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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
59/421

1-4

 ダンとフィールドを蹴った瑞季は、抜刀術の態勢のまま駆ける。


 いいや、正確に言えば駆けているわけではない。地面から数センチだけ浮いた状態で跳躍しているのだ。


『痣櫛選手、一直線に土岡選手へ向かっています! しかし、背後からは水槍が迫ってきていますが、どうするつもりなのでしょうか!!』


 背後からはフィールドを削りながら迫る水槍の音がしている。


 だがそんなことは関係ない。


 狙うのは三咲ただ一人。


「私と水槍と直線に並べて、ぶつけようって魂胆ですか? 甘いですね!」


 視線の先で三咲がニッと笑うと、彼女の背後にもう二柱の水槍が現れた。


 今までの試合で使用してきたのは二柱のみだったが、やはり余力を残していたようだ。


『おおっとここでさらに二本の水槍が現れました! さすが生徒会副会長! さぁ完全に挟まれた痣櫛選手、この場をどう切り抜けるのでしょうか!!』


 実況の声に瑞季は反応せず、ただひたすらに三咲との距離を詰めていく。


 瑞季が得意とするのはミドルレンジとクロスレンジだ。


 その間合いに入るまで、足を止めてはならない。


 瞬間、新たに現れた水槍が勢いよく襲ってくる。


 放たれた水槍に瑞季は内心で舌を巻いた。


 水槍は僅かに緩急をつけて放たれたのだ。


 しかも、一見するとすごくわかりづらいほどに。


 確実にこちらの呼吸を乱しに来ていることに気が付いた瑞季に対し、誰もが回避運動を取ると思っていた。


 だが彼女は止まるどころか、そのまま水槍へ突っ込んでいく。


『お、おいおい! なにやってんだ痣櫛のヤツ!』


『あのまま突っ込んだらミンチだぞ!?』


 思いもよらぬ行動に観客席からそんな声が聞こえた。


 明らかに常軌を逸した行動だろうが、瑞季からすればこれでいい。


 横に飛び退けばどうしても体の動きが止まって、背後から抉られる。


 では上に逃げるのが吉か?


