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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
66/421

2-5

 瑞季はお茶を一口含んでから凛とした声で問う。


「雷牙。君は学生連隊についてどう考えている?」


「どうって、まぁ俺らみたいなライセンス持ってない学生にも斬鬼の対処が出来るようにするってんだから、いいんじゃね?」


 大都市部での斬鬼発生率は高い。


 育成校を卒業した生徒が全員刀狩者となるわけではないことを鑑みると、ハクロウの判断は妥当な判断だとも言える。


 無論、学生に任せるというリスクも考えているのだろうが、人命を助けるためには少しでも多くの人手が必要なのだろう。


「私もそれに関してはいいとは思っている。お前のような生徒が他にもいる可能性はありえるからな」


「……否定できねぇ」


 実際、雷牙は斬鬼と遭遇したら、鬼哭刀が無かったとしても、戦いに挑む自信がある。


 完全に蛮勇かもしれないが、戦えるだけの力を持っているのに逃げ出すことはしたくない。


 それは瑞季も同じだろうと、彼女を見やるものの、瑞季は硬い表情をしていた。


「なんか気になることでもあんのか?」


「……ああ、いくら許可が下りているとはいえ、ライセンス未取得者の私達が安易に戦っていいものかと思ってな」


「別にいいんじゃねぇの? 長官から直々に許可されてるわけだし」


 雷牙は電子許可証をつまんでみるものの、瑞季は「うーん」と小さく唸っている。


「あの場では連隊入りを承諾はしたんだが、一部の学生はこの事実を知ったら反発するんじゃないかという懸念があるんだ。ライセンスを持っていないのに活動して、お咎めもなし、だったらライセンス取得試験なんて必要ないんじゃないか、とな」


「言われてみればそうだけど、そういうのはお前の気にしすぎなんじゃねぇか? 俺も師匠には斬鬼と戦うなって言われてるけど、結局それ破って戦ってるし」


「それを言われると、確かにそうだな……」


「ハクロウ自体も人手不足ってのは理解してるみたいだし、そこまで変に気にしたってしゃーないだろ。まぁこの学生連隊に入っててライセンス試験が免除になるとか、そういうのだと反感もありそうだけど、免除にはならない感じだったじゃねぇか」


 龍子からも許可証の効力は絶対ではないといわれているし、あくまで限定的な戦闘許可というだけだ。


 それに、彼女の話の中には、ライセンス免除などの特別視をするような内容はなかった。


「うん? そういやライセンス持ってる先輩達は普通に活動してんのか?」


 あまりに気にしたことはなかったが、ライセンスを持っているということは、斬鬼と戦っても問題はないはずだ。


「それは当然だろうな。三年生で刀狩者を目指している人の多くはライセンスを取得している。中には実力を買われて指名されることすらあるそうだ」


「ふぅん、じゃあとりあえず俺たちもライセンスをさっさと取らないと自由には動けないってことか」


「そうなるが、今の私達が突破すべきなのは、明後日の試合だろう」


 湯飲みの中で温くなったお茶に新しくお茶を注ぐ瑞季に言われ、雷牙も「そうだった」と僅かに笑みを零す。


「レオノアと見舞いからしばらくたつが、何か良い対策は思いついたか?」


 小首をかしげて問う瑞季に対し、雷牙はというと僅かに視線をそらしていた。


「まぁ色々あれやこれや考えてみたんだけどよ。結局俺は治癒術が得意なわけだし、それを使って即時回復しながら距離をつめるのがいいかなーってよ」


「辻先輩の風の防御はどう崩す?」


「それは、霊力を乗せた斬撃でズバッと……?」


「ようはゴリ押しというヤツか。まぁ君らしいといえばらしいが、そううまく行くとも思えないな」


 ふぅ、と嘆息する彼女に、雷牙はカチンと来たのか、ジト目になって彼女を見据える。


「な、なんだ?」


「いやー。そこまで仰るのなら、お前にはしっかり策があるんだろうなぁって思ってよ。で、どうなんだ? 会長に対してなんか対策考えてんのかよ。属性的にはお前最悪だろうが」


