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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
57/421

1-2

 属性覚醒とは五つの属性が存在し、覚醒にいたった殆どの人間は、これに該当する。


 しかし、覚醒に至ったものの中でもごく稀に、五属性に当てはまらない属性に目覚めるものがいる。


 五属性と差別化を図るため、これらは番外属性(ばんがいぞくせい)と呼ばれ、稀有な能力だ。


 その中の一つとして分類されているのが、氷結であり、龍子の持つ属性である。


 アリーナにいた誰もがそれに驚き、声を出せずにいるなか、いち早く反応したのは実況に笛縞だ。


『た、武蔵選手の属性は氷結!? ち、ちちち、ちょっと待って下さい、確か少し前までは流水だったはずでは……!?』


 彼女の言っていることは間違いない。


 確かに前まで龍子の属性は流水だった。


 しかし、ある時彼女に変化が起きた。


「後天的な番外属性への変異か……」


「ご名答」


 低い声で洩らす勇護に龍子は笑みを浮かべて返す。


『こ、後天的な変異って、そんなの可能なんですか!?』


 バトルフィールド内の音声は実況席で拾っているため、それを聞いた笛縞が若干上ずった声を発した。


「可能、というかそういった例がいくつかある。番外属性への覚醒は大きく分けて二つ。最初から番外属性として覚醒するか、一度五属性を経由して変異するものがある。……お前は、後者だな」


