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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
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1-1 強くなるため

 玖浄院(くじょういん)の屋内修練場では剣戟が繰り広げられていた。


「ゥルァッ!!」


 裂帛の声と共に剣閃を放つのは、先週まで行われた五神戦刀祭選抜トーナメントで準優勝を果たした少年、綱源(つなもと)雷牙(らいが)


 霊力の込められた剣閃は、飛ぶ斬撃となって対戦相手に迫る。


 対戦相手は同じくトーナメントを勝ち上がり優勝した玖浄院の生徒会長、武蔵(たけくら)龍子(りゅうこ)


「シッ!」


 雷牙とは対照的に冷静さのある声と共に、彼女は長刀型の鬼哭刀、氷霜を振るう。


 剣先から放たれたのは雷牙と同様の霊力による斬撃。


 僅かに龍子が遅れる形で放った斬撃が衝突し、二人の間で霊力同士が衝突して紫電が迸る。


 斬撃の大きさ自体は雷牙の方が大きく、端から見れば雷牙に分がある様に見えなくも無い。


 しかし、それはあくまで外見だけの話だ。


 突如、雷牙の斬撃に龍子の霊力が食い込んだ。


 そこから先はあっという間に出来事だった。


 明らかに大きさで勝る雷牙の斬撃は、龍子が放った斬撃を相殺することができずそのまま破られた。


「チィッ!!」


 雷牙は苦々しい表情をするものの、足は止めずに次の行動に移ろうとした。


「ッ!?」


 瞬間的に雷牙の背筋に怖気が奔る。


 弾かれるように振り向くものの、ほぼ同時に首に金属の冷たい感覚が触れた。


 視線だけを動かすと、首筋には鉛色をした刃が光っており、その所有者は不敵な笑みを浮かべている。


 表情は『いつでも殺せる』とでも言いたげだった。


 首筋に刃の感触を感じつつ息を呑む。


「そこまで!!」


 場外から声が上がり、首筋から鬼哭刀が退かれた。


 雷牙も固まってしまった体から力を抜くと、鬼哭刀を鞘に納める。


 彼はそのままその場に座りこむと盛大に溜息を漏らす。


「何度やっても勝てねー……」


「そりゃまぁこっちもそう簡単に負けてあげるつもりはないからね。けど、最初やった時に比べれば随分持つようになったよ。ねぇ、瑞季ちゃん」


「はい」


 龍子が見やった方を見ると、端末を操作してなにやら記録をしている美少女、痣櫛(あざくし)瑞季(みずき)がいた。


 ちなみに彼女の呼び方が『ちゃん』付けになったのは「他人行儀すぎるのも嫌なんだよねー」とのことだ。


「先日の決勝戦では回避できなかった攻撃も回避、防御ができていました。まぁ勝ててはいませんが」


「フォローになってねぇよ」


「にゃははー。そう落ち込まない落ち込まない。五神戦刀祭まではあと一ヶ月と少しあるから、しっかり鍛えてあげるって。今のままじゃ戦刀祭を勝ち上がるのは難しいからね」


「そこまで実力に差がありますか?」


「もちろん。恐らく他の四校も生徒会役員はもちろん、実力者で固めてくるはず。一年生を投入してるのはウチくらいだったかな」


 龍子は言いながら適当な場所においてあったスポーツドリンクのボトルを雷牙に放った。


 一口流し込んでから雷牙はたずねる。


「実力者ってーとウチで現すとすれば誰から誰クラスなんスか?」


「簡単に言っちゃえば高めで私くらい、低めに見ても直柾くんに勇護くんあたりかな。正直今の君じゃあ難しい相手でしょ?」


「そう……っスね。てか、自分が高めってことは否定しないんスか」


「だって私強いもん」


 ほぼ即答で答えた龍子に雷牙と瑞季は一瞬だけ気圧される。


 彼女がいう『強い』と言うのは決して自身の力におぼれている驕りなどではない。


 実際に彼女は『強い』のだ。


 その実力の表れがあのような謙遜をしないスタイルなのだろう。


 彼女にとってはプレッシャーなど無いに等しいのだろう。


 自分の強さを信じて疑わない。それが彼女の強さの要因だ。


「では他の育成校の生徒会長も武蔵先輩ほどの力を?」


「ノンノン、武蔵先輩じゃなくて、龍子先輩だよ瑞季ちゃん。龍子ちゃん、龍子さん、龍子様でも可。えーっとそれで、生徒会長の強さだっけ? うーんそうだねぇ、一概に私と同じとは言えないけど近いくらいの実力は十分あるよ」