 雷牙のいうことも最もである。


 水の属性を持つ瑞季に対し、龍子はその水すら凍らせることの出来る氷の属性だ。


 しかもその氷は燃え盛る炎すら凍てつかせることが可能なシロモノだ。


 覚醒にいたったばかりの瑞季が勝つのは、かなり難しいのではないだろうか。


「そうだな。相性的には最悪と言って良い。だが、私も水圧で攻撃するばかりが手段じゃない」


「ってことは新技か?」


「さて、どうだろうな。しかし、一切気を抜くつもりは無い。会長は元々水の属性を扱っていた。弱点も、優位性も全て熟知しているはずだ」


「だったらなおことやばいんじゃ」


「確かに実力の差は大きいだろう。だが、楽しみなんだよ」


 羊羹を口に放り込んだ瑞季の表情が笑みに変わった。


 その笑みは、雷牙が見せるものと同じもの。


 自身の強さを高めるため、更なる強者へと挑む者のそれだった。


「……俺も大概だけど、お前もかなりヤバイと思うぜ」


「案外君のがうつったのかもしれないな」


「んなわけねぇだろ」


 肩を竦めた雷牙は、お茶を一気に飲み干す。


 急須を持ってみるともう空になっており、羊羹ももう残っていなかった。


「そろそろ頃合か。話し合いっても、大したこと話してねぇけど、よかったのか?」


「かまわない。……まぁ目的は他にもあったわけだし……」


「なんか言ったか?」


「あぁいや、なんでもない。じゃあ今日はこれで帰る。明日も一緒に鍛錬をするか?」


「そうだなぁ……」


 最近は瑞季と二人で鍛錬をすることが多かった。


 だから、明日も二人で鍛錬しようかと、雷牙は考えていたが、少し悩んだ後かぶりを振る。


「いや、やめとく。明日は個人個人で鍛錬しようぜ。もしかしたら決勝で当たる確率だってあるんだからな」


 少しだけ挑戦的に口角を上げると、瑞季もそれに答えるかのように薄く笑みを浮かべた。


「わかった。では明日はそれぞれが鍛錬をするということにしよう。明後日の試合、負けるなよ。雷牙」


「お前もな、瑞季」


 どちらも準決勝。負けたとしても、戦刀祭出場は確実だ。


 だが、彼らは決して負けてやるつもりは無い。


 やるからには、徹底的に、それこそ精根尽き果てるまで戦うのみだ。


 互いにそれぞれの健闘を祈り、深夜のお茶会は終了となった。





 雷牙との軽いお茶会を終えた瑞季は、女子寮の廊下を歩いていた。


 すると、彼女はおもむろにグッと拳を握り締め、小さくガッツポーズを取る。


「嬉しそうだねぇ」


 不意にかけられた声に、瑞季は弾かれるようにそちらを見やる。


 視線の先にいたのは、なにやら面白げに笑っている舞衣だった。


「なんだ、舞衣だったのか……」


「なんだとはなによー。で、その様子だと雷牙との密会はうまくいったわけだ」


「み、みみみ、密会じゃない! ただのお茶会だ。明後日は試合だし、その対策立て的なものをだな……」


「あーはいはい。そんな真っ赤になってゴニョゴニョしてる時点でそんなの口実なんて丸わかりでーす。本当は雷牙と二人っきりになりたかったんでしょー?」


「う……」


 図星を突かれ、瑞季は何歩かたじろぐ。


「下手に取り繕おうとするからダメなんだってば。……それにしても何でアンタみたいなお嬢様が雷牙に惚れてるんだかねぇ」


 舞衣は瑞季をじっくりと観察しながら小首をかしげる。


「い、いやまだ恋愛感情と決まったわけでは……!」


「いやいやいや、さすがにそれは無理があるでしょーよ。だってアンタ、雷牙が他の女の子といるとあからさまに不機嫌になるじゃん。特にレオノア」


 大きなため息をつきながらいう舞衣の指摘は完全に当たっていた。


 かつては親同士が勝手に決めた許婚という仲だけあって、二人の距離はかなり近い。


 特にレオノアから雷牙へのアプローチはものすごいのだ。


 雷牙も雷牙でそれを回避しようとはしているものの、根が人の頼みやお願いを断れない性質なのか、結局レオノアと二人きりで動いていることが多い。


 そういうところを見てしまうと、なんというか胸の辺りがモヤモヤして、理不尽な怒りすら湧いてきてしまうのだ。


「隠せてると思ってるみたいだけど、クラス全員皆知ってるわよ。というか雷牙にもそれっぽいことは言ってるわけでしょ?」


「あ、あぁ。だが、まだこの気持ちがはっきりとした恋愛感情なのかわからないから、答えが出たら言おうと思っている……」


「うーわ、完全な生殺し状態じゃん。瑞季って天然S?」


「そ、そんなことはない! 私も今の状態は雷牙に失礼だとは思っているんだ。しかし、こういうのはその、初めてなことだから……」


 両手の人差し指をつんつんと合わせながら、時折俯く瑞季の顔は耳まで赤くなっていた。


 その様子に舞衣は、やれやれと呆れた様子でもう一度大きなため息をつく。


「まぁ当事者じゃないから、なんでもいいけどさ。あんまり雷牙を待たせるのもよくないと思うから、さっさと伝えた方がいいよー。あ、そうだ、生徒会長からのお話ってさ――」