 それも否だ。


 上などに逃げれば身動きのできないところを串刺しにされる。


 水流を使って回避できなくはないが、完全にスピードを殺してしまう。


 ではスピードを殺すことなく、攻撃を回避するのに最善なのはどこか。


 答えは簡単だ。前に進めばいい。


「なにを……!?」


 三咲の顔に疑問が浮かんだ瞬間、瑞季の姿が消えた。


 同時に、彼女の背後と正面から来ていた水槍が激突し、けたたましい音を立てながら水が爆裂した。


 細かく飛び散った水は白い水煙となって視界をさえぎるものの、次の瞬間、瑞季が水煙の中から飛び出した。


 体には傷一つない。


 三咲の行動は正確ではあったが、ミスがあった。


 彼女の攻撃はそれぞれの水槍のタイミングをあえてずらしていた。


 瑞季の呼吸と回避のタイミングを乱れさせる意図があったはず。


 それこそがミスだ。


 タイミングをずらしたということは、それぞれの槍の着弾には僅かな差があるということ。


 瑞季はそれを見逃すことなく、跳躍した状態で急停止し、そのまま前足の力を抜いてグンッと進んだ。


 言うなれば彼女が行ったのは縮地というヤツである。


 滑り足とも言うらしいが、ある程度の距離を一気に詰められる特殊な歩法だ。


 これこそが水槍の着弾の寸前に瑞季が消えたように見えたカラクリだ。


 しかし、タイミングがずれていて隙があったとはいえ、地面の顔が擦れるほどの超低姿勢からの復帰はそう簡単なものではない。


 これは幼少の頃から自身を鍛え上げ、戦闘のセンスを磨いてきた瑞季であるからこそできる芸当である。


 水煙から出た瑞季と三咲の間合いは、瑞季の刃が届く距離にまで縮まっていた。


 僅かに口角を上げた瑞季の鬼哭刀、虎鉄の鞘から、一滴の雫が落ちる。


「――痣櫛流(あざくしりゅう)殺鬼術(さっきじゅつ)三之刃(さんのじん)抜刀(ばっとう)(かた)――『黒百合(くろゆり)』――」


 瞬間、甲高い音と共に、鋭利に研がれた高圧の水流が放たれた。


 本来、黒百合は相手に肉薄した状態で放つ技であり、今の瑞季の距離では三咲には届かない。


 しかし、流水の属性がその間合いを縮めている。


 技自体は痣櫛の家に伝わる剣術だが、瑞季の持つ流水の属性が加わり、抜刀術は高圧の水流を放つ砲台へと変化した。


 放たれた水流はエキシビジョンで見せたときよりもはるかに鋭くなっている。


 高速で放たれた抜刀により、水流は瞬く間に三咲へと迫り、彼女の体を貫く――。



「――螺旋の水槍(カラドボルグ)――」



 凛とした声が響いたかと思うと、バチン! という音と共に、迫っていた水流が地上を離れ、空中へと強制的に弾かれた。


 続いて自身の背後から迫る威圧感に、彼女は足に霊力をこめて大きく飛び上がる。


 途端に、今まで立っていた場所に四柱の水槍が激突。


 爆裂音が響く中、瑞季は空中で体を捻って態勢を整えながら着地する。


 水槍の着弾点には、抉り取られたあとがふかぶかと刻まれていた。


 視線を三咲に戻すと、彼女の背後では五柱の水槍が彼女の指示を待つかのようにそびえている。


 やはり生徒会役員だけはある。一筋縄ではいかないということか。


『す、すさまじい攻防戦です! 水槍を駆使する土岡選手もすごいですが、高圧水流を放つ痣櫛さんの身のこなし! さすが一年生首席というべきでしょうか!! しかし、両者の間合いはまたしても開いてしまっています。このままでは痣櫛選手、再び不利となってしまいます!!』


 確かに、実況の言うとおり、この間合いは不利だ。


 一応水弾を飛ばすなどもできるが、あれはまだ完璧ではない。使えるとしても牽制くらいにしかならない。


 それにたとえ放ったとしても、あの水槍に貫かれて終わってしまう。


 近づいて技まで放ってしまったので間合いも計られている。


 第一に、彼女自身が同じヘマをする人間にも見えないので、状況はやはりこちらが不利だ。


「さすがですね、痣櫛さん。今のは私も肝が冷えました」


「そちらも。生徒会副会長という任を背負っているだけのことはありますね。今までの相手とは段違いです」


「ありがとう。ですが、これでも会長にはまだまだ及ばないんですよ。あの人の強さはまさに次元が違う強さですからね」


 クスクスと笑う三咲の言葉に、瑞季も内心で頷いた。


 玖浄院のみならず、育成校の生徒会長とはバケモノぞろいと聞いているが、彼女の場合はダントツと言ってもいいだろう。


 もはや学生の域を超え、プロですら太刀打ちできるかあやしいものである。


「その会長に副会長として任命されたからには、私も負けられません。なので、これで終わりにします」


 瞬間、彼女の纏う空気が一気に変質した。


 チリチリと肌を焼くような、刺すような気迫。


 彼女の鬼哭刀の周囲に五柱の水槍が集束していく。


 螺旋回転をしながら集束するそれは、やがて一本の長大で鋭利な槍へと変形した。


「貴女の強さに敬意を持って、私の最大の技で倒します。怪我はするかもしれませんが、貴女ほどの実力者なら死にはしません」


 高速で回転する水の刃に触れれば瑞季といえどひとたまりもないだろう。


『これは確か、去年の東西交流戦で披露した『螺旋の水槍(カラドボルグ)』の発展形! 『重螺旋の大滅槍(ロンゴミニアド)』です! 掠っただけでも戦闘不能は確実のこの大技、回避仕切れるのでしょうか!!』