「バケモン揃いってことか……!」


 龍子の説明を聞いた雷牙は僅かに体を震わせる。


 恐怖ではない。


 いわゆる武者震いだ。


 雷牙にとっては、強者と戦えることこそが楽しみであり、最高の喜悦でもある。


 しかし、そんな雷牙に対し、龍子が軽めのチョップを繰り出す。


「楽しみなのはいいことだけど、自分の状況をよぉく考えてみましょう」


「……へーい」


「正直に言って雷牙くん。君の実力は選抜メンバーの中でも最下位だからね」


「うぐっ!?」


 ズドン、となにか鋭いものが胸に突き刺さるような感覚を覚え、雷牙は思わずその場で胸を抑える。


「さっきのだってもう少し霊力の強度を上げていれば相殺はできたよ。すこしだけ焦って撃ったでしょ。ああいう状況でもしっかり霊力をこめて撃たないと。というか雷牙くんはそういうところがまだまだ甘くて、普通に斬撃がスカスカになっている時があるからそういうのをもう少し注意しないと――」


「――ストップ! ストップです、龍子先輩!! 雷牙がいろいろとすごいことになっています!」


「え? あぁ、ホントだ」


 龍子が足元を見やると、雷牙が胸を抑えてのたうっていた。


 あれだけいろいろと指摘されれば悶絶する気持ちにもなるだろう。


 その様子に龍子は小さく肩を竦めると、彼の肩に手を置いた。


「まぁいろいろ言ったけど、君に期待しているのも確かだよ。だから約一ヶ月間みっちり鍛えていくから覚悟してね」


「り、了解っス。そんじゃ! もう一回模擬戦を――!」


「あーごめん、今日はこのあと予定があるから無理」


「えぇ……」


「これでも生徒会長だからねぇ。各育成校の生徒会長とも打ち合わせしないとだし、五神戦刀祭とかその前にある強化試合とかもセッティングしないとだし」


「強化試合?」


 初めて聞いた単語に雷牙は首をかしげて瑞季を見やるものの、彼女も特になにも聞かされていないのか首を振るだけだった。


「あれ、二人にはまだ言ってなかったっけ? 戦刀祭の前に生徒達の実力の向上と、各育成校間の情報開示も含めて合同の試合があるんだよ」


「へぇ……でも奇数じゃ合わなくないっスか?」


「まぁ絶対にやらないといけないわけじゃないからね。やらないのも自由だし、三校合同でやることもあるし、別段問題はないんだよ」


「なぁる。でもさっきの口振りからして会長はやる気みたいですね」


 雷牙が口元に小さく笑みを浮かべると、龍子も口角を上げる。


「当然。一応強化試合の話が持ち上がってるのは、極楼閣(きょくろうかく)摩稜館(まりょうかん)に……轟天館(ごうてんかん)かな」


「轟天、ですか」


 瑞季が少しだけ驚いたような表情を浮かべる。


 雷牙はその名前に覚えはあったが、なぜ瑞季が驚いているのかまではわからない。


「轟天館とはなにかあんのか?」


「そうだな。玖浄院が育成校の中でも名門であることは知っていると思うが、轟天館もまた玖浄院と同等レベル言われている」


「世間じゃ東の玖浄、西の轟天なんていわれてるからねぇ。お師匠さんはなにも言ってなかったの?」


「いやぁ、いきなり玖浄院につれてこられて試験受けて受かったもんで特になにも」


「……それもなかなかすごいけどね。まぁ簡単にいうとウチと轟天は折り合いが悪いんだよ。ライバルみたいな感じって言えばわかりやすいかな」


「今回の話は轟天の方からですか?」


「うん。珍しく向こうから。向こうの生徒会長ちゃんは心底嫌そうだったけど」


 龍子はクッと可笑しげに笑うものの、ある一点を見てからピタリと表情が固まってしまった。


 段々と冷や汗のようなものまで出ているので、二人が何事かと視線の先を見ると、二人も思わず表情を固めてしまった。


 そこにいたのは、完全仕事人モードに入っている生徒会の副会長、土岡三咲だった。


 どうやら時間になっても龍子が戻らないのでやってきたらしい。


 表情は怒っているようには見えないが、威圧感は凄まじいの一言である。


「あ、あーそろそろ時間ダッタカナー?」


「ええ。片付けていただきたい仕事がたくさんありますので。そ! う! きゅ! う! に生徒会室に戻っていただけると幸いです」


「は、はーい。ワカリマシター。じゃ、私はこれで行くね。後でまた選抜メンバーと学生連隊のメンバーで鍛錬するから、メールは確認しておいてね」


