40話 東京決戦
それは、突然の知らせだった。神聖レミリア帝国の義勇軍、空中戦艦6隻が突如小笠原諸島で発見された。
レーダーにも引っかからずさらに人工衛星でも発見されなかった。
この海域は海軍の予算の問題で哨戒機だけ飛ばしていた。その哨戒機の頻度も少なかった。
レーダーに反応がなかったのは魔法で。
人工衛星で発見されなかったのは空中戦艦に幻影魔法をかけていたからだ。だがその幻影魔法でも限界がある。これは後にドニラス帝国から知らされた幻影魔法の弱点だが、見た目は隠せても実態を隠すことは出来ないため、大気状態や微量な魔力反応や光の屈折、不自然な影が発生するという。その為、ある程度近付けば発見は容易い。
もし哨戒機を飛ばしていれば早期に発見できたであろうがあれこれ言ってももう遅いとしか言いようがなかった。
そして敵はここ、東京を目指して一直線で来ている。
日本海軍主力艦隊は今日本にいない。横須賀にいるのは第4護衛艦隊だ。この艦隊だけで対応せねばならない。
「戦闘機をありったけ飛ばせ!対艦ミサイルの発射を許可する!戦闘予想地域に緊急避難指示をだせ!上陸をなんとしてでも阻止しろ」
敵が横須賀を通過するまでののこり時間はおよそ4時間。
それまでに防衛体制を取らなくては。防衛体制だけではない。
相手は空中戦艦。1度も戦ったことがない未知の敵。そもそも、本来飛ぶことすら不可能な物を魔法で飛ばしているのだ。日本として初めての魔法との戦いだ。
そもそもミサイルで落ちるのか?
北条は、その不安を抱えつつ、自分達の常識が通用しない相手に対し最悪を想定し対処するしかない。
「最悪の場合、横須賀を突破された場合に限り、防衛レベル3の使用を許可する」と指示をだす。
防衛レベル
それは最悪の場合を想定した、大量殺戮兵器の使用許可だ。防衛レベルの発動は今まで1度もない。なぜなら防衛レベルは、国家存亡の危機に瀕した際に限るから。
レベル1 化学兵器の使用(マスタードガス等毒マスクで防げない毒ガスを除く)
レベル2 無差別攻撃(無制限潜水艦作戦や無差別爆撃などがはいる)
レベル3 小型核兵器、小型核ミサイルの使用
レベル4 マスタードガス等の化学兵器無条件解除
レベル5 中型核ミサイル
レベル6 水爆の使用許可
レベル7 全兵器の無期限無制限使用許可
現在日本には核兵器はある。それは対アメリカ、対ドイツ用に作っていたからであり、数はそれなりにある。転移した後は維持費の問題で3割ほど廃棄した。
「すでに作戦は立ててあります。空軍とも上手く連携は取れていますが、かなりの損害が予想されています。」
と答えるのは海軍大将 小沢 健二
実は近場の艦隊に偵察も兼ねて、既にあの艦隊にミサイルを12発ぶち込んだ。結果、8発落とされたのだ。
さらに命中した4発はいずれも小破。かなり装甲は硬いようだ。
「敵艦の情報は、神聖レミリア帝国 空軍の空中戦艦 リバァイアサン種 木造だが燃えない木。強度は鉄並み。そして鉄より軽量。さらに魔法で防御力を上げている。さすがドニラス帝国の空中戦艦とやり合うだけはある。護衛艦隊だけで戦う相手ではない。ありったけの対艦ミサイルをぶち込むべきだ。」
「えー、横須賀にちょうど試作型の電磁投射砲があるのですが、これを使っても?」
と許可を求めるのは...
