40話 スパイの本気
ソ連モスコ 情報部、
ここの尋問室に3人の男がいる。
ソ連の労働服を着、座っている60代の男性と向かい合って座っているソ連情報部の男、傍にたって監視しているソ連人民局の男性。
情報部の男は「お前が日本のスパイだって事は知ってるんだぞ!」
と言うがそれを聞いた労働服の男はこう答えた。
「だから俺はただの労働者だ。」
「ふん、ただの労働者がこんな顔してねぇぞ。鏡を見ろ」
その鏡に写るのは普通の日本人男性の顔。これといった特徴のないモブ顔なのだが、ソ連人の特徴は銀髪、銀色の瞳、そして真っ白な肌色。
「悪いが化粧、剥がせてもらった。これぞ化けの皮が剥がれるってか。さあ貴様は何しにここへ来た?」
「...」
「そうか。なら貴様にこの薬を使う。自白剤って、知ってるか?この自白剤は強力でな、どんな奴でもゲロっちまうほどのものだぜ!わがソ連の科学力はァァァァ世界一ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」
「うそ、やめろ、おい、やめろ、」
男が懐から出した注射器を無理やり腕に打たれた。
やがて俺は意識を失った。
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体がだるい。頭がぼーっとする。 椅子に縛られているし部屋は変わっていない。周りには誰もいない。
確か自白剤を打たれた所まで覚えている。だが何を吐いた?
偽の経歴を吐いていたならいいのだが。
「おう、起きたか。」
部屋に入ってきた、俺に自白剤を使った男。
その表情は、奇妙なものを見たような顔だ。
「貴様を、不法入国罪で逮捕する。捕虜収容所へ送れ」
なるほど。どんな状況かよくわかった。自白剤で何を吐いたのかもわかった。
自白剤で吐いた情報は、偽りの経歴だ。
結城中佐から教えて貰った、捕まり、自白剤を使われた時の対処法は役に立ったな。
「自白剤を使われた時の対処法だが、自白剤で出せる情報は記憶の上層部だけだ。下層部の記憶は引き出すことが出来ない。なら簡単だ。偽の経歴を上層に。知られてはいけない情報は下層に記憶しておけばいい」
と、結城中佐は実際に目の前でやってのけた。
スパイは見つかれば任務はそこで終わりだが、全力で逃げるのが基本だ。
もし捕まってしまったら、色んな手を使って脱出しろ。ただし殺すな。証拠を残すな。
「偽の経歴」それは、俺が日本の共産党に所属し日本から追われここソ連に密入国したという設定のものた。
これを信じ切ったこいつらは俺をスパイではなくただの密入国者として捕虜収容所に送るというわけだ。それに共産党員ならこいつらは隙を必ず作る。
「ついてこい、シバ タクヤ」
それが今の俺の名前だ。
「そんな、捕虜収容所って」
「あぁ、残念だ。スパイかと思ったがそうじゃないとは。おいそこのやつ、こいつを捕虜収容所に送れ」
こうして俺は暴れることも無く近くにいた普通のソ連兵に連れられて車に乗り、手錠を外された状態で出発した。
無論大人しく収容所に行くわけがない。車が停車したタイミングで運転しているソ連兵を殴り気絶させ、拘束し放置し脱出。
ソ連兵の服を着て街中に逃げる。
行先は廃棄所。
ここに通信機を隠しているのだ。スパイは仮宿に決して通信機を置くべからず。それにここに置けばソ連兵は絶対に探さない。
例えここに来てもゴミを捨てに来たとしか考えられないからだ。
無論、廃棄所の廃棄している所に隠した訳では無い。
廃棄所に来て、廃棄所の看板の横に立つ。
実はこの看板、間に隙間があるのだ。そこに小型通信機が隠されている。これを回収し近くのトイレに移動、個室トイレ内で報告をする。内容は、
「星に願い事を送ります。原子ありや。ベガのみの事です。なおファントム。これより前進する」
という暗号電文だ。
訳は、
「本部に情報を送ります。原子爆弾はソ連国内にあり。ソ連上層部だけは把握してる模様。しかしそれ以外の兵にはこの兵器を伝えていません。なお、コードネーム"ゼロ"は発見されたし。これより帰還する」
だ。
これを打った後、通信機を破壊し廃棄所に棄てた。
これはもう不要だ。
ハプニングはあったものの、任務は完了した。
次の任務地点は何処だろうな。
俺は霧に紛れて姿を消した。
まるでその場にいなかったように。
スパイとは幽霊のようなものである。




