43話 サイコパス
ドニラス帝国とソ連の前線である東部戦線の最も南に位置するレイアダースの森。
レイアダースとはドニラス語で「深き森」という意味だ。
その名の通りこの森は木々が生い茂り、暗くジメジメした森だ。
このジメジメした森にソ連軍1個大隊とソ連航空魔道士1個中隊がいる。彼らの目的は1つ。この森を突破し道を作って敵前線の崩壊を狙っている。だがこの森は磁気嵐や天候の急変、さらにこの土地限定で起きる幻覚が原因の集団発狂。電波障害。遭難事故の多発。それでたけでは無い。
この森の上空もこれと似たような事が起きているのだ。結果、誰も近づかない森となった。
だがもしこの森を越えれば戦況は変わる。
ソ連の大隊長はポケットに入れているコンパスを取り出し、方位を確認した。
「やはり方位磁石は使えないか。狂ってやがる」
方位磁針がクルクル回っている。続いて無線を確認する。
「無線は、、、使えないか。電波障害も起きているようだな。これより口頭伝達に切り替える。異常があればすぐに報告しろ!」
静か過ぎる森。南方の森と違って蒸し暑く無いだけマシなのかもしれないがいつ敵が来るのか分からないという恐怖は兵の精神を少しづつ、確実にすり減らしている。
この森は表の森と裏の森に分かれている。
表の森は人が探検した事のあるエリアであり方向感覚の優れたものなら帰ってこられるところだ。
裏の森とは表の森の進んだところにある、誰も最深部まで到達した事の無い森だ。この森は表の森と違って暗く、磁気嵐が酷く電子機器も魔導通信も一切できない。オマケに未知の魔物の宝庫と言われている。
小さいものはハエやその寄生虫からヘビ型の魔物や人型の魔物までいると言われている。
もちろんこの森は避ける。この森と表の森ギリギリの所を歩くことで敵の索敵から逃れるのだ。
「果たしてうまくいくのか。」
彼らがたどり着く先は天国か、はたまた地獄か。
それは誰にも分からない。
レイアダースの森 北西部の表の森。
ここに3人の男がいた。
2人はリグルード王国 零番隊隊長と副隊長。もう1人は日本陸軍の浅田大尉。
「セミかカブトムシかよくわからん虫は飛んでいるし、どうしてこうなった!?」
というかおる 無理もない。
3日前
ゴッサの戦い以降、ハーデンフェルは荒れていてあちこちで窃盗、強盗、そして殺人が多発していた。そのためかおるもあちこち出ていた。そんな時、突然参謀本部から招集がかかった。
仕方なく副官に仕事を任せ参謀本部にいった。
招集の理由はドニラス帝国、ソ連、ハーゲル王国の国境に位置するレイアダースの森の表の森と呼ばれる地帯の調査だ。
ソ連はこの森を使ってくる可能性がある。
そのため森をあらかじめ調査しつつ、罠を貼るのが目的だ。
なおこの調査を最初に言い出したのはリグルード王国零番隊だそうだ。
彼らは日本に、「登山にも慣れており、水泳、キャンプ、近接戦闘に長けたものを貸してほしい」といい、日本陸軍はうまく連携がとれているとアピールする目的もありこの条件に当てはまったかおるを送るのとにしたのだと。
「サバイバルが必要なのは分かるけど、なんでそこで近接戦闘が必要になるのかね?」
ヨモが答える。
「なぁに。この森は視界が狭い。物陰が多いんだ。ここでは銃よりナイフの方が早く強い。銃はな、遠中距離戦では強くても近距離戦や物陰が多いところ、乱戦には弱い。」
「なるほどね。確かに銃は万能ではない。弾詰するし故障もするし近接戦では邪魔だ。ヨム、あなた本当に凄いわね。殺しのプロね。」
「プロという言葉の意味は分からんがこの俺に勝てるやつはいないだろう」
「何故?」
「簡単さ。殺しの目的が違うからだ。一般兵は命令されてやっているが俺達は違う。」
「違う?」
「快楽のために楽しんでやっているのさ。」
かおるには理解できない。殺し合いの何が楽しいのかと。
「なぜ、楽しいんだ?」
「人間の凄さがよく分かるからだよ。男や女。外見は違うが中身はあんまり変わらないんだぜ。とくに心臓って綺麗なんだぜ。心臓モムとピクピク血が吹き出てきて楽しいだろ?」
「ガチサイコパスかよ。」
「サイコパスがどういう意味なのかは知らないが褒められてないことだけは分かる。」
サイコパスは英語だ。この世界には英語は存在しないから知らないのも当たり前か。
さらにわかった事だが、零番隊全員が快楽殺人者の集まりでありヨモより酷い性格の人が多いことも分かってしまった。
よくこんな集団をコントロール出来たものだとリグルード王国陸軍に敬意を表したかおるだった。
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表の森を行軍するソ連軍は、現在危機に陥っていた。
それは、裏の森から突然現れた魔物に襲撃され部隊は壊滅に近い状態となった。
その魔物はウィレレと呼ばれる人型の魔物だが、肌が真っ赤、顔にはたくさんの腫瘍があり目が見えない。その代わりに発達した耳で獲物の位置を把握するというやつだ。
厄介なことに人と変わらない大きさだが動きはとても素早く皮膚は装甲車並に硬い。
さらに大きな爪がある右腕を武器に引っ掻いたり刺してくるのだ。オマケにこいつはたまに表の森に迷ってくるそうだが、こいつらは普段群れで動く。という事は近くに最低でもあと5体ほどこいつがいるわけである。
大隊長は悩んだ。どうすればいいのか?と。
大隊長は1つの作戦を思いついた。