「――それに関してはノーコメントだ。たとえ舞衣とはいえ、話せない」


 一瞬にして瑞季の雰囲気が変わった。


 顔はまだ赤いものの、纏う雰囲気は非常に冷徹で、一切の冗談も許さないと言った風だ。


 舞衣も気迫に圧されたのか、苦い表情を浮かべる。


「あー、流石に口を滑らせたりはしないか……。ごめん、今のは忘れて」


「すまないな。では、私はこれで、舞衣も早く寝た方がいいぞ」


 瑞季はそれ以上は何も語らず、くるりと踵を返して部屋に戻っていく。


 決して今回の学生連隊については話を漏らすわけにはいかない。


 別に学生連隊の話が白紙に戻るからではない。


 連隊の話をすれば、もしかすると舞衣や玲汰、レオノアたちなど他の友人に危険が及ぶ可能性がある。


 だから、どんなに親しくても、話すわけには行かない。




 部屋に戻っていく瑞季の後姿を見送りながら、舞衣は「ふぅ……」と息をついた。


「アレだけ口が堅いってことは、やっぱそれなりに機密度が高いってことだよねぇ。あそこまで隠されると、知りたくなっちゃうんだなぁこれが。ジャーナリストの血ってヤツかなー」


 舞衣の両親はどちらもジャーナリストとして生計を立てている。


 母は国内専門、父は海外専門でどちらか一方が家にいないことなどザラだった。


 だからと言って両親のことを嫌っているわけではない。


 寧ろ尊敬しているといっても良いだろう。


 真実を追い求めるその姿は、今もかっこいいと思っている。


 物心ついた時からそんな両親の姿を見てきたからか、舞衣自身、なにか知りたいことが出来てしまうと、とことんまで調べてしまう。


 それが禁止とされていることであっても、調べずにはいられないのだ。


「表立っては動けなさそうだから、マークはしといた方がいいかなー。二人にはちょっと悪いけど……」


 すぐにでもあふれそうになる好奇心を抑えつつ、雷牙と瑞季の動向を探ることを決めた舞衣は、部屋へ戻っていく。






 深夜。


 殆どの生徒が眠っている中で、龍子はなにやら端末を操作していた。


 ホロディスプレイにうつっていたのは、今日の雷牙の試合だった。


 僅か数秒で決着がついたあの試合を、龍子は何度も何度も見返していた。


 通常速度で再生したり、スーパースロー再生、コマ送りなど様々な方法で試合の様子を繰り返し見ている彼女は、口元に笑みを浮かべる。


「一見すると、ただ霊力で壁を作ったようにも見えるけど、やっぱりアレは別物か……」


 面白げに笑う龍子は、映像を一時停止する。


()()()()()には至ってないみたいだけど、その片鱗は出始めてるかな」


 一時停止されたのは、撃ち出された士の雷撃が雷牙の身体に到達した直後のシーンだった。


 殆どの生徒は、今日の雷牙の試合で膨大な霊力を放ったことに注目しただろう。


 しかし、龍子が注目したのはその前だったのだ。


 雷撃は雷牙の身体に到達すると同時に、爆裂しており、その形を保てなくなっている。


 パッと見た感じでは、雷撃が多すぎる霊力に触れて霧散しているようにも見えるが、龍子にはわかっていた。


 あれは、()()()()()()()()()()()()()()


 そもそも、雷牙は霊力を盾としたわけではないのだ。


「さぁて、タイミング的にはどこで覚醒するかな。明後日の試合か、それとも……」


 ニッと笑う龍子は心底うれしそうだ。


 抑えられない剣気と霊力で、僅かに彼女の髪が逆立ち始める。


「……まぁ近いうちに完全に目覚めるのは間違いないかもね。気長に待とうかな」


 あまり急ぐべきではないと考えたのか、彼女は端末の電源を落とし、ベッドに横になった。


「楽しみにしてるよ。雷牙くん」

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