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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第二章 異国の剣士
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2-1 選抜戦再開

 トーナメントは一日で五試合か六試合行われる。


 選抜者が決まるまでにかかる期間は凡そ、一ヶ月弱。平日の午後と土曜日の午前をトーナメントにあてている。


 生徒会役員の試合から始まったトーナメントは、特にこれといった問題もなく、着々と進んでいた。


 早いもので、トーナメント一回戦は今日を持って終わりを迎えようとしていた。

 

 一年A組の面々の一人を残して一回戦を終え、瑞季とレオノアは危なげなく勝利を納めたものの、樹はかなりのダメージを負いながらも辛勝。


 昨日行われた陽那の試合は、一年生同士の試合だったこともあり、相手は陽那のスピードについていけずに陽那の勝利。


 仲間内で残っている一人というのは、雷牙のことである。

 

 そして今日行われる試合は、雷牙の試合だ。

 

『さてさて、トーナメント一回戦も最終日となりましたが、まだまだ戦いは続きます! 今回の対戦カードはこちら! 皆さん大注目! 選抜戦で堕鬼(だっき)を下した一年生! 綱源雷牙選手! 続いて、二年E組、野中(のなか)(かおる)選手!!

 多くの一年生が散っていく中、勝利をおさめ続ける一年A組! 果たして綱源選手は前に試合を行ったクラスメイト達に続けるのか!?

 そして野中選手! 先輩として、なおかつ玖浄祭決戦(くじょうさいけっせん)での上位入賞者としてここは負けたくはないところ! 自慢の槍術で一報的な勝利を勝ち取ることが出来るのでしょうか!』


 実況を聞き流しながら雷牙は軽い足取りでバトルフィールドへ上がる。


 前に視線を向けると、槍というよりは薙刀を持った女子生徒、野中の姿がある。


 槍型や薙刀型の鬼哭刀は近年、徐々に使用人口を増やしている鬼哭刀のモデルの一つだ。


 ハクロウでも一部の刀狩者はこれを導入しているらしい。だが、それも当然といえば当然だろう。


 斬鬼に近づくということは、それこそ死に近づいているようなものだ。


 刀や剣の射程はせいぜいが一メートルあるかないか。対して、槍の射程は最低でも二メートル。斬鬼の鋭い爪や、妖刀の射程外から攻撃を仕掛けることすら可能である。


 刀狩者といえど人だ。出来ることなら比較的安全な範囲を保っていたいだろう。


 それゆえ、槍が浸透するのにさほど時間はかからなかった。


 師匠である宗厳の話では、鬼哭刀が開発された当初は、刀型よりも槍型を造ろうとする案が多かったらしいが、当時は霊儀石の加工技術が今よりも進歩していなかったため、実戦レベルに達することが出来なかったという。


