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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
82/421

5-2

 剣閃が奔り、火花が舞う。


 激しい剣戟は会場にいる人物全ての視線を集めていた。


 歓声はほとんどなく、静寂の中で繰り広げられるのは、戦闘狂と女帝の戦い。


 息つく暇なく切り結ばれる光景は、観客の生徒達を驚かせるには十分だった。


 互いに笑みを浮かべた雷牙と龍子は、さらに剣閃を重ねていく。


 瞬間、一際大きな剣戟音が響くと同時に、雷牙が距離を取った。


 頬からは僅かな出血。


 しかし、それも治癒術で即時回復させて雷牙は笑みを強くした。


 途端、先ほどまで静寂が蔓延っていたアリーナに割れんばかりの歓声が響く。


『な、なんという戦いでしょう! いえ、生徒会長はもちろんすごいのですが、それ以上に綱源選手!! 実力の差を感じさせない見事な立ち回りです!! 痣櫛選手との試合とまったく引けを取りません!!』


 実況も僅かに声を上ずらせて驚いているが、観客席からもちらほらと上級生の声が聞こえてくる。


『すげぇな綱源のやつ! 氷を使ってないとは言えあの会長と殆ど互角じゃねぇか!』


『というか、前よりも強くなってない!? 短期間であんなに成長するもん?』


『どっちもマジになって霊力を使い始めたら、アリーナがやばいんじゃねぇか? てか、もしかすると会長の氷だって効かない可能性だってワンチャンあるぜこれ』


 観客席の声は雷牙の勝利を予感させる声もあったが、当の雷牙はあまり楽観的ではなかった。


 実況や観客は先ほどの一連の剣戟を見て、互角だと思っているようだが、冗談ではない。


 ――アレが互角? まさか……。


 思わず肩を竦めたくなりながらも、雷牙は視線の先でこちらをジッと見ている龍子に視線を送る。


 涼しい笑みを浮かべる彼女の顔には汗の一滴すらない。


 対して雷牙は浅いとはいえ頬に傷が入った。


 遊ばれている。


 想像していた通り。


 彼女との実力の差は歴然。


 繰り出した剣閃はフェイントすらも看破されて全て打ち払われた。


 その全てを余裕綽々の笑みで対応してくるのだから恐れ入る。


 あれだけ長い刀を僅かな霊力操作だけで驚異的な速度で振ってくるその様は流石としか言いようがない。


 しかもまた彼女は氷の力を使ってすらいない。


 これだけの実力差、並大抵のことでは埋められるはずがない。


 しかし、雷牙の口元にあったのは以前として楽しげな笑み。


「……最高じゃねぇかよ」


 唇を僅かに舐め、フィールドを蹴る。


 霊力で強化された脚力で、一気に間合いに入った雷牙はそのまま袈裟懸けに斬り下ろす。


 長刀の間合いの内側に入っての斬撃は、確実に龍子を捉えている。


 はずだった。


 刹那、龍子の姿が霞んだかと思うと、ヒュオン、という戦慄の音と共に、鼻先ギリギリを鈍く光る刃が擦過していく。


「いい速度と思い切りだけど、まだ足りないね」


 咄嗟に防御の構えを取ると、氷霜の刃が兼定を襲った。


 立て続けに放たれた剣閃を何とか回避しつつ、剣閃を全て跳ね除ける。


 僅かに後退はしたが、傷は負っていない。


 苦しい状況にあることに変わりは無いが、雷牙の口元から笑みが消えることはなかった。


 先ほどの頬に一撃を貰った。


 だが、今回は貰っていない。


 あの速度に僅かだが体が慣れ始めたのだ。


「嬉しそうだね」


 視線の先では龍子が氷霜を構えた状態でいる。


「なにか掴めそうかな?」


「そうっスね、まぁそれなりには」


「ふぅん。じゃあこんなのは、どうか、な!」


 瞬間、全身に悪寒が奔った。


 突発的にその場から飛び退くと、雷牙が立っていた場所に霊力による斬撃が駆けた。


 あれは、雷牙が得意とする、霊力を圧縮して放つ技だ。


「君だけが使えるわけじゃないんだよ?」


 声は、すぐ背後から聞こえた。


 悪寒が走ることすらなく、冷たい感覚だけが背筋を抜けた。


 濃厚な殺気に思わず体が硬直しそうになるものの、自身の心を奮い立たせる。


 死の予感を感じた雷牙は、うつぶせになるように屈む。


 同時に、頭の上を刃が通っていく。


 なんとか回避することができた。


 が、それで安堵している暇は無い。


 足に霊力を練り上げて、そのまま距離を開けつつも、今回はその場で止まらず、逆に龍子目掛けて駆ける。


 龍子へと真っ直ぐ向かう雷牙は、ニヤリと口角を上げる。


 ――まったく、どうかしてたぜ……。


 龍子も雷牙が回避後すぐさま攻撃に転じるとは思っていなかったようで、その顔には僅かに驚きの色があった。


 だがそこは学内最強。


 驚くのも一瞬であり、すぐさまカウンターを放ってくる。


