31話 ハロ号作戦 始動
バハルス共和国軍は、マルヌでアルヌを超えたハーデンフェル中央軍と反乱軍による連合軍と戦い、敗北した。
予定通り後退する共和国軍に対し、ハーデンフェルは追撃を開始する。しかし、速度は完全に低下、アルヌで戦った時ほどの破壊力も既になかった。
それもそのはず。補給線は完全に伸び切り、砲弾の使用制限がきつくのしかかり、燃料もまともに使えず、航空機も飛行場を一から作らなければ飛ばせず、既に制空権を確保する事すら不可能になっていた。
この状況は、東から進軍してくるハーデンフェル軍も同じであった。しかし、まだ物資に多少余裕のある東部集団に中央軍は泣きついた。
アルヌでの失態は既に、次期天子への栄誉に傷をつけていた。さらに、首都へ王手をかけた東部軍は中央軍との合流を優先せざるを得なくなったのだ。
さらに、ルーデルの密約破棄に加えて国境地帯からの撤退。ニホンとリグルード王国参戦。皇国は、リグルードまで攻めなくてはならなくなり、既に作戦は破綻した。
この時点で、中央軍と東部軍を統合し、東部軍の第二皇子オルバが指揮を取り、バハルス共和国軍の撃滅を指示した。
合流した皇国軍は約90個の歩兵師団と約60個の機甲師団で、共和国軍を各個撃破。平野における戦車の機動力は誰にも止められない。
共和国首都から少し北にあるアラファーンにて、籠城戦を挑んだ共和国軍に対し、皇国軍の第5軍。戦車による城壁の破壊に、ゲリラ戦を展開する共和国軍に対して区画ごと破壊するという荒業を実行。街を原型すら残さぬ程まで破壊。役所に立て篭っていた共和国軍は投降し、街は陥落。
役所に残された大量の物資を皇国軍は鹵獲し、首都への攻略作戦を準備。
さらに、首都防衛のためにバハルス共和国軍主力に、日本軍、中国軍が集結。
最終決戦が近付いていた...
◇◇◇◇
東京参謀本部
山下武義中将
「今の戦況は?」
「現在、予定通り、自然な形で各地で撤退中。我が軍は第3防衛ラインまで撤退完了。敵は予想通り来てます」
「なぜ撤退するんだ?堂々と真正面から叩き潰せばよかろう?」
と尋ねるのは脳筋と呼ばれてる臼井廉也中将だ。基本攻めることしか考えてないため脳筋と呼ばれているのだが、その実は攻めるタイミングを見極めるのが上手いのだ。
「臼井くん。戦争とはなんかね?」
「戦争は、互いの技術や軍事力を正面から正々堂々と殴り合う。それが戦争だ」
「半分正解で半分間違いだ。俺はね、戦争は芸術だと思う。カンネーやアウステルリッツの戦い、長篠の戦いもだが以下に少ない戦力で、犠牲を出さずに敵を潰すのか。そしてどう敵を操るのか。戦争とはね、それまでの過程の事だと考えてる。このハロ号作戦の第1作戦、自然な形での撤退。敵は日本軍はとても弱いと思い込ませる。そうなると、補給がしんどくても、勝てると思い込み慎重な、入念な攻撃はしてこなくなる。そういう心理的な状態を作るのがこの作戦だ。でだ、第2作戦は敵司令部の爆破」
「爆破?どうやってやるつもりだ?どこが敵司令部なのか分からないというのに」
「この地図を見てくれ」
と山下が見せたのはバハルス共和国の地図。
「敵は今この街、アラフォーンを占領している。この街は、最前線に近く、さらに色んな主要街道が交差する交通の要衝だ。前線に命令を出すのならここほど最適な場所は無いだろう。だがな、この都市は役所以外が徹底的に破壊されている。いや、破壊したのさ。」
「おい、まさか。」
「司令官はきっとこの役所を司令部にするさ。なにしろ、ここ以外にこの都市に雨風を凌げる建物は無いからな。」
そう、司令部が分からなければ、わかりやすいように作ってあげれば良い。特に相手がこちらを舐めてるような場合ならなおよしだ。罠とも思わないだろう
「この役所にはあらかじめ爆弾をしかけている。そして第3作戦が、海上封鎖だ。これは海軍に丸投げしたがな。まぁ海軍ならやってくれるだろう。」
敵は伸びた補給線を維持するために本土から増援を送っている。
だが海上封鎖が実施されればここにいる敵は孤立する。食料が無くなれば終わりだ。そして司令部が無くなれば混乱し統率を失う。統率を失った軍など鎧袖一触だ。
「さて、第2作戦の開始だ」
◇◇◇◇
皇国占領地アラフォーンにいる兵士
瓦礫と化した街をみて、
「徹底的に破壊されてるなぁ。まさかこの都市に残った建物はあの建物だけとは。」
「まったく、やつらめ。我々は今日もその辺で寝るのか。ベットが恋しいぜ」
「あの建物は今は野戦司令部とはな。将校はいいよな。あの中で寝れて」
「でもさ、この行軍スピードなら1週間後にはバハルス首都だぜ。ふかふかのベットが俺を待っている」
その時後ろから爆発音がした。それはとてもでかく、鼓膜が破れるかと思うくらいだった。
「な、なんだ?」
兵士はみた。野戦司令部がある、建物が木端微塵に吹き飛んだ姿を。
「な、何が起きたんだ?司令部...」




