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例え世界が変わっても  作者: パピヨン
第二章 皇国編
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18話 それぞれの思惑 1

アレクシアの元老院での訴えがあったその日の夜。


元老院議員 マクラーレン卿は自室で煙草を吸いながら、アレクシアの資料を読んでいた。


「ニホンか...わが諜報機関の八咫烏の報告書に書いてあることと一部合うところがある。」


マクラーレン卿は皇国の調査機関。表向きは国内の人口等の調査機関として。その本命は天子直属の諜報機関の長であった。その諜報機関が八咫烏。その八咫烏にはすでにニホンに潜り込ませていたのだ。しかし、上がってくる情報はありえないものばかり。


曰く、空を音速で飛ぶ航空機がある

曰く、我が国の車をはるかに超える性能を持つ車が普及している

曰く、我が国よりも綺麗でかつ、カラーの写真を取れるカメラがある

曰く、射程が数百キロにも及ぶ大砲がある

曰く...曰く...曰く...と、ありえない、目を疑う情報ばかりだ。欺瞞情報でも掴まされたと考えていた。しかも魔法というデタラメを使うドニラスやレミリアではなく、純粋な科学力のみでこれを成すのは不可能だ。


しかし、アレクシアの資料や、彼女が持ってきた品々を見てその考えが間違いである可能性が出たのだ。


「事実なら辻褄はあう。しかし、それならば今の皇国には到底太刀打ち出来ないほどの隔絶した技術差がある。」


皇国は、ドニラスで敗北した時の苦い経験がある。それを武器に対ドニラス用の兵器を幾つも開発しており、今やドニラス相手でも善戦できるほどの力はあると確信している。ここにレミリアの協力があれば勝てるかもしれない。


そう確信していた時にこのニホンが転移してきた。そのニホンは、ドニラスとレミリアと並ぶ隔絶した軍事力を持つかもしれない。

それはもう悪夢だ。


パワーバランスの崩壊。そんな生易しいものでは無い。世界秩序そのものが崩壊しかねないのだ。

ただでさえ、列強諸国には実力を隠す国が多いのだ。

ソ連、アトランティス、ユグドラ...

どれも皇国とは距離があるとはいえ、ニホンは無視できない位置にある。さらに、工作していたバハルス帝国は無惨に負け、失敗。

後背を安全にしてレミリアと協力しドニラスとの決戦に挑む予定が狂ってしまったのだ。


ならば、ニホンを第三陣営に担ぎ上げ、それに乗っかり、ドニラスと戦わせるという方法もある。しかし、それでは地理的に戦場になるのは皇国。

ニホンには手出させないようにした後にドニラスと戦うか。


マクラーレン卿は考えた。そもそもニホンは好戦的なのか?帝国との戦争は王国を守るため、同盟を結んでいたという理由だ。転移直後である為に王国と帝国の対立を知らない可能性もある。それを王国が利用し同盟締結まで漕ぎ着けた。あの賢王ならそれくらいやりかねない。いくらなんでも同盟締結までの速度が速すぎる。ニホンには何かが不足していた。だからそれを求めて王国との同盟を締結せざるを得なかった?

足元を見られた同盟。いくらでも考えられるが、後者ならばニホンの弱点となり得る。もしそうなら、皇国がそれを王国よりもいい条件で補い、飼い慣らす事も?


現状答えは出せない。


「ならば、結論を出すのは後回しにすべき。まずは情報収集だな」


マクラーレンは、この後穏健派リーダーとなり、対日戦の開戦に大きな影響を与えることとなる。


◇◇◇◇

皇国 参謀本部

レンガ造りの大きな建物。

この建物の一室で会議が行われていた。その内容は...


