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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
100/421

2-5

 玖浄院と轟天館の強化試合初日、第三試合は瑞季と刑丞の試合が行われていた。


 玖浄院の外部訓練施設にあるアリーナの中心では、水流を巧みに操る瑞季と、雷電を迸らせる刑丞の姿がある。


 両者共に一歩も譲らぬ攻防に、観戦している雷牙達の視線は自然と釘付けになっていく。


 もちろんそれは轟天館側も同じなようで、雷牙の耳には関心したような黒羽の声が入ってきた。


「ほー……。さすが痣櫛、一年生いうのにええ動きするやないの」


「まぁ黒羽ちゃんと同じ七英枝族の一人で、なおかつ痣櫛流次期当主だもんねー」


「警戒すべき相手ではあるな」


「やなぁ」


 軽い口振りではあるが、三人の視線はしっかりと瑞季の動きを捉えている。


 それだけ瑞季の実力が高いということだろう。


 ――やっぱすげぇな、瑞季は。


 雷牙は視線を戻すと、小さく息をついた。


 入学時にして既に属性覚醒を果たし、類稀なる剣術の才を備えた彼女の動きは、日を追うごとに洗練されているのがわかる。


 恐らく今の実力も龍子と戦った時点以上になっていることだろう。


 口元に笑みを浮かべる雷牙の肩が僅かに震えた。


 武者震い。


 強者と戦うことを強く望む雷牙が無意識のうちにやってしまう行動だ。


 五神戦刀祭は各育成校から選抜された選手で行われるが、チーム戦ではなく、個人戦のトーナメント形式で展開される。


 それゆえ、勝ち抜き方によっては同校対決ということにもなる。


 戦刀祭までは僅かな日数しかないが、瑞季もそして他の選抜メンバー達もこの強化試合でそれぞれが大きく成長するだろう。


 そんな彼らと闘うことができる。


 雷牙にとってこれほどうれしいことは無い。


 が、嬉しさだけを感じてばかりはいられない。


 彼らと戦うために自分自身も更に力をつけて、成長しなければならない。


 約一ヶ月前、ヴィクトリアから教えてもらった纏装の修業は現在もしっかりと続けている。


 まだ眠っている時や気を緩めすぎてしまうと解けてしまいそうにもなるが、起きてさえいれば完璧に纏うことができている。


 最初はそれなりに不安もあったが、どうやら雷牙の体は纏装の修業自体に合っていたようで、一度感覚さえ掴んでしまえば維持は簡単になってきた。


 瑞季や舞衣、勇護、直柾にも今のところは気付かれておらず、薄く纏うこともできている。


 あとは意識的にしているこれは、完全な無意識状態で行えるかどうか。


 ヴィクトリアに相談したところ、無意識状態で出来るようになれば完成形になるという。


 常人が霊力を回す時間を限り無くゼロにすることが出来れば、属性覚醒を果たしていない雷牙でも五神戦刀祭で勝ち抜くことができるかもしれない。


「……はやく試してみてぇな」


 グッと拳を握った雷牙の瞳は、僅かに青い光を帯びていた。


 瞬間、アリーナ内に甲高い金属音が響いた。


 鬼哭刀が空中を舞っている。


 その手に刃がないのは、轟天館の刑丞だ。


 驚いた表情を浮かべている刑丞の背後に鬼哭刀が突き刺さり、瑞季の刃が喉元に押し当てられる。


 いつでも首を落とせる間合いだ。


 僅かな静寂がアリーナを包む中、刑丞がゆっくりと両手をあげた。


 すると、試合開始時と同様にアラームが響き、終了を告げる。


「勝者、痣櫛瑞季!」


 レフェリー役の龍子が手を挙げると、瑞季は刑丞の喉元から刃を退いて彼に対して頭を下げた。


 二人は握手を交わし、なにやら話している。


 ふと、今まで戦いに集中していた雷牙の内心に少しだけもやっとした感覚が生まれた。


 それなりに面白みのある会話のようで、瑞季は珍しく笑顔を浮かべている。


「……なんか――」


「――面白くない?」


「だばっ!?」


 不意に声をかけられ、雷牙は変な声を上げて飛び上がる。


「隣に座ってたんだからそんなにビックリしないでくれるー?」


 溜息を着いたのは、雷牙の隣で試合の記録をとっていた舞衣だった。


 彼女の表情はどこか面白げで、瞳にはサディスティックな光が灯っている。


 こういう眼をした舞衣は危険だ。


「な、なにが面白くないって?」