 睨むような視線を向けてくる勇護に対し、龍子は小さく頷いて返す。


「いつからだ?」


「去年の五神戦刀祭の後あたりだったかなぁ。突然氷をだせるようになったんだよね。隠してたつもりはないよ。もしかして怒った?」


 コテンと首を傾げてみると、勇護は眉間に入っていた皺を僅かに緩め、口角を上げる。


「いや、怒ることはない。ただ、この試合が面白いものになりそうだと……思っただけだッ!!」


 燃え上がる炎を背に、彼は動いた。


 迎え撃つように氷を纏った長刀を構える。


 炎対氷。


 相反する二つの力同士が衝突した。





 視線の先で激突する二人に雷牙達は目を奪われていた。


 炎熱を操り、持ち前のパワーで龍子をねじ伏せようとする勇護。


 氷で覆われた長刀を振るい、冷気を纏いながら勇護から放たれる剛撃を簡単にいなしていく龍子。


 くり出される剣閃はどちらも必殺。


 剣戟の音は今までの試合のどれよりも重く、激しい。


『す、すげぇ……!』


 観客席の誰かがこぼした。


 龍子の氷結という稀有な力にも驚いたが、彼女と殆ど互角の戦いをしている勇護も凄まじい。


 今までは殆ど一瞬で方をつけていた龍子にあそこまで追いつくとは、やはり五神戦刀祭ベスト四の実力は伊達じゃないといったところか。


 炎を纏うだけではなく、火球や火炎を纏った剣閃など多種多様に攻めていく勇護の戦いぶりは、多くの生徒が驚愕するには十分だった。


『なんなんだよあの二人……。三年生ってもまだ学生なのに、ここまで実力があるのか!?』


『会長はまだわかるよ。けど、近藤先輩ってあんなに強かったの……!?』


『ああ。パワーもスゲェけど技術も半端ねぇ!』


『これはもしかすると近藤先輩が勝つんじゃねぇか!?』


 試合開始前は龍子の勝利を予想していた生徒達も予想を変え始めていた。


 それは、雷牙の友人達も同じだったようで。


「最初は会長に驚いたけど、近藤先輩の攻撃がほんとにやべぇな! 互角じゃんか!」


「そうね。少しでも油断すれば会長でも叩き伏せられそう」


「響く音がすごいもんねー。というか、あの攻撃受けて折れない会長の鬼哭刀もすごくなーい?」


 それぞれが口々に勇護の実力を再認識するものの、雷牙だけはどこか難しげな表情を浮かべていた。


 確かに、勇護は強い。


 これは断言できる。


 実力が高いであろう三年生の中でもレベルは高い方だろう。


 けれど、今さっき陽那が言っていた『折れない鬼哭刀』というのが引っかかる。


 アレは天下五匠に数えられる刀工が打った鬼哭刀だ。強度がその辺りの鬼哭刀と段違いだといわれればそれも納得がいく。


 とはいえ、仮に刀の強度が強いからと言ってもここまでパワーで押し切ってきた彼の力がここまで通じないものなのだろうか。


 二人の闘いを投影しているホロモニターを睨むように見つめる雷牙の中には疑問がつのる。


「雷牙さん? どうしたんですか、怖い顔をして」


 ふとレオノアに声をかけられて我に返る。


「あぁいや、ちょっと嫌な予感っていうか変な感じがしてさ」


「というと?」


「うーん、なんつーかな。確かに一見すると互角にも見えるんだけど、会長にはまだかなり余裕があるように見えたからさ」


「気のせいじゃねーの? ホラ、見てみろって今なんて寧ろ近藤先輩が押してるぜ?」


 話に入ってきた玲汰に言われてモニターとフィールドに視線をやると、勇護が重さと鋭さのある、炎を纏った斬撃を放った。


 龍子はそれを防ぐものの、やはりパワーでは勇護が勝っているのか、衝撃で後退させられていた。


 今の動きを見れば、確かに押しているのは勇護にも見える。


 けれど雷牙は見てしまった。


 刀を受け止めた瞬間、龍子が口元に笑みを浮かべていたのだ。


 なにかを狙っているような、そんなゾクリとする笑みだった。


「ほらなぁ! いやー、これはマジで会長負けるかもだぜ?」


「いや、会長はまだ本気を出してないと思う……」


「考え過ぎだってーの! 第一、会長の属性が番外って言っても、氷と炎じゃ炎が勝つに決まってるだろ」


 玲汰の言うことも一理ある。


 アニメやゲームにおいても氷は炎に対して負ける描写が多くなされている。


 しかしそれはあくまでフィクションの話だ。


 炎は理論上、どこまででも温度を上げることができるらしい。


 確かにそれを考えると氷は不利なのかもしれないが、本当にそうなのだろうか。


 そんな単純に片付けてしまっていいのか。


 雷牙が再度モニターを見やると、彼は何かに気が付いたのか目を見開いた。


 モニターにはちょうど龍子の全身が映るようになっており、鬼哭刀も映っている。


 問題なのはその鬼哭刀、氷霜だ。


 あの刀には龍子が氷を纏わせていて、常に冷気を発している。


 が、氷霜からは一度も氷がはがれていない。


 しかも一滴の水の滴りもない。


 それは炎を纏った勇護と剣戟を重ねた時も同じだ。


 玲汰の言うとおり、氷が炎に勝てないなら、全部とは言わないまでも、一部が解けていてもおかしくはないはず。


 それにここにいても炎の熱さを感じるほどだ。バトルフィールドはかなりの高温になっているはず。


 だのに、氷霜が纏っている氷は微塵も解けていない。


 同時に驚いたのは、炎を使っている勇護が自身の熱で発汗しているのに、その余波を受けているはずの龍子には発汗の様子がまるでない。


 常に涼しい顔をして剣戟を繰り広げている。


 だが、それに誰も気が付いていない。


 皆、勇護が押しているとばかり思っているようだ。


 恐らくこの事実に気が付いているのは、今戦っている勇護自身と、控え室にいる瑞季くらいだろう。


「……やっぱり互角なんかじゃねぇ。この試合、近藤先輩は負ける」






『す、凄まじい攻防です! 間違いなく今回のトーナメント中もっとも激しい試合です!! これが生徒会役員同士の戦い! 私殆ど実況を挟めずにおりました!!』


 実況の声が響き、観客席からは歓声が勇護と瑞季の下に届く。


『そして凄まじいのは近藤選手の猛攻! まるで息をつかせぬ攻撃の嵐に、武蔵選手も防戦に徹しているように見えます! これはやはり属性の相性的に近藤選手に軍配があがるかもしれません!!』


