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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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26話 アルヌ攻防戦3

日本 閣僚会議


ハーデンフェル皇国による一方的な侵略戦争により、会議は荒れていた。

バハルスには多くの日本人が取り残されている。

避難勧告を出す余裕が政府にはなかった。

いや、出せたとしてどうバハルス内に伝えるのか?その連絡手段も限られていた。


色々と原因はあるが、政府はこの戦争を未然に防ごうとも、国民の保護もしなかった。その事実は揺らがない。


それまで無関心だった国内世論は、一気にバハルス内の日本人の動向へ目を向け、連日報道されていた。そして、この失態は政府批判へ繋がり、内閣支持率は50%をきり48%に。政府批判は留まることを知らず。


マクラーレン卿の策は、日本をバハルスから目を離す事に大成功していたが、致命的なミスをしていたのだ。


日本は、民主主義国家であり、報道の自由がある。それは、権威主義であり、報道も皇室により制限されているハーデンフェルとは違う。

国民が動けは、国は動かざるを得なくなる。それが日本であり、民衆が国を動かす。それをマクラーレンは知らなかったのだ。


「人道回路の設立を促すべきだ」


と提案するのは厚生労働大臣 井伊大輔

内閣改造により新たについた大臣だ。


「それは既に皇国側に拒絶されている。強硬的にでも、救出作戦を実行すべきだ!」


と提案する参謀長


「それを実行すれば、間違いなくハーデンフェルと事を交えることになります!さらに、軍にも被害が」と説得する外務省 小田原


「世論は既に、日本人救助を求めているのだ。このまま傍観すれば、せっかく積み上げてきた政権も、政策も全てが吹き飛ぶ。ならば、ここで博打を打つしかないだろう」


と、話す北条。


「と、言うことは」


「軍から特殊部隊を編成し、日本人を救助せよ。特に、連日報道されているアルヌ市を中心にだ。」


北条は決めたのだ。最悪の場合ハーデンフェルと一線を交える可能性のあるこの博打を。

他国は動かない。なら日本が動くしかないのだ。


閣僚は沈黙し、部屋の中にあるテレビだけが音を出していた。


「ハーデンフェルにより包囲されているアルヌでは、深刻な物資不足により民間人に死者が出ており、深刻な人道危機が起きております。また、多数の日本人が巻き込まれているとの情報も...」


◇◇◇◇

スズネ岬


飛行場


大型輸送ヘリが5機

護衛に戦闘機が9機

山のように積まれる大量の食料、医療品。


今回の日本人救出作戦にこれらが投入される。

さらに、


「なんで記者を乗せなくてはならないのだ!?こいつを乗せる余裕があるなら、物資を積むべきだろ!」


という花咲。

この作戦には記者を1人乗せることになっている。


「気持ちはわかるよ。だがな、これも命令だ。政府の命令だよ。なんでも、日本人救出というお題目を政権支持率アップの起爆剤にしたいらしい。現場の身にもなってくれ。」


「はっ、自分達の保身の為に俺たちがお守りをしないといけないとはな。いつから俺たちは保育園をやる事になったんだ?」


非戦闘員であり、戦闘の訓練も、心構えも知らない。物資の積み方、解き方なども何も知らない人間を乗せるなど、邪魔でしかない。

特に命をかける危険な仕事なら尚更。

だからこそ彼らは真剣に怒るのだ。


「上は全く何を考えてやがる。」


実際は、NHK(日本報道協会)からの政府圧力が起き、ゴリ押しで派遣される事になったのだ。

報道の自由と、全国への放送権を持ち、放送法の力でどこにでも記者を派遣できる。それがNHK。


しかしそれは現場との軋轢を生む原因ともなる。


「おいお前ら、出発するぞ。」


こうして日本人救出作戦は始まった。


◇◇◇◇

アルヌ市


砲撃により瓦礫の山となった町。

何も無い。何も無い。

その中で、私、上杉 玉子は、人命救助を続ける。


地下壕 野戦病院。既に医療物資は底を尽き、まともな薬すらない。

化膿した腕を、麻酔なしで切断するなど当たり前。地上にまで聞こえるかのような、痛みによる悲鳴が響く。

それに慣れてしまう、慣れてしまったこの環境。

みな薄々気づいていた。いや、気付いた上でこの戦いに皆挑んだのだ。誰も文句を言わない。


「切断した場所を火で炙って!」


腕を切り落とした場合、止血をしなければならないが包帯も、消毒液も既に底をついた。

ならどうやって止血するか。火で炙って止血させる。もしかしたらこれ以外にいい方法があるかもしれない。しかし私はそれを思いつくことが出来なかった。ここにいる他の人もそうだ。