 平静をつくろって答えたが、明らかに声が上ずっていた。


 そういう変化を彼女が見逃すはずはなく、舞衣は「ふぅーん」と意味ありげに雷牙を見やる。


「な、なんだよ……」


「べっつにー。まぁ取られたくないなら、さっさと行動しちゃうことだねー。じゃ、私これを副会長に届けないといけないから」


 舞衣は口元に手を当てて笑いながら三咲の元へ行ってしまった。


 完全におちょくられたことに、雷牙は「ったく……」とボヤキながら瑞季の方を見やる。


 既に刑丞との会話をおえた瑞季はバトルフィールドから降りていた。


 すると、雷牙の視線に気が付いたのか、彼女がにこやかに手を振ってきた。


 不意に向けられた行動に、ややドキリとしながらも手を振り返す。


「……取られちゃう、か。分かってんだよなぁ、そんなことは」


 舞衣の言っていることは理解できているが、雷牙は踏ん切りがつかなかった。


 この感情がそういうことだというのは理解しているし、クラスメイト諸々にも完全にばれている。


 しかし、今はその時ではないと思うのだ。


 斬鬼と化した大城との戦いの後に目覚めた保健室からの帰り道。


 少しだけ頬を染めた瑞季の言っていた彼女なりの『答え』を聞くまでは、こちらから告げるのは野暮だろう。


 だから今はまだ言わない。


 時が来たら彼女に伝えるつもりだ。


「……だけどそれはそれで心臓に悪いんだよなぁ」


 結局やきもきしたまま雷牙は瑞季の帰りを待つのだった。





 初日は時間の関係上第三試合が最終戦となり、あとの時間は自由時間となる。


 まぁ団体行動をするわけでもないので、時間を有益に使おうと雷牙は一人、外の修練場で宗厳に日課にしろといわれている素振りを行っていた。


 勿論、纏装を維持した状態でだ。


 ただ刀を振るのではない。


 一つ一つの動作をしっかりと意識した上での素振り。


 空気を揺らし、風を切り裂く一閃をただひたすらに重ねていく。


「フッ!」


 一日の素振りのノルマを達成すると、雷牙は軽く呼吸を整えて兼定を地面に突き刺す。


 これで日課であるランニングと素振りは終えた。


 雷牙は近くのベンチに置いておいたスポーツドリンクを煽ると、「さて」と口元に僅かに笑みを浮かべる。


「こっからは、霊力を使った修業だな」


 最近は纏装を維持するだけに重きを置いていたため、霊力を回すのは久しぶりで、雷牙はどこかうれしげである。。


 刺さっている兼定を抜いた雷牙は、修練場に備えられている仮想斬鬼を出現させるシステムを起動する。


 纏装之型は常に霊力を纏っている状態だ。


 日常生活でも身体能力の向上が見込めるが、その真価は戦いの時こそ発揮される。


 玖浄院にあるものと違い、風景までは変わらないが、雷牙の前には数体の仮想斬鬼が生みだされる。


 するとそのうちの一体が雷牙目掛けて突進する。


 雄叫びを上げながら迫ってくる斬鬼に対し、雷牙は小さく息をつくと瞬時に兼定を振りぬく。


 同時に迸ったのは青の燐光。


 空間を切り裂くように光った剣閃は、数メートルは先にいた斬鬼の首を落とし、その体はノイズと同時に崩れていく。


 続く斬鬼すらも、燐光を撒き散らしながら次々に首を落としていく。


 そして設定した最後の仮想斬鬼の首を落としたところで、雷牙は大きく息をついた。


 息は上がっていない。


 が、表情は驚きに染まっていた。


「すげぇ……本当に霊力を回す時間が殆どない……」


 兼定を鞘に納めた雷牙は自分の腕を見やり、僅かに喉を鳴らした。


 ヴィクトリアが言っていたように、刀狩者の殆どは体内の霊力を温存するために無駄にならないよう、霊脈を閉じているのが定石。


 なぜならば、内在霊力が完全になくなると、刀狩者とはいえただの人間になってしまうからだ。


 斬鬼と戦うことが出来るのは霊力という力があるからこそだ。


 空気中にも霊力はあるが、自分が扱えるのは自分の霊力のみ。


 属性の場合は内在霊力と自然霊力の二つを使うが、それでも自身の霊力は必要になってくる。


 だからこそ、刀狩者は霊力を温存して戦うのだ。


 霊力がなくなった状態で斬鬼を屠れるのは、それこそハクロウの斬鬼対策課の部隊長クラスだろう。


 しかし、雷牙の場合は違う。


 雷牙のように膨大な霊力を有している人間は非常に稀であり、その中でも雷牙は特に異常と言え、その異常な量の霊力があるからこそ纏装を維持することができるのだ。

 

