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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第二章 異国の剣士
40/421

3-3

 信十朗がハクロウ本部に戻る頃には、空が少しだけ白み始めていた。


 警察官の殺害現場から引き上げた後は、ハクロウが独立して所持している検死場にて妻子の遺体と共に警察官の遺体を分析した。


 検死の結果、どちらの遺体にも共通していたのは、死体全体に微弱ではあったが、瘴気の反応があったことだ。


 瘴気はなにも斬鬼や妖刀が意図して出しているものではなく、斬鬼の呼吸や表皮から多かれ少なかれ発生している。


 意図的に瘴気を発生させる特殊個体もいるが、今回の場合はそれはないと信十朗は踏んでいた。


 仮に意図的に発生させていたなら、鐘魔鏡にもっと強い反応があるだろうし、周囲の住民達が健康被害を訴えるはずだ。


 第一に斬鬼の目撃情報もまるでなかった。


 部下達と共に周囲への聞き込みも行ったが、情報はまるで皆無。


「まるで、人間が斬鬼の力だけを得たかのような……」


 眠気覚ましに淹れたブラックコーヒーを飲みながら信十朗は朝日が照らし始めた新都を見やる。


 この街のどこかに、犯人だと思われる牧田靖男がいる。


 彼は生きた状態で捕まえなければならない。


 調べたが、彼の来歴はまったく平凡なサラリーマン。悪事を働いたこともなければ、若い頃に問題行動を起した形跡もない。


 同時に、刀狩者としての素質もまったくない。まさしくただの一般人だ。


 そんな人物がどうやってあんな残虐な方法で人間を四人も殺せる力を得たのか。


 間違いなく彼に接触した何者かがいる。


 表の世界ではなく、裏の世界、いわば闇の住人達が彼に対して何かを手渡した、もしくは力を与えたのだろう。


 闇の住人。その正体はわかっている。


 彼らの所属する組織の名は『クロガネ』。


 今から約三十年前に発足した彼らは、最初こそ名前を持たないそれこそ吹いたら消えてしまうであろう刀狩者優位主義を掲げる団体だった。


 しかし、それが十五年前から急速に組織を拡大していき、いまや世界中にその根を張り巡らせている、国際的な犯罪テロ集団となった。


 先月の人工妖刀事件の主犯格、新宮もそれに所属していた。


 彼のように、一種の危険な研究に手を伸ばし、学会やその界隈から除名及び追放された人間も存在する。


 恐らくクロガネは彼らを引き入れたのだろう。


 そしてその技術力を存分に振るうための場所を作ってやり、彼らは復讐や自身の技術力の誇示も含めてクロガネに技術を提供した。


 今回の事件もその技術力を使ったはずだ。


 不意に自室の扉がノックされ、扉の向こうから副官の声が聞こえた。


「失礼します。隊長、おられますか?」


「ああ。入っていいぞ」


 自動扉が開き、副官が頭を下げてから入室してくる。


「先ほどまで下の者達と、一般刀狩者に牧田の捜索を促したのですが……」


「目立った成果はナシか」


「はい。申し訳ありません」


「謝るな。皆を一旦休ませてから捜索を再開してくれ。夜通しでは彼らも疲れただろう」


 いくら刀狩者が優れた身体能力を持っていると言っても、肉体的な疲労は残すべきではない。


 これから朝になる。


 牧田が事件を起すにしても、人が多い時間帯に起すことはあまりないはずだ。


「斬鬼の反応はどうだった?」


「そちらもダメです。途中で完全に途絶えてしまっていて、追う事は不可能でした」


「そうか、わかった。お前も休んでくれ」


「ありがとうございます」


 副官は頭を下げてから部屋から出て行こうとしたものの、信十朗は彼を呼び止める。


「すまない。休んでからでいいから頼まれてくれるか?」


「なんでしょう」


「過去にハクロウ、もしくはハクロウに属する組織で、斬鬼や妖刀、霊力の研究をしていた者を調べてくれないか。私も調査するつもりなのだが」


 信十朗の頼みに副官は一瞬だけ驚いたような表情をするものの、すぐに頷いた。


「わかりました。仮眠を取らせていただいた後、調査します」


「ああ。よろしく頼む」


 今度こそ副官は部屋を出て行った。