 見ただけでもあれば危険だと判断した理性が、頭の中で激しく警鐘を鳴らしている。


 まずは避けるべきであると。


 確かに避けるべきではあるが、本当にそれでよいだろうか。


 ついこの間までの瑞季ならば間違いなく回避を優先していただろうが、彼女は今回避しようと思わなくなっていた。


 ふと脳裏に浮かぶのは、いつも自由に戦場を駆け回る雷牙の姿。


 瑞季は彼のあの型に嵌っていない闘い方が好きだ。


 時に無茶、無謀、危険とも取れる闘い方をする彼だが、なんやかんやで勝利をものにしている。


 その姿は痣櫛流を受け継いだ彼女からすると羨ましく思えるのだ。


 別に痣櫛流が嫌いなわけではない。ただ、あんな風に自由に戦えれば気持ちがいいだろうと思うのだ。


「行けー!! 瑞季ーーーーーーッ!!!! 真正面からぶっ貫いちまえー!!」


 ふと、耳に彼の声が入る。


 観客席を見ると、立ち上がった雷牙が拳を振るっていた。


 ざわめきの中でも彼の声だけはよく聞こえた。


 ふっと、瑞季は笑みを浮かべると再び霞の構えを取る。


「真正面からぶっ貫くか、そうだな。そうしてみよう!」


 呼吸を整え、キッと三咲を見据えると、彼女も準備が整ったのか、鬼哭刀を引いた。


 同時に長大な槍が弓を引くように絞られていく。


「これで、終わりです……!!」


 声と共に水槍が勢いよく突き放たれる。


 フィールドを砕きながら迫るそれは、全てを呑み込む渦巻きの如く荒々しい。


 望むところだ。


 そちらが荒々しく勝利をもぎ取るつもりならば、こちらはそれを射抜き、勝利を掠め取ってみせよう。


『あ、痣櫛選手動きません!! ただジッと構えを取ったままです! 勝負を放棄してしまったのでしょうか!?』


 ふぅと息を突き、迫る槍を見据える。


 範囲はあるが、動きはさきほどと比べれば遅い。


 これだけの大技だ。放った三咲にもそれなりの負荷と、隙が生じるはず。


 それこそが狙い目だ。


 虎鉄の刀身が水気をおび、切先には小さな水球が現れる。


 しかしただの水球ではない。


 よく見ると、その中では幾重もの水流が乱回転していた。


 ミドルレンジとクロスレンジが得意である瑞季であるが、ロングレンジができないというわけではない。


 彼女にも対ロングレンジ用に磨いた技が一つある。


 全てを呑み込む螺旋の槍を見据え、瑞季はさらに腰を落とす――。




「――――痣櫛流(あざくしりゅう)殺鬼術(さっきじゅつ)六之刃(ろくのじん)――『大千本槍(おおせんぼんやり)』――――!!」




 放たれたのは一切の迷いのない、澄み切った突き。


 同時に、切先に浮かんでいた水球からは、超高音の音と共に、白い光の筋に見えるほどに圧縮された超高圧の槍が放たれた。


 槍は螺旋回転する水槍に呑み込まれるものの、限界近くまで圧縮された水は、螺旋の中でも崩れることなく、ただひたすらに突き進んでいく。


 真正面から貫く。


 彼女はまさにそれを行っているのだ。


「くっ!?」


 三咲の顔が歪んだ。


 どうやら彼女も現状を把握したようだが、もう遅い。


 痣櫛流の中でも最速の突き技で放たれた槍は、巨大な槍の中を穿ち、ついに貫通する。


 すぐさま防御に入ろうとした三咲だが、大技を使った反動からか動きが鈍い。


 そのまま完全に避けることは叶わず、彼女の脇腹に細い水槍が風穴をあけた。


「いっ!!」


 抉られた痛みに彼女の顔が苦悶に歪むと同時に、瑞季の眼前にまで迫っていた巨大な水槍が綻んだのを瑞季は見逃さなかった。


