33話 アラフォーン会戦2
セルボを半包囲するために南下していたハーデンフェル皇国第2軍。しかし、そこで南から突如現れた日本軍機甲師団の反撃を受け、士気が崩壊。
さらに、それを救援すべく虎の子の第6軍機甲師団を急行させた後に、背後からバハルス共和国軍及び中国軍航空機が出現。
攻撃ヘリにより、地上を耕しバハルス兵が土地をならす。
次々と突破され、戦線は崩壊寸前。
連携の取れにくさも重なり、皇国軍は混乱状態となる。
さらに、皇国軍の本陣付近にも砲撃を加え、混乱はカオスを生む。
第6軍から脱走した兵士を皮切りに、次々と兵士が逃げ出す。
士気は崩壊した。
ザナックは、この戦況を聞き、水すら喉を通らなくなっていた。
「そうか、負け...か...」
「ですが殿下、まだ完全な敗北ではありません。」
フリードリヒは、まだ諦めてはいなかった。
「補給が出来ないこの地で戦うより、万全な地にて戦うべきでしょう。ここは我が軍を大きく後退させるべきです」
フリードリヒは、バハルスとの国境付近までの後退を進言した。
以前なら通るわけのない意見だが、既に軍が崩壊した今なら、反対意見も出ない
「いいだろう。だが、どうやって撤退するんだ...」
「第3軍を殿に撤退します。撤退ルートは中央を。理由は、海岸は現在、海軍と連絡が取れない状況である事。もし、制海権を奪われていた場合、沿岸からの砲撃を受ける可能性が高く、詰みます。又、現地での補給が受けにくい為、安全かつ補給が比較的容易な中央が最も良いかと。既に撤退の準備は整っています」
「いくらなんでも手際がよすぎる。準備してたな」
この質問にフリードリヒはにやけた顔で
「なんのことでしょう?たまたまですよ。色々用意した選択肢の1つに過ぎません」と答えた。
◇◇◇◇
皇国軍は撤退を始めた。
それを見ていた中国軍第26歩兵師団団長 チョウは、どうするか考えていた。追撃するべきか、留まるべきか。
本国の意向は、損害を減らすことにあった。
「ここは敵地。間違いなく罠を仕掛けるだろう。それに引っかかるような間抜けにはなりたくない。合流だ」
バハルス連合軍と共に日本軍は首都へ後退した。
ここにアラフォーン会戦は日本、中国、バハルス連合軍の勝利で幕を閉じた。
撤退した皇国軍は、道中寝返った貴族軍が離反し皇国軍を襲う事態が頻発した。
まともな食料もないまま、ひたすら逃げ続ける皇国軍は、次々と落伍者を出し、野砲も戦車も車両もほぼ全てを失った。
皇国軍が元の国境線まで撤退した時には既に、生存者は1万人へと減っていた...さらに、日本の追撃を阻止するために仕掛けた地雷は、日本が追撃しなかったことにより無駄に終わってしまった...
