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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第三章 選抜されし者達
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プロローグ 期待と高揚

 朝早く。


 玖浄院生徒会長、武蔵龍子は校舎の屋上で通信を取っていた。


「昨日はありがとうございました。父さん」


『気にするな。だが、そう何度も使える手ではないことを良く覚えておけ』


 ホロディスプレイに映っているのは、顔に傷をつくった厳格な雰囲気を感じさせる男性。


 ハクロウ本部長官、武蔵辰磨であり、龍子の父だ。


 昨日開始されるはずだったトーナメント第四回戦は、選手の不足のため、急遽、龍子が辰磨に頼んで来賓を説得し、今日に延期されたのだ。


 来賓は、ハクロウの関連企業や、事業者、出資者や政治家といったそれなりに地位の高い人物達だ。


 彼らにも予定があるはずだが、ハクロウという世界規模の組織のトップに君臨する辰磨から言われれば、従わざるをえない。


「感謝しています。とりあえずこれで、選手全員が揃ってトーナメントを開催することができますから」


『そうか。……しかし、昨日の事件に首を突っ込んだのが、玖浄院の一年生だとはな』


「もう報告が?」


『ああ。対策課の隊長が到着した時には、全てが終わっていたそうだ。さすがに、綱源光凛の息子と言ったところか』


 普段あまり笑わない辰磨がクッと小さな笑みを浮かべた。


 綱源光凛。


 かつて父や母から何度かその名を耳にしたことがあった。


 曰く、ハクロウで最高にして最優にして最狂の刀狩者。


 かなり信頼されていた人物らしく、現在の隊長職に着いている者達の殆どが彼女のことを知っているらしい。


 そんな人物の息子、綱源雷牙は昨日友人であるレオノア・ファルシオンのその母、ヴィクトリアファルシオンを救うため、クロガネの構成員と激突した。


 一部始終を見たわけではないが、学校から凄まじい速さで駆けて行った彼を見たし、帰ってきた頃には霊力をかなり消耗していたように見えたのでおおむね間違っていないだろう。


「彼は今日の第四試合、生徒会の役員との対戦となっています。気になりますか?」


『いや、私はあくまで彼の母親の方に信頼を寄せていただけだ。彼とはまだ会ったことすらないし、どんな人間なのかもわからん。むしろ気になっているのはお前だろう?』


「……正解です」


 図星だったようで、龍子は少しだけ俯いた。


『でなければ、お前がトーナメントを延期にして欲しいなどと頼むわけがないからな』


 辰磨の言うとおりだった。


 トーナメントを延期にした理由は、選手が不足しているからというのは建前であり、実際は雷牙の実力を確認して起きたかったからでもある。


 無論、ここまでの彼の試合は全て見ているが、今まではやはり本気になっている試合がないと言っていい。


 唯一本気を見られたのは、入学式に行われたエキシビジョンくらいか。


「父さん。今日の試合で五神戦刀祭の選抜者のうち、四人が決定します。彼らには()()()を教えてもよろしいでしょうか」


 神妙な面持ちで龍子がたずねると、辰磨は静かに頷いた。


『構わない。といっても、()()についてはお前に全ての采配を任せた。私の許可など取らなくていい』


「わかりました」


『しかし、意外だな。お前はてっきり痣櫛の娘の方に興味を持つと思っていたのだが』


「もちろん彼女にも期待はしています。実力で言えば並の一般隊士以上でしょう」


 龍子は今のところ興味を抱いている人物のうちのもう一人を思い浮かべる。


 同じハクロウ七英枝族で痣櫛流殺鬼術の使い手、さらには一年生唯一の属性覚醒者、痣櫛瑞季。


 彼女のことも入学当初から興味を抱いていた。今日の試合で彼女が副会長を破ることが出来れば、次の試合で戦える。実に楽しみだ。


 けれど、それ以上に、雷牙に対する興味の方が大きいのだ。


 彼女の死後、父が無意識のうちに「綱源がいてくれれば……」と洩らしていたのは見たことがあるし、彼女の話題では決まって辰磨が笑う。


 普段厳格であるがゆえに、その反応が新鮮でいてならなかった。


 だからこそ、龍子は光凛に興味が湧いた。


 そして今年の新入生で綱源という姓を見たとき、全身に電撃が流れたような感覚を覚えた。


 彼女の子供だということはすぐにわかった。


 その瞬間から、龍子は思ったのだ。


 雷牙と戦ってみたいと。


 最初の段階では、すこしだけ裏工作をして最終戦で彼と当たるように設定しようと考えていたが、トーナメントに変更されてしまってそれは叶わなかった。


 しかし、これはこれで僥倖だ。


 案の定彼はトーナメントを着々と勝ち進んできている。


 このまま行けば、彼と当たるのは決勝だ。


 それまでの戦闘で経験を積み、さらにはクロガネの構成員との戦いで成長した彼と、決勝戦という最高のステージで戦える。


 グッと拳を握り締めると、思わず霊力が漏れ出しそうになるが、それをなんとか押し留める。


『さて、そろそろ切るぞ。今年もお前には期待している』


「お任せを。それでは」


 ホロディスプレイに向けて軽く腰を折った龍子に対し、辰磨は「ああ」と短く答え、通信を切った。


 竜子は端末をしまうと、屋上の端まで行って眼下に広がる玖浄院の敷地を見渡す。


 鍛錬に熱心な生徒は朝の鍛錬を始めているようで、人影をいくつか見つけた。と言っても数人程度だが。


 そしてその中に、彼女が注目している人物の姿もあった。


 思わず龍子は口元に笑みを浮かべると、届きはしないだろうが、静かに告げる。


「試合が楽しみだねぇ。綱源雷牙くん、君の実力、確かめさせてもらうよ」


 踵を返した彼女の瞳には、試合への期待と高揚感で満ち溢れていた。

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