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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
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2-1 学生連隊

 一日のスケジュールが終わり、生徒達はアリーナから引き上げていく中、雷牙たちの姿はアリーナの中にある簡易休憩所にあった。


 瑞季、雷牙の二人が戦刀祭への出場を確実なものにしたため、祝勝会でも開かれそうなものだが、彼らの表情はどうにも硬いものであった。


 特に雷牙は眉間に皺をよせて「うーん……」と唸ったり、息をついたりしている。


「なぁ雷牙、本当になんも覚えてないのかよ」


「……いや、ぼんやりとだけど、自分が霊力を使って攻撃したってことは覚えてる。ただ、なんか記憶に靄がかかってるってか、はっきりしねぇんだよ」


 ガリガリと頭を掻いた雷牙は大きなため息をついた。


 話題はやはり最終戦のアレである。


 試合終了後、なんとか状況を飲み込んだ雷牙であるが、様子がおかしかったことは皆にはわかっていたようで、詳しく話をするため、ここにあつまった。


「昨日、レアちゃんを助けるとき後遺症的なやつー?」


「それはないと思う。精密検査でも異常はなかったし……あー、でも……」


「心当たりがあるようだな」


 瑞季が冷淡とも取れる声を投げかけた。


 怒っているというわけではなさそうだが、表情は硬い。というか訝しげだ。


 正直あまり話したくはないが、この際仕方あるまいと、雷牙は大きなため息をつく。


「まぁ大したことじゃないんだけど、昨日、昼飯食おうと思って部屋から出ようとしたら、目の前真っ暗になってぶっ倒れた。んで、そのまま夜の九時前後まで気を失ってた。まぁ、よくあることだよな?」