◇◇◇◇
連合軍司令部
日本、中国、バハルス連合軍の総指揮官となった葉佐間少将は、現時点の戦局を考えていた。
今回の戦いにより、死者 日本人12名、中国人46名、バハルス人156名。
負傷者はその3倍。
最新式の戦車2両を失い、さらに攻撃ヘリ4機が撃ち落とされた。
懸念通り、皇国最新の戦車の破壊力は凄まじく、日本の最新式戦車を一撃で破壊可能。
更に、砲撃においても一発目から至近弾となるほどの精度がある。練度の高さも含め皇国軍の評価を上方修正しなければならなかった。
「それにしても、あえて追撃せずに放置してくれというカーゼル大統領殿の言葉を信じてみたら、まさかここまで皇国がすり減ってくれるとはな」
街道に地雷が仕掛けられるのは想定されており、その撤去の費用をどうするか考えていれば、まさかの皇国についた反乱軍である貴族軍が、その皇国を裏切り、こちらの味方であると証明するための手土産のために皇国軍を追撃し、地雷原事吹き飛んだのだ。さらに、その貴族軍の領地で相次いで領民が反乱し、中にはほぼ独立状態の地域もできていた。
無論カーゼルは貴族軍を許すつもりはなく、投降した者には裁判にかけると宣言。
「さながら戦国時代だな。」
更に、この領民の反乱の半数はカーゼル大統領を支持し、より一層貴族軍を追撃しやすくなっていたのだ。
「さてと、アルヌ奪還に向けた作戦でも立てるとするか」
今回の遠征の最大目的、アルヌの解放。
政府は、皇国を滅ぼすのではなく、アルヌの解放を持って講和へ持っていきたいそうだ。
それについては俺も賛成だ。圧倒的地形優位、補給も情報も優位を持ってのこの損害だ。本土に殴り込みなどどれほどの損害が出るか。
仮にミサイルでの攻撃に絞ったとしても、お金がいくらかかるか。
政府からは極力弾道ミサイルや戦闘機を使わないようお達しが来ている。少ない費用で戦争を終わらせたいそうだ。
「果たしてそれは上手くいくのかね」
葉佐間少将は、次の作戦をもう一度練り始めた。
◇◇◇◇
日本国内では、アラフォーン会戦による戦果が派手に伝えられていた。内閣支持率は急激に上昇、70%を超える状態となっていた。
しかし、その損害を共産党、社会党は国会で非難し、あちこちで戦争反対のデモも起き始めた。
北条はこの動きに頭を悩ませていた。
「やれ戦争しなければデモを起こす。したらしたで、反戦デモか。さらに、極右と極左勢力の暴力事件まで度々起きているとか。」
さらに、日本は反共の思想が強い。無論、ソ連や、赤軍といった民間人を狙ったテロ組織があったというのもあるが、共産主義者とみなせば集団リンチする地域も未だ残っている所がある。
これだけの反共が強いのに共産党はしっかり存続しているのは不思議だ。
「共産主義だろうが、愛国主義だろうが、行き過ぎたこの衝突はとても感化できぬぞ。特に反戦に関しては我らも同じだ。戦争に費やすお金はどこから出していると思っているのだ。」
黒岩の言うことはそうだ。
反戦デモの主義主張は様々だが、共通している事はやはりお金だ。費用がどこから出ているのかと言えば、結局は税金だ、国債だ。その負担は国民へと繋がる。純粋に戦争そのものへ反対している者もいるが、大半は結局のところ自分の手取りに関することが大きい。
貿易の利益や、国営企業の技術提携、法人税の引き上げや、インフレによる税収で何とか誤魔化しはできているが、仮に皇国本土まで出兵することになれば、大規模な増税は避けられなくなる。
「黒岩..やはりアルヌ解放と何か大きな戦果を上げての講和に持ち込むしかないよな?」
「戦果なら、確か海軍が大戦果を出てたぞ」
「え?」
黒岩は、持っていたカバンから「リヒテンフェルス海戦における報告書」を取り出した
アラフォーン会戦
2030年7月1日
バハルス共和国アラフォーン市近郊で起きた会戦。
アルヌで勝利した皇国軍は、バハルス首都を落とすために東部から進軍していた軍とアラフォーンで合流し、首都攻略のために準備を始めていた。さらに、途中でバハルス共和国から離脱した貴族軍が合流。合計150万人となった。
それに対し、日本、中国、バハルス軍は14万人。
首都近郊の丘陵であるセルボをめぐっての戦闘となった。
序盤は、皇国側の貴族軍の突撃からの、皇国軍の総攻撃によりセルボ陥落直前まで進んだ。
しかし、南部から日本軍が、背後から中国、バハルスの奇襲攻撃が入り皇国軍は総崩れ。
結果、バハルス領土からの総撤退に踏み切った。
皇国大敗の原因は、武器性能の差とも言われているが日本の最新鋭の戦車すら破壊できる火力と、背後からの強襲にもかかわらず、中国軍ヘリを撃ち落としてる事から練度の高さも合間り、十分日本の脅威になりうる程の強さはあった。
しかし、連携や兵站等、情報戦での差が勝敗を分けたとされている。