「これが纏装の効果ってやつか」


 雷牙は拳を握りながら自分が得た力を改めて実感する。


 仮想斬鬼を目の前にした瞬間、いつもやっていたとおりに霊力を回したのだが、その巡る速度が尋常ではなかった。


 前は体感で約一秒掛かっていたはずのものが、瞬間に変わった。


 瞬きよりもはやかったため、最初は本当に霊力が回ったのか焦ったが、実際に鬼哭刀を振りぬくとさらに驚いた。


 自身が予想していたよりも剣閃が飛んだのだ。


 とりあえず様子見程度で放った剣閃は、一刀で仮想斬鬼の首を斬り飛ばした。


 それに驚きながらも続いてきた斬鬼を次々に屠ったが、やはり驚くことが多かった。


 最近は纏装ばかり力を入れ、実戦形式ではあまり霊力による斬撃を扱っていなかったが、まさか纏装によってここまで強化されているとは。


「これなら……」


 雷牙は目の前につくった拳を見て笑みを浮かべるものの、すぐにそれを振り払う。


「……いいや、確かに成長はできてるけど、これじゃまだ届かない」


 一瞬だけ心の中によぎったかすかな慢心。


 龍子にも通じるのではないか。


 光凛を超えられるのも近いのでは。


 そういった驕りが顔を出したが、すぐに雷牙はそれを振り払った。


 彼女らから比べれば、自分はまだスタートラインから一歩前に踏み出した程度に過ぎない。


 そんな程度の全身で追いつけるなど、甘えもいいところである。


「うっし、そんじゃもいっちょやってみますか――」


「――刀を振る瞬間、僅かに刃がぶれている」


 修業を再開しようとしたとき、不意に背後から声をかけられた。


 振り向くと、そこにいたのは獅子陸黎雄だった。


 雷牙に緊張が走る。


「そう警戒してくれるな。取って食おうというわけじゃない」


 静かに歩み寄ってくる黎雄からは今朝感じたような睨むような視線も、自己紹介の時に感じた嫌な感じもない。


 あるのは優しげな声のみだ。


「えっと、刃がぶれてるっていうのは……」


「言葉通りの意味だ。刀を振る際、まだ自身の霊力に負けている節がある。そのため君自身が真っ直ぐ振っているつもりでも、僅かにぶれているんだ」


 黎雄は鞘に入れた状態の鬼哭刀で地面に軽く図説した。


「綱源、見たところ君は霊力を斬撃として飛ばすようだな」


「そうっ……すね。それぐらいしか取り得がないんで」


「いや、いい技だとは思う。しかし、剣閃がぶれていては宝の持ち腐れだ。せっかくいい霊力を持っているんだ、剣閃がぶれないように意識してみるといい。やり方自体は……まぁ説明しなくても問題はないか。急に声をかけて悪かった。修業を続けてくれ」


 黎雄はふっと薄い笑みを浮かべると、そのまま鬼哭刀を剣帯に収めてその場から立ち去っていく。


 その後姿に雷牙はしばらく呆然としていたが、慌てて頭を下げる。


「あ、ありがとうございます」


 雷牙の声が聞こえたのか、黎雄は振り返らずに軽く手を挙げて返してきた。


 やがて彼の姿は見えなくなったが、雷牙は首をかしげる。


「なんだったんだ、今の……」


 雷牙が戸惑うのも無理は無い。


 黎雄から感じた感覚がまるで別人のそれだったのだ。


 今朝向けられた自分に対する明確な憎しみによる視線と、ロビーで言葉を交わした際に向けられた明確な敵意。


 しかし先程の感覚はどうだ。


 雷牙への修正点の指摘とアドバイス、なおかつ口調は決して嫌悪感のあるものではなく、淡々としていながらも優しさのあるものだった。


 もし瓜二つの双子がいるというのなら信じたくなるほどの違い。


 だがあれは間違いなく獅子陸黎雄本人だ。


「どうなってんだよ……」


 首を捻った雷牙であるが、考えれば考えるほど謎は深まっていくばかりだった。






 雷牙と分かれた黎雄は、自分の部屋に戻ってきていた。


 彼はそのまま洗面台に向かうと顔を洗うと、ゆっくりと顔をあげた。


 鏡に映る容貌は特にこれといった変化はないが、その瞳には明確な違いがあった。


 昼間、黒く暗い意志に染まり、淀んでいた瞳は、今はとても澄んだ色をしていたのだ。


 表情もいくらか明るく見えたものの、彼はすぐに頭を押さえる。


「ぐっ……!」


 呻いた黎雄は洗面所から出ると、バッグに中に手を突っ込み、黒いピルケースと取り出すと中に入っていた錠剤を複数粒取り出して乱雑に噛み砕く。


 口から零れた破片が落ちるものの彼は噛み砕いた錠剤を飲み込み、壁に背を預けて大きく息をついた。


「……俺は、一体なにをしてる……」


 顔を覆うように掌を被せた黎雄から洩れた声は、地を這うような低い声。


 指の隙間から見える双眸には先程までとは打って変って黒い光が灯っていた。


 同一人物ではあるものの、雰囲気は完全に別物に変貌しているように見える。


 すると、部屋の扉がノックされた。


「獅子陸。他校の取材班が来たみたいやで。会長がロビーに来い言うとる」


 声から察するに天一朗のようだ。


「あぁ、今行く」


 黎雄は立ち上がるとそのまま扉を開けて部屋から出て行くと、待っていた天一朗が首をかしげた。


「なんやえらい顔色わるいなぁ。無理して修業でもしとったんか?」


「まぁ、そんなところだ」


「気ぃつけーよ。せっかくの強化試合なんやから無駄にせんようにせんと」


「……わかっている」


 黎雄は短く返答し、天一朗と共に取材班がいるロビーへ向かう。


 双眸により黒い光を宿しながら。

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