 息をついた信十朗は端末を開くと、各部隊の隊長と副隊長、及び長官クラスがアクセスできるページを呼び出し、過去の研究者、技術者のプロフィールを調査していく。






『あーっと、ここで黒田選手ダウーン!! 綱源選手の一太刀が深く入ってしまったようです!』


 実況の声に雷牙は軽く息をつきながら背後を見やった。


 背後では片膝をついた大柄の男子生徒が胸の辺りを抑えている。


 トーナメント三回戦最終日。


 雷牙は二回戦で当たった陽那を下し、三年の黒田稔路とぶつかった。


 相手は三年生ということもあり、実力も高かったが、雷牙にとっては対処できないほどではなかった。


 持ち前の霊力による身体強化と動体視力をフルに活用し、黒田の剣閃を掻い潜ると、彼の肩から腰にかけてを斜めに切り裂いた。


 結果として今黒田はフィールドに膝をついている。


 レフェリーが駆け寄り、彼の身体状況を確認すると、首を横に振って戦闘続行不可能を現す。


『ここでレフェリーによる試合続行不可能の判定が出ました!! というわけでトーナメント三回戦、最終日を制したのは、一年A組、綱源雷牙選手ー!!』


 アリーナに歓声が響くと、雷牙も兼定を納めて医療用のポッドに投げ込まれた黒田に軽く頭を下げる。


 意識があるかわからなかったが、戦ってくれた相手には礼節を持たなければならない。


『あー、えっとそれでは皆さん少しの間静粛に願いまーす』


 実況が入ると、湧いていたアリーナが少しだけ落ち着き、ざわめきが少し聞こえる程度になった。


『はーいありがとうございまーす。今後の試合のアナウンスを少しの間させていただきます。トーナメント第四回戦は、土日二日間の休息日を設けた後、月曜日の一日を使って行いまーす。それ以降の試合は一日の休息日を設けた後に、四回戦と同様一日かけて行いますので、選手の皆さんはそのつもりで。

 また、四回戦からは学校外からの来賓の方々も来られるので、皆さん粗相のないようによろしくお願いいたしまーす! それでは本日の試合はこれにて終了! 来週までお元気でー』


 なにやら一昔前のテレビ番組の締めのような挨拶で実況が終わると、生徒達は皆ぞろぞろとアリーナから出て行く。


 雷牙も彼らに続くように、入場ゲートに戻るとそのまま他の生徒達と同様にアリーナを後にした。


 アリーナから出てしばらく歩いていると、不意に「綱源くん!」と声をかけられる。


 振り返ると、担任教師の愛美が手を振りながらこちらに駆け寄ってくるところだった。


「いやーよかった、見つけられたー」


「愛美先生、どうかしたんスか?」


「んー、いやどうかしたってわけじゃないんだけど、今から教室に来てもらえる?」


「いいっスけど……」


「よかったー。じゃあレッツゴー!」


 彼女に背中を押されるようにして教室へ連れて行かれる雷牙。


 道中、なにを聞いても「まぁまぁ」とか「いいからいいから」と適当にはぐらかされ、結局あっという間に教室まで到着してしまった。


「で、先生。結局なんなんスか?」


「まぁまぁ、それは入ってからのお楽しみってことで!」


 すると、自動扉がスッと開いて教室の中で押し込まれた。


 体勢を崩してよろめきながら教室に入ると、あまり予想していなかった光景が広がっていた。


 教室内にはA組の生徒が集まっていたのだ。


『お、綱源やっと来たなー!』


『遅いよー』


『今日の試合もかっこよかったよー!』


 などと投げかけられる言葉にあいまいな返事を返すと、背後から愛美に声をかけられた。


「みんなが四回戦まで勝ち上がった三人を祝いたいって言ってね。柚木さん主導で準備してたんだよ」


 教室内を見ると、ジュースを含め、パーティ用の料理やスナック菓子が並べられていた。


「はーい。それじゃあ主賓の三人が到着したことだし、とりあえず乾杯しましょうかー!」


 パンパンと愛美が手を鳴らすと、「うーい」と生徒達が若干だらけた動きでそれぞれのグラスを掲げる。


 雷牙も「はいこれ持って!」と近くにいた舞衣にグラスを渡され、そのまま音頭を取る愛美に釣られる。


「それでは一年A組から三人も四回戦進出者が出たことを祝って、カンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


