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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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21話 狼煙を上げろ

2030年 4月9日 皇国


「マクラーレン卿。貴方の働きにより、ニホンはこの戦争へ参加する事は出来ぬということだな。」


天子は、マクラーレン卿の報告を聞き、喜ぶ。


「はい。」


マクラーレン卿は、ニホンとの開戦を回避すべく、非道な手を打ってきた。それは


「にしても、なかなか派手にやるな。まさか、信者を使って一国の王を襲撃するとわな」


諜報機関 八咫烏を使い、裏で操っていた宗教団体を用いて首相を襲撃させる。しかも、操ってはいたがあくまで誘導だ。たまたま、元からあった新興宗教に魔法の知識が渡り、たまたまリグルード王国内であった違法な手術のルートが漏れ、たまたまそれが信者に渡り、たまたまその情報が王国に漏れニホンにつたわり、弾圧が始まろうとしたその時にたまたま首相の移動ルートが漏れた。それだけだ。


「ええ。ニホンの情報通信技術を逆手にとった攻撃です。これにより、ニホンは大いに混乱し、当分外へ目を向ける余裕はないでしょう。ましてや、国益にもならないバハルスなどとは。」


八咫烏により、誘導され、梅田にて首相襲撃事件を起こしたマジカナル教。結果的には襲撃は失敗し、首相自ら動いた事により事態は解決へとなった。しかし、死者34名。重軽傷者896名を出す史上最悪のテロ事件となった。


「ニホンなんぞ脅威にもならん。...が、マクラーレン卿の頼みだ。ニホンとの開戦は避けてやろう。だが、これでもニホンが邪魔をしてくるようならば...」


「ええ分かってます」


その場合はニホンとの開戦。マクラーレン卿は日本の情報を徹底的に集め、さらに本土に八咫烏の密偵をも送り込んだ。日本に3人、中国に1人スパイマスターを送り込み、現地人を使いスパイ網を構築する。八咫烏は色んな国にスパイ網を構築しており、その情報の精度の高さはこの世界一とも言える。


だからこそ、マクラーレン卿は皇国においてかなり重宝されている。


「ではマクラーレン卿、バハルスとの戦争のための開戦事由作成を頼むよ?」


「ええ。おまかせあれ天子様」


マクラーレン卿は笑う。この作戦が上手く行けば皇国は大いに飛躍し、ドニラスとの決戦に挑める。さらに自分の地位のさらなる向上も...


マクラーレン家の栄えある未来はすぐそこまで来ている。そう確信していた。


◇◇◇◇

皇国軍がバハルス国境付近に追加で軍を展開。

名目上は、「バハルスからくる難民による治安維持」だが、誰の目から見ても分かるくらいの過剰戦力がそこにはあった。


皇国陸軍主力、最新鋭の戦車。戦車と言っても、史実の第一次世界大戦でイギリスが初めて導入したタンクを、耐久性、防弾性、機動性、速度等を改良したものに過ぎない性能である。

さらに、機械化歩兵も、タイヤすらついてない車輪のトラックとなっている。サスペンションも無いため乗り心地は最悪だ。


しかし、間違いなく史実の電撃戦に近い、機甲師団が既に完成していた。これは史実よりかなり先取りしたドクトリンである。

さらに、複葉機ではあるが航空戦力まで整え、飛行場にはびっしりとそれが配備されている。

さらには鉄道まで敷かれ、輸送用の蒸気機関車が多数配備。さらに列車砲まで用意されていた。

対ドニラス用の最新式列車砲 370mm列車砲に、口径42cmの巨大な列車榴弾砲。さらに長距離砲撃型の24cm列車砲。徹甲弾仕様の列車砲も用意されているのだ。皇国の最新兵器の展示会とも言えるこの状況。バハルス側からしたら溜まったものでは無い。

目の前に巨大な爆弾があるようなものである。


この動きは日本も察知していた...しかし...


日本は動けなかった。

梅田事件により、テロリストが、魔法を使用した動画がネットに拡散。魔法という恐怖と、それが異世界に当たり前のようにあるという脅威。さらに、それが国内に既に入り込んでいるということによる疑心暗鬼。魔女狩りのような状況になりつつあったのだ。反魔法運動がおこり、さらに魔法の自由を掲げる運動もおこり国内は2分状態。

国会は荒れに荒れていた。

事件の主犯であるマジカナル教は既に解散命令により解体。しかし、法律はこの魔法に対して追いついていなかったのだ。そもそも日本人含め、魔法を使うことが出来ない、もしくは脅威にもならないレベルの魔法しか使えないのが大前提であり、そもそも人体の構成が違うリグルード人ら異世界人しか魔法は使えないものとされていた。