 属性の相性。


 氷と炎、普通は炎に軍配が上がるはず。


 それは勇護も予想はしていた。


 無論、そんなもので押しきれるとは考えていなかったはず。


 だからこその炎を宿した猛攻だった。


 しかし、結果はどうだ。


 龍子の刀の氷は砕けることはおろか、僅かに溶ける様子すら見せない。


 それに気が付いたのは剣戟の時だった。


 炎とアレだけ密着しておきながら、まるで解けない氷に一種の恐怖すら感じていた。


 もしかするとあの猛攻はその恐怖を拭い去るものだったのかもしれないと、勇護は僅かに笑みを零す。


「……やはりお前は、強いな。武蔵……!!」


 滴る汗を肩口で拭う。


 猛攻に加えて、炎の熱さも相まれば汗をかくのも当然だ。


 彼の前にいる少女は全くと言っていいほどに汗をかいていないが。


「勇護くんもね。あれだけの大怪我からここまで磨くなんて、普通は出来ない」


「世辞はやめろ。お前にはまるで通用していないじゃないか」


「お世辞じゃない。本当にすごいと思っているし、私も本気で受け止めなきゃ何度刀を折られてたかわからないよ」


 彼女に笑みはなく、瞳は真剣な様子だ。


 こと戦闘に置いて、彼女は相手を馬鹿にするようなことはしない。


 時折見せる笑みも、あくまで闘いを楽しんでいるだけであり、侮辱などはないらしい。


 完全な外道でもないかぎり、どんな相手であっても賞賛する。


 瞬殺した相手選手に対しても、彼らが保健室で目を覚ました後は、常にアドバイスをしていたらしい。


 だから彼女のあれは世辞などではないのだろう。


「……だから、勇護くんの努力に対して、私も全力で答える」


 スッと彼女の瞳に暗い影が宿ったかと思うと、今まで感じていた気迫とはまったく異なった、鋭く洗練された剣気が飛んできた。


 まるで喉下に切先を突き立てられているかのような感覚に、ゴクリと生唾を飲み込んだ瞬間。


 長刀を振りかぶった龍子が眼前に現れた。


 ただの身体強化だということはわかっているが、あまりにも速過ぎる。


「っ!!」


 咄嗟に判断した勇護は硬直せずに、すぐさまその場から飛び退いた。


 だが、半端な距離を取っただけはダメだ。


 彼女の得物は二メートル近い。


 普通の倍は距離を取らなくてはならない。


 バックステップで後方に一度跳ぶと、足裏からの炎の噴射でさらに距離を取る。


 着地した勇護はすぐさま顔を上げると、すぐさま火球を放って龍子の追撃に備えた。


 しかし、顔を上げた瞬間、彼は驚愕に顔をゆがめることとなる。


 ゴトン。と何かが重たい音を立ててフィールドに落下した。


 それは龍子の氷だ。


『こ、これは……!?』


 実況が驚きの声を上げる。


 それも無理はない。


 フィールドに落下した氷の中で凍結していたのは、いまさっき勇護が放ったはずの火球だったのだから。






『こ、こここ、これは一体全体どうしたことでしょうか!? 近藤選手の放った火球が武蔵選手の手によって炎ごと凍結させられています!! こんなことがありえるのでしょうか!』


 実況の声に観客席がどよめき、モニターには氷漬けになった炎が映る。


「炎を氷らせるって……マジかよ……!?」


「雷牙さんの言っていた嫌な感じとはこれのこと、ですか?」


 驚くレオノアに雷牙は小さく頷いた。


「さっき会長の鬼哭刀が映った時に氷が全然解けてなかったことに気が付いたんだ。これだけの熱がある中で、普通ありえるか? 雫の一滴さえ零れなかった」


「確かに言われてみれば異常だけど、炎を氷らせるなんて……」


「バケモンじゃん……」


 バケモンと称した陽那は間違ってはいない。


 目の前で戦っている武蔵龍子は、もはや学生の域を通り越し、ハクロウの斬鬼対策課の部隊入りは確実。


 まさしく達人、いいやそれを通り越して魔人の域にまで達していると言っていい。


 再び響いた剣戟の音に視線を戻すと、今度は龍子が攻め立てていた。


 先ほどまでは優勢に立っていたかのように見えた勇護が、今度は劣勢にたたされている。


 この時点で完璧に拮抗は破られた。


 同時に、一度拮抗が破られてしまえば、あとはペースを崩された方が一方的に攻められることになってしまう。


 火炎はもはや意味をなさず、勇護が放つ火球も、斬撃も、彼女の前では全て凍り付いてしまう。


 当然、隙も生まれ、なんとか回避を続けていた勇護に龍子の刀が届いた。


『あーっと、ここで武蔵選手の刃がヒット!! 近藤選手、利き腕の肩から出血しています!!』


 勇護の肩からは、血が溢れていた。


 クリーンヒットではないにしろ、それなりに深い傷だろう。


 しかし、もはや彼に打つ手は殆どないはずだ。


 利き腕を負傷したのだからさっきまでのパワーは出せないだろうし、炎すら攻略されてしまっている。


 大きな傷を負う前に降参を宣言するかとも思ったが、彼はそうしなかった。


 ふと勇護が炎の放出をやめたのだ。


 体内の霊力が切れたのかとも思ったが、それは違った。


 雷牙がピリッとした肌をつく感覚を覚えると同時に、勇護の持つ鬼哭刀から炎が溢れた。


 だが、ただの炎ではない。


 鬼哭刀が纏っていたのは、赤く激しく燃える炎ではなく、静かでありながら煌々と燃える()()()だった。

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