「バハルス共和国を滅ぼし、帝国の復活化計画を進めよう!」


皇国陸、海統合作戦本部はバハルス帝国復興計画を進めていた。


「陸軍の計画ですと、最新式の戦車を用いた機動遊撃戦を持って、国境付近の平野を突破。そのまま各市街地を制圧。でしたか?その計画では、とても補給や各都市の制圧後の治安維持が出来ないと思われますが?そもそもこの計画、現地勢力の抵抗を考慮してない過密スケジュールですが...」

そう発言する皇国陸軍 ガナー中将。


陸軍の作戦 ゼーレヴェはガナー中将の通り、現地勢力の抵抗を一切考えてない、何分単位の行動スケジュールで組まれた計画なのだ。燃料の計算、弾薬の消費料すらも。


次の戦争に備えて、弾薬の消費は抑えなければならない。これ以上の国民への軍事費の負担は強いれられない。そういう国内事情があった事も関係していた。さらに、皇国はバハルスを舐めていた。事実、バハルス共和国は帝国時代の軍事力のほぼ半数以上を失い、治安悪化のために軍事費を削減していた。


しかし...


「バハルスなんぞ敵では無い。列強国になれる技術も力もない。我ら皇国の軍勢を止めるスベなどない!」


と息巻く将校たち。


「しかし、敵にはニホンがいるのですよ。」


とガナーは反論する。が


「安心しろ。諜報機関からの情報ではニホンは参戦してこない。奴らに今戦争する余裕は無い。」


と、資料をだすエドナー准将。


エドナーの持ってきた資料にはこう書かれていた。


王国に展開している諜報部隊による情報

現在 ニホンは戦争による戦費の負担と、経済の疲弊、さらには現地部隊の異常なまでの再編成による全体の士気の低下。これらによりニホンは現状戦争する余裕はない。

共和国が崩壊しても、王国との間には諸王国がある為に王国の安全保障に影響が出にくい。よって、ニホンの介入は有り得ない。


と結論付けられていた。そしてそれは事実でもあった。


「故に、ニホンとの開戦は有り得ない。敵はバハルス共和国のみ。諸外国が武器の援助をする事はあるかもしれぬが、問題にはならぬ。さらに、今回神聖レミリア帝国から義勇軍の申し入れが来た。」


列強国第2位神聖レミリア帝国 超大国がいるのならば心強い。そう考えた将校達の目は輝いてる。


ガナーは、どうしようもない不安感を抱いたまま、この作戦の遂行を見守る事にした。


◇◇◇◇

皇室


50歳を超え、白髪が日に日に増える天子。既に身体能力は限界を迎え、長く持たないとも言われている。しかし、それでも天子は元気に振る舞う。


それは天子が天子である為。


皇国の歴史において天子とは神の子。皇国を引っ張れるのは神に選ばれた皇室のみであり、皇国の主こそが天子なのだ。

その現代当主の天子は、歴代の皇室の中でもお世辞にも名君とは呼べなかった。これと言った成功もない。国は安定していたくらいだ。対外においても小国に勝ったくらいでそこそこの規模の国とは戦争をしていない。だからだろう。

天子は歴史に名を残したかった。昔の天子が越えられなかった、ドニラスという超大国に勝つという偉業を成して人生に幕を降ろしたかった。そのために皇国は軍事にお金をつぎ込み、技術改革を成していた。ドニラスの空中戦艦を落とせる砲台。地下戦闘に特化した銃火器の製造と。

順調に進んでいたがここで問題が発生する。


昔、バハルス帝国と戦争した際に獲得した大陸領ガレリア。ここには皇国に必要な魔法資源。サルスベリナ鉱石がある。これは、魔力を貯められたり、魔法を打つための補助動力になったり、また魔法探知機としても使える非常に有用な資源であり、魔法のない皇国ではこれは採れない。


魔法が存在するマウストラ大陸だからこそ採れる資源なのだ。さらにこの鉱石は、レミリア帝国との貿易資源ともなっている。故に、皇国はこの資源の保護と更なる確保が重要であったのだ。

バハルス帝国にリグルード王国を併呑させ、その帝国を裏から皇国が操ることにより、資源の保護と更なる資源確保を狙っていたのだ。借金の取り立てに鉱山を租借させる計画までも作っていた。

しかし、王国との戦争により帝国は崩壊。貸したお金や武器は帰ってこず、さらにガレリアは安全地帯から最前線へとなった。皇国にとって安全上看過できない状態になった。だからこそ



「バハルスを滅ぼし、資源を奪え。ガレリアこそ我が国の生命線なのだ。愚かな娘の意見なんぞ考慮に値せぬ。世の計画を狂わせたニホンに報いを」


既に皇国は引き返せなくなっていた...

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