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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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38話 救国の英雄

「ねぇ、どう?英雄になった気分は?」


女性将校はそう目の前の男に尋ねる。


「そうだね。最高だね。こうして人里離れた自然豊かな場所に、適度な大きさの家に加え、ご飯は珍しく美味しい。さらには、警備付きときた。」


と笑うリッドシュタッド。


先のリヒテンフェルス海戦は、両国に多大な影響を与えた。

皇国は主力艦隊を初めに海軍戦力の大半を失うもしくは機能不全へ追い込まれ、外洋における活動を完全に絶たれた。

さらに、大陸領のディジョン港はミサイルが弾薬庫に着弾。皇国がせっせと弾薬を送り、前線への鉄道が寸断され補給できず積み上げられたこの物資の山にミサイルが着弾したのだ。港は原型すら残さず消し飛び、それは大陸にいた皇国軍、貴族反乱軍、さらには共和国軍に加え日本軍にも聞こえた。


後世、この爆発をディジョンフォールと呼び、TNT換算では核兵器と並ぶ規模であった。


前線の皇国軍はこの爆発により更に混乱。様々なデマが飛び交い始め、収集のつかない混乱状態へ突入した。


さらに皇国はこの結果を


「皇国海軍!ニホン海軍戦艦を6隻撃沈!ノルデンブルクによる一撃撃沈!ニホン艦隊を撃退!」


と虚偽の報道をした。

リッドシュタッドの報告は上に握りつぶされ、内容はすり変わり、さらに「リッドシュタッド提督は、敵の猛攻撃に対し自ら盾になり、大怪我を置いながらも敵の攻撃に耐えきりさらに反撃により我が皇国海軍に勝利をもたらした!」と報道。彼を英雄として祭り上げ、負傷による自宅療養という形で彼を軟禁した。

軍上層部は彼が嘘で塗られた英雄という地位を求めない事は理解しており、口封じのために軟禁したのだ。


「そう、なら安心して。今、この周辺には私の味方しかいないから」


そう女性将校は帽子を外した。

金色の髪に皇族の証である翠色の瞳。その瞳からは野心に満ち溢れていた。


「アレク」「いいえ、中将よ」


身分は隠しているということか。

隠す意味があるのか?疑問に思う。


「そうか。で、何用かね?負け犬を見に来たって訳では無いのだろ?」


「ええ。あなたはこの戦争、どうなると思う?」


答えは簡単だ。


「皇国の負けだ。大陸軍を失った皇国軍は、兵を集めるために徴兵制へと切り替えるだろう。そうなれば、街から人が消えていく。電力や水道等の設備の維持すら困難になるだろうな。国力は急速に衰え、再建が困難になる。そうなればいつかこの国は詰む。国家として保てなくなり崩壊するだろうな。」


リッドシュタッドが見るこの先の未来は、総力戦へと移行したこの国の末だ。根こそぎ人が戦争へ駆り出され、街には老人と子供と女性しかいない。全国各地で設備が壊れ、それを治せる人はいない。いたとしても部品を作る人がいない。

そうなれば、戦争に勝てたとしても、この国は滅ぶだろう。人の命はお金には変えられない。


「そういうと思いましたわ。だから貴方には、この国を救う英雄になって欲しいわ」


「ふっ、英雄か。こんな状況下で英雄に価値があるのかね」


「あるわよ。この国を救う為に、この国を滅ぼした後にね」


「どういう意味だ?」


リッドシュタッドは、彼女から計画を聞かされた


◇◇◇◇

皇国大陸領 ディシジョンに向かって撤退中の皇国軍本隊


金髪で凛々しい顔立ちが特徴のザナック皇子は、

今や砂埃で荒れた髪。不眠による隈に加え、肌荒れもあり険しい顔立ちへとなっていた。


「フリードリヒ。今残ってる兵力は?」


「軍団としての機能を満たしてるのはありませんね。ただ、第四軍は戦力として使えます。他は再編成して2個軍団程度。戦車はほぼ全て失い、重砲も全て喪失。機甲師団は大半が歩兵へ転職です。貴族軍程度ならこれでも充分ですが、共和国軍相手では」


フリードリヒの撤退の差配は完璧であった。アラフォーンでの敗北は想定していたのだろう。かなりスムーズに撤退ができたのだ。この時点では、機甲師団もかなり残っていた。


しかし、貴族軍の寝返りは想定外であった。元々裏切ったもの達だ。信用などしていない。が、タイミングが悪すぎる。伸びきった補給線に加え、その補給線の大部分を貴族の領地を通っているのだ。早期で戦争を終わらせる為に領地の安堵と引替えに貴族を寝返らせたのだ。

その貴族が揃ってここで裏切るとなると、皇国軍は補給路を完全に絶たれたのだ。


数少ない食糧と弾薬、物資を切り詰めて数百キロにも及ぶ撤退戦。待ち構える貴族軍。

いくらこちらが強くても、弾薬が尽きれば終わりだ。更に、落伍者、遭難する部隊も続出し数を減らしてしまったのだ。


「では、フリードリヒ。どうする?」


フリードリヒは、悩んだ。いくつか策を探し、どうするか考えた。


「遅滞戦闘に徹し、時間を稼ぎつつ本国からの援軍を待つしかないでしょうね」


「港の修復が見込めない状況で?」


ディシジョンは港ごと吹き飛び、復旧はほぼ不可能という知らせが入った。

詳しくは確認できてないが、遠くからでも聞こえた轟音と衝撃。想像すらしたくない。


「やるしかないのです殿下。もう選択肢は」


ないのだ。そうフリードリヒは最後まで告げなかったがわかる。


「士気が低下している上に、連携すらまともに取れない中での遅滞戦闘とは。で、どう戦うつもりだ?」


「はい。我々が確実に確保出来ている場所は、国境要塞群。そして、孤立しているアルヌ。」


「アルヌか」


ザナックは、嫌な記憶を思い出す。全ての計画が狂いだしたきっかけとなったアルヌ。

あの街の守りの硬さは異常だった。

補給路の重要拠点として、攻略後も外壁の修復はしていた上に、予備司令部を初めとして兵舎や兵器庫の設置をしていたのだ。

今回の総撤退時に、逃げ遅れた部隊を回収する為に1部部隊をアルヌに置いた結果、アルヌ北部地域の領主が反乱した為孤立してしまったのだ。


「殿下、我々はここに向かい、味方を救出しここから遅滞戦闘を開始します。そのためにまず、寝返ったアルヌ北部地域の領主、スザンヌの討伐を !」


まだ共和国軍、ニホン軍の連合軍はアラフォーンから北に40km程しか進んでいない。なら、充分討伐する時間はある。


「では、その案を実行に移そうか」

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