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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第二章 異国の剣士
31/421

1-6

 愛美の言ったとおり、週明けから選抜トーナメントが開始された。


 トーナメントが行われるのは、玖浄院の中でも最大の第六アリーナだ。


 全校生徒を収容してもまだ余裕があるここは、他校との交流試合や、学外からの来場者が来る学園祭で使用される。


 構造は殆ど変わらず、中央にバトルフィールドを置き、その周囲を観客席がぐるりと囲んでいる。ただ、唯一の相違点としてあげるなら天井がぶち抜かれていて空が見えるくらいか。


 全校生徒が座る観客席の一角に、雷牙達、一年A組のトーナメント参加者の姿があった。


 彼らの試合は中盤から後半に集中しており、一日に消化できる試合数からしてあと三日くらいはかかるだろう。


 今日はあくまで敵情視察も兼ねた観戦である。


 とはいえ、トーナメントなのだから同じクラス同士で当たる場合もあるのだが。


『皆さん、お待たせいたしました! それではこれより、来る五神戦刀祭の代表者を決める学内トーナメントを開始いたします。司会は玖浄院、新聞部部長兼放送委員長の三年、笛縞(ふえじま)広魅(ひろみ)がお送りします!!』


 やたら熱の入った放送が入ると、会場から歓声が上がる。


 皆、一時的に中断された選抜戦に、鬱憤が溜まっていたのだ。ゆえに、これだけの歓声が上がるのも無理はない。


『んー。気持ちのいい歓声ありがとうございます! とある事件によって一時中断されていたこの選抜戦ですが、先ほど先生方に確認したところ、今回は何があっても途中中断はしないとのことなので、ご安心ください!

 それでは早速、初日第一試合の選手を紹介いたしましょう! 東ゲートから姿を現したのは、二年B組、風祭(かざまつり)翔太(しょうた)選手! 以前行われた轟天館(ごうてんかん)との東西交流戦では、一年生ながら学年でトップクラスの成績を残した逸材です!!

 続きまして、西ゲートより登場するのは、玖浄院生徒会書記、三年C組近藤(こんどう)勇護(ゆうご)選手! 一昨年開催された五神戦刀祭においてベスト四に入賞し、その実力を発揮。つけられたあだ名は『刃喰い(ブレードスレイヤー)』!! 去年は都合により出場できませんでしたが、その実力は本物! 今回の選抜にも名前を連ねるのでしょうか!』


 歓声がより強くなる。


 雷牙達も自然と紹介された選手達に視線を向ける。


「うわ、厳ついな。あの先輩」


「身長も相まってかなり老けて見えるな。ホントに同じ高校生かよ」


 雷牙と玲汰は巨大なモニターに写しだされた勇護を見て顔をしかめた。


 それほどに勇護のもつ威圧感は高校生とは思えなかったのだ。


 ふと雷牙の隣に座っているレオノアが、疑問を口にする。


「あの人すごく強いんですか?」


「まぁ戦刀祭ベスト四だからなぁ。舞衣、その辺どうなんだ?」


「あんた達……テレビとか見ないわけ? あとネット探せばいくらでも情報出てくるでしょうが」


「いや、お前に聞いた方が早いし」


「お願いします。舞衣さん」


 頼み込むと、彼女は溜息をついてからメモ帳を取り出した。


「近藤勇護。さっき実況も言ってたけど、二年前、つまりあの人が一年生の時にベスト四入りを果たしてる。その時の戦いぶりから付いたあだ名、ていうか二つ名が、刃喰い。去年は実地訓練で負った負傷により、選抜戦を欠席して出場はしてない」


「訓練中の事故ぉ? それってたいしたことないんじゃねぇ?」


「だからアンタは馬鹿だってんの。訓練って言っても私達が普段してるような訓練じゃなくて、プロの刀狩者に同伴して斬鬼と戦う訓練よ」


「二年次から行われるアレか。しかし、あの人が事故を起すようには見えないな。なにか別の要因でもあったのか」


「瑞季、正解。訓練というより実戦中、近藤先輩は逃げ遅れた要救助者を発見して、斬鬼の攻撃の盾になった。結果、重傷を負って参加はできなかったってわけ」


 まさに刀狩者を志す者がゆえの行動だ。


 雷牙も「ふーん」と頷くと、モニターに写しだされた勇護を見やる。


 確かに、よく見ると彼の首筋あたりには傷跡らしきものが残っている。端しか見えないが、かなり大きな傷であることは間違いなさそうだ。


「だが、刀喰いというのはどういう意味だ?」


 ふと前に座っていた樹が疑問を漏らした。


 主に隊入りを果たしている刀狩者や、同年代と比べて力が抜きん出ている育成校の生徒には、その人物を現した二つ名のようなものがつけられる。


 つけられるといっても、公式でついているわけではなく、周囲がつけたものが浸透していっただけなのだが。


 とはいえ、二つ名はある意味ステータスの一つでもあり、あればそれだけ実力が高いと認められている証拠にもなる。


 勇護の場合はその二つ名が『刃喰い』となってているようだが、刃を喰うとはまた物騒な名前である。


「それって説明聞くよりも見た方が手っ取り早くないー?」


 陽那が指差した方を見ると、勇護と風祭が開始位置についていた。


 すると、実況が再びアリーナに響く。


『さぁ両者共に開始位置に立ちました! 果たして軍配が上がるのは、研鑽を積んだ三年生か、もしくは、成長著しい二年生か! あ、言い忘れましたが、トーナメントから開始の合図は私実況が仕切らせていただきます!』


