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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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27話 アルヌ攻防戦4

「意図的に洪水を起こして、一時的に我が軍を撤退させる。引き際がちゃんとしてますね。これは優秀な指揮官がいます。」


第2軍軍団長 ケーニッヒは一連のアルヌ攻防戦を振り返る。天然の要害に、岩や、土嚢で要塞化された街の外壁。さらに川には無数の杭が沈められている。ちょうど小型の船が通れないような高さで。


夜間の魔導士による攻撃もそうだ。周囲はだだっ広い平野。しかもやたらと柔らかい土ときた。

この小麦畑も、戦車だ車だが走れば、沈み抜け出せなくなる。

それを知った上で横から夜間に奇襲を仕掛ける。

さらにこれまでの戦場でも魔導士はほぼ出てこないか、対した脅威でもなかった。その油断もあり、ここでは魔導士は猛威を奮っている。


既に、今後の作戦に支障が出るくらいの損失を受けている。こんな防衛戦が得意な人間がいるとすれば....


バハルス帝国軍所属 ルーデル戦役にて、ガラニア市で孤立したバハルス軍に10倍以上の戦力差でルーデル主力軍は攻撃した。装備や練度に差はあれど、誰がみてもバハルスの負けは確信していた。

しかし、それに3ヶ月耐えきって、バハルス主力軍が迂回し、背後に周りルーデル軍主力は壊滅。

バハルス勝利を決定づけた戦い。


その防衛を指揮したのが 鉄壁ディーゼラ

日本との戦争の後、確か軍事裁判にて、北へ流されたと聞くが、なるほど。ここに送られた訳か。


「欲しいな。これだけちゃんとしている指揮官は欲しい。私自ら勧誘にいこう」


ケーニッヒは、殿下に直談判しにいく。


◇◇◇◇

アルヌ市


城門が破壊され、1部洪水により浸水し、もはや面影すらないこの街。


陥落は決定的となり、逃げようとする市民。

地下に隠れる市民。抵抗を続けることを決めた市民...各々各自で動き出している中 辛うじて原型を保っている放送局では、3人が集まっていた。


グロー市長と、レイニー、そしてディーゼラ。


「さすが鉄壁と恐れられた男だ。まさか、ここまでハーデンフェルと戦えるとは思わなかった」


グロー市長は喜ぶ。


「いえいえ。これも仕事ですから。それに、負け戦を喜ぶなんて」


「最初から負けることを前提とした戦いだったじゃないか。善戦できただけでも充分さ。それにしても、ここまで能力あれば、日本との戦争でも活躍したんじゃないのか?」


「ははは、あの時は、急にポツダムいけと言われて準備してる間にポツダム陥落しちゃって、さらに他の場所へ配備されるってことになった時に降伏しちゃって、何も出来なかったんですよ。」


苦笑いするディーゼラ。それもそう。あの時の帝国軍は、電撃的速度で進軍する日本に対処出来ず、混乱し、命令もぐちゃぐちゃになっていた。

指揮系統の混乱は軍を弱くする。指揮系統が整っていたとしても、当時の軍では日本に勝てないが。


「日本のせいでここまで飛ばされたのに、その日本の書物のおかげでここまで戦えるのも皮肉ですね。」


日本の漫画の戦術を活用できなければ確実にアルヌは早期陥落していた。帝国には魔導士を上手く扱うノウハウもなければ、知識も発想もなかった。

なのに日本は、魔法がないのによくここまで発想できるものだと畏怖する。


「それに関してはワシも思う。平和を愛するといいつつ、このような戦争ものが売れるとはなんとも不思議だな。帝政だったら、皇帝に反する思想の本なんぞ発行禁止だったが。」


「でも、グロリア男爵家の統治への不満本は出回ってましたよ」


「え?それ本当?初耳なんじゃが」


レイニーは、懐から本を取り出す。


「グロリア家の失政の歴史本 その時秘書は見た。第32巻」


「いやまて何巻あるのそれ!」


にっこり笑うレイニー


「全42巻。連載中で大衆娯楽として100年は続いてますよ。あ、2日前に新刊でたので43巻ですね☆子供の識字率向上にも使われ、舞台話にもなって民衆に人気があり、この国でこの街が1番識字率が高い理由です。」