「確か、海軍兵器科新型兵器開発研究部の山谷大佐か。あれはまだ実験段階のはずでは?」
その問いに対して熱弁する山谷大佐
「ええ、試作ですが、実験結果では見事に発射に成功。次は威力のテストですが、ちょうどここにいい的が向かってると知らせが入ったもので。」
「その試作型、まだ実用段階にはなってないだろ。そんな怪しげなものを使うのか!?」
小沢は声を荒らげる。
「それは間違いだ!既に各種実験は終わり、実用化段階まで進んでいる!40mmで320グラムの砲弾を2297m/sで一切合切をー一切合切を吹き飛ばすのだ!!」
山谷の熱弁は、もはや狂気の領域に達している。唾が机の上に飛び散ってるくらいだ。
「電力問題は?」
あまりの迫力に少し引いた黒岩は、山谷に問いかけた。
「電力問題なら既に解決している。日本原子力発電研究所の次期型試作型小型原子炉と核融合炉実験路を稼働させて賄う。更に、退役した「おうみ」に既に電磁投射砲は載せている。電力は足りないので横須賀からケーブルで引っ張ることになるがな。うん。今後は船に核融合炉を搭載する事になるだろう。当面は原子力艦に搭載させるのもありか」
段々ブツブツ考え始めた山谷に、北条は止めに入る。
「わかった。電磁投射砲の導入も許可する。」
「首相、危険すぎます!」
小沢は抗議する。
「今はリスクよりもいかに早く、確実に敵を撃退するかだ。国民の命を1人でも多く救う為には、ありとあらゆる手段を講じるべきだ。」
北条は、いかなる手段をもって敵の撃滅を最優先にと、命令した。
◇◇◇◇
「緊急速報です。内閣府発表。該当地域に住む住民は速やかに避難してください。慌てずに避難してください。現在、敵勢力が日本へ侵攻中。神奈川県横須賀三浦地域、横浜市、川崎市。千葉県安房地域、君津沿岸地域、千葉市、市原市両市沿岸地域、葛南沿岸地域。決して慌てずに避難してください。」
テレビ、ラジオを初めに緊急避難速報が流れ、さらにアラートが鳴り響き、街中はパニックと化した。我先に逃げようとする市民たち。街中は渋滞だらけになり、電車は満員。それでも乗ろうと危険な乗り込みが相次ぎ、電動キックボードを初めとして自転車の危険な運転が相次ぎ大パニックに。インターネットはパンクし、街中は様々な声と、無慈悲なアラート音が鳴り響いた...
空中戦艦隊は横須賀近くまできた。
空中戦艦。その名前の通り、空中、空を飛ぶ戦艦。距離はかなり離れているものの、うっすらと見える物体に基地職員は恐怖した。
かなりの大きさだ。既に空中戦艦6隻は、幻惑魔法を解除していた。レーダーには微弱だが反応がある。
作戦通り、対艦ミサイル計25発をまず先にぶち込む。
目標、いちばん右の船。他の船より小型だからだ。
射程範囲に入りすぐに発射。
「命中 10!中破です!」
15発は落とされた。敵艦の迎撃システムなのか、黄色い光とともにミサイルが撃墜された。もうあと1分で敵の砲撃の射程圏内だ。
「撤退だ。第4防衛ラインまで撤退。」
作戦通り、1度撃った部隊はすぐさま後退。
更に、横須賀港に停泊している「おうみ」が電磁投射砲を発射。白い筋と共に、空中戦艦1隻にあたり、轟音が鳴り響く。続けて15秒後にもう一発。更にもう1発と5発発射したタイミングで、空中戦艦は大きく傾き、墜落した。
電磁投射砲は、レミリア帝国の技術では捉えることも、防ぐことも不可能。そう確定した世紀の瞬間であった。更に、ここで魔法が絶対という世界の法則も崩壊する事となる。
◇◇◇◇
電磁投射砲は試作型という事もあり、2分ほどで熱による砲身の変形。それによる命中精度の低下、さらに5分ほど経つと砲身は溶け始め、使用不可能となり、引き続き対艦ミサイルによる飽和攻撃が開始された。しかし、奮戦虚しく横須賀軍港は空中戦艦の砲撃に晒され壊滅した。
軍港内に仕掛けられた遠隔操作型のミサイルにより敵艦1隻を撃破した。
第2防衛ライン
千葉県富津市
ここに急いで配備されたミサイル80発を敵艦に発射。
それと同時に横浜からもミサイル計90発をぶち込む。
命中30 2隻撃破 1隻大破まで追い込み、やがて速度を失い、横須賀市街地に墜落。かなりの建物が被害を受けてしまった。さらに、敵艦は市街地へ攻撃を開始。黄色の魔法陣が展開され、そこから光の矢が降り注ぐ。轟音と共に燃え、崩壊していく街。観音崎灯台は倒れ、商店街は燃え、花畑は燃えて散った...