 皆、なぜか優勝者が出たようなテンションだった。


 まだベスト八が決まっただけで、戦刀祭の選抜メンバーが決まったわけではないのだが。


 とりあえず、乾杯をしつつ、生徒の隙間に発見した瑞季とレオノアを発見し、彼女達のもとまでそそくさと移動する。


「おい、どうなってんだこれ」


「私と瑞季さんもついさっき連れてこられたばかりで……」


「有無をいわさずにグラスを持たされたんだ」


「お前等もか……。てか、まだベスト八が決まっただけだぞ?」


「だからだよ」


 答えてきたのは先ほどグラスを渡してきた舞衣と、今日対戦した陽那、そして樹に玲汰だった。


「ベスト八が決まったからこういうのを開いたの」


「四回戦を勝ち上がれば、戦刀祭への出場は確実だからねぇ。ここでリラックスするのと力をつけてもらおうってわけだよー」


「そうだぜー。三人の次の対戦相手はみんな強敵ばっかなんだからここで英気を養っておかねぇとな!」


 ニッと笑う玲汰は、フライドチキンにがっついていた。


 むしろ英気を養っているのはお前なのではないだろうか。


 だが、こちらのことを気遣ってくれたのは素直に嬉しいことだった。


「ありがとうございます。皆さん! 絶対に勝ち上がってみせます!」


 レオノアが非常に嬉しげな声で皆に向かって頭を下げる。


「ああ、感謝するよみんな。私も、戦刀祭に出場できるように全力を尽くす」


「まぁ、俺もやるからには全力で闘うさ。今日はまぁ、さんきゅーな」


 改めて感謝の言葉を口にするのはなかなか気恥ずかしかったので、視線は合わせなかった。


 すると、すぐ近くにいた陽那に脛をけられた。


「私をあんな風に負かしたんだから、絶対勝つんだよー」


「あんな風って、お前……。アレはお前の自爆もいいとこだろうが」


 大きなため息をつく雷牙であるが、それも無理はない。


 彼女との試合は二回戦と言うにはなかなかマヌケな終わり方だった。


 試合開始直後、陽那は自慢のスピードでフィールドを駆け回って翻弄してきたのだが、雷牙が適当に足を出したらそれに引っかかって盛大に素っ転んだのだ。


 結果、そのまま地面と熱いキスを交わし、フィールドを何回か転がった後に動かなくなってしまった。


 どうやら転がった時に運悪く頭を打って見事に気絶したらしい。


 結果、レフェリーに戦闘続行は不可能とされて、雷牙が勝利することになった。


「ああ、アレは酷かった」


「俺もまさかあんなもんに引っかかるなんて思わなかったしなぁ」


「うるっさいなぁ! スピード上げすぎちゃっただけだよー!」


 しみじみ呟く雷牙と樹に対し、ガルルと牙を向いた陽那が威嚇してきたので、とりあえずこの話題にはこれ以上触れないでおくことにした。


「ま、まぁ今日の試合のことは置いとくか……。レオノアは、アレか? お袋さんが来る日はわかったのか?」


「え、まさか雷牙さん。自らお母様に会って結婚の挨拶を!?」


「なわけねーだろー」


 もはや面倒くさくなってきたので投げやりな返事で返しておく。


 過剰に反応すると、彼女は妙に調子に乗ってしまう節があるので、これぐらいがちょうど良いのだ。


「そうですか……。ですが、母が来日する日にちはわかりました。日曜のお昼に到着するそうです。天候がちょうど回復するそうなので」


「そっか、よかったな。じゃあ俺が挨拶に行くなら、次の土曜あたりの方がいいか」


「結婚のですか!?」


「……そういや瑞季は親父さんに連絡してんのか?」


 無視することにした。


「あ、あぁ。さっき連絡したら、頑張れと言ってくれたよ。そういう君はどうなんだ?」


「そういやしてねぇな……。今夜辺りメールか電話でもしておくか」


「私との婚約のですか!?」


「だからちげぇわ! しつけぇなお前も!!」


 もはや見境がなくなっていたので、さすがに注意すると、レオノアは「はーい」と少しだけ不服そうにしながらも黙った。


 一度決闘をして断ったはずなのに、あそこまで食い下がってくるとは恐るべき娘である。


 大きなため息をついていると、別の生徒と話をしていた舞衣がこちらに声をかけてくる。


「三人ともー。新聞部の子達が少しだけ取材させてくれってー。答えてあげれば?」


「新聞部か……。どうする?」


「下手に断っても逆効果だろうから、取材を受けよう」


「では私も雷牙さんとの婚約のことを! しゅみましぇん……」


 まだ諦めていなかったレオノアの頬を片手でキュッとした。


 まったく、油断も隙もあったものではない。


 結局、ベスト八進出のお祝い会は夜まで続き、雷牙達は気持ちを新たに来週からの四回戦に闘志を燃やす。

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