グロー市長は頭を抱える。衝撃的事実を知ってしまった為というのもあるが、そのタイトルについてもだ。


「レイニー...」


「はい?」


「その秘書は見たって歴代の秘書が伝えてるのか?それとも書いてるのか?」


「うーん、最初の1巻から12巻まではグロリア家領主の秘書が書いたと聞いてます。ただ、よその男とできちゃった婚しちゃって駆け落ちして、執筆投げ出してからは、代々秘書が作家に情報を渡して書いてもらってますね。そこから新刊の出る速度が急激に落ちちゃったのが非常に残念で。」


2代前の、祖父の初代秘書がある日突然、駆け落ちで領地から逃げ出したという話は聞いたことがある。相手は、大商人の息子というのも。

それよりも、問題なのが


「代々秘書が作家に情報を渡してるんだよね?」


「はい。」


「この前新刊が出たと。この戦時中に」


「はい。」


「情報を渡してるのはまさか」


「珍しく勘がいいですね。私です☆安心してください。最近は失政ものより、失言とか笑いになる発言の方が人気あるので。市長のあほな発言を扱った方が人気が出るんです。ちなみに43巻は、この戦争における市長の言動がメインです!」


「おいッ!」


「ちなみにこれ、42巻までですけど既に日本に翻訳して渡していて、漫画化?されるそうです。やったね。日本に我が国というより、この街を知ってもらえるんですよ!」


「なんということしてるの?せめて許可取って?」


「許可?判子の許可はかなり昔に取ってるので大丈夫です!しかも、なんでも大ヒットして「あにめか?」なるものもされるそうで。異世界の物語初の作品だとかで話題になってるのだとか。向こうでは最近、貴族を扱ったヴェルサイユの...なんだっけ?と源氏物語が流行ってるそうで。ちょうど波に乗れたとかなんとか」


「異国にまでワシらの一族の醜態を晒さないで」


グロー市長はあまりにもの恥ずかしさで両手で顔を隠した。

ディーゼラもさすがにこの光景と衝撃の事実でしばらく困惑していたが「43巻には俺も出る?」

と質問しだした。


「うん。でるわよ。ちょうどこの街にいる日本人が持ってるはず。確か名前は...」



◇◇◇◇

「愛梨...加藤絵里、以上32名がアルヌ市に取り残されている日本人であり、救出対象者だ」


バハルス領内 南部を飛ぶ日本軍機。

今回、アルヌに取り残された日本人救出のためにここまで来ている。理想は、32名全員の救出だが、それが出来ない事も想定されている。

既に死んだもの。助けられる見込みの無い者、乗員を拒む者もいるだろう。また、現地の人も数人ならば難民として救出しても良いとなっている。


そもそも、戦闘区域で民間人を救出というのがそもそも危険すぎる。こんな危険すぎる任務を出した国に対する不満は各々が持っていた。

中には遺書を書くものも...

かつて、イランでの革命にトルコが、これまでの恩を返そうと銃撃戦のど真ん中で日本人救出作戦を実行し成功させたことがある。当時の日本政府は、イランとの戦争回避の為に現地の日本人を見捨て、政権運営すら危うくなる程の支持率低下を引き起こした。それに対し命懸けで救助したトルコへの賛美と賞賛は、トルコブームや映画で話題になった。


だが実行する側としては溜まったものでは無い。さらに、記者というお荷物を抱えた状態では尚更。


「これがバハルスという国ですか!見渡す限り永遠と続く平野、険しい山脈!まるでヨーロッパ見たい!ただ、都市が見当たらない。きっと中世とかこんな感じだったんでしょうね!」


と、NHK記者 小笠原女性記者が興奮しながら話す。


(誰も見た事ない景色を見るのが私の夢!例え戦場だろうが酸素濃度の薄いエベレストだろうが、人食い部族がいる密林だろうが関係なしに私はその景色を見てきた。この景色は最高だ。)


幼い頃からの憧れ。危険地帯でも、命をかけて写真を撮る女性ジャーナリストに私は憧れていた。

しかし、現実は想像以上に過酷だ。

1歩間違えれば死ぬ世界。

拉致されることもよくあり、流れ弾で死ぬことも戦場ジャーナリストならよくある事だ。


その危険地帯だからこそ、日常では見れない、独特な世界があるのだ。


「もう少しでアルヌですよね?」


そばに居る護衛の軍人に聞く。


「ああ。そうだ。もう見えてくるはずだ」


とその軍人はアルヌの方角に指を指す。

その方角に目を向けると、爆発音と共に大きな煙が見える。


「まじかよ。既に市街地戦になってるのか。」


軍人が慌て出す。市街地戦ともなると、救助が難しくなるからだろう。それよりも、私は嫌な感じを覚えた。死が近づいてくるような...

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