 龍子はそれだけ言うと三咲と共に修練場から出て行った。


 残された雷牙と瑞季はそれぞれ顔を見合わせてから大きく溜息をつく。


「とりあえず俺たちも寮にもどってメシにするか」


「ああ、そうしよう」


 二人もまた修練場を後にして寮へと戻っていく。


 時間的には昼を少し過ぎた位だ。食堂もそこまで混みあってはいないだろう。






 食堂では相変わらず雷牙が凄まじい勢いで料理を平らげ、次々に皿の山を作っていく。


 その様子を瑞季は玉露茶を飲みながら眺めているものの、彼女の表情はどこか険しい。


 元凶は、雷牙の横に陣取っている人物である。


「あ、雷牙さん。口元が汚れています。私が舐めて取ってさしあげ……」


「どわあああ!? やめろ! 拭くならティッシュとかで拭け! つか、お前にやられなくてもできるっつの!」


 さすがの雷牙も顔を赤くしてたじろぐものの、過激は発言をした張本人、長いブロンドの髪の少女、レオノア・ファルシオンは「そんなぁ」と心底残念そうな声を上げる。


「せめて指で拭ってそれを舐めるのは……」


「せめてもへったくれもあるか。過激すぎんだっての。そういうのは結婚してから好きなだけやれ」


「プロポーズですか!?」


「違ぇわ! なんでお前の思考回路はすぐにそっちに直結してんだ!?」


 雷牙は大きく否定しているが、レオノアは満足げに笑っている。


 その様子がやはり面白くないのか、瑞季は普段あまり見せないぶすくれた表情をしている。


「ったく……。俺とお前の許婚話はとっくに昔に決着が付いてるだろうが」


「ええ、許婚話はそうですね。しかし、私が雷牙さんを好いていることには変化はありませんから」


「……マジでナチュラルにそういうことをいえるお前ってスゲェと思うわ」


「ありがとうございます。では結婚してください」


「お友達でよろしく」


「……んんッ!!」


 流石に見かねたのか瑞季が軽く咳払いをした。


 雷牙も彼女に向き直ると、やや汚れていた口元を自分で拭う。


 途中「あぁ! もったいない!」という変態的な声が聞こえたが、気にするのはやめておこう。


「……私たちは戦刀祭の話があるんだが、君ははいつまでいるんだ、レオノア」


 少しだけ睨むように彼女はレオノアを見やった。


 だが、レオノアはそんなことまったく意に介した様子もなく返す。


「もちろん、お話が終わるまでです。それに私も雷牙さんと週末の予定を立てなければいけませんから」


「週末の? ……どういうことだ、雷牙」


「はぇ!? えーっと、レオノアと週末……週末……あ、アレか!! お前のお袋さんと話すやつ!」


「はい! 家に来て親に挨拶となればそう! それはプロポーズですね!!」


 瞬間、瑞季の額に青筋が立ったのを雷牙は見逃さなかった。


 だからすぐさまフォローをいれる。


「いやいやいや! ただ昔話を聞かせてもらうだけだろうが。俺の母さんとお前のお袋さんの話を!!」


「……チッ」


「おい、なんで今舌打ちしたよ。勝手に事実を捻じ曲げようとすんな」


 視線をさげるレオノアに雷牙は呆れたような声をもらす。


 そのまま瑞季の様子を確認すると先程までの青筋は立っていない。


「そういえば君たちの母は親交があったと言っていたな。なるほど、そういうことか」


「わかってもらえたようでなによりだ」


 とりあえずホッと胸を撫で下ろす雷牙。


 どうやら嵐が起きるのは避けることができたようだ。


「ではとりあえずレオノアの話は後に回すとして、『私たちの!』話をしようか」


「お、おう……」


 若干『私たちの』あたりが力がこもっていたが、気にしてはいけないのかもしれない。


 レオノアを見るとなぜか悔しげにしている。


 結果、先に行われたのはこれからの鍛錬の方向性などの確認といった雷牙たちの話で、その後にレオノアの家に雷牙が行くという話しになった。


 だが、どちらもかなり白熱し、雷牙が解放されたのは三時間もあとになってしまった。


 白熱した原因はもちろん、瑞季とレオノアである。

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