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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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25話 アルヌ攻防戦2

ハーデンフェル皇国



アルヌより北に5キロにある前線司令部


皇国軍本陣でザナックは怒りでものに当たっていた。


「なぜ!なぜ未だに落ちないんだ!未開の蛮族ごときの、ただの街だぞ!」


既に1ヶ月半が経過。未だに中にすら入れていない。


「ザナック殿下、もうまもなく総攻撃の用意が終わります。天下の皇国軍最精鋭の機甲師団と爆撃機による攻撃により敵の門を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまいましょう」


皇国軍最新鋭 重徹甲戦車

魔石を燃料とした新型エンジン ジー型 魔石から魔力、そして動力エネルギーへと変換する変換器を用いて耐久性と、これまでの通常のエンジンとは一線を画すパワーを獲得。

対空砲に使われる口径8.8cmの砲を載せている。

さらに、特殊徹甲榴弾を使用。常識ではありえない20cmの鉄板すら貫通させる。これは、特殊材質の鉄と、皇国がこれまでに会得した魔法技術と、神聖レミリア帝国との共同研究による、砲弾に魔法を塗装するという新技術によって達成された。そう、事実上、どんな鉄壁の装甲だろうが一撃で破壊可能である。正しく最強。


しかし、とてつもなく重く、車輌の製造コスト、砲弾の製造コストも相まってあまり量産は出来ていない。


対ドニラス用の実戦テストとして最精鋭の機甲師団に割り当てられ、初の実戦配備。

威力は


「発射!」


打ち出された弾は、アルヌの、積み上げられた鉄塊の城門を容易く吹き飛ばし、一撃で門を木っ端微塵にした。


「勝ったな」


ザナックは勝利を確信する。


「雑魚のくせに、劣等人種のくせしてここまで手こずるとはな。」


ザナックの怒りは既に頂点へと辿りつつあったのだ。


この戦争はドニラスとの対決を控えた前哨戦。

それともうひとつが次期天子の確定である。

実績のない次期天子よりも、実績が少しでもある方がいいということで、代々次期天子候補は何かしらの武勲や賞状を手に入れている。だからこそ次期天子であるザナックはここでなんとしてでも首都を先に落として、実績をもって天子へとなる。逆に、ここで先を越されてしまうと、後の統治に甚大な支障が出かねない。第2皇子の発言権があまりにも大きくなりかねないのだ。


だから、第2皇子には負けられない。


「アルヌをさっさと落とせ!」



皇国軍は、一斉に橋を渡るべく、大量の戦車が動き始める。


その時、西から小さく爆発音が響く...


◇◇◇◇

けたたましい轟音と共に、門が破られ、それがグロー市長まで届く。


「そうか、門は破られたか...」


天井はなく、青空の放送局。外の音がよく聞こえる。振動もセットで。


「予想よりは長く持ちましたね。」と、紅茶を注ぎながらいうレイニー。この爆発音の中でも、表情一つ変えることなく紅茶を注げるレイニーはやはりすごい。


「ほんと、レイニー、なんで怖がらないの?ワシは見ての通り、ずっと手が震えてるんじゃが」


実際、グロー市長の服は震えで飛び散った紅茶のシミが残っている。


「そうですね。毎回毎回、ラジオ放送で声を震わせて、しかも噛みまくってるのはさすがに笑いますよ」


「やめてくれ.毎回放送後恥ずかしさで死にそうなんじゃよ...」


「ただ...」少し間を置いて、空を見上げるレイニー。

この部屋も砲撃により瓦礫が転がっている。この建物だけでは無い。周りは既に廃墟。街だった何かという状態。それほどこの街には砲弾が降り注いだ。


「それでも、臆病者でも逃げない。立ち向かう。それどころか前に向かって歩く。無能と罵られようとも、受け入れて進む。その信念に私は惚れているんです。臆病者の勇者。」


レイニーは知っている。

今まで、家柄を誇る奴ほど、いざとなると人を裏切るし、家を盾に脅す。暴君になる。

口先だけはいっちょ前でも行動には移さない。何かしらの理由、理屈を捏ねて逃げる。

弱点や欠点をつかれ、それに対処するわけでもなく、受け入れもせずに認めようともしない。そして過ちを繰り返すやつ。


でもグロー市長は違った。


過ちは認め、謝罪もする。家柄を誇りはすれど、物事の言い訳にもしない。言ったことは実行する。ただ、そう、やればやるほど失敗し仕事を増やす。それを身を持って知った時、グロー市長は私や部下に全部相談した。


周りからどれだけ無能と呼ばれても、否定もしない。それどころか認める。そんな人間は、レイニーは見たことがなかった。特に、帝国時代の貴族にはそんな人は誰もいない。


レイニーはバハルス帝国最大の学校。帝立学園にいた。

そこは学力さえあれば誰でも入れる。自由平等を掲げていたが、中身はハッキリとした身分差があった。貴族科と庶民科。わかりやすいほどの差別社会。そこでレイニーはハッキリと理解した。


貴族とは、プライドが高すぎる、傲慢でありその地位にあぐらをかいて座る存在だと。

自分の非を認めない、それどころか他人のせいにして蹴落とす。それが貴族なのだと。


しかし、グローは今まで出会った貴族とは違ったのだ。まだ貴族だった頃の彼は、確かに度し難い程の無能であった。

計算は苦手。四則演算に時間をかける。

運動はだめ。全てにおいて平均以下。

指揮能力。全てにおいて最低。


それでも彼は、他人のせいにせず、自分の非を認め、前を向いてあるく。例えどれだけ失敗しようと、挫けない。


「ですから、私は最後まで着いていきますよ。むしろ私がいないとあの世まであなたを誰が案内するんですか?きっと途中で迷いますよ」


「レイニー...」


「市長!俺達も着いていきやす!俺たちはあんたに恩を感じてるんだ。」


「みんな...」


グローは感動して泣いた。しかし、直ぐに泣きやみ、覚悟を決めた顔をする。「わかった。では、最後の作戦を始めよう。指揮者として、統治者として最悪の作戦だがな」


最後の作戦が始まろうとした...

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