24話 アルヌ攻防戦1
皇国軍は軍を3つにわけ進軍を開始した。
バーニア街道を進む皇国第4軍と山岳特殊部隊。大将は第三皇子 スリーパー
東のラーニャ街道を進み、川の河口を抑え、補給路を断つ第5~7軍と皇国主力艦隊。大将は第二皇子のオルバ
中央のセントローレンス街道をつく主力軍 第1~第3軍 大将は次期皇子 ザナック
数十万もの軍勢が共和国に襲い掛かる。共和国の国境警備隊は開戦2時間で壊滅、もしくは降伏した。
セントローレンス街道、皇国との国境には12の城がある。この城の早期攻略こそが皇国軍の作戦の最大目標なのだ。
予定では15日。
しかし実際は
「殿下! 」
皇国軍本陣にて、ザナックは本を読んでいた。
「何用だ?」
「はい!12城全部我が軍の手に落ちました!圧勝です。」
「ほぉ。まだ10日しか立っておらぬぞ」
「我が軍に恐れ即時降伏した所が多く、物資も想定以上得られ、逆に武器の損耗を抑えられています」
「うむ。バハルスは腐ったミカンか。まさかここまで腐っているとはな。」
バハルス軍は、次々と戦闘に負け詰みかけていた。士気も、装備もない。練度も無い。
「東も順調と聞く。そうだな。競走だこれは。誰がいちばん早く首都を抑えられるか。ほら、全速力でかけろ」
「皇子、それですと補給が間に合いません」
「なぁに、食料は現地で調達すればいい。燃料をその分積めるだろ?」
「は、はい」
「ふん。この神に選ばれし我ら民族にその辺の雑種が勝てるわけなかろう。バハルスは大人しく我が、次期皇子としての功績のひとつとなれ」
食料を積まず、その分弾薬を詰め込んだ皇国軍は、そのまま勢いに任せ南下。
アルヌの郊外に到着した。
5月18日。皇国軍はアルヌまで残り25kmの地点に到達。あいにくの大雨により1時進軍を停止。
川沿いに下っていたが、川は雨により増水。街道の側は田園が広がり、軍は長い1列状態となっていた。
第1軍軍団長 リットンはアルヌの地形図を見る。
「おかしい..地図を見る限り、アルヌはただの無防備な市街地なはずだ。なぜここまで要塞化されている?」
アルヌは、短期間で要塞化されていた。
街の外周は石垣に囲まれ、川底には大量の杭。
複数の見張り台に、橋も既に何本か落とされている。気になるのが、偵察機の情報によればアルヌから首都へいく逃げ道の橋すら落とされているところだ。
「やつら、逃げる気がない?ここで篭城戦でもする気か?」
援軍なんてこない。それがわかった上での篭城戦。それはつまり、死ぬ気だ。
「まぁいい、どうせすぐに落ちるだろ。3日もあれば降伏するに決まっている」
◇◇◇◇
5月28日
雨が終わり、攻勢を20日に開始。それから既に8日経過した。
皇国軍は、陥落どころか川すら越えられなかった。
その原因はやはり、アルヌという天然の要害だ。
橋を奪おうと軍は進軍した。すると橋の手前に地雷が仕掛けられており、5台戦車を破壊された。
さらに、厄介なのが魔導士による物資の爆破であった。長い1列に目をつけた奴らは、どこからともなく夜間、突然現れ、側面から弾薬が詰まった馬を狙い攻撃。誘爆も重なり、かなりの量の弾薬と兵を失った。さらに食料も。
魔導士を追撃しようと田園に突っ込んだ戦車は、雨により泥濘と化した大地に飲まれた。街への砲撃を重ねたが、効果はあまりない。一向に降伏する気配は無い。
さらに、地雷原の撤去が終わり、橋を奪った途端、橋が崩落。5台の戦車と兵士が川底へ落ちた。
既に第1軍は大損害を受けている
「魔導士は、ここまで厄介だったとは...」
さらに厄介なのは魔導士の夜間ハラスメント攻撃だ。皇国の銃弾なら余裕で魔導士を撃ち落とせるため脅威では無いという結論があった。
しかし、夜間では当てにくく、逆に向こうは明かりを頼りに攻撃ができる。
さらにその攻撃も砲撃のような火力がある。
機動性は戦車並。
「さらに、隠密性能は特殊部隊並か。」
ドニラスの魔法は皇国に恐怖をうえつけた。