 鬼哭刀で重要となってくるのは、霊力の伝達力だ。


 勿論切れ味も重要だが、霊力が伝達されなければ斬鬼の外皮を断つのは難しい。


 当時の槍はその伝達力が悪かったため、長く使用されなかったというわけだ。


 視線の先で野中がパフォーマンスとしてなのか、槍を手の中で回した。


 やはりトーナメントに選ばれただけはあり、技量はかなり高そうに見える。


 コン、回し終えた槍の石突がバトルフィールドを軽く打つ。


「君との試合、楽しみにしてたよ。綱源くん」


 はつらつとした笑みを浮かべる野中は、本当に雷牙との試合を楽しみにしていたようだ。


 雷牙も微笑を彼女に返す。


「俺も楽しみでした。槍使いと戦えるなんて、面白そうだったんで」


「フフ、面白いって感じる暇があるかな? 油断したら、腕ごと落とすよ?」


 瞬間、彼女の笑顔が人のよさげなものから好戦的なものに変わった。


 今の発言は決して冗談で言っているのではない。少しでも気を抜けば、本当に腕ごと落としにくるだろう。


 だが、そうではなくては面白くない。


 答えるように兼定を抜く。


『両者ともに準備が整ったようです! それでは試合……開始ぃ!!』


 試合開始のブザーが響き、観客の声も強くなった。


「セイッ!」


 開幕直後、仕掛けてきた野中は、腹部を穿つ強烈な突きを放ってきた。


 間一髪それを避けるも、刺突はとまることなく二撃、三撃と連続して襲ってくる。


 槍は基本的に突く武器だ。


 くりだされる刺突は、肉を貫くばかりか、骨も用意に貫通する。


 野中は槍の柄を長く持っている。


 この状況は非常に危険だ。


 突きに加えて、払い、斬りはもちろん、雷牙を跳ね飛ばすことも、叩き潰すことも可能。


 そのどれもが慣性の法則を十分に使うことができ、ただの払いでも驚異的だ。


「ホラホラ、避けてるだけが精一杯、かな!!」


 全ての攻撃を紙一重で避け続けていると、野中が挑発をかけながら突きを放ってくる。


『野中選手の突きのラッシュが止まらなーい!! 綱源選手、ひたすら避けるだけとなってしまっています。このまま押し切られてしまうのかー!?』


 確かに、このままでは防戦でいずれ集中が切れたときに一気に押し切られるだろう。


 だが、そんなことはさせない。


 ニヤッと笑った雷牙は、ラッシュの合間に出来た一瞬の隙を狙って、野中に肉薄する。


「間合いを詰めちまえば、こっちのもんだろ!」


 彼女は柄を長く持っていた。間合いを詰め、こちらの有効攻撃圏内に入れば、槍といえども手出しは出来ないだろう。


 雷牙は兼定を勢いをそのままに切り上げる。


 直後、腹部に鈍い痛みが走り、雷牙は体をくの字に折り曲げる。


「がっ!?」


「槍使いに対して間合いを詰める。確かに有効的だね。だけど、そんな隙をいつまでも放っておくわけがないでしょう?」


『あーっと! 上手くラッシュの合間に踏み込んだかに見えた綱源選手ですが、野中選手の膝蹴りがクリーンヒットォ!!』


 実況の言うとおり、雷牙の腹部、しかも鳩尾あたりには野中の足がめり込んでいた。


 彼女はそのまま槍の柄を真ん中辺りに持ち替えると、槍を回転させ、柄によるなぎ払いを仕掛けてきた。


「くっ!」


「おぉ、完璧鳩尾に入ったのに、それだけ動けるなんてね!」


 すぐさま回避運動を起したおかげで、なぎ払いは回避できたものの、無理な体勢からの回避が影響してか、連続して放たれた石突での攻撃を完璧には避けることができなかった。


 顎先に僅かに掠った程度だが、雷牙の頭を揺らすには十分だった。


 途端に視界が僅かに揺れる。


「顎、入ったね」


 コン、と石突をフィールドに当てた彼女は不敵な笑みを見せている。


 彼女の言うとおり、今の雷牙は軽い脳震盪状態である。


 立てはするものの、俊敏な動きはできない。


「降参は、しない?」


 彼女の問いに、雷牙は首を振る。


 降参など冗談ではない。


 自ら負けを認めることなど、雷牙が一番やりたくないことだ。


 どんなに危機的状況にあっても、絶対に自ら負けを受け入れるなど出来るはずがない。


「できればかわいい後輩を傷物にはしたくなかったんだけど、そう頑なじゃしょうがない……」


 ブゥン、と空気を斬る音を鳴らしながら彼女が槍を回転させる。