 苦笑い気味に言ってみるものの、返ってきたのは皆の大きな溜息。


「そんなことがよくあってたまるか。まったく、なんで相談しないんだ……」


「寝てたとかならまだわかるけど、気を失うって相当よ? しかもその口振りだと検査もしてないでしょ!」


「そうだけど、体に異常がなかったわけだしいいかなーって思ってさ」


「異常なら今起きているだろうに……」


 瑞季が再度大きなため息をついた。


 異常は確かに起きている。


 レオノアの試合が始まって少ししたら、段々と意識に靄がかかったようになり、そのままの状態で気がついたときには、自分の試合が終わっていた。


 レオノアがどうやって負けたのか、いつ自分がバトルフィールドに入場したのかがまったくと言って良いほど思い出せない。


「覚えてるのは霊力を使って勝ったことだけって……やっぱりどっかおかしいんじゃねーん?」


「そうだな。明後日も試合はあるわけだし、保健室でもう一度検査した方がいい。ちょうどレオノアの様子も見に行くという話にもなっていたし、ついでに行くぞ、雷牙」


「いやいやいや、大丈夫だって! 今は本調子なわけだし、一晩眠れば大概のことは治ってるって師匠にもいわれてるし!」


「実際一晩経ってみてそんな調子なんだから治っていないじゃないか。ほら、行くぞ!」


 瑞季に強引に立たせられ、脇をガッチリとホールドされる。


 彼女を見ると、逃しはしないという決意じみた表情をしている。


 できることなら、あの準淫行教師である晶には会いたくないのだが、この拘束から逃れることは至難である。


 というか、彼女も知ってか知らずか若干肘などに柔らかいものが当たっているのだが、よいのだろうか。


「……なに鼻の下伸ばしてんのよ」


「だっ!? の、伸ばしてねぇし!」


「うん? 顔が赤いぞ?」


「あ、赤くねぇ! 普通だ普通!!」


 意識させられ、若干頬を赤らめる雷牙に、瑞季は不思議なものを見るかのような視線を送る。


 腕をホールドされているためか、非常に顔が近い。


 見れば見るほど彼女は美人で、あきらかに常人離れしている。


 思わず喉がなりそうになるが、なんとか堪える。


「あー、こほん。青春してるところいいかな、君達」


 不意にかけられた聞いたことのある声に皆で振り返ると、薄く笑みを浮かべた生徒会長、龍子の姿があった。


 僅かに驚いた素振りを見せると、彼女は肩を竦める。


「そう警戒しないでって。なんで君達私を見ると警戒するのかな? お姉さんちょっとショックだよ」


「いやだってアンタ、いつも気配なく出てくるもんだから……」


 雷牙も瑞季も、他の友人達もそれなりに鍛えてはいるため、ある程度人の気配などはわかるはずなのだが、彼女の場合それが無いのだ。


 まるで突然そこに現れたかのように音も無く、気配もなく出現する。


 同じ人間のはずなのに、その得体の知れない体さばきに皆が警戒するのも当然だろう。


「それはごめんね。子供のころから鍛えてるからいつの間にか染み付いちゃってて。癖ってわけじゃないのよ?」


「まぁ、別にそこまで気にしてるわけじゃないから良いけど。何か用っスか?」


「うん。綱源くんと、痣櫛さん。ちょっと生徒会室まで来てもらえる?」


 突然の呼び出しに、雷牙と瑞季は思わず顔を見合わせる。


「ここでは話せない用事ですか?」


「ちょっとね。皆には申し訳ないんだけど、少しの間だけ貸してくれない?」


 おねだりをする子供のように顔の前で手を合わせた彼女は軽く腰を折った。


 その様子を見た雷牙と瑞季はそれぞれ頷いてから、舞衣達に視線を送る。


「悪いけど、先に保健室行っててくれるか」


「会長に頭を下げられては行かないわけにもいかないからな」


「はいよ。りょーかい、それなりに一応赤芭先生には私から報告しておくから、あとでちゃんと検査受けなさいよ、雷牙」


「わーってるって。……瑞季、とりあえず一回離してくれ」


「ん、ああ。そうだな」


 あの柔らかさと温もりはもう少し堪能しておきたかったが、いつまでもくっ付いてるわけにもいかない。


 先に行く舞衣達を見送り、雷牙と瑞季はもう一度龍子を見やる。


「わるいね、みんなでレオノアさんの所に行くところだった? それとも……」


 龍子の笑みが優しさのあるものから、こちらを見透かしたようなニタリとした含みのあるものへ変化した。


「……綱源くんの体調の再検査にでも行こうとしてたり?」


「会長、なんでそれを……?」


「勘って言ったら信じる?」


 彼女の場合、それが本当っぽいので困る。


 しかし、龍子は雷牙達の様子を堪能したのか、「うそうそ」と楽しげに笑った。


「さっきゲートに通じる通路で綱源くんとすれ違った時に、なんか心ここにあらずって感じだったからね。本人は覚えてないと思うけど」


 確かに彼女の言っていることに雷牙は心当たりが無い。


 だが、その口振りからしてどこか会っているのは確かなようだ。


「反応できなかったなら、すみません。ちょっと、ぼーっとしてたみたいなんで……」


「ぼーっと、ねぇ……。ま、それに関しては歩きながら話そうか。二人ともついて来て」


 踵を返した龍子に続くように、雷牙と瑞季は一度視線を交わしてから歩き始める。


 アリーナを抜け、校舎を目指す間、三人は他の生徒達から視線を送られていた。


 今年の五神戦刀祭の選抜メンバーである三人がそろい踏みなのだから、注目されるのは必然か。


「綱源くん、注目されてるねぇ」


 前を歩いていたはずの龍子がいつの間にか近くに来ていた。


「俺なんスか?」


「そりゃそうよ」


「生徒会の役員を一撃で倒したのだから、注目されるのは当然だろう」


「……記憶があいまいだから、どういう反応すればいいのかわからねぇ……」


 唸った雷牙は首をかしげるものの、ふと龍子が「やっぱり」と雷牙のことを見透かしたような視線を向けた。


「綱源くん、かなりぼーっとしてたもんね。目も虚ろだったし、沖代くんを倒したのは、殆ど無意識だったってわけだ」


「まぁ、そうなりますけど。もしかして会長の言ってる話って、そのことですか?」


「うーん。半分正解って言っていいかな。本題は別にあるけど、それに関しては歩きながら消化しちゃおうか」


 龍子は少しだけ前に出ると、こちらに向き直って後ろ歩きをはじめる。


「昨日、君に言ったこと覚えてる?」


「昨日……。あ、もしかして大量の霊力消費ってやつですか?」


 確かに昨日龍子から耳打ちに近い状態で、そんな忠告を受けたことを思いだす。


 彼女も何度かうんうんと頷いているのでそれで間違いはなさそうだ。

 

