55話 白い死神たち
本日の天候、曇り後銃弾の雨。
敵との距離は1㌔以上離れている。さらに高いところに陣取っているため敵の動きが丸見え。
だが敵の数はこちらのおよそ10倍、20倍、まだ増えるだろう。数えるだけで眠くなりそうな状況だ。
それに対しこっちは1人もかけず、敵をここで足止めしなければならない。それも味方が撤退し終えるまで。
はっきり言えば無理。いくら、武器の性能差があれど重機関銃や戦車、航空支援が無いこの状況じゃきつすぎる任務だ。今すぐ転職したい辞職したい。
「ここまで来たらどうしようも無いだろうな。結城中佐もこの作戦には関わっていない。勝機があるとすれば敵の司令部を叩くしかないが、どこにあるのかわからん。」
かおるはスコープを覗き、野砲を運んでいる1人の黒い服を着たソ連兵に狙いを定めて引き金を引いた。
銃弾は正確にソ連兵の頭をぶち抜いた。
この銃声を聞いた他の隊員も一斉にソ連兵に狙撃する。
狙撃されていることに気づいたソ連兵はすぐにスナイパーの位置を探そうとするものの、かおるの部隊は白い服で雪と同化しているため分かりにくい。さらに敵の弾は戦車の装甲すら貫くものもある。もはや悪夢だ。
指揮官であるシュコルビッチは命令を出す。
「怯むな!敵はあの山にいる!砲撃しながら接近せよ!我らに下がるという選択肢はない!」
党からの指令はナルバを早急に奪還せよだ。ナルバが奪還できなければ俺は死ぬ。後退は許されない。前進しか道は無いのだ。
人の命はいつの間にこんなに安くなったのだろうか?
錬金術で錬成した人も立派な人間だ。奴隷みたいに扱われるのはおかしいと抗議した結果見事、刑務所送りにされた。だが戦況の悪化でこうして条件付きで仮釈放されている訳だが、彼が見た戦場は常識からかけ離れていた。
錬成した人を使った大量突撃、24時間一切休まず攻撃し続ける無停止攻撃。と想像を絶する戦法には驚いた。
だがそんな戦法が嫌いな彼は、死者数を減らすような戦法で撤退している連合軍を各個撃破してきている。
だがこここは他とは違う。ケツから叩くのと違い、今回は敵が待ち構えている。これは苦しい戦いになるとシュコルビッチは確信した。
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「89、90!」
90人を1人で葬ったが、終わりは見えない。
かおるは今までで1番しんどい状況に直面した。
「おいみんな、まだ生きてるか?スコアが最も低かったものはみんなに酒を奢れよ。」
「まじか!俺まだ50なんだもっと殺らないと」
「俺なんて35だぞ!敵の砲撃による煙が邪魔だ!」
「かおる隊長、さすがに俺ら装甲車破壊部隊は免除ですよね」
「あぁ。免除だ。」
その時、私の近くに砲弾が着弾した。その衝撃で私は後ろへ数十mほど吹き飛ばされてしまった。
「かおる隊長!」
「う、足が痛い」
足を見てみると、足に着けていた防具が吹き飛び、砲弾の欠片が刺さっている。
「骨折まではしていないと。足が動くならなんとかなりそうだな。こうしてはいられん。」
と立とうとしたが、足の痛みで倒れる。足の筋を切ったのか?歩けないのはきつい。
「副官、陳副官!」
近くにいる陳副官がこっちにくる。
「はい、なんでしょうか?」
陳副官は中国人だが優秀な人だ。少し真面目すぎるのが欠点だがそれ以外はかなり優秀だ。
「私をそこの岩場まで運んでくれ。足が動かないんだ。」
「足から血が出ています。下がってください。ここは俺たちに任せてください!」
「私がいなければその分負担が増すだろ」
「大丈夫ですよ。なぁに、訓練に比べればマシですよ。ちょっと敵が反撃してくるだけの違いじゃ無いですか!それよりもここで隊長が死ぬ方が損失がでかいです。」
「そうですよ隊長。ここはゆっくり後ろで休んでください」「なぁに。隊長がいない分俺たちが戦えばいいんですよ」
と他の隊員も同調する。
みんな強くなったものだ。
「分かった。みんな、ここは任せる。絶対誰1人死ぬなよ」
「なぁに。あの訓練に比べれば死にゃしませんよ。」
「隊長が育ててきた部隊ですよ俺たちは。」
私は、不安になりつつも衛生兵に運ばれながら、戦闘から離脱する事になった。
鳴り止まぬ銃声と砲弾、そして薄暗い空の中、応急処置された後私はモスコへ搬送された。
ナルバを出た頃には雪が降り始めた。