「できるだけ一撃で意識を刈り取ってあげるから、抵抗しないでね」


 瞬間、彼女の槍が凄まじい勢いで突き放たれた。


 狙っているのは雷牙の脇腹。


 だが、それがわかった時には、鋭い痛みが体を貫いていた。


「ぎ……っ!?」


『入ったー!! 綱源選手の体に野中選手の槍がふかぶかと突き刺さりましたー! これはさすがに勝負がついたかー!?』


 脇腹を貫通した槍は背中まで達しており、少し動くだけで強烈な痛みが襲ってきた。


 実況の声すら傷口に響いて痛みが増すばかりだ。


 レフェリー役の教師を見ると、試合続行が可能かどうか考えているようだった。


 普通ならここで試合を終えるだろう。雷牙が降参を宣言するのも利口な判断だ。


 しかし、雷牙はそんなことはしない。


 たとえ意識を保つのがやっとの状態でも、負けを認めることだけはしたくない。


 雷牙は口元に笑みを浮かべると、血が滴っている槍をグッと掴む。


「え……」


「捕まえたぜ。先輩」


 口元から血を溢れさせた雷牙が顔を上げた瞬間、彼の体から莫大な霊力が放出される。


『こ、これは、綱源選手が霊力を放出しているー!?』


 野中はすぐさま槍を引き抜こうとしたが、槍はピクリとも動かない。


 霊力で身体能力を強化した雷牙がガッチリと掴んでいるのだ。簡単に引き抜けるはずがない。


「まさか、これを狙ってた……?」


 ここに来て、野中が初めて汗を浮かべた。


 彼女の想像通りだ。


「ああ。間合いを詰めても意味がねぇし、後ろに回りこんだとしてもあんたなら簡単に対応してくるだろ。だから、動きを止めた方が一番だと思った」


「だからって……考えたとしても普通やらないよ。そんな奇策」


「だから奇策ってんですよ。まぁ、クソ痛いんで本当はやりたくなかったんですけど、ね!」


 雷牙は自ら槍を引き抜くと、そのまま槍を力任せに引いた。


「なっ!?」


 常人では考えもしない策に気を取られていたのだろう。


 野中は槍を握ったままで、そのまま雷牙の下に引き寄せられた。


 腹部の傷は莫大な霊力によって既に回復を終えようとしている。


「うっそ、そんな治癒術あり!?」


「実際できるんだから、アリなんですよ。んじゃ、さっきのお返し……!!」


 雷牙は兼定を峰側を野中に向けて構えると、彼女の体が飛ばされてくるタイミングにあわせて思い切り振り抜いた。


「ラァッ!!!!」


「かは……ッ!!??」


 空中に投げだされた野中の体は、雷牙の一撃を対処することができず、兼定の峰が深く食い込んだ。


 引き寄せた際のスピードに加え、霊力で強化された身体能力の振り抜き。


 野中は成すすべなくフィールドに叩きつけられ、何度か転がった。


 内臓破裂までは行かなかったかもしれないが、しばらく立ち上がることもできないだろう。


 レフェリーが彼女に駆け寄ると、意識の確認後、首を横に振った。


『試合、終了ォー!!!! 勝者は綱源雷牙選手ー!! 一時は追い詰められたかに見えましたが、まさかの番狂わせ!!』


 観客席からは歓声が巻き起こり、雷牙は兼定を鞘に納めながら軽く手を振ってそれに答える。


 気絶している野中は保健委員が運んでいくものの、雷牙も声をかけられる。


「綱源くん! 君も一応検査を受けてください!」


「いや、俺の傷はこの通り……」


「君が治癒術を得意としていることはしっていますが、なにかあってからでは遅い! 早く!!」


「……へーい」


 押し切られてしまった。


 仕方なく、雷牙は保健室へと足を向けることにした。






「失礼しまーす」


 試合を終えた雷牙はそのまま保健室へやってきた。


「はーい。入っていいわよぉ」


 控えめな声で言うと、奥の方から妙に色っぽい声が聞こえた。


 雷牙は声にしたがって中に入ると、改めて保健室を見回す。


 保健室はかなりの広さがあった。それもそのはず。基本的に怪我をした生徒は皆ここに搬送されるのだ。


 ベッドの数はそれなりに多く、一階の半分は保健室で占められている。


 玖浄院に限らず、育成校の保健室はみなこれぐらい広いらしい。怪我をする生徒が多いからだろう。


「そういや、前は夕方でゆっくり見てる余裕もなかったな」


「そうねぇ。綱源くんの寝顔、可愛かったわぁ。わんぱく少年の寝顔って感じで、先生……食べちゃいたいくらいだったわ」


