42話 クーデター2
7月21日 早朝
快晴 爽やかな朝
アレクシアは車の中から皇都を眺める
商店街の間を走っているにも関わらず、店はみんな閉まっている。街に、住民に活気は無い。
物資の欠如は深刻であった。食糧難に加え、燃料に鍋から始まり包丁やまな板。果てには椅子や机すらも今やどの店でも取り扱っていない...
大陸での敗北により、軍は致命的な物資欠如が発生したのだ。
日本の戦い方は効率的かつ致命的だ。物資補給地点を優先的に攻撃し、港、駅、倉庫が次々破壊され、修理する者は既に前線で散ったか、巻き込まれて先に天に召された。
その結果、ありとあらゆる品は軍へ優先的に回され、街へ降りることは無い。その結果、一部では軍が横流しした違法物を扱う闇市や、金に価値がなくなってきたことで物々交換が主流になりつつあるという噂まである。
詳しい話は、最高機密として秘匿されているが...
戦争を始め、軍はかなりの情報を隠蔽している。国民には正しい情報なんて知らされていない。
「彼らは知らない。戦争相手がとてつもなく化け物じみた技術と力と経験を有している相手ということを。」
ふと、空を見上げると何かが飛んでいた。
ドカンという高い爆発音が聞こえた
「なんだ!?」
私は慌てた。しかし、運転手は何故か落ち着いている
「殿下、そういえば皇都に訪れるのは久しぶりでしたね。定時便ですよ。時報みたいなものです 」
「時報?」
まるでいつもの事のように語る運転手。確かに皇都に来るのは久しぶりだ。ココ最近は各海軍基地や、陸軍基地を回っていたのだ。
「ええ。3週間ほど前から、毎日8時ちょうどに必ず、あの飛翔体と共にどこかの施設が攻撃されてるんですよ。」
どう考えても日本の攻撃だ。手段は?いや問題はそこではない
「毎日なのかしら?」
「ええ。」
「遅れたり、早く爆発したことは?」
「ないですね。」
「被害は?」
「詳しくは知らないのですが、工場が丸ごと吹き飛んだとか、電源が破壊されたとか。就業前なので、死人は少なく、当直の人が負傷したくらいしか。不幸中の幸いかな。新聞に載らないし噂程度の情報ですが」
軍は完全に秘匿しているのか。
それよりも、毎日決まった時間に着弾するようにされている上に、工場のみを破壊している。しかも、極力犠牲者が出ないよう就業前を。
つまり日本は、決まった場所に必ず撃ち落とす兵器がある上に、海から放ったとしても、いちばん近い港から100km以上離れているのだ。
皇国海軍も哨戒に出ているのだ。探知できない場所からなら、もっと離れている。
そんな長距離から攻撃しているのだ。
富士でみた演出はあれでも日本の力の一旦でしか無かったという事だ。
「これがロケットの真の力という事ね...」
リッドシュタッドの仮説はやはり正しかったのだ。
「一体、日本は元の世界でどうやって戦ってたのかしら...こんな兵器をどうやって撃ち落とすのよ...」
工場のみを攻撃するという事は、日本は皇国の工場の位置を完全に特定している。その上就業時間すら把握しているのだ。
さらにこの攻撃の意味は、「お前の場所は把握している。何時でも攻撃できるぞ」という事に他ならない。
大規模な攻撃をしないのは、恐らく東京を襲撃したからだろう。今なら猶予はある。今が講和の機会だ。ここを逃せば、日本は大規模な攻撃をしてくるだろう。本土決戦になれば、皇国は抗うことすら許されず崩壊する。数千万人もの国民を道ずれに...
「明日で終わらせる」
アレクシアは、改めて決意する。
日本との即時停戦と和平。それを実現させる為に、私はやるのだと。
◇◇◇◇
7月22日 7時58分
セントラルニュース本社前
皇国軍は、セントラルニュース本社周辺に展開し包囲していた。
道路は、ガス管の破裂による緊急工事の為の道路交通規制及び、万が一に備えて周辺施設の強制退去命令、但し、セントラルニュース本社は除く。
ここまで露骨だと、セントラルニュース付近の市民や、職員も狙いがセントラルニュースなのは理解できる。しかし、それに異議を唱える事は出来ない。何故ならそれは、相手が軍だから。
だが、それだけではなかった。
(天子様へ協力しないセントラルか。罰を受けるがいい)
そう考える者も多かった。
包囲した軍は、時間間を待っていた
ドカンという遠くから小さな音がした。
日本のミサイルが工場へ着弾した音、つまり
「時間だ!突入!」
午前8時 軍は作戦を開始した
◇◇◇◇
8時10分
ハーデンフェル共産党隠れ本部
共産党は皇国では禁止されており、摘発を逃れるために影に潜っていた。
この共産党は、ソ連傘下の共産党であり、日本に残っている共産党とは完全に別物であるのだが。
この皇国共産党の目的は、暴力革命による皇国の転覆であるのだが
「どういうことだ!なぜ各支部が勝手に動いている?」
皇国全土にある共産党支部が勝手に暴動を起こし始めたのだ。
ハーデンフェル共産党 レターニ書記長は、無い髪の毛を毟るかのような行為を始めた
「この極左冒険主義者共め!党の命令を無視しやがって」
「しょ、書記長」
「何かね?同志フルニ」
赤い長髪のフルニは、部下から受け取った報告書から簡潔に事の内容を伝える
「皇国軍の新聞社襲撃に鉄槌を下す為、58の支部は社会党、社会民主党、自由主義団体、他24の市民団体と強調し軍への正義の革命を始めたと。この行動は8時丁度に開始されると」
「日和見主義と右派修正主義者らと協調?舐めてるのか!」
レターニは机を叩いた
「8時に行動?軍が包囲を始めたのは7時過ぎだと聞いてるぞ?何故、これだけ行動が早いのか気付け!マヌケども!これは皇国の罠だ」
レターニはこの暴動で誰が得をするのか考える。
確かに革命として動くなら今が好機だろう。極悪非道帝国主義者らである皇国軍に対し、善良で戦争の真実を伝えようとしたセントラルニュースを守るために我々労働者は立ち上がった!
これ程いいプロパガンダもないだろう。
だから支部はこの罠に気付かずに飛びついたのだろう。
そして軍はこれを機に共産党含め左派勢力を全て潰すつもりだろう。
血を流してまでか?
これまでの皇国は共産党を弾圧はしていたが、何かしらの法を違反しない限りはここまでの強硬手段は打ってこなかった。ここに来てこの手段を選ぶ理由が分からない
本国からの命令はない以上、ハーデンフェル共産党は動く訳にはいかない
「各支部へ、今すぐ行動を中止しろと伝えろ。これは軍の罠だ。あまりにも我々に都合が良すぎる!動くな!」
そう各支部へ通告したが、時すでに遅し。
既に各支部は市民団体や他党と行動を始めていた....
そして、それは皇国全土を巻き込む事件へ発展していく