少しでも多くの人を救う。それが私の使命であり、医師で大好きで尊敬していた父に少しでも近付きたかったのだ。


父も医師だ。この世界に来る前に、国境なき医師団という国際団体に入って世界中の紛争地帯で人々を救っていたという。しかし、私が小学6年生になる頃に、当時発生したアラブ大戦で、反政府軍の病院爆破テロに巻き込まれて死亡した。


父の夢は、1人でも多くの人々を救いたい。家庭を守る事だと。それを私は受け継ぐ。


「もう、殺してくれ...」


あまりの痛みに、小さな声で訴えかける患者...

この人は、家族を守るために瓦礫の下敷きになった息子を助けようとし、その最中に飛んできた爆弾の破片が右腕に直撃。さらに火の粉が顔にもかかりあちこち火傷をしている。息子は両足骨折だったものの無事助かったが、父親は酷い状態だった。


「あんたには、家族がいるだろ。息子は元気だ。奥さんも無事生き残っている。その中であんた1人だけが死ぬのか。残されたものはどうなる。生きて、家族と再開するんだ」


「む、息子は、生きてるのか...良かった... なら、俺も...いきなくちゃ」


その時、大地が揺れるような、地響きが聞こえた。


さらにラジオ放送がその音の正体を告げる。


「先程の攻撃により、城門が吹き飛ばされ、最終防衛ラインが崩壊しました。これによりこれ以上の組織的な戦闘は不可能であるため、各自、最後を選択してください。街に残り戦うか、降伏するか、逃げるか。猶予は3時間です。」


野戦病院内が、しばらく静かになってしまった....


◇◇◇◇

ハーデンフェル皇国


「なんだ今の音は?」


城門を吹き飛ばした直後に聞こえた轟音と地鳴り。何か嫌な予感に包まれる。


「こ、航空部隊より入電!西のダムが正体不明の爆発により決壊!大量の水がこちらに押し寄せてます!」


川の上流にはダムがある。それは日本が建てた水力発電所という事は知っていた。その電力はこのアルヌに流れている。その送電網を抑えておけば、アルヌに電気は届かないし街を占領すればそのまま電気が使える。

そのためダムが戦場にならないよう注意を払いつつ、早急にアルヌ攻略を進めていたのだ。


ダムには大した兵士はいない。それは分かっていた為放置していた。


「やりやがったな!まさか町ごと水浸しにするつもりか!」


現場の指揮官 ゼータは城門跡を見る。瓦礫の山によりちょうど、大人1人分の高さの壁が出来上がっている。それどころか、土嚢を盛っている


それで守れるとはとても思えないが


「くそ、撤退だ!全軍、丘まで撤退しろ!急げ!ここら一帯が全部浸かるぞ!」


皇国軍は一斉に撤退し始める。近辺でいちばん高い丘までの距離はそこまで離れておらず、皇国軍本陣が敷かれている。その為殿下らは問題ないが、皇国軍に損害が出てはならない。


皇国軍は無事、撤退に成功する。

NHK 今の日本放送協会という名称は戦後に出来た言葉なので、ここでは52年に日本報道協会(NHK)という名称で通します。中身は大体同じ。違う点は、報道の力が実在のより強い所。大戦での反省から、大本営発表を鵜呑みにするのではなく、現地に記者を派遣し、事実を確認。何者にも縛られぬ報道の自由

と、ありとあらゆる所属に属せず、肩入れもしない公平性、立ち入り禁止なども関係なしに、手続きを踏めば基本的にあらゆる規制を超える放送法の力と、放送法による国民からの徴収により莫大な資金力で動いている。

但し、戦場での取材に置けるトラブルや死亡率は他のジャーナリストの追随を許さないレベルの数値を出しており、破格の報酬が約束されているとはいえ危険すぎるということで、その部門に配属される=死刑宣告と他のメディアから非難されることもしばしばある。

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