バハルス帝国の魔法はあまり強くなく、皇国の技術力で十分勝てるくらいであった。
ここでリットンは知る。ある程度統制された、さらに技術差を理解し対応した魔導士はかなり厄介な存在になるということに。
◇◇◇◇
アルヌ市
グロー市長は、半壊した庁舎で戦況を見る。
日本人がもたらした「聖女戦記」というマンガに皇国と似たような技術を持つ敵と戦う作品があった。これを参考にした魔導士部隊。 それがあまりにも上手く皇国相手に通用したのだ。
さらに、皇国軍は渡河ができず、この街を包囲することすら出来ない。
とはいえ、これは先行部隊に過ぎない。本隊が到着すれば戦況は間違いなく悪化する。
と、レイニーは説明した。
「分かった。軍事も全く分からないが、好きなように頼む。既にやってるだろうが」
「ええ。市長の実家が防衛上邪魔だったので取り壊して要塞化、さらに家の家具は全て解体して防空壕や地下道の補強等に使いました」
「何勝手にワシの家壊してんの?」
「勝手にやってくれと言ったのは市長ですからね」
「せめて一言言ってくれよ...」
「まさか、自分の家だけは壊すなとおっしゃるんですか!?」
「いや、別に言わんけど...それが必要なら」
生まれてずっと苦楽を共にしてきた我が家が消えてしまった...そのショックに浸る時間も余裕も既にない。
「そうだ、ラジオでワシがここにいることをみんなに知らせるのはどうだ?毎日決まった時間に放送するんだ。テレビは既に壊れたが、ラジオなら」
「それいいですね!やりましょ!」
こうしてグロー市長は毎日ラジオで状況を放送しだした。例えその時間帯に敵が砲撃をしても、砲撃音が入ってもお構い無しに放送室続けた。これが結果として市民の希望となり、士気の向上へと繋がった
◇◇◇◇
バハルス 大統領府では、カーゼル大統領が戦局をみている。
開戦から既に1ヶ月が経過。この間まともに寝たことがなく、髪も髭もボサボサ。上がる報告は最悪なものばかりだ。
地図には共和国全土の都市と、陥落した都市×のマークが記されている。既に国土の大半が陥落している。
「西は地形的な恩恵と、山岳バハルス兵の活躍により皇国軍に大損害を与えているが、東は既に7割の領地が落ちている。そして問題が中央」
と、中央には皇国国境沿いのバツ印の要塞群。
そして、アルヌより南のバツだらけの町たち。
アルヌより南の4県が一斉に皇国に寝返り、アルヌは事実上孤立してしまっている。知事の寝返りに反対していくつかの市町村は抗戦したが真っ先に潰されほとんど残っていない...
さらにアルヌとの連絡網も寸断されどんな状況かすら不明。それどころか、この寝返ったもの達が首都へ向けて進軍中ときた
「アルヌは既に落ちたと見るべきか」
アルヌはただの町である
「ですが、こちらに進軍している反乱軍には皇国軍がおりません。敵の規模や物資状況からして短期決戦を皇国は想定しています。反乱の時期もそうです。なのに、反乱軍に皇国軍がいないのは、アルヌを突破できていないからでは?」
東から来る皇国軍だが、ラーニャ街道の終点には1箇所難所がある。
ラーニャバレー
東海岸を進み、バハルスとルーデル国境付近にある巨大山脈 そこにポツダムまで流れる川がある。
その谷間こそがラーニャバレーであり、首都への道は東海岸だとここが1番広いのである。
ここ以外に皇国の戦車が通れる道はなく、道の整備が全く進んでいないが故に進軍ルートが限られるバハルス故の地形事情があった。
そしてこのラーニャバレーの両端の岩山を既に爆破し道を瓦礫で塞いでいる。撤去し追えるまでにはかなりの時間がかかる。快調に進んでいた皇国軍はここで足止めをくらう。
故に、バハルスは迫り来る反乱軍にのみ対処するだけで十分なのだ。
「うむ。そう考えるのが妥当か。よし、では早急に反乱軍を迎え撃つぞ 」
「あの、大統領。その反乱軍を迎え撃つ程の兵士も武器も弾薬も何もかもが不足しておりまして、真正面から戦っても勝てません」
「え?」