 ずいぶんギリギリになっていうものである。


 というか、いいのだろうか実況がそんな権限を持ってしまって。


『心配はご無用です! 開始の合図はレフェリー役の先生から報告を頂いてから行いますので、いきなり始めるなんてことはないので!! 判定も先生方の指示があってから行いますのでご心配なく!!』


 みなの心配を先読みしたように実況が熱く語る。


 まぁ確かにそれならば特に問題もない……のだろうか。


 深く考えるのをやめにした雷牙は、フィールドに視線を戻す。


『それでは、両者共に準備が整ったようなのでぇ……試合、開始ィ!!!!』


 実況の声と共に開始を告げるブザーが鳴り響く。


 先に動いたのは風祭であった。


 勢いよく抜いた鬼哭刀から炎が上がったのだ。どうやら彼は炎熱の属性覚醒を果たしているらしい。


『風祭選手いきなりの属性付与! 名前に風が入っているから最初は疾風かと思いましたが、炎なんですねぇ! そのギャップいいと思います!』


 なんだか風祭をナチュラルに馬鹿にしているような実況だが、観客席からは彼を応援する声が上がる。


『行けー! 風祭ー!!』


『相手は三年だけどブランク持ちだぞー!』


『お前の炎で黒こげにしてやれ!』


 随分と物騒な声援であるが、強い者に対する僻みなどが混じっているのだろう。


 すると、彼の鬼哭刀に宿っていた炎が徐々に大きくなっていき、炎は彼の周囲にまで飛び火していく。


「炎を大きく、なおかつ範囲を広げているところを考えると、彼の霊力量は多いほうだな」


「はい。並みの刀狩者であれば、あそこまで展開してしまえば霊力の消費が激しいはず。息を切らしていない様子を見ると、多いでしょうね」


 瑞季とレオノアは揃って感心したような声をもらす。


「さて、近藤先輩がどう動くかだけど……って、あの人まだ抜刀すらしてねぇな」


「本当ですね。というか、鬼哭刀に手をつけてすらいない」


 雷牙の視線の先で、悠然と立っている勇護は開始位置から一歩も動いていない。


 だが、雷牙は一瞬送れて彼が放っている闘気に気が付いた。


 構えも、刀を抜いてすらいないが、彼にとってはあの態勢こそが最も自分に適しているのだろう。


 自然体こそが最も力を発揮できるのか、それとも自然体で力を発揮できるように鍛錬を積んだのか、ともあれ、相当な努力なしにはできまい。


 風祭は炎を展開させながら勇護に向かって行く。


 それでも勇護は動かない。ただ自然体で佇んでいる。


 そして、ついにその時がやってきた。


 雷牙の体にピリッとした電流のような感覚が流れるのとほぼ同時に、佇んでいただけの勇護が目にも止まらぬ速さで鬼哭刀を抜刀したのだ。


 恐らく霊力による身体能力向上のブーストもかけられていたのだろう。


 同時に、フィールド内を強烈な風が吹き荒れる。ただの抜刀だというのに、小さな炎はかき消され、大きな炎は激しく揺らめいている。


 霊力を乗せた抜刀。これ自体は決してできない芸当ではなく、誰もが練習すれば出来るようになる。しかし、それをここまでに昇華させるとは。


 完全に萎縮した風祭は、足を止めてしまっている。


 同時に彼の発生させた炎が見る見るうちに小さくなっていき、鬼哭刀に纏われていた炎も幾分か薄く、小さくなっていく。


 その気を見逃さず、勇護が動いた。


 瞬時に自身の間合いまで移動した彼は、抜いた鬼哭刀を両手で持ち、高く掲げる。


 風祭も一瞬送れたもののそれに反応し、防御の姿勢を取った。


 誰もが、防御がギリギリで間に合ったと思っただろう。それは雷牙も同じだった。


 ダメージはあるかもしれないが、防御は間に合ったはず。


 だったのだ。


 次の瞬間、聞こえてきたのは、バキン! という何かが砕けるような音。


「あ!」


 誰かが声を上げる。


 モニターと見ると、防御したはずの風祭の鬼哭刀が、粉々に崩れている。


『お、折れたー!? いや、砕かれたぁ!? 風祭選手の鬼哭刀が近藤選手の一刀で粉々に粉砕されてしまいましたー!!』


 実況も思わず驚きを隠せないでいる。


 刀身には大小様々な亀裂が入り、バラバラと瓦解していく。


 砕かれた刀は金属音を響かせながらフィールドに落ちる。


 それを見ていたレオノアが口を押さえる。


「刀を、砕いた……!?」


「なるほど、だから刃喰いってわけか」


「そうか。対峙した相手の刀をことごとく砕き、折って来たのだな。あの近藤勇護は」


「樹の言うとおり、近藤先輩は武器破壊が得意みたいでね。一昨年の五神戦刀祭でも武器破壊で勝ち進んだんだって」