 上段からの一切迷いの無い振り下ろし。


 直撃すればダメージは確実。


 本来なら回避なり、防御なりの行動を起すだろう。


 しかし、雷牙はそれをしない。


 それどころか、兼定から片手を放し、振ってくる刃に向けて掌を伸ばした。


 瞬間、雷牙の掌に長刀の刃がめり込んで切断される――。



 ――ことはなかった。



 長刀は雷牙がしっかりと握りこんでいたのだ。


 けれども無傷というわけではない。


 刃は掌の半分以上に食い込んでおり、血が滲み始めている。


 雷牙の掌は淡い光が宿っており、霊力が集中していることが見て取れる。


 手が斬りおとされなかった理由がこれだ。


 霊力を高密度に圧縮することで、僅かにだが斬撃の力と速度を緩和させたのだ。


 とはいえ痛みがなくなるわけではないため、雷牙の表情も僅かに曇るものの、相変わらず笑みだけは消えていない。


 すぐさま龍子は掴まれた長刀を引こうとしたものの、それは許すわけにはいかない。


「……アンタを――」


 長刀を握りこんだ雷牙は、ギン、と強い光が宿る眼光を龍子に向ける。


「――アンタを倒すために、怪我しないようにするなんて考えが甘かった。調子に乗りかけてたぜ」


「面白いけど……おっかないなぁ。その必死さ」


 実力が劣っているのは当然。


 戦闘経験も、試合経験も、すべてにおいて彼女に劣っている雷牙が今出来ることは、唯一勝っていることを最大限に活かすこと。


「ラァッ!!!!」


 気合いの声と共に、雷牙の剣閃が走る。


 しかし、刀は龍子の体ギリギリで透明ななにかによって阻まれる。


 周囲の温度が僅かに下がった。


 雷牙は瞬時に理解した。


 氷の防御、彼女の周囲に浮かぶ反射と防御を司る極小の氷。


 氷霧が発動したのだ。


 途端、雷牙の腹部に氷塊が叩き込まれ、そのまま空中へと打ち上げられた。


 痛みを堪えてなんとか着地しつつ、氷塊を喰らった腹部と、ブランと垂れ下がっている掌を治癒術で癒す。


 その速度、わずか数秒。


「やっぱり、今のところ雷牙くんの能力で一番厄介なのはその治癒術だよねぇ」


 龍子は鬼哭刀についた()()()()()()()告げてくる。


 既に周囲には拳大の大きさの氷塊や鋭利な氷柱が浮かんでいる。


 そしてその奥。


 彼女のすぐ近くには氷霧がきらきらと光を反射して煌めいているのが見えた。


「いよいよだな……」


「さぁて、ここからは第二ラウンドって感じかな。頑張ってね雷牙くん。期待してるから、さ!!」


「上等ッ!!」


 兼定を構えた雷牙は全身から霊力を溢れさせる。






「……綱源の戦い方は、非常に危険な戦い方だな」


 声を漏らしたのは観客席の一角で、他の生徒会役員と共に座っている勇護だった。


 バトルフィールドで繰り広げられる雷牙と龍子の試合は、どう考えても龍子が上回っている。


 観客席からは実力をうまく図れていない生徒達が互角などと言っているが、それは間違いだ。


 実力の差は歴然。


 最初の剣戟で互角のように見えたのは、龍子があえて力を抜いていたからだ。


 しかし、勇護が気にしているのは、狂気すら感じる雷牙の戦闘方法だ。


「あの戦い方では体がいくつあっても足らんぞ」


「ですが、あの戦い方は彼にしかできない戦い方でもあります」


「普通はできないからね。あの速度の治癒術とか」


 勇護の意見を否定するように告げたのは、三咲と一愛の二人だ。


「現役の刀狩者でも、あの速度で傷を治せるひとはそうそういない。十分脅威でしょ」


「綱源くんも会長との実力差があることくらいわかっているでしょう。だから、自分が唯一会長に勝っているであろう治癒術と、莫大な霊力を駆使しての戦い方を選らんだんですよ」


「確かにあの霊力はヤバイっスもんねー」


 実際に雷牙の莫大な霊力をもろに喰らって、一撃で昏倒した士はなんともいえない表情を浮かべている。


「さすが喰らったことあるヤツが言うと説得力がちがうよね」


「うっさいわ。けど、霊力がでかいだけじゃあ……」


「ああ。武蔵には勝てない」


 バトルフィールドでは雷牙と龍子が再び剣戟を交えている。


 雷牙の治癒術とあの莫大な霊力は勇護からしても、羨ましいものだ。


 実際、霊力だけを比べるなら雷牙と龍子の差はかなりのものだろう。


 だが、龍子はその差を圧倒的な戦闘センスと、経験で全てカバーするはずだ。


 厳しいことをいうようだが、今のままでは雷牙の勝利は限り無く薄い。


 それを現すかのように、視線の先では、剣閃から発生した鋭利な氷が雷牙の体を切り刻む。


 すぐさま治癒する雷牙ではあるものの、やはりあれだけでは勝てない。


「……その意地は認めるがな……」

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