩室から出て、勝負が行われるアリーナへと戻った。

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