 フィールドを蹴った瑞季は、鈍った螺旋の槍の中に飛び込む。


 全身を霊力で覆い、ダメージは最小限に抑える。


 顔が僅かに切れたが気にすることはない。今果たすべきは、目の前にある勝利を掴み取ること唯一つ。


 バシャン! と水を撒き散らしながら槍の中から瑞季が飛び出した。


「まだ……まだぁ!!」


 三咲が手を伸ばし、水槍を操作しようとしているものの、もはや間に合わない。


「ここは、私の間合いです……!!」


 言い切ると同時に、通り抜けざまに勢いに任せた斬撃を放つ。


 痣櫛の剣術など微塵も入っていない。ただ力任せに振った斬撃。


 けれど、そんな斬撃であっても、三咲を戦闘不能に追い込むのは十分だったようで、


 背後からは、三咲がフィールドに倒れる音が聞こえた。


 控えていたレフェリーがフィールドに上がり、彼女の容態を確認すると、実況室に向けて首を振った。


『ただいま、レフェリーから戦闘続行不可能の判定がでました!! 試合終了ですッ!! 勝者は一年生、痣櫛瑞季選手ッ!!!! どちらも譲らぬ一進一退の攻防! 実に見ごたえのある試合でした!!』


 実況の宣言が聞こえ、瑞季は大きく脱力すると虎鉄を鞘に納め、ポッドに運ばれていく三咲に対して頭を下げた。


 小さく息をついてから、頬にできた傷跡を指の腹で撫でると、じわじわと回復が始まる。


 他の傷跡もゆっくりとだが治癒が始まっている。


 雷牙のように瞬時に回復とはならないが、これくらいの傷ならば保健室に行く必要もないだろう。


 彼女は治癒術を発動しながら、観客席にいる雷牙に向けて拳を向ける。


「……私は勝ったぞ。次は雷牙、君の番だ」






『えー、それではこれにて午前の部を終了させていただきまーす! 第三試合、第四試合はお昼休憩を挟んで行いますので、午後一時ごろにお集まりくださーい! それでは、解散!』


 実況の声に、生徒達はそれぞれ席を立って早めに昼休憩に入る。


 だがそのざわめきも今の雷牙には遠く聞こえていた。


 視線の先では、瑞季がこちらを見て拳を掲げている。


 雷牙にはその意図が理解できた。


 ――私は勝った。だったら君もここまで上がって来い。


 恐らく彼女はそんなことを思っているのだろう。


 望むところだ。


 すぐさまそこに行ってやる。


 第一試合の興奮が治まっていないというのに、第二試合であんなものを見せられ、雷牙の中では闘争心が沸々と湧き上がってきていた。


 抑え切れぬほどの戦闘に対する渇望が、心を埋めつくさんとしている。


「雷牙さん!」


「はぇ!? な、なんだレオノア、呼んだか?」


「はい。皆でお昼にしましょうってずっと呼んでいたんですけど、大丈夫ですか? ぼーっとしていたようですが……」


 周りを見ると舞衣や玲汰達がこちらを怪訝な表情で見ていた。


「あ、あー……大丈夫だ。すごい試合だったから興奮しちまってさ。それで、昼か。じゃあ、行くか。瑞季も誘っていくんだろ?」


「うん。まぁあんた達は試合があるからそんなに食べないほうがいいと思うけど」


「いいや、しっかり食うぞ。飯はパワーだからな」


 雷牙は立ち上がると、レオノア達よりもさきに歩き出す。


 話はなんとか合わせたものの、雷牙には彼女らの言葉がまるで聞こえていなかった。


 レベルの高い試合を連続で見せられた雷牙の体は、戦闘をただひたすらに求めていた。

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