「ということはやはり、雷牙の身に起きた異常は霊力の過剰使用ですか?」


「うーん、それも考えられるけど、昨日の内に気を失った?」


「はい。九時間だったか八時間くらいですけど」


「ならその線は違うかな。となれば、残るは一つだね」


 龍子は前から来ていた生徒を後ろ歩きのまま避けると、雷牙のことをビシッと指差して告げた。


「ズバリ、君がアレだけぼーっとしてたのは、君自身の闘争心や戦闘欲、戦いへの渇望が許容範囲を超えちゃったのが原因だね。ようはキャパオーバー」


「キャパオーバー……?」


「あぁ、なるほど」


 本人はいまいち理解が及んでいなさそうだったが、隣で聞いていた瑞季は納得したようで、雷牙をジトッと見つめていた。


「雷牙。君は戦うことが好きだろう?」


「まぁ、師匠から戦闘狂って言われるくらいには……」


「それに関しては……まぁ特に触れないが。ようはこれまでの戦いの中で、君の中の戦闘欲を受け止めていた器を欲が溢れてしまったんだ。だから、心が戦いのことだけを考えるようになり、それ以外の感情が全て排除されたんだろう」


「さっすが痣櫛さん。よく見てるね。ようはそういうこと、まぁ原因は今日の試合だけじゃなくて、入学した後の積み重ねもあったんだろうね。それが今日で爆発した感じ」


 確かに、言われてみれば思い当たる節がないわけではない。


 思い返せば入学以後、濃い戦いもあったし、昨日は命のやり取りもした。


 それを考えれば、龍子の言っていることも正しいのだろう。


 修業時代は毎日が宗厳との戦いであったため、ある程度満たされていたから、このような症状が出ていなかったと考えられる。


「もっともらしくいっちゃえば、ストレスかな。こればっかりは精密検査じゃわからないよねぇ。その辺りは、これから改善していく必要があるかもね。試合を見るたびにあんな風になってたら身体がもたないし」


 彼女はくるりと振り返り、再びこちらに背中を向けた。


 そのまま階段を上がっていると、雷牙は思い出したように龍子に声をかける。


「あの、会長。俺の対戦相手だった、沖代先輩は……」


「だいじょーぶ。大きな傷だったけど、命に別状はないし、保健室に運んでる時には意識があったし。かなり悔しそうだったけどね」


「そう、ですか」


「うん。でもどんな形であれ勝ちは勝ち。戦刀祭の切符は君が掴んだんだから、間違っても返上しようなんて考えちゃだめだよ?」


「わかってます」


 勝利を返上しようとするなど、戦った相手に対する冒涜にも等しい。


 だからそんなことだけはしない。勝ったのは変えられない事実なのだから、素直に勝利を受け止めて戦刀祭に挑むつもりだ。


 一応、後で彼のお見舞いには行こうと思ってはいるが。


「それで、武蔵会長。私達を呼んだ本当の理由とは?」


「慌てないあわてない。もう一人呼んであるから、それに関しては生徒会室についてからねー」


 瑞季の問いをはぐらかしつつ、進む彼女の先を見ると、生徒会室と書かれた室名札が見えた。


 生徒会室の前まで行くと、その扉の異質さに驚かされる。


 他の扉が殆ど自動ドア式なのに対し、目の前の扉は、木製の古風な装飾がなされた引き戸。


 ドアハンドルは金で出来ており、ここだけどこかの城や屋敷の扉のようだ。


「玖浄院自体は増改築をしてるけど、生徒会室だけはこういう扉にしてるんだって。残った話は中でゆっくり、お茶でも飲みながらってことで」


 龍子がハンドルを握って扉を引くと、ガチャン、という音と共に扉が開かれた。


「ようこそ、生徒会室へ――――」

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