「でも武器破壊とかならレオノアだってできそう……」


「いいえ、同じ武器破壊であっても、()()()()のではまったく違います」


 玲汰の意見をレオノアがぴしゃりと否定する。


「折ることは難しいですが、やろうと思えば一点に力を集中させることで可能かもしれません。しかし、砕くとなると話は別です。砕くのは、その刀全体に衝撃を均等にかつ閉じ込め、分散しないようにしなければいけませんから。だから、あの人のやった武器破壊は、かなりの修練の賜物でしょう」


「ま、マジか……」


「アンタ生徒会役員を舐めすぎ」


「恐らくアレでも本気すら出していないだろうな。属性覚醒を果たしているとのことだが、その片鱗すら見せていない」


「生徒会ってホント強いんだねー」


 皆、一様に驚愕と分析が入り混じったような視線を勇護に向けていた。


 ただその中で、雷牙だけは闘争心むき出しの視線を彼に向ける。


 戦ってみたい。その剛剣を受け、叩き伏せてみたい。


 一瞬だが近藤と目が合った。


 けれどすぐに彼は風祭に向き直ってしまった。


 出来ることならこの場で勝負を仕掛けたい気分だったが、それはまた別の機会へ持ち越すしかなさそうだ。


『えー、先生方の審議の結果、鬼哭刀破壊により、風祭選手のこれ以上の戦闘は不可能と判断! よって、第一試合勝者は、近藤勇護選手です!!!!』


 歓声がアリーナに響き渡る。


 雷牙達も拍手を送ると、近藤は軽く頭を下げてから腰を抜かしてしまっている風祭の腕を掴み、彼を立たせてから彼の背中を軽く叩いた。


 上級生なりにフォローを入れているのだろうか。


 彼はそのまま自分が出てきた西ゲートへ戻っていき、トーナメント第一試合は終了となった。


 拍手と歓声が落ち着き、ざわめく客席で樹が呟く。


「初戦からすさまじいものを見ることができた」


「だねー。やっぱり生徒会に選ばれるだけあるわー」


「あとの生徒会役員の試合はいつでしたっけ?」


「予定だと結構ばらけてるわね。あんた達とかが当たるのは五、六回戦くらいじゃない?」


「私達は早々に会長達とあたることはなさそうということだな」


「会長と副会長の力はアレ以上らしいからね。さすがの雷牙もちょっと怖くなってきたんじゃ……」


 舞衣がにやけながら見てくるものの、雷牙は不敵に口元をゆがめる。


 怖いなんてもってのほかだ。寧ろ楽しみで仕方がない。


 ぶるっと体を震わせる。


 これは恐怖からくるものではない。所謂武者震いである。


「面白そうじゃねぇか。生徒会……! 絶対戦ってやる。そして、勝つ……!」


「まったく、本当に君は……」


「素敵です、雷牙さん……」


 一人はやれやれと被りを振ったが、もう一人はきらきらとした目で彼を見ていた。


『さぁさぁ盛り上がったところで次の試合へ参りましょう! 次の試合は――――!』






 西ゲートに通じる通路を歩いていた近藤は、薄暗い通路の先に誰かが壁に背を預けて立っているのが見えた。


「お疲れー。勇護」


 こちらが声をかけるよりも早く声をかけてきたのは、玖浄院の生徒会長、武蔵龍子だった。


「見ていたのか」


「もちろん。やっぱり腕は鈍ってないね」


「当然だ。鈍っていれば生徒会の役員などやってられん」


「そりゃそうだ」


 龍子はからからと笑いながらこちらに歩幅をあわせて歩き始める。


「ところで、気付いた?」


「綱源雷牙にか?」


「お、よくわかったね」


 どうやら当たったようだ。


 まぁ、彼女が持ち出してくる話題は恐らくこれだと絞れていた。


 その理由は、試合の終盤で彼が自分に送ってきた視線だ。


「アイツは、俺が武器破壊を見せた途端、闘争心丸出しの目で見てきたぞ」


「やっぱりねぇ。私もなんとなくわかったんだよ。彼、戦いに飢えてるねぇ」


「刀狩者としては、どうか思うがな」


「んもう、冷たいなぁ。私も早く試合したいなー。あの子と戦ってみたいし」


「残念ながら、それは当分無理だろう。組み分け的のお前と綱源の試合が叶うのは、準決あたりだったはずだ」


「まぁいいけどねぇ。そんじゃ、私は副会長を待たせてるから戻るねー。お疲れさーん」


 言いたいことだけ言って彼女はぴゅーっと去って行った。


 書記に就任してから思ったが、本当に自由すぎる女である。


 フッと小さく笑みを零した近藤は、この後の試合を観戦するため観客席へと向かった。

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