梅田事件が起こる前、転移直後の調査により、


日本人でも魔法が使える者がいる。だがその魔法が果たしてどこまで使えるのか?それを知らなければ法律も作れない。ということで国は試験的に帝国大学に限り、魔法を学べる魔法学部を設立した。西園寺らの帝都大学魔法学部もその政策のひとつであり、その調査結果が「日本人では、魔法をほぼ扱えず、また扱える魔法も日常生活において脅威にはなり得ない。」として結論づけられ、リグルード王国への民間人渡航許可と同時に魔法の免許制度導入が実施された所だったのだ。

しかし、魔石というドーピングがある事を日本は把握していなかった。野党はそれによる油断が今回の梅田事件へ繋がったと指摘。マスコミもこれに追随した。


「北条首相はどう考えているのですか!?これだけの死者を出したのです!」


国会の質疑応答。野党最大勢力の自由の党の議員が投げかける。


「えーはい。此度の事件。我々は魔法というものに対して知らなさすぎました」


「それは北条の失策を認めるということで?」


「いえ」


北条は断言した。


「我々は、魔法について何も知らない。何しろ魔法がファンタジーであり、存在しない世界に住んでいたのですから。それがある日突然、国ごとここに飛ばされ、訳が分からず物事が進み、魔素だ、魔獣だ、未知の生命体だ、我々はこの世界をあまりにも知らなさすぎる。我々はこの世界で産まれたての赤ん坊であり、今ようやくよちよち歩きしだした状態だ。」


それは事実である。転移後何もかも全てが代わり、食糧危機を打開すべく国交を結び、なされるがままにリグルード王国と手を結びだしたらバハルス帝国との戦争に巻き込まれたのだ。あの王に1杯食わされたのだ。


さらに、情報が少ないまま、バハルス占領地を統治したら大失敗。列強だ、ドニラスだ、レミリアだ、日本は何も知らないのだ。


「だからこそ、我々は知らねばならない。元の世界に戻る方法があるのかすら分からぬ。まず我々は知らねばならぬ。魔法についての研究も、今以上に勧めなければならない」


「それによって何万もの国民が死ぬかも知れないのですよ?」


「それにより救われる命もあるのです。」


北条は、続けて問う。


「かつて我が国、江戸幕府の頃、攘夷と叫び外国船をうちはらいました。しかし、当時の人達は外国、西欧を知らなかった。知らなかった故に、アヘン戦争やアロー戦争で何が起きたかを理解すらしなかった。そしてその結果が、下関戦争の敗北、薩英戦争を招いたのです。そして彼らは外国を知った。だから攘夷をやめ、倒幕へ動き出し明治維新へと繋がった。分かりますか?」


反論された議員は、黙る。


「認めましょう。我々は魔法も、この世界も何もかも分からないのです。だからこそ、知らなければならないのです」


◇◇◇◇

首相官邸


「北条さんよぉ、よく言ったな。支持率が怖くないのか?」


黒岩はソファで座りながら、珈琲を飲みつつ、地図を見る。


「私だって魔法については何も知らないんですよ。それに私は梅田事件(あそこ)で死にかけたんですよ。今更支持率だなんだ気にもなりませんよ。支持を失った頃で死ぬ訳では無い。」


北条は梅田事件で死にかけた。だからこそ、彼は知ったのだ。支持率がどうのとか、死ぬよりマシなのだと。


「それに、知らない事を知る。未知を既知に変えてやりたいってのもあるんです。」


「だからって、暗黒大陸調査団派遣を政府主導でやる事はないでしょ」


暗黒大陸


満州から南に数百kmにある暗黒大陸。

人工衛星ですら、何があるのか不明。衛星写真ではモヤがかかって観測不能。


王国によれば、かつてリグルード王国より前にあった、この大陸の覇者 古代王国を滅ぼした魔族の生き残りがいるとか。

レミリアとの戦争に敗れ、逃げたとも。

その後、王国も調査船団を何回か暗黒大陸に派遣したが全滅したという。


「北はハーデンフェル。西は王国。東はアトランティスに南は暗黒大陸。 北は軍事的に優勢。西は同盟国。東は未知数だが、とりあえず意思疎通だけは取れる。となると、問題は南に。」


南の暗黒大陸の安全を確立しなければ、日本の防衛は叶わない。さらに情報は何一つない。他の国はみな、お互いの領土問題に躍起になっている。


「だからこそ、日本が主導となり、中国、韓国、リグルード王国合同による調査団か。上手くいくかね?」


「いくさ。」


北条は、その後入管法や帰国時の検査の強化、さらに魔法に関する新たな法案を作成、可決させ次々と国内問題を解決させていく。


しかし、問題は国内だけでは無いのだ。


4月25日


ハーデンフェルとバハルスとの国境にて、バハルス軍の軍人が無断で国境を越え、皇国内の少女を射殺した。



大戦の波は確実に近付いていた

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