のこり3隻
敵艦隊は第2防衛ラインを突破。
第3防衛ラインである護衛艦隊と戦闘になる。
護衛艦隊は駆逐艦2隻とイージス艦1隻。標準の砲では、空中戦艦の装甲を貫通できず、高度の関係で一方的にやられ駆逐艦は座礁。船内は火災で吹き荒れた。
護衛艦隊は逃げるしか出来なかった。
駆逐艦両方共に大破。
イージス艦大破。
第4防衛ライン
川崎市上空を飛ぶ敵艦。既に横須賀市、横浜市は甚大な被害が出ている。マリンタワー、ランドタワーは倒壊。詳細な被害はまだ不明だが、隊員の顔つきは険しくなっている。
第3防衛ラインが突破された時点で、東京沿岸地域に緊急避難速報が出された。既に交通機関はマヒし、避難すら困難な状態になっている。そもそも、何処に避難しろというのかと。
それでも日本軍は諦めない。少しでも命を救う為に最善の努力を務める。
横浜市駐屯地に至近距離になるまで撃たなかったミサイル240発を発射。真下から突然撃たれた空中戦艦は、防御用の魔法発動が遅れ、轟音が東京奥多摩まで響いた。
命中200 全ての敵艦を撃破。ただし、敵艦隊の砲撃により第4防衛ラインにいた部隊約80人が死亡した。
さらに敵艦3隻が大田区に墜落。避難に遅れた民間人2568人が死亡した。
横須賀は壊滅。横浜市、川崎市は東側が壊滅し、千葉県沿岸部、港区、品川区にも大きな被害を出した。
累計死傷者数は89万人。第二次世界大戦後最悪の被害となった。
この出来事は東京決戦と呼ばれ、国民が反神聖レミリア帝国に突き進むきっかけとなった。
神聖レミリア帝国 空中戦艦
リヴァイアサン種
神聖レミリア帝国の中型空中戦艦。第16世代の最新型から1つ前の型式。
全長300m
高さ120m
幅 150m
円形のような形が特徴的であり、全艦種の中でも攻撃用の窓が多いのが特徴。
攻撃方法は、光魔法の光の矢が一般的。1発の破壊力は40口径程の大砲と変わらない。窓にそれぞれエルフがおり、そこから魔法を発動させるのが一般的。
装甲は、特殊な木材 レミリア帝国でしか取れないアルマを使い、硬さと防火性能を誇っている。
自動迎撃用の防御魔法に加え、耐久力向上の魔法も搭載されている。
心臓部にはエルフ固有の特殊魔法機構核が使われ、とてつもない魔力量を船全体に供給し、浮遊、推進、防御、攻撃、幻惑魔法等に使われている。
量産性にも優れ、攻防共に優秀であり、大型艦や、後の後継型に比べると扱い易い事から、一般的な艦として現在も戦場で見かける。
大きな弱点は、防御力が後継型よりも弱く、火力も中級魔法しか使えない為に大規模な攻撃はできない。核が下層にある為、下腹部は特に致命的な欠点となり、魔法さえ抜けば一撃で撃ち落とすことも可能となる。
ードニラス帝国 神聖レミリア帝国兵器書よりー