 妙に色っぽい声が耳元で聞こえたかと思うと、はむっと耳を噛まれそのまま舌を入れられた。


「うぎゃああああッ!!??」


 突然襲ってきたくすぐったさと、生温かさに雷牙は飛び上がると、すぐさま振り返った。


「いい反応してくれるわぁ。本当に私の好みなんだけどねぇ……」


 熱っぽい視線を送ってくるのは、とんでもないほどの美女だった。


 瑞季やレオノアが美少女ならば、今目の前にいる彼女は、まさしく大人の女性。


 亜麻色の髪はウェーブがかかり、パッチリとした目は吸い込まれてしまいそうなほど美しい。


 そして出るところは出て、しまるところはしっかりとしまっている。彼女もそれを理解しているのか、体のラインを強調するかのような服装の上から白衣を羽織っている。


 彼女は玖浄院の保健医、赤芭(あかば)(あきら)。かつてはハクロウの斬鬼対策課と医療課を掛け持ちしていたらしく、戦闘能力に加え、医術も非常に高いらしい。


 なぜ玖浄院に赴任したかというと、「若い子の体をたくさん見られるから」という不純極まりない理由だった。


 だが、実力はやはり本物のようで、雷牙をもってしてもいつの間に背後に立たれたのかわからなかった。


 というか、奥の方から声が聞こえたのに、どうなっているんだ。


「……毎度毎度、耳舐めるのやめてくれません?」


「顔が真っ赤よ。本当はうれしかったりしない? 君が望むならもっとイイコトしてあげてもいいのよ?」


 胸の谷間を協調するように彼女は腕を組む。


 思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまうものの、すぐに首を横に振って雑念を振り払う。


「検査お願いします」


「あら、つれないのね。まぁいいわ、じゃあ上脱いで」


 雷牙は溜息をついてから上半身裸になると、ソファに座る。


 晶はなにやら機材を持ってきて、ジェルを塗ってから雷牙が傷を作ったところにそれをあてる。


「相変わらず、完璧な治癒術ね。内臓はもちろん、血管も見事に修復されてる。うん、これなら問題ないでしょう。……ペロッ」


「だぁっ!? な、なんで乳首を舐めたんスか!!」


「診察代」


「保健室だろここ!!?」


「保健室は私の城よ? 私の城を好きにして何が悪いのかしら」


「なんだそのむちゃくちゃ理論……まぁいいや、んじゃ俺はこれで」


 呆れながらも立ち上がろうとすると、それよりも早く晶がしなだれかかって来た。


 そのまま押した倒される形になると、晶の顔がすぐ近くまで迫ってきた。


「ちょっ!?」


「君の身体、本当にすごいわね。まさに戦士の身体って感じ。本当に私好み……」


「せ、先生。さすがにこれは洒落になってないですって……!」


「大丈夫よ。他の子達眠ってるし」


「そういう問題じゃねーでしょうが!!」


 声を荒げるものの、胸板に押し当てられる柔らかな物体に、雷牙は顔が熱くなるのを感じた。


「ふふ、そういう風にすぐに真っ赤になるところも、可愛いわねぇ。ワイルドな外見のわりに初心、ギャップが素晴しいわね」


「ほ、ほんともうだめですって――!」


「――大丈夫か、雷牙」


 雷牙は彼女の肩を持って起き上がった瞬間だった。


 保健室の扉が開き、瑞季含め一年A組のトーナメント参加メンバーと舞衣、玲汰が表れたのだ。


 しかし、この状況は非常にまずい。とにかくまずい。


 端から見れば半裸の雷牙が、晶の肩を持って迫っているようにしか見えない。


 数秒間の沈黙が流れたものの、それはすぐに終わりを告げた。


「邪魔をした」


 そう言った瑞季の目は酷く冷たく、表情は完全なる無表情だった。


「雷牙さん……」「らいちゃんやるぅ」「見てられん……」「ネタゲットぉ……」


 口々に言った彼らはそのまま去っていく。


 最後まで残った玲汰に至っては中指を立ててきた。


「ちょ、ちょっと待て! これには深い事情が!!」


 雷牙は制服と兼定を引っ掴むと、半裸のまま保健室を飛び出した。


「またいらっしゃいなー」


 背後からは晶の楽観的な声が聞こえるが、絶対に楽しんでやっているに違いない、あの淫行教師め。


 その後、瑞季達の誤解を解くのに雷牙はかなりの